【TOPIC】仮想プロトタイプでニュルブルクリンクをテストするポルシェの狙いとは。

公開日 : 2018/12/10 17:55 最終更新日 : 2018/12/10 17:55

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すでに仮想プロトで1000万kmをテスト済み。

 

ポルシェはバーチャルプロトタイプでニュルブルクリンクをテスト走行できると発表した。彼らが明らかにしたその詳細を紐解くことにしよう。

 

去る10月18日、ポルシェの顧問取締役会は「タイカン クロスツーリスモ」のシリーズ生産にゴーサインを出した。これを受けて開発作業は1段ギヤが上がる。

 

クロスツーリスモは同社にとってタイカンに次ぐ第2のEVモデル。2019年終わり近くにデビューする予定だ。ポルシェのエンジニア陣は最新のデジタル技術による車両開発方法を採用し、そのなかの主役がバーチャルプロトタイプとなる。

 

この方法を使うと、開発の初期段階、すなわち現実のプロトタイプを製作する以前の段階で、さまざまな車載システムとコンポーネントをバーチャル環境でテストできる。また、これらコンポーネントをほかのシステムと連動させた状態でのテストも広範囲に行える。結果としてタイカン クロスツーリスモの開発プロセスは、効率的かつ短期間に完了する。実際、バーチャルプロトタイプではデジタル上ですでに1000万kmを走ったというから驚きだ。

 

 

ニュルブルクリンクで8分を切る最短の手法。

 

車両設計でのデジタライゼーションは、ポルシェ設計陣に新たな世界を拓きつつある。現在、ボディ、ドライブトレイン、シャシー、エレクトロニクスの設計および作動シミュレーションにはコンピュータが用いられている。こうしたデジタルプロトタイプは、バーチャル環境で、車両全体の特性を確認するのにも使われる。

 

例えば現在進行中のタイカンの開発では「ネットワークシミュレーション」が採用されており、EVのエネルギー管理システムに関していえば「interdisciplinary coordination(=2つ以上の異なった分野の協調制御)」のチェックが可能になる。

 

これにより、実物のプロトタイプの製作から7ヵ月も先行して、設計担当のエンジニア陣はタイカンをノルトシュライフェでシミュレーション走行できるという。つまり実車がなくてもサーキットパフォーマンスをテストして評価できる。この過程で彼らが注目するのはなんといってもエネルギー管理。ノルトシュライフェで8分を切るにはこれがカギとなるのだから、それも当然だろう。結果として、生産に入るはるか以前に熟成され、ファイナルプロダクトのクオリティ向上に繋がる。

 

 

バーチャルと実物と並行して進められる。

 

バーチャルコンポーネントは実物と同じに作動し反応するので、テストは高精度な結果をもたらす。これに加えてポルシェでは「hardware-in-the-loop(=ループ内のハードウェア)」シミュレーションも活用。我が国ではHILSと呼ばれ、おもにECUを対象に使われている技術だ。ポルシェではコンポーネント一般に拡大し、バーチャルと実物とを平行してテストする。

 

これでコンポーネントのパフォーマンスを綿密に評価し、開発の初期段階で最適化できる。すなわちデジタルプロトタイプをバーチャル環境でテスト及び評価すれば、非常に高価な実物プロトタイプをもっと別の分野で有効利用できることになる。パナメーラ スポーツツーリスモの評価では、「コンストラクションステージ」での車両を造る必要が、もはやなかったという実績があると聞けば、それも頷ける。

 

「デジタライゼーションは、私たちにとってさらにダイナミックでスポーティな製品を造るチャンスになっています」

 

こう語るのはDr.ヨアヒム・ダイジンガー、ポルシェのバーチャルビークル部門のヘッドだ。

 

タイカン コンプリート ビークル プロジェクトマネジャーのDr.ロバート・マイアーは次のように話を繋ぐ。

 

「個々のアッセンブリーをシミュレーションできるのはもちろん、総体としての車両をファインチューンできます。しかもこれまでよりはるかに早い段階で、正確に」

 

これほど万能なバーチャルテクノロジーだが、できないことがひとつあるとマイアーはいう。

 

「ポルシェはどのモデルであれ、スポーツカーとしての『魂』を内包していることを求められます。たとえデジタル技術で開発されたEVであっても、その大原則に変わりはないのです」

 

 

「Function on demand」と「Over the air update」

 

「ファンクション オン デマンド」とは現行行われているデジタル開発プロセスと、そこから生まれる車両の基礎に置いた、将来に向けてのビジョン。これが実現すれば車両を購入したあと、オーナーは一定の機能を自分好みにチューンできるという。これで今にも増して世界で1台のポルシェができるというわけだ。ユーズドカーの購入者にもメリットがある。最初のオーナーが興味を示さなかった機能をレトロフィットできるからだ。

 

「オーバー ジ エア アップデート」はOTAの略称でご存じの方も多いだろう。無線ネットワークを経由してデータを受信する手段だ。これがあればわざわざワークショップまで出向かなくても、ナビゲーションの最新情報もアップデートできる。

 

ポルシェスポーツカーの『魂』を持ったエレクトリックモビリティ。

 

ポルシェは2020年までにエレクトリックモビリティに60億ユーロを投資する構えでいる。当初、このビジネスセグメントに30億ユーロを投資する予定だったが、それを倍増することになった。今回追加になった30億ユーロのうち、およそ5億ユーロをタイカン モデルレンジの拡充に、10億ユーロを既存プロダクトレンジの電動化とハイブリッド化に使う。

 

注目はおよそ7億ユーロをインフラストラクチャーとスマートモビリティに関する新テクノロジーに投資すること。これほど大規模な投資を決めた彼らの目論見はどこにあるのか。

 

デジタライゼーション・・・それ自体が目的ではない、とポルシェは言い切る。カスタマーファンクションにせよ、さまざまなプロセスの合理化にせよ、これを向上させるチャンスがあるのなら、デジタル化による変革がもたらす可能性を活用するのだという。ポルシェが目的に置くのはズバリ、プレミアムカーセグメントで、デジタル モビリティ ソリューションのリーディングプロバイダーになること。中期的にはデジタルサービスによる収益の伸び幅をパーセンテージでいえば2桁増やしたいと考えている。

 

ポルシェはエレクトリックモビリティに果敢に挑戦する構えを明らかにした。それは次なる100年を見据えたチャレンジであるように思える。

 

 

TEXT/相原俊樹(Toshiki AIHARA)