ダメージをそのまま残した「ポルシェ356」。錆びているからこそ美しい。

2019/02/19 07:55

Porsche 356

ポルシェ356

 

 

カリフォルニアからドイツに戻ってきた「356B」。

 

長い月日によって様々な思い出や出来事を取り入れながら、やがて金属は腐食する。ヴィンテージカーと呼ばれている車両から錆(さび)を落とし、かつての姿を取り戻すのがレストアの工程だが、少しだけ“味”を残してみてはどうだろう? 今回紹介するのは、ブラックのナンバープレートを持つ、カリフォルニア帰りの「ポルシェ356B」だ。

 

ドイツ・シュヴェルムで、ポルシェとフォルクスワーゲンのレストア会社「Das Triebwerk」を手がけるのは、ステファン・ウィルムスとクリスチャン・ウィルムス。「このクルマにとって、もっとも重要な日は、我々がクルマに何をしようか決めた日でした」と、ふたりは振り返る。

 

ステファンとクリスチャンは、356がカリフォルニアから故郷ドイツに戻ってきた時、ある決意をする。当初、完璧なコンディションにレストアする予定だったが、このクルマが長い時間を経て受けたダメージをそのまま残そうというのである。

 

 

芸術品として経年劣化を“味”と考える。

 

数年前であれば、そんなアイディアは誰からも理解されなかった。“青錆”は味わい深いのか?  確かにロマネスク様式の大聖堂に飾られている油絵やフレスコ画であれば、経年劣化も味として評価されるかもしれない。しかし、ヒストリックカーをオリジナルのコンディションに回復させることは、長い間のトレンドだった。

 

確かに錆びたバケツであれば、そこに芸術的な意味はなく、ただの錆びたバケツである。だが、芸術の分野では錆による経験劣化は、歴史を思い出させる味わい深さを生む。そして、その芸術品としてこの「ポルシェ365B」以上の存在はないだろう。

 

 

まるで使い込まれたソファのような温かみ。

 

そもそもこのポルシェ356Bは、どのようなヒストリーを持っているのだろうか。1961年2月22日水曜日、ツッフェンハウゼンのファクトリーから、シャシーナンバー「115254」、エンジンナンバー「88751」を持つアイボリーのポルシェ356Bは、暖かい南カリフォルニアのサンフランシスコの「ポルシェ・カー・パシフィック」へとデリバリーされた。

 

サクラメント郊外のガレージ付きの住宅に住む最初のオーナーに買い取られたのは、1961年5月20日。その後、どのように乗り継がれてきたのかは、残念ながら分かっていない。黒いナンバープレートを付けていることから、おそらくカリフォルニアを出ていないと思われる。車両整備記録も完備されており、ギヤボックスもオリジナルのまま。ただ、心臓部に関しては、やや旧式のシリンダーブロックに交換されている。

 

ステファンが、輸入車業者の広告でこの356Bを発見したのは2014年。彼はすぐに買い取り、ドイツへと持ち帰った。

 

「あれは一目惚れのようなものでしょうね」と、ステファンは笑う。「汚れたアイボリーのボディカラーは、どこか懐かしさを感じさせました。学生時代に長年使い続けたソファのような温かみです。汚く見えるけれど、バカみたいに居心地がいいんですよ(笑)」と、彼は肩をすくめる。

 

 

外観をキープしながら、ドライブトレーンを修復。

 

レストア作業は注意深く進められた。動力部分に関するダメージや錆は修理されたが、ボディに関しては最小限の修理に留められた。そして、完成した356Bはレーシングカーの雰囲気を残すことに成功。ボンネットのレザーストラップとラリーストライプ、「61」のゼッケンナンバーに、少し掠れたビンテージステッカー・・・。そして、そこかしこに残された小さな凹みや擦り傷。

 

この魅力的な外観と、完璧な技術が組み合わせられたからこそ、公道を走らせて楽しむことができる。まず腐食の激しいゴムパーツ類を交換。アンダーボディ、エンジンルーム、ラゲッジスペースは、ドライアイスを吹き付けて洗浄された。ギヤボックスとエンジンの故障箇所は適正なパーツに交換。足まわりには再調整されたビリュシュタイン製サスペンションが取り付けられている。

 

「一番楽しいのは、この356でドライブしている時です。見る人すべてが笑顔になります。ジェラシーの感情は一切ありません。誰もがこのクルマから楽しさを感じているんでしょう」と、ステファンは笑顔で語る。そして、彼は残念そうにこの356が売約済みだと明かし、「もうこんなクルマには出会えないでしょう」と、悲しそうに肩をすくめた。