アストンマーティン全モデルを氷上テスト! それぞれの特性が露わになった

ASTON MARTIN On ICE

アストンマーティン 氷上テスト

 

 

氷上でのドライブは、スキーやスノーボードと同じ感覚

 

インストラクターの立場で言うのもなんだが、後輪駆動のハイパワースポーツカーにスパイクタイヤを履かせて氷上コースでアクセルを踏み込んだ走りは痛快そのものである。けれども、操るスキルも重要なことは間違いなく、操作を誤れば、低いとはいえ凍った雪壁にヒットする可能性も大きい。

 

それを「最新のアストンマーティンをドライブして」となれば尚さらで、実は我々イントラ陣も最初は恐る恐るであった!

 

ところが、氷上でエンジンを高回転まで回して“ツルッ”と滑り、カウンターステアがタイミングよく決まり、ドリフトコントロールが上手くできた!とする。その“コツ”というか“ツボ”が何となく掴めた瞬間から、もう心ウキウキ、楽しくて楽しくて、恐さは消し飛び1日中滑っていたくなるのは、覚えたてのスキーやスノーボードの感覚、いやクルマの操縦を覚えた頃と同じ。という例えはともかく、そのあたりをレクチャーしつつ“非現実の世界”に誘えることは間違いない。

 

 

アストンの最新ラインナップを使い、優雅にして大胆、華麗で豪快なイベントが日本でも行なわれている。しかも2年目を迎えた。

 

「ASTON MARTIN 北海道 On Ice」は、今年も十勝スピードウエイの特設コースで開催された。昨年、参加の皆様から「もっと長く走りたい」のご要望にお応えして、今年は2Dayコースも用意した。

 

基本メニューは車両のアンダーステア、オーバーステアなどの挙動変化の体感から、スライドするキッカケをつくり、ドリフトに至る過程をより判りやすく伝え、操縦方法を手足と視線、スライドを腰で感じながらの修得からスタートする。

 

スライドから戻る反動を利用して、一気に姿勢変化を行なうフェイントモーションはラリードライバーが使う技だが、それらも応用しながら氷上で右に左に華麗に舞う。・・・という話は大谷達也氏のレポートが詳しいので、私は氷上という極限状況でのアストンマーティン各モデルの特性についてお届けする。

 

車両安定装置「ESP」を完全OFFに設定して・・・いざ!

 

DB11 V8

 

柔な緩慢な動きがない「DB11 V8」

 

まずはアストンの根幹であるDB11のステアリングを握る。快適に速くGTカーの個性であることは言うまでもない。それは氷上でも同様だが、エンジン特性の違いがこうした状況下ではさらに如実に表れる。

 

V8モデルはオンロードの印象そのままに、極めて滑りやすい氷上でもステア操作と同時に“スッ”と明快な応答を示し、素直にノーズをインに向ける。向けばアクセルひと踏み、レスポンスに優れたV8ツインターボは、ターボラグなどなく、自然吸気のように瞬時に、必要“以上(氷上ゆえ)”の駆動トルクを後輪に伝達し、前輪の向きとは反対方向に粘りながら、しかし速い動きでテールを振り出す。

 

前輪で正確に曲がるから後輪をスライドさせる要因でもあるが、逆を言えばリアサスを含む縦、横剛性の高さから柔な緩慢な動きがなく、挙動変化を掴みやすいところが何よりも良い。GTカーという位置づけだがDB11 V8は後に紹介するピュアスポーツのヴァンテージにより近づいた個性をもつ。

 

DB11 VOLANTE

 

ヴォランテは、クーペよりソリッド、かつフラットな乗り味

 

そのままV12と行きたいが、同じV8エンジンを搭載するオープンボディのDB11ヴォランテはどうか? これは驚くことにクーペよりもさらにソリッドでフラットな乗り味から動きもシャープな特性になる。どう見ても優雅なオープンスポーツカーが何故にそうなのか?

 

ハンドリングは、舵角に対して後輪が遅れずに追従する特性があり、アクセルを煽ってスライドに変化する動きも早い。カウンターステアも、より良く効く切れ味とコントロール性の幅広さ、柔軟なコントロール性は前後の重量配分の違いだろうか。オープンゆえのシャーシ補強、サブフレーム、サスペンションマウント類の剛性がクーペのV8よりもさらにヴァンテージ寄りに硬く引き締まった印象である。

 

もちろん、アクセルひと踏みして大きく振り出すテールスライドに対応したカウンターステアのタイミングとその後のアクセルコントロールは、挙動変化に応じた瞬時の反応も要求される。クーペよりもさらに深い角度のドリフトアングルを許す傾向もあるが、刻々と変化する路面状況の影響もあるかもしれない。言えることは、現状、世界一美しいとされるオープンのスタイリングと開放感。トップを閉じればクーペと何ら変わらない室内の空気感のまま、氷上でも操る楽しさが味わえることが何よりも素晴らしい。

 

DB11(V12)

 

挙動変化が穏やかなDB11

 

DB11シリーズの中でV12を搭載するモデルは、現在はDB11 AMRのみになるが、今回はDB11 V12(即ち、前作)も用意されていて両車の違いも感じられた。

 

V12はまず重量配分というよりもエンジンマスの違いからステアリングに“ズシリ”と重厚感があり、操作に対する動きがマイルドな印象。出力に合わせての設定だろう、スライドに持ち込む際もまずはアンダーステアに注意して前輪の接地感を確認した状態からパワーを加える。中途半端では、ただ“押し出しアンダーステア”を誘発する可能性大。

 

つまり後輪の接地安定性を重視したサスペンション設定がなされているわけで、駆動力が伝わった際の横方向への逃げが少ない柔軟性が高く、挙動変化が穏やかなところがGTカーの特性と言われる所以。

 

それゆえ、パワープレイへは、キッカケのポイントを見誤らない事がカギで、曲がるとなれば、後はV12の有り余るトルクとパワーでアクセルの煽りでスライドからカウンターステアを与えたドリフトに持ち込み、それを維持するためのアクセルコントロールが必要となるが、豊かなトルク特性のおかげで容易とさえ言える。しかもドリフトから安定姿勢に戻りやすい事実もある。

 

DB11 AMR

 

同じV12でも、柔軟性がより幅広くなった「AMR」

 

DB11 AMRはひと言で例えるなら、操作に対して明快でソリッドな動きだ。よりV8に近いといえる。安定性はV12の特性なのだが、グリップ限界の広がり、柔軟性がより幅広くなった。その点では、DBSスーパーレッジェーラに近く、コントロールする感覚もDBS寄りとも言えるが、しかし旋回速度は及ばない。

 

VANTAGE

 

吸い込まれるように曲がるヴァンテージ

 

さて、オンロードやサーキットはもとより、氷上でのスターも「ヴァンテージ」である。すべてに切れ味鋭いハンドリングとスタビリティの高バランスにドライバー魂に火がともる。

 

個人的にはフロントエンジンのスーパーカーだと思うほど、応答性に優れ、すべての動きが俊敏だから、乗り手の感性を研ぎ澄ます必要がある。とはいえ、直進性の高さなど基本は抑えられており、不安要素はない。

 

Eデフの効果と言うべきか、ステア操作初期から吸込まれるように曲がる。もちろん、デフフリーの状態だから通常のデフと違いはないハズ。無論、サスペンションに路面からの入力に対する逃げ、つまりブッシュ類の曖昧さがなく、まさにダイレクトな動きを示す。

 

 

スライドに対するキッカケは容易い。ステア操作でノーズの向きが少しでもインを向けば、パワーを強引に加えてもクルマ側は曲がる意思を尊重して速攻ドリフト状態に転じる。パワープレイでドリフトを維持しやすい点は、EデフによるLSD効果がもちろん重要な要素。その動きの俊敏さと、カウンターステアも最小舵角で事足りる点はお見事である。

 

サイズ的にもDB11の弟分に思われがちだが、こうしてクルマの個性が露になる状況下で改めて見ても、まさに別の種族“ピュア”スーパースポーツカーである。

 

DBS Superleggera

 

変幻自在なDBSスーパーレッジェーラ

 

DBSスーパーレッジェーラはドライ路面で操縦してもそうだがアクセルを踏んだ瞬間に、起きているにも関わらず“覚醒”する。725ps/900Nmを後輪だけで伝達するのだから、その駆動力は半端ではない。

 

タイヤ1本あたり250~300本打ったスパイクが氷を噛み掻きむしり取りながら豪快にダッシュ!! 氷上とは思えない車速のノリには思わずアクセルを戻す。

 

何しろこのエンジン出力である。前後輪の接地性の高さは言うまでもなく、ステアリングの“ズシリ”とした手応えと、ダイレクトな駆動能力は、DB11 AMR以上に挙動変化を安定方向に引き戻す力が強い。強いが有り余るトルクとパワーは一瞬にしてパワープレイに持ち込める変幻自在、二重人格ならぬ“二重車格”ぶりもESP OFFのシーンでは楽しめる。

 

 

相当なドリフトアングルをつけても安定姿勢に戻しやすいのも特徴だ。アストンのオフィシャルサイトに近々載る予定の映像だが、コース幅を目一杯使っての華麗なドリフト走行はその操縦安定性があればこそ。

 

最長のハンドリングコースでは2〜3〜4速とシフトアップしていくと、そら恐ろしい速度に達するが、フットブレーキを多用することもなく、ステア操作すれば曲がり、フェイント、タックインからアクセルのひと踏みで横を向くため、自由度は高い。最強のカタログモデルは操縦領域の広さでも最強であった。

 

 

安全で楽しめる方法は氷上しかない

 

ちなみにこの「アストンマーティン On Ice」はアジア圏では他にニュージーランドでも開催されている。カリキュラムは同等ではあるものの、北海道の場合は、何よりもおもてなしの心が判る日本のスタッフと、日本語での意思の疎通、そしてコースの素晴らしさは世界レベルにあると言える。車両コントロール術を習得するのに、これほど安全で楽しめる方法は氷上でしかない。3年目が開催された折には、是非アストンマーティンで滑りまくって頂きたい。

 

 

REPORT/桂 伸一(Shinichi KATSURA)