【初試乗】ロールス・ロイス初のSUV「カリナン」は優れたドライバーズカー。

2018/11/25 17:55

ROLLS-ROYCE CULLINAN

ロールス・ロイス カリナン

 

 

ロールス・ロイス初の4輪駆動。

 

ロールス・ロイス初のSUV「カリナン」は、人類が発見した史上最大のダイヤモンド(重さ3106カラット=621.2g)がその名の由来。先ごろアメリカ・ワイオミング州で国際試乗会が開かれたロールスロイス・カリナンも、大きく、目映いばかりに光り輝いていて、驚くほど豪華なSUVだった。

 

 

カリナンは、昨年発表されたロールス・ロイスのフラッグシップモデル「ファントム」と技術的に近い関係にある。「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と呼ばれるアルミスペースフレーム主体のボディ構造、排気量6.75リッターのV12ツインターボエンジンなどはファントムと基本的に同一。

 

 

4WDのトルク配分は基本50対50。

 

しかし、いずれもベースは同じでもカリナン用にしっかりと最適化されている。たとえばファントムとカリナンでは全長、全高、ホイールベース、車重がいずれも異なる(カリナンのほうが短く、背が高く、ホイールベースは短く、車重は重い)ので、結果的にボディ構造体でファントムと同じ部品は前後のアルミダイキャスト部品だけになったという。エンジンは最高出力のみファントムと共通の571ps/5000rpmだが、最大トルクはファントムの900Nm/1700rpmに対してカリナンは850Nm/1600rpmとわずかに低回転型となっている。

 

 

もっとも、ファントムとカリナンの最大の違いは、これらとは別のところにある。それはカリナンがSUVに相応しく4輪駆動とされた点にある。なお、前後車軸へのトルク配分は電子制御式多板クラッチで行ない、基本的なトルク配分は前後50:50に設定されている。ちなみに、ロールス・ロイスのモデルで前車軸にトルクが配分されるのはカリナンが史上初だという。

 

 

ボタンひとつで「オフロードモード」に。

 

ロールス・ロイスはカリナンの特徴を「Effortless, Everywhere(どこにでも、易々と)」と説明する。その最たるものがオフロードボタン。センターコンソールに設けられたこのボタンを押すだけで、4WDやESCのモードがオフロード向けに切り替わり、エアサスペンションにより車高が40mm上がって、オフロード走行の準備がすべて整うという。複数のスイッチを操作するよりもはるかにエレガントでロールス・ロイスらしいといえる。

 

 

SUVでも室内のクオリティは「ロールス・ロイス」。

 

ベンチシート式のラウンジシートと、左右が独立したインディビジュアルシートのふたつから選べる後席は、インディビジュアルシートにすると座面が10mmほど上がって見晴らしがよくなるほか、荷室との間にパーティションが設けられて外気がキャビンに流れ込まない配慮が施されている。なお、テールゲートを持つロールス・ロイスもカリナンが史上初だ。

 

 

そのほかの装備、内外装のデザインやクオリティはロールス・ロイスの標準に従う。すなわち、ため息が出そうになるほど贅沢な天然素材をふんだんに用い、ゴージャスではあるけれど下品に陥らないギリギリのセンスでデザインまとめられている、というもの。エクステリア・デザインはごくシンプルだが、実車を目の前にすると1835mmの全長がもたらす量感は圧倒的。パルテノン神殿とも呼ばれるフロントグリルも圧巻だ。それでいてボディパネルの精度感は恐ろしく高く、つやつやとしたボディペイントには一分の隙もない。手の込んだモール類のフィニッシュも極めて手が込んでいる。

 

 

際立つ静粛性の理由。

 

そんなカリナンに乗ってまず驚くのが、SUVでもほかのロールス・ロイスとまったく同等の快適性が確保されている点にある。なかでも静粛性は際立って高いが、不思議なことに自分がクルマを走らせているという実感はそれなりに伝わってくる。つまり、無音ではないのだ。

 

 

騒音が気にならないのに静かに感じられ、にもかかわらずドライビングに必要な情報が確実に届けられるのはなぜだろうか? 今回、私は「ロールス・ロイスの静けさの作り方」に注目しながらカリナンに試乗してみた。するとわかってきたのが、外部の騒音として聞こえるのが、比較的高い周波数(音程)に限られている点で、この周波数域は車速を変えても路面が変わってもほとんど変化しない。ただ、その音量が微妙に大きくなったり小さくなったりするだけだ。

 

 

幅広い周波数帯の音が聞こえると、それだけで人間は騒がしいと感じるはずだし、狭い帯域でも中心となる周波数が目まぐるしく変化すれば耳障りに感じるだろう。そうすることせずに、一定の周波数でかすかな音量の変化として聞かせることで車速や路面の変化を伝えているところに、静けさと走行状況に伴う情報の伝達を両立させる秘密が潜んでいるように思えた。ちなみに1台のカリナンにはおよそ100kgの制振材や遮音材が用いられているそうだ。

 

 

ファントム似の「魔法のじゅうたん」

 

乗り心地はロールス・ロイスのいうマジックカーペット・ライド、つまり「魔法のじゅうたん」を思わせるもので快適極まりない。そのいっぽうで、細かい振幅を比較的早く収束させるサスペンションの設定は最新のファントムによく似ている。基本的にはゆったりとしているけれど節度もある。そんな乗り心地だ。

 

 

ハンドリングは、決してせわしいものではなく安定志向。エンジンは無音のままどの回転域からでもありあまるトルクを生み出してくれるが、どんな踏み方をしてもトルクのわき出し方に性急なところがなく、まるで電気自動車のようになめらかに、そして穏やかに加速していく点は少し未来的にも感じられた。

 

 

オフロードでも「エレガント」

 

今回はオフロードを走行するチャンスもあったが、がれきに覆われた急坂もオフロード・ボタンを押すだけで苦もなく上れたほか、下り坂ではヒルディセントコントロールを使って容易に、そしてエレガントに坂を下ることができた。また、細い山道の急な折り返しでは4WSが大活躍。全長が5.3mもあることが信じられないほどの小回りを見せた。運転席からの見晴らしのよさも、こうした狭い道でのドライビングを力強くサポートしてくれる。

 

 

しかし、さらなり驚きは硬く引き締まったフラットダートを走ったときに訪れた。「せっかくだからカウンターステアのひとつも試してみるか?」と思ってコーナーでわざと急激なヨーを立ち上げてみたところ、急なステアリング操作にもしっかりフロントがついてくるほか、カウンターステアをあてたときのヨーの収束が意外なほど速いことに気づいた。

 

 

「であれば、リアタイヤが滑り始めたところでさらにスロットルを強く踏み、エンジンパワーでテールを大きく流すパワースライドもできるのではないか?」

 

そう考えた私はスタビリティ・コントロールをオフにして、道幅の広いコーナーでテールスライドを誘発、直後にスロットルペダルを踏み込んでみた。すると、カリナンはフロントをしっかりとグリップさせたままテールは大きくアウトに流れ、絵に描いたようなパワースライドの姿勢をとって見せたのである。

 

 

敢えてロールス・ロイスに言いたい。

 

聞けば、ロールス・ロイスがカリナンを開発することになったのは、若いロールス・オーナーから「週末に家族と出かけるSUVが欲しい」というリクエストを数多く受けたことがきっかけだったらしい。そこでロールス・ロイスとしては初のドライバーズカーを造ることになったのだが、そう主張するロールス・ロイスに私は反論したい。

 

 

たしかにロールス・ロイスはお抱え運転手がステアリングを握るショーファードリブンの使い方が大半を占めてきた。しかし、従来のロールス・ロイスであっても、自らステアリングを握れば驚くほどコントローラブルで、ワインディングロードではときにスポーツカー顔負けの機敏さを示すことができた。つまり、ドライバーズカーとしての側面もしっかりと持ち合わせていたのだ。

 

カリナンは、このドライバーズカーとしてのキャラクターがこれまでよりも前面に打ち出されただけと説明したほうが、より事実に即しているように私には思える。

 

 

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)