【INTERVIEW】マイスター水上 聡氏に訊く「ホンダNSX 2019年モデル」の改善策。

2018/10/25 17:55

HONDA NSX

ホンダNSX 2019年モデル

 

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/宮門秀行(Hideyuki MIYAKADO)

 

 

鈴鹿のラップタイムは2秒速い!

ホンダNSXの価値は世に正しく伝わっていないのではないか・・・。そんな思いから始めたGENROQでの連載企画。その最終回というタイミングで、ホンダはNSXの2019年モデルを発表した。内外装の変更は最小限で、中心となるのは走りのリファインだという。果たして不満は解消されたのか、美点はさらに伸ばされたのか。開発責任者に話を聞いた。

 

対応してくださったのは本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL室/Meisterの水上 聡氏だ。ここで「あれ?」と思った人も居るかもしれない。そう、テッド・クラウスLPLの下、アメリカで行なわれていたNSXの開発は、日本側に移されたのだ。背景は色々推察できる、現行NSXの走りに対する厳しい評価も、その理由のひとつであることは間違いない。

 

 

その走りの面での変更は広範囲に渡る。タイヤがコンチネンタル スポーツコンタクト5Pから同6に変更され、それに合わせて前後アンチロールバーをそれぞれ26%/19%ハードに。さらにリヤはトーリンクブッシュを21%硬くし、ハブ自体の剛性も6%高めている。その上でスポーツハイブリッドSH-AWD、磁性流体式可変ダンパー、VSAといった言わば電子デバイス部分のセッティングも見直されたという。

 

「まずは軽快感。絶対的なマスはありますが、操作に対してスッと動けば、軽やかに感じられます。パワートレインも同様ですが、電気を使えばこんなこともできるのかというぐらいのことが可能です。作り物ではなく、その得意なところを出していこう、ギミックではない新しさをということを念頭に置いていました。能動的な運転支援とでも言いましょうか。自分がこんなにうまくなったのかと余韻を味わえるような走りですね、目指したのは」

 

 

ハードウェアの違いは、向上したグリップ力への対応、そして姿勢をフラットにして立ち上がりで自信を持って踏んで行けるようになったという部分が大きい。その上でキーとなったのが、やはり電子デバイスの制御である。

 

「SH-AWDのLSD効果は、改めて速度域ごとに追求しました。左右バランスを整えただけでなく、リヤと合わせた前後配分についてもです。ダンパーも基本特性を見直した上で制御を変更しています」

 

NSXの走りへの不満の声で大きかったのが、この3モーターの制御によるハンドリングへの違和感、そしてトルクベクタリングと引き換えのステアリングの反力感の無さだった。この辺りは解消されたのか。

 

 

「たとえばカウンターステアを当てた時の反応は自然になったと思います。ドライバーは、そういう状況では反射的に当ててしまうものなので、どう運転しろと強制はしたくない。あくまで自然にという考えです。結果、TRACKモードでの舵角は増えていると思いますが、容易にニュートラルステアに持って行けるなら、それでいいと考えました」

 

この話を聞く限り、制御はやや弱めの方向に行ったのだろうと推察される。しかしながら、フィーリングが自然になったのなら、それはアリだろう。しかも速さは増していて、鈴鹿サーキットのラップタイムは約2秒、速くなったというのだ。

 

「特に得意なのはS字やスプーン手前の高速部分ですね。それからヘアピンなどでのアクセルを踏めるタイミングも取りやすくなりました。SH-AWD含め、挙動の見きわめがしやすくなっていると思います。パワートレインも、じわっと踏んだ時の反応、踏み増した時の追従性の良さなど、アクセル操作に対するリニアリティを高めました。とにかく全体で、旋回の姿勢と軌跡ということを常に意識していましたね」

 

 

尚、サーキット用タイヤとしては従来通りピレリ トロフェオRも用意されるが、水上氏曰く、フロントのグリップが上がり過ぎるきらいがあるとのこと。鈴鹿でのタイム短縮は、標準装着タイヤでのものだ。

 

これまでNSXの連載でお伝えしてきたのは、NSXの走りには独特のクセがあるが、自らのドライビングのアップデートでそれを効果的に引き出すことができれば、新しい走りの世界を目にできるということだった。話を聞く限り、新型はその独自の個性、魅力を活かしながらも、より間口の広いものに仕上がっていると想像できそう。試す機会が訪れた時には、是非その進化ぶりをお伝えしたいと考えている。

 

ともあれ、ホンダがこのクルマをしっかり進化させていこうと考えていることは伝わった。しかも、今やそこに魂を込める作業は、ここ日本で行なわれている。この先のNSXには今まで以上に期待してもいいのではないかと、前向きにこのレポートを締め括ることにしたい。

 

 

【PROFILE】

本田技研工業 四輪R&Dセンター
LPL室/Meister

水上 聡 氏
1986年 本田技研工業入社後、サスペンション開発からキャリアをスタートし、その後は車両開発、ダイナミック性能領域、車両研究領域開発責任者とステップアップした後、2007年にビークルダイナミクス部門のマネージャー、2014年にはダイナミック性能統括責任者=Meisterに任用。新型NSXでは、Meisterとしてニュルブルクリンクやアメリカ、日本の研究所テストコースなどで走行を重ねて評価してきた。

 

 

【問い合わせ】

本田技研工業 TEL 0120-112010

http://www.honda.co.jp

 

 

《GENROQ 2018年12月号より転載》