「ポルシェ911 GT3 カップ」試乗! 島下泰久氏がワンメイク最高峰の世界に迫る。

Porsche 911 GT3 Cup(MY2018)

ポルシェ911 GT3 カップ 2018年型

 

 

嬉しいお誘いからはじまった「カップカー」試乗。

 

ワンメイクレースの最高峰、ポルシェ カレラ カップ(PCCJ)のパドックに取材、あるいは遊びに行くうちに親しくさせてもらうようになった、同レースのジェントルマンクラス参戦中のTAD JUN JUN選手から年末のある日「私のGT3 Cup乗ってみます?」という嬉しいお誘いをいただいた。もしかしたら物欲しそうに見ていた筆者への社交辞令だったのかもしれないけれど「いいんですか!」と思わず食いついた筆者を、TAD JUN JUN選手は本当にテストに招いてくれたのだった。

 

舞台は富士スピードウェイ。チームPCCJとして他のジェントルマンドライバーの方々と参戦する翌日の「FSW 第12回新春おもいっきり7時間耐久レース」に向けての練習として参加されていた「FSW おもいっきり4時間走行会」の枠の中で、Porsche 911 GT3 Cup(MY2018)のステアリングを委ねていただいたのである。

 

 

485psに6速シーケンシャル。そしてABS付き。

 

昨年、MY2018として導入された最新の911 GT3 Cupは、タイプ991の後期型となる。前期型との違いは、まずエンジンが従来の排気量3.8リッターから、市販モデルの911 GT3と基本設計を同じくする4.0リッターのガソリン直噴(DFI)ユニットへと改められたことが挙げられる。最高出力は485psと、25psの向上。トランスミッションはパドルで操作する6速シーケンシャルが組み合わされる。また、ブレーキに新たにABSが搭載されたのも注目だ。

 

筆者が2015年、2016年に911 GT3 Cupを使って行なわれるワンメイクレースのポルシェGT3 カップチャレンジに参戦していた時に乗っていたマシンは、2006年モデルとなるタイプ997の前期型。最高出力400psを発生する3.6リッターエンジンには前後方向に操作するフロアシフトレバーを備えたシーケンシャルギアボックスが組み合わされており、ABSは付いていなかった。10年以上分にもなる進化は、果たしてどれだけのものだろうか。

 

 

予定より早く回ってきた試乗時間に慌ててレーシングギアを身に着け、TAD JUN JUN選手に簡単なレクチャーを受ける。そして、いよいよバケットシートに身体を滑り込ませたら、続いてはメインテナンスを担当するライトウェイの水谷代表のコクピットドリルだ。

 

ステアリングシフトパドルは右がアップで左がダウン。1速から更に左側パドルを引くとニュートラルに入る。クラッチペダルを使うのは発進時と停止の際だけ。リバースに入れるのはステアリングホイール左上のボタンを使う。一応、聞いておいたウインカーの操作は、センターコンソールに付くトグルスイッチにて行なう。

 

 

そのすぐ近くにあるメインスイッチを入れてクラッチペダルを踏み、ステアリングポスト左にあるスタートボタンを押すと、車体後方に積まれたエンジンが勢い良く始動した。シートポジションが合わないのは気になるが仕方がない。ハーネスをひときわキツく締めてもらい、いよいよコースへ出る。

 

 

シビレるエンジンレスポンス!

 

クラッチはタイプ997の911 GT3 Cupより軽くミートもしやすくて、心配していたエンストをすることなく走り出すことができた。ピットロードでもすでに、エンジンも駆動系も格段に滑らかでギクシャクすることなく、とても扱いやすいことに気づく。これは楽しめそうだ!

 

 

実際、まずシビレたのが、このエンジンだった。低速域から非常にピックアップが良く、アクセル操作に対して軽やかにレスポンスする。ドライバビリティは素晴らしいの一言である。

 

その後の回転上昇も至極スムーズで、弾けるようにトップエンドに向かって駆け上がっていく。パワー感にも不満などあるはずが無い。自分でステアリングを握っているのに、まるで早回しの映像を見ているかのようにグングン速度が高まるけれど、リニアリティが抜群に高いので恐怖感のようなものは皆無。むしろ、車外から聞いているのと同様に素晴らしい音色を響かせるエキゾーストノートに導かれるように、右足にますます力が入ってしまう。

 

 

筆者も5年ほど前、豪雨の中ではあったが試したことのあるタイプ991前期型911 GT3 Cupと較べて、低速域でのトルクが格段に出ている。TAD JUN JUN選手によれば、MY2018の導入直後にはコーナー立ち上がりでそれまでと同じ調子でアクセルを踏むと、トルクが出過ぎて姿勢を乱すということもよくあったという。実際、3速くらいまではトップエンドまで瞬く間に達してしまい、すぐさまシフトアップというのを繰り返すことになった。

 

 

もう1段上のギアが欲しいと思うほど!

 

TAD JUN JUN選手によれば、やはりここまでの立ち上がりの加速は相当に速くなっているとのことだ。速度計など見る余裕はなかったが、富士スピードウェイの長いメインストレートでは、タイプ991前期型と共通のギア比に対して、もう1段上のギアが欲しいとすら思えたほど伸びが良い。

 

 

ギアボックスも、もう最高だった。パドルを引くと瞬時に、しかもほぼショックを感じさせることなくスパッとギアが切り替わり、アップもダウンも実に爽快なのだ。タイプ997で最初にレースをした時、入れるのにコツの要るギアボックスに四苦八苦してレース後に右肩が炎症したことを思い出し、時代の進化を感じたのだった。

 

 

慣れが必要なABS。

 

一方、難しかったのはブレーキングである。ABS云々の前にペダルタッチが柔らかくゴムを踏んでいるかのようで、なかなか馴染めなかったのだ。TAD JUN JUN選手曰く、一気にドンッと踏むのではなくじわーっと柔らかく踏んで行ったほうがいいということだった。

 

そんな調子だったので、ABSのメリットを明確に体感できたとは言い難い。感じたのは同じ踏力をキープしたまま速度が落ちていってもロックする頻度が少ないこと。これを理解し活かして走ることができれば、簡単にはロックしないという安心感も含めて、より自信をもって突っ込めるかもしれない。実際、PCCJ参戦中の何人かのドライバーに聞いたところでは、ブレーキングポイントは従来より確実に奥になったという。もちろんウェットコンディションなどでは大いに有効に違いない。

 

 

今回は調子に乗ってリスクを冒さないよう計測5周のみの走行と自分で決めてコースに出たのだが、本格的なレーシングカーはすっかりご無沙汰の頭と身体ででは、それぐらいですぐにマシンの性能をフルに引き出せる状態に持っていけるわけもなく、まだまだブレーキングはたっぷり余らせていたし、100Rや300Rなどの速いコーナリングも無理せずマージン十分にという走りだった。そんな言い訳がましい状況でどこまで語れるのかという話ではあるけれど、この範囲であればコントロール性は上々で、多少スライドしようと余裕で対処でき、とても気持ちよくドライビングに没頭することができた。車重約1200kgとクルマが軽いせいもあるのだろう。その辺りは市販のGT3RSなどより上かもしれないと思ったのは本当の話である。

 

普段から色々なクルマに乗っているせいもあって、真っ直ぐの速さこそはそこまで凄いとは感じなかったが、ここから更にブレーキングを詰め、コーナリングスピードを高め、更にアクセルを踏み込んでいくようになれば、また違った面が顕になるのだろう。

 

 

やはり生易しいものではない。

 

ちなみにこの日、アドバイザーとして来られていたプロドライバーの吉田広樹選手がマークしたのは1分45秒台のタイム。筆者のタイムは動画の通り、最終セクションで前車に引っかかった周で1分52秒台で、もう少し頑張ればタイプ997前期型での自身のベストタイムである1分49秒台はわりとすぐに切れそうと思いつつ、そこから更に4〜5秒を削ると考えると、やはり生易しいものではないのは容易に想像できる。

 

とはいえ、筆者の頭と心の中では、恐れるよりもむしろ、その世界を垣間見てみたいという思いの方が強く湧き上がってきてしまった。取り敢えず、たった5周で筋肉痛になった身体を鍛えつつ、次のチャンスを待つつもりである。

 

素晴らしい機会を提供してくださったTAD JUN JUN選手、muta racing、RIGHT WAYには本当に感謝しかない。ありがとうございました。

 

 

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)

PHOTO & MOVIE/宮門秀行(Hideyuki MIYAKADO)

 

 

【Special Thanks】

TAD JUN JUN

muta racing

RIGHT WAY

有限会社大沼プランニング