【初試乗】「ポルシェ 911カレラS & 4S」992へと進化しても偉大なドライバーズカー。

2019/01/17 09:00

Porsche 911 Carrera S / 4S

ポルシェ 911 カレラ S / 4S

 

 

ミスター911、最後の作品。

 

私は思わず身を硬くした。雨水が小川のようにコースを横切って流れている箇所が前方に迫っている。本能的にブレーキを踏む。フロントタイヤが一瞬グリップを失い、ABSが音を立てて作動する。「スピンか!?」そう覚悟したときには、もうクルマは小川を渡りきり、何ごともなかったかのように次のコーナーに向かっていた。992の並外れたグリップを実感した瞬間だった・・・。

 

 

ポルシェ911の開発責任者というのは、自動車設計者にとって最高にやり甲斐があると同時に、最高に難しい立場だ。正しく仕事をこなせば同僚から畏敬の念をもって見られる。反対にヘマをしでかすと、世間から一斉にバッシングを浴びせられる。

 

だから「ミスター911」のアウグスト・アハライトナーが992を設計するにあたり、正攻法を採ったのは意外ではないだろう。私が思うにパッチワークの塊だった996を秀逸な997に一変させたのは彼だったし、21世紀に入って911を現代の姿へ成長させた最大の功労者も彼に他ならない。

 

 

外観からとは裏腹に、991から大幅に進化。

 

昨年末をもってセミリタイアに入ったアハライトナーにとって、型式名992の911は自身最後の作品となる。彼にすれば自ら書き上げた911のレシピを変える必要など、まったくなかったはずだ。だからといって、992が991から本質的な変革を遂げていないという意味ではない。いや、それどころか、一見したところ同じように見える外観とは裏腹に、992は実質的に大きく変わっているのだ。

 

新型プラットフォームは従来型から比べて幅も長さも大きくなった。992ではフロント20インチ、リヤ21インチと前後異径ホイールを採用する。これに伴い、シャシーのセットアップも全面的に見直された。例えば、スプリングレートを高めてドライおよびウェット路面のハンドリング向上を図り、スタビライザーの径を太くしてロール剛性を高めたという具合だ。

 

 

リヤホイールの大径化に呼応して、リヤのディスク径も従来の330mmから350mmとひと回り大きくなっている。ペダルストロークも短縮化された。そのブレーキペダルで興味深いのは、素材がスチール、CFRP、プラスチックの混成に改まったこと。これでオールスチールだった従来形と比べると自重が約300g軽くなり、その分、ドライバーの足にクリアなフィードバックが伝わるという。ドライブフィールを大切にするポルシェらしい緻密な配慮だと思う。

 

 

サスペンションではPASMの進化が注目で、新世代のダンパーを採用に改められた。マグネットの力を用いた高精度コントロールバルブにより、1000分の1秒単位でバウンド側とリバウンド側の減衰力を連続可変できるようになった。これに伴い、ソフトウェアも新設計した結果、ヨーロッパによくある敷石を敷き詰めた道を走る際など、従来と比べて大幅に減衰力をソフトに設定でき、快適な乗り心地を実現した。

 

 

すでに90年代半ばには開発されていたウェットモード。

 

おそらく電子制御装置で一番のトピックは、ウェットモードがすべての911に標準装備されたことだろう。ドライバーが任意にオンにできるモードで、フロントホイールハウジング内部に設けた音響センサーがスプラッシュ音を感知し、ドライビングを司る各種電子制御装置のセッティングを自動的にウェット路面に応じた設定にする装置だ。

 

実はこのウェットモード、1990年中盤に「プロメテウス・ユーロピアン・リサーチ」と題されたプロジェクトの一環として、ポルシェ・アドバンスト・デベロプメント部門が開発した技術を実用化したもの。新機軸を充分に熟成させたうえで生産型に用いる辺りがポルシェらしい。

 

 

ドライビングシートに着いた瞬間、911だと実感。

 

そして今、広くスポーツカー愛好家にとって最大の関心事、992のドライブフィールを知るときが来た。私はサーキットという相応しい舞台で、992を走らせる機会を得た。しかもシャシーが内包するかもしれない欠点をあからさまにするコンディションで・・・。

 

私が新型911を走らせたその日、ホッケンハイムのコースはウェットだった。前日までへビーウェットだったのだが、今日になって所々乾いた部分ができているので、却って始末が悪い。つまり1周するなかでヘビーウェットからドライまで路面ミューが刻々と変わるのだ。試乗車は911カレラSとカレラ4Sの2台。どちらもPDK仕様だが、追ってMT版が追加になるし、タルガやカブリオレなど、いつものボディバリエーションがラインアップに加わることになる。

 

 

ドライビングシートに着いた瞬間、紛う方なき911だと実感する。着座位置は低く、ドライバーとステアリングホイール、ペダル、ウィンドスクリーン、ダッシュボードとの位置関係は伝統通りだ。

 

一方、TFTタッチスクリーンとコンベンショナルなスイッチが共存するダッシュボードや中央のレブカウンターのみアナログで、あとの4個はデジタルディスプレイのメータークラスターなど、モダンとレトロとが混在していて、これが911にとって決め手のデザインなのか、私には確信が持てなかった。

 

 

450psのパワーに、530Nmのトルク。

 

フラット6を始動させると、これまたいつも通りの911だ。ただし、エンジンの基本構成こそ991を踏襲するが、周辺メカニズムには大きな手が入っている。例えばターボチャージャーは排気側のタービン径が3mm拡大して48mmに、コンプレッサー側が4mm拡大して55mmになった。軽量鋳造マニフォールドはタービンハウジングと一体になり、気流が改善された結果、過給効率が高まっている。

 

過給圧のウェイストゲートも従来のバキュームに代わってステップモーターが作動させるので、圧のコントロールが迅速かつ正確になった。ちなみにガソリン・パティキュレート・フィルターが備わるカレラSの最大過給圧は約1.2バールだ。

 

なお、新型では、燃焼室に直噴するインジェクターが従来のソレノイド作動からピエゾ式に変更になった。噴射圧は最大800バール。射出口の開閉が素早いので、1サイクルにつき最大8回に分けて噴霧できる。

 

3リッターフラット6の最高パワーと最大トルクは、991比でそれぞれ+30ps と+30Nmの450ps /6500rpm と530Nm/ 2300〜5000 rpmと発表されている。低速走行時、エンジンが991よりスムーズに感じるのは、エンジンをブランニューのシャシーにがっちりと搭載したことが効いているのだろう。

 

 

PDKは991より1速増えて8速になった。その分ギヤレシオの配分を広く取ることができ、下位ギヤではよりショートに、上位ギヤはオーバードライブにすることができた。結果として最高速は6速で出る。ステップアップ比も適切で、スムーズに加速していき、シフトアップするたびにレブカウンターの針が大きくドロップしないこともその事実を物語っている。

 

この日の試乗では公道を走らなかったので、ライドクオリティに関して断定的なことは申し上げられないが、ホッケンハイムのサービスロードを走った限りでは、予想通りダンピングのよく効いた、コシの強い乗り味だった。長時間の高速巡航では静粛性も高いと思われる。

 

 

992カレラSからコースイン!

 

さて、早速本コースを走ることにしよう。まずはRWDのカレラSからだ。

 

最初の数ラップはすべての電子制御装置をオンにして、ゆっくりと走りクルマと私自身の肩慣らしをする。公道に置きかえれば、安全かつ良識をわきまえた範囲内で、もっとも速いスピードに相当する。この程度では911に本当の生気は宿らず、やり甲斐のある操縦も味わえないが、サーキットを走る限りどのクルマでもウォームアップは必要だ。

 

ステアリングのギヤレシオは標準で約11%、PDCCとセットオプションの後輪操舵を備えた場合は約6%クイックになった。クイックなステアリングレシオ、後輪操舵、ワイドなフロントトレッド、この3者が相まって、大して飛ばさなくても992のレスポンスが991より格段にシャープになったことがわかる。

 

 

カレラSはエイペックスからエイペックスへと流れるように駆け抜けて行く。どうやらポルシェは、ターンイン時のステアリングによる過激な切り込みを意識して避けたようで、従来形と同じ2450mmのホイールベースをキープしつつ、クルマの自然な姿勢が返してくるフィールを大切にした意図が感じ取れる。

 

フラット6は但し書き抜きに強力だ。ポルシェはスポーツクロノパッケージ装着車の0 – 100km/h加速を3.5秒(ローンチコントロール使用)でこなすというが、実際、その数字は充分可能との手応えを得た。ともかく、このカレラSにして「どう猛」と表現したくなるほどパワフルだ。GTS、ターボ、ターボS、GT3と過激度が増すにつれて数字がどこまで上がるのか、今の時点では想像もつかない。

 

 

スポーツ・プラスモードはGT3並み!?

 

数ラップをこなしてホッケンハイムの勘所を掴んだところで、ステアリングマウントのダイアルをスポーツ・プラスに切り替える。これで瞬時にクルマのキャラクターが変わった。わずかな違いだが、その意味は大きい。とりわけ変速がシャープでスピーディになったのが顕著で、今や現行型GT3と大差ないと思われる。

 

ホッケンハイムは短めのストレートを除けば中高速コーナーの連続で、旋回の後半は加速に移れるゆえ、シャシーの懐の深さがよくわかる。先に述べたように、この日はコーナーを1つ回るごとにコースコンディションが千変万化するので、速く走るにはシャシー性能がモノを言う。私がこのシャシーは盤石の信頼に値すると実感するまでに、大した時間は要さなかった。

 

 

911はターンイン時に軽いアンダーステアを示すのが伝統だったのだが、最新の992ではこれが劇的に減少したのが印象的だ。ハンドリングはよりニュートラルで、狙ったラインにピタリと乗せて、エイペックスぎりぎりをクリアできる。

 

疑り深い私は、これはただ電子制御が巧みに働いているだけでは、と思い始めた。サンデードライバーでもコントロールできるようにスタビリティシステムを設定し、これをカットオフするととたんに素性を露呈するクルマを少なからず経験しているからだ。

 

 

思うがままにコントロールできる「カレラS」。

 

しかし992は違った。これは然るべき乗り手が操る限り、限界を超えても最後のセイフティネットを必要としないタイプのクルマだ。あなたが992でサーキットを走る機会があったら、そしてそれだけの腕と自信をお持ちなら、ぜひともスタビリティコントロールをカットオフして欲しい。今日のような最悪のコンディションですら、992はドライバーの勇気を鼓舞する。私の経験からしても、こういうクルマに出会うことはごく希だ。

 

限界付近にあっても、安心してテールを思うままにコントロールできるのはカレラSの傑出した美点だと思う。途方もないトラクションを活かしてコーナーからロケットのように脱出するのもいいだろう。あるいはテールを軽く外に振り出して、前輪が直進位置を向くように軽微なカウンターステアを当てながら脱出するのもいい。さらには完全なドリフト状態に持ち込むことすらカレラSなら可能だ。

 

 

4Sが持って生まれたキャラクター。

 

予想通り、4WDのカレラ4Sの旋回特性はSとはまったく別だった。車重が50kgほど重いが、その事実は加速性能に影響していない。事実、0-100km/h加速はSの3.5秒に対して、4Sは3.4秒とわずかながら速いのだ。4輪すべてに仕事量を配分するので、トラクションがSを上回るのはもちろんだが、テールエンドにエンジンを搭載する911はそもそもトラクションに不足はない。だから、これは相対的に小さなアドバンテージだと私は思っている。

 

Sと比べるとほんのわずかだが接地感が高い代わり、ドライバーとの相互作用がかすかに薄れた。ただしこれは、Sから直接乗り換えて初めてわかる程度の違いに過ぎない。

 

 

Sとの最大の違いは旋回時の挙動にあり、電子制御装置をカットオフするとそれが一層鮮明になる。4Sは本来的に前輪の軌跡を後輪が忠実に辿るようにセットアップされている。だからほんのわずかでもテールをスライドさせようとするなら、4Sが持って生まれたキャラクターに反する走り方を見つけるしかない。

 

この日のようなウェット路面なら、旋回途中、ステアリングを切った状態でドンとスロットルを踏みつければ、テールアウトの姿勢を誘発できるはずだ。しかし、4Sでそれを敢行すると、ただテールを外に振り出すだけなのか、それともコースの反対側に吹っ飛ぶのか予想がつかない。ひとたびリヤタイヤのグリップが破綻を来したら、どのようなしっぺ返しを食らうかわからないのだ。

 

 

お勧めは「カレラS」。

 

ただし私が今述べたことはサーキット上の限界付近の挙動であって、こんな走りを試みる4Sのオーナーはほとんどいないだろうから、これ以上議論するには及ばない。ここでは、カレラSと4Sとの違いを紹介するに留める。

 

結論めいたことを言うなら、大半のドライバーにお勧めなのはカレラSである。車両価格は4Sより安いし、乗って楽しいからだ。4Sを買うべきは、なにがなんでも4WDを必要とするオーナー、例えば冬期、路面の凍結を免れない地域に住んでいるオーナーだと思う。

 

 

より広い見地から見るなら、どちらの992を買ってもスタイリッシュなボディの下に真の911の鼓動が息づいていると申し上げたい。991と比べてより速くて静粛に、より機能的で効率的になったことが喜ばしい。しかし私がもっとも嬉しく感じたのは、992になって911は一層ドライバーズカーの色彩を濃くした事実だ。

 

実際、この価格帯で992ほど魅力的で充実したドライブエクスペリエンスを堪能できて、しかも日々の足に供することのできるクルマはほかにない、と自信をもってお伝えしよう。1963年の「デイワン」以来、911が連綿と保ってきた美点、それが56年を経過した今、なお一層偉大なドライバーズカーとして花開いたことを愛好家諸氏とともに喜びたい。

 

 

REPORT/Andrew Frankel

PHOTO/Richard Pardon

TRANSLATION/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

 

 

【SPECIFICATION】
ポルシェ911カレラS
ボディサイズ:全長4519 全幅1852 全高1300mm
ホイールベース:2450mm

トレッド:前1589 後1557mm
車両重量:1515kg

 

エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc

ボア×ストローク:91.0×76.4mm

圧縮比:10.2
最高出力:331kW(450ps)/6500rpm
最大トルク:530Nm/2300 – 5000rpm
トランスミッション:8速DCT(PDK)
駆動方式:RWD

 

ステアリング形式:電動パワーアシスト

(オプション:リアアクスルステアリング)
サスペンション形式:前マクファーレンストラット 後マルチリンク
ブレーキシステム:前6ピストン 後4ピストン(アルミモノブロック)

ディスク径:前350×34 後350×28mm

タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8.5J)後305/30ZR21(11.5J)

 

最高速度:308km/h

0 – 100km/h加速:3.7(3.5)秒

0 – 160km/h加速:8.1(7.8)秒

0 – 200km/h加速:12.4(12.1)秒

※( )内はスポーツプラスモード時

 

CO2排出量(EU):205g/km

燃料消費率(EU複合):8.9L/100km

 

 

ポルシェ911カレラ4S
ボディサイズ:全長4519 全幅1852 全高1300mm
ホイールベース:2450mm

トレッド:前1589 後1557mm
車両重量:1565kg

 

エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc

ボア×ストローク:91.0×76.4mm

圧縮比:10.2
最高出力:331kW(450ps)/6500rpm
最大トルク:530Nm/2300 – 5000rpm
トランスミッション:8速DCT(PDK)
駆動方式:AWD

 

ステアリング形式:電動パワーアシスト

(オプション:リアアクスルステアリング)
サスペンション形式:前マクファーレンストラット 後マルチリンク
ブレーキシステム:前6ピストン 後4ピストン(アルミモノブロック)

ディスク径:前350×34 後350×28mm

タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8.5J)後305/30ZR21(11.5J)

 

最高速度:306km/h

0 – 100km/h加速:3.6(3.4)秒

0 – 160km/h加速:8.3(8.0)秒

0 – 200km/h加速:12.7(12.4)秒

※( )内はスポーツプラスモード時

 

CO2排出量(EU):206g/km

燃料消費率(EU複合):9.0L/100km

 

 

【問い合わせ】

ポルシェ カスタマーケアセンター

TEL 0120-846-911

http://www.porsche.com/japan/