【COLUMN】日本では馴染みのない「プロドライブ」と「オーバーフィンチ」の関係とは。

公開日 : 2018/11/24 11:55 最終更新日 : 2019/07/21 19:02


Prodrive Composites × OVERFINCH

 

 

CFRPパーツを寸分狂いなく装着。

 

レンジローバーとレンジローバースポーツのビスポークモデルを製作するスペシャリスト、オーバーフィンチ。近年同社は製作台数を大幅に増やし、市場を北米にまで拡大している。その陰で大きな力となっているのがプロドライブ・コンポジットだ。

 

プロドライブは、モータースポーツおよびテクノロジーの分野で規模においても成功を収めている点でも世界屈指の企業である。500名を超える従業員が、英国オックスフォードシャー・バンベリーの本社と、バッキンガムシャー北部のミルトンキーンズのコンポジット製造ファクトリーで働いている。

 

ここまで聞いてピンときたあなたは相当なモータースポーツファンだ。そう、かつてスバルをラリーフィールドで大活躍させたのも、最近マン島TTレースで4輪のラップタイム記録を打ち立てたWRX STIを製作したのもプロドライブだ。

 

では現在のプロドライブにとって、モータースポーツは全体の組織の一部に過ぎないことをご存じだろうか。過去10年で同社は事業を多角化し、様々なセクターで活躍する先進テクノロジー企業へと姿を変えたのだ。

 

プロドライブ・グループは、1) モータースポーツ、2) アドバンスト・テクノロジー、3)コンポジット、4)ビスポーククレクションといった4つのビジネスエリアから成り立ち、これらは相互に関連して事業を営む。

 

このなかでコンポジット事業部が本稿の主役。先進的で軽量な構造部材と非構造部材を設計・製作する。その応用範囲は自動車とモータースポーツに留まらず、航空宇宙産業、海洋産業、さらには防衛産業など特殊なセクターまで多岐にわたる。

 

とりわけCFRPではオートクレーブで焼くプリプレグ工法を採用し、高品質な製品を市場に供給。英国内では最大規模を誇るファクトリーを擁する。

 

プロドライブのクライアントリストには、アストンマーティン、ロータス、ベントレー、ロールスロイス、ジャガーランドローバーといった名前が並び、事実上、英国の主要自動車メーカーすべてと言って過言ではない。

 

 

オーバーフィンチは、レンジローバーとレンジローバースポーツのコンバージョンパッケージを装着したビスポークモデルを製作するスペシャリスト。プロドライブは高品質なCFRPコンポーネントをコンスタントにオーバーフィンチへと供給している。

 

ここで注目なのは、プロドライブがオーバーフィンチのサプライヤーに留まらず、同社のサプライチェーンと完全に一体化していること。オーバーフィンチの厳しい製造スケジュールにピタリとタイミングを合わせ、さらなる加工を要さない、取り付けるだけのコンポーネントを供給している。

 

「当社がプロドライブとパートナーシップを組むことによって製作台数が大幅に増え、新たな市場への進出が可能になりました」とオーバーフィンチ社長のケヴィン・スローンは語る。

 

「彼らは当社の製造工程の順番に従って、決まった数のコンポーネントを毎週納品してきます。コンポーネントが安定して供給されるので、当社も予定に従って製作できるようになりました」

 

 

正確な納品スケジュールに加えて、高い製品品質がオーバーフィンチの市場拡大に大きな役割を果たす。

 

「コンポジット製造に関するプロドライブのノウハウは、当社の設計を最適化するうえでなくてはならない存在です」スローンはこう言い切り、次のように続ける。

 

「彼らにノウハウがあるからこそ、高品質なAサーフェスコンポーネントがコンスタントに当社に納められるのです」

 

スローンが言及した「Aサーフェス」とは、折目のない複数の曲率で連続的に構成される滑らかなサーフェスをいう。プロドライブの高い技術を裏付ける発言だ。

 

独自の接着技術を活かして、CFRPコンポーネントのマウントブラケットやクリップを正確に位置決めできるのもプロドライブの強みだ。だから車輌側の取り付け部位に一発で固定できる。つまり「現場合わせ」が要らない。これはオーバーフィンチとっての福音で、工員による取り付け作業が大幅に楽になり、1台当たりに要する製作時間短縮に直接的な効果をもたらした。

 

 

「オーバーフィンチのようなアッセンブリーメーカーは、CFRPコンポーネントを外注せざるを得ないのですが、納められた製品を取り付けるに当たり、修正や調整を要する場合が多いのです」

 

こう語るのはリチャード・グレゴリー、プロドライブ・コンポジットのクオリティ&エンジニアリング担当ディレクターだ。

 

「私たちの製品は違います。オリジナルの取り付け部位をそのまま使えるコンポーネントを設計・製造します」

 

プロドライブの強みはまだある。CFRPのコンバージョンパッケージをCFRPの織り目が見えるものと、塗装済みのものと両方ともに製作が可能。実は、彼らは自社内にペイントショップを持っている。プロドライブはオーバーフィンチが指定するスペックに応じた「完成品」を納めていることが、この事実からもわかる。

 

正確に位置決めされたマウントブラケット、個別のスペックに応じる柔軟性、製造の順番に合わせた納品。プロドライブがもたらすこうした諸要素が相まって、オーバーフィンチが車輌の外装作業に要する時間はかつての1週間から実に1日と、パラダイム的な変化を遂げた。

 

さらに彼らは、オーバーフィンチの新規コンバージョンパッケージ設計の肩代わりもする。最新のスキャニングテクノロジーを用いて、車両の正確な寸法を把握する。これをもとにコンバージョンパッケージのCADモデルを製作するのもプロドライブ・コンポジットの仕事だ。

 

ひとたび両社の間で設計の最終案が決定すると、プロドライブ側が工作機械を準備し、プロトタイプを製作する。これで装着具合と出来映えが期待通りの水準に達しているかを確かめる。つまり、設計〜製造上必要とされる設計の見直し〜生産という一連のプロセスでシームレスな協業態勢ができているのだ。

 

プロドライブはオーバーフィンチにとって、重要なビジネスパートナーである。

 

「私たちは社内にオーバーフィンチ専属のプロジェクトマネジャーを置いて、起こりうる問題に対処しています」とリチャード・グレゴリーは語る。

 

「インハウスのペイントショップを持ち、先方の製造スケジュールに合わせて納品する、このアドバンテージには大きな意味があります。両社の間に強い関係が構築できますから。こうした関係が将来的に続くこと、それが私たちにとってのエネルギー源になっているのです」

 

 

グレゴリーの最後の言葉は重要だろう。現在CFRPは高級スポーツカーの専用品になっているが、将来的には需要が飛躍的に高まると予想される。EVが搭載するバッテリー技術がひとつの頂点に達したあと、さらに後続距離を伸ばすカギがあるとすれば、車重の軽減が挙げられる。EVのプラットフォームをCFRPで製造すれば車重はグンと軽くできる。大量生産すればコスト面のメリットも出てくるだろう。

 

プロドライブ・コンポジットには大きな将来が拓けているように思える。自動車メーカーと密接に結びついてCFRPコンポーネントを設計・製造するスペシャリスト、プロドライブ・コンポジット。彼らは英国の自動車産業を支える底力になっているのである。

 

 

TEXT/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

 

 

【OVERFINCH 公式サイト】

https://www.overfinch.com