【初試乗】V8ツインターボが弾けるように反応する、新型「BMW 8シリーズ クーペ」

BMW M850i xDrive

 

 

530ps&750Nmを発揮する、

ほぼ新設計のV8ツインターボ。

 

開発陣曰く、BMWにとって「8」は特別な数字なのだそうだ。確かに振り返れば、初代8シリーズ、Z8、そしてi8と、車名に8のつくモデルはどれも非常にセンセーショナルな存在であり、今もアイコンとして崇められている。

 

それゆえに新型「8シリーズ クーペ」も、やはり自分たちにとって特別な存在なのだと彼らは強調する。その言葉の背後にあるのは「これは6シリーズの後継車ではない」という自負、そしてプライドである。

 

 

新生8シリーズ クーペでまず目が行くのは、やはりそのスタイリングだろう。低く抑えられたノーズに始まり、ダブルバブルルーフから流れるように繋がるリヤエンドまでサイドビューは非常に伸びやかで、ラグジュアリーな雰囲気は濃厚。しかしながら意外にもこのボディ、全長は4851mmと現行の6シリーズ クーペよりも短いのだ。

 

 

X2辺りから顕著になってきたが、最近のBMWはここに来て、今まで連綿と受け継がれてきた文脈をかなぐり捨てるかの如く、デザインを大胆に変身させてきた。この8シリーズ クーペにしても、天地に薄いヘッドライトユニットはフォー・アイズというよりはデイタイムライトでそれっぽく隈取っているだけだし、キドニーグリルは左右が遂に連結されている。ショルダーを前後に貫いていたラインは姿を消し、サイドビューを彩るのはフロントフェンダー後端のエアアウトレット以降に入れられた抉り、そしてボリュームあるリヤフェンダーという具合である。

 

 

伝統に縛られる必要はないが、しかし捨てるならそれに代わるだけの価値が求められるはずだ。このディテール、そしてスタイリングがそれに値するのかどうかは、個人的には疑問にも思うが、さて市場はどのように反応するのだろうか。何かしらカッコ良いものが欲しいのか、BMWが欲しいのかでも印象は分かれるに違いない。

 

 

インテリアも、やはり細かなディテールが新たなモードに切り替えられて、これまでとは違った雰囲気を醸し出している。メーターパネルは完全にデジタル化。ラグジュアリークーペに相応しいグラフィックスかと聞かれると言葉に詰まる感もあるが、ADASやナビゲーション等々の豊富な情報を大型のヘッドアップディスプレイと分担してよく整理して表示できている。

 

 

インフォテインメントや空調の操作には、iDriveコントローラー、音声入力、そして更にコマンドが増えたジェスチャーコントロールと様々な入力方法を用意する一方で、センターコンソールにはスイッチ類がずらりと並んでいる。レザー張りが標準のダッシュボード、クリスタルのシフトセレクターなどとあわせて、意外や古典的なラグジュアリー感の演出は、想定ユーザー層を考慮した結果だろうか。

 

 

軽量・高剛性化を狙って、ボディはキャビン前後の支持構造、ボンネット、ルーフ、ドアなどの外板バネル、更にはフロントバルクヘッドまでがアルミ製とされた上で、インストゥルメントパネル内のリーンフォースをマグネシウム製にし、センタートンネルをCFRP製としている。但し、なぜか7シリーズのカーボン・コアとは違ってピラーやルーフのリーンフォースなどはCFRP化されていない。一方、オプションでルーフをアルミ製からCFRP製に置き換えることは可能。重量は約1kg軽いくらいだというが、重心から遠い位置の1kgは走りに効いてくるはずだ。

 

 

やはりアルミ、そして軽量スチールを多用した前ダブルウィッシュボーン、後5リンクのサスペンションは、とりわけ高いキャンバー剛性を念頭に開発されたといい、セットアップにはBMW M社のノウハウも活かされている。フロントのギア比可変ステアリングに後輪操舵を組み合わせたインテグラル・アクティブステアリング、電子制御式ダンパー、電子制御式ディファレンシャルなどが標準装備とされるほか、アクティブロールスタビリゼーションと呼ばれる可変アンチロールバーもオプションで選択である。

 

 

パワートレインは現時点では2種類が用意される。うちガソリンエンジンは「M850i xDriveクーペ」に搭載されるV型8気筒4.4リッターツインターボのみの設定となる。

 

このエンジンは他モデルからの流用ではなく、実はほぼ新設計だ。腰下には、新しいクランクケースに低フリクション化に効くワイヤーアークスプレードコーティングされたシリンダー、やはり摩擦低減に貢献するグラファルコートが施されたピストンに新設計のリングなどを新たに採用。噴射圧力を200barから350barまで高めた多孔式燃料インジェクター、新しい点火システムなどを組み合わせることで実に68psのゲインを得て、最高出力530ps、最大トルク750Nmを獲得している。このアウトプットは8速AT、そして電子制御式4WDのxDriveを介して4輪に伝達される。

 

もうひとつのエンジンは840d xDriveクーペに搭載される直列6気筒3.0リッターツインターボ・ディーゼルである。ヨーロッパでのシェア低下の一方で堅調な日本のプレミアムセグメントに於けるディーゼル需要に鑑み、「これも日本市場にフィットすると思う」とは8シリーズのプロジェクト・マネージメント担当氏の言葉。もしかしたら導入もあり得るかもしれない。

 

 

 

ライドコントロールは上々!

しかしサーキットでは・・・。

 

ポルトガルで行なわれた今回の試乗プログラムは、いきなりエストリル・サーキットでの全開走行から始まった。深夜便で着いた空港からシャトルで運ばれたと思ったら、すぐにヘルメットを手渡されて・・・という具合である。

 

それでも出来る限りじっくり観察すると、まずはそのエンジンの活発さに頬が緩んだ。どの回転域からでもアクセル操作に対して、まさに弾けるように反応し、吹け上がりにも淀みが一切感じられない。徹底的なフリクション低減、ムービングパーツの軽量化により、クランクシャフトのバランスウェイトが最小限で済んでいるというそのメリット、すぐに体感できる。しかも低回転域でも即座に、豊かなパワーを発揮するのに、その先回せば回すほど更に力感が盛り上がってくるのだから嬉しくなる。

 

ブレーキも好印象だ。フロント対向4ピストン、リヤ1ピストンとスペックは平凡ながら効きは強力だし、何よりリニアなコントロール性が良い。サーキットでも数周なら十分と感じられた。

 

 

しかしながらハンドリングは、タイトなエストリルにはそれほど向いているとは思えなかった。基本的に重いノーズがなかなかインに向いてくれず、ターンインでは速度を思い切り落とし、且つじっくり待つ必要がある。xDriveができるだけリヤに駆動力を寄せてくれているのは感じるが、後輪操舵が通常時は72km/h、SPORT/SPORT+の両モードでは88km/h以上で前輪と同位相になることもあってか、特に速度の乗るコーナーでは立ち上がりでもどんどんラインが膨らんでいってしまう。実は一度、恥ずかしながらもっとも速度の乗る最終コーナーの出口で片輪をグラベルに落としてしまったこともあった。自分の腕を棚に上げて言わせてもらえば、インフォメーションの薄さ、自由度の小ささなどもう少し出来ることはあるように思う。

 

 

その後に走った一般道の方が感触ははるかに良かった。しっかりとしたボディに、思いのほかストローク感のたっぷりした脚周りがよくマッチして、ライドコンフォートは上々。操舵力の軽さも普段は気にならず、切り込んだ瞬間からクルマ全体が向きを変えていくような軽やかなフットワークを楽しめる。最大2.5度まで操舵されるリヤの動きは、6シリーズよりも更に違和感が無くなっていて、それと気づかないわけではないが、裏切るような動きに見舞われなくて済む。横風が吹き付けるような場面でのスタビリティ、直進性なども申し分なく、シントラからロカ岬、カシュカイシュに至る海岸沿いのドライブをリラックスして楽しめた。

 

 

率直に言えば、もう少し心揺さぶるような何かが欲しいという感は拭えない。数字が「6」から「8」に増えた分、クルマが上質になっていてもそれは当たり前で、ユーザーならきっと今まで味わったことのないような何かを体験したいと期待しているはず。世間はSクラス クーペや、あるいはコンチネンタルGTのようなモデルとだって横並びで見ているに違いないのだから。

 

あるいは、そういう人はすでに登場が予告されている「M8」か、もしくはいっそ先日発表されたばかりのカブリオレを選ぶべきなのかもしれない。それらのラインナップが揃ったところで、再度その価値をじっくり検証してみたい。

 

 

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)

 

 

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