新型BMW 8シリーズ上陸! 目が肥えた人にも満足度の高い“美しきクーペ”

2019/03/27 17:55

BMW M850i xDrive Coupe

 

 

敢えて「8シリーズ」を選ぶユーザーとは・・・

 

その昔、ロンドンのオールド・ボンド・ストリートを歩いていたら、古くからの知り合いに偶然出逢ったことがある。「こんなところで何してんの?」と咄嗟に出たこちらのマヌケな質問に、彼は「頼んでいたスーツが仕上がったんで取りにきたんだよ」と穏やかに返した。ちなみに彼の居住地は東京である。3ヵ月前に出張でロンドンを訪れた際に注文し、今回はそれを引き取るために再訪していたのである。「スーツの引き取りのためだけにわざわざ日本から来たの??」という、またしてもこちらのマヌケな質問に彼はイヤな顔ひとつせず「違う違う(笑)。この後、修理を頼んでいた額縁もピックアップするんだ」と彼は普通に答え、本当にマヌケな質問をしてしまったと後悔した。

 

 

BMWの新型8シリーズのような高額2ドアクーペをためらうことなく購入される方は、きっと彼のようなライフスタイルなのだろうと思った。

 

パンツが2本も付いて2万円台で買えるスーツがある世の中で、あえて採寸から生地選び、ジャケットの襟やパンツのシルエットまでこだわった1着を仕立てる方は、経済的余裕と精神的余裕の両者を備えているはず。価格もボディタイプも数多とある中で、2ドアの、でもスポーツカーでもオープンカーでもなく、2000万円に近いクーペをわざわざ選ぶ方もまた、経済的余裕と精神的余裕をお持ちだろうし、きっとクーペ以外にも複数台所有しているに違いない。性能や機能や品質やデザインに対して目が肥えている彼らのお眼鏡に叶うプロダクトに仕上げるには、提供する側も手抜きや妥協は許されないから大変である。

 

 

“世界一美しいクーペ”をおさらい

 

BMWのいわゆるラグジュアリークーペは“6”と“8”を行ったり来たりしている。コードネームE24の6シリーズが登場したのは1977年。「世界一美しいクーペ」などと当時は絶賛され、630CS/633CSi/635CSi/628CSi/M6などのラインナップを用意して1989年まで生産された。同年のフランクフルト・ショーで、事実上の後継モデルとして8シリーズ(E31)がお披露目。V型12気筒を積む850iを始め、M社がエンジンを手がけ後にそれがマクラーレンF1にも採用された850CSiや、V型8気筒の840Ciも追加導入されたが営業成績は思ったほど振るわず、1999年に生産を終了する。

 

 

それから14年の沈黙を経て2003年にはこれまた事実上の8シリーズの後継モデルとして6シリーズ(E63)が誕生する。6シリーズは2011年にフルモデルチェンジを受けて生まれ変わり(F13)、カブリオレのみならず4ドアセダンのグランクーペもバリエーションに加える。そして昨年、またしても車名を“6”から“8”に変えたニューモデルを発表した。それがこの新型8シリーズ クーペである。本国には後輪駆動やディーゼルの仕様もあるが、日本ではV8ツインターボ+4WDの「M850i xDrive クーペ」のみの1グレードとなる。

 

 

V8ツインターボは、530ps&750Nmを発揮!

 

あらたに開発されたV8ツインターボ(N63B44D)は8シリーズと共にデビューしたユニットで、グリルが大きくなった新型7シリーズなどにも搭載される。従来型とそのパワースペックを比較すると、最高出力が68psもアップして530ps/5500-6000rpmとなり、750Nmの最大トルクは1800-4600rpmという幅広いパワーバンドを有している。構造的な違いは、クランクケース、ターボチャージャユニット、直噴システム、冷却機能などで、フラップ制御式スポーツ・エキゾースト・システムも搭載する。いまや避けて通れない効率化にきちんと対応するいっぽうで、ニュルブルクリンク北コースで徹底的な走り込みを行い、耐久性とともにダイナミックな性能にも磨きをかけたという。組み合わされるトランスミッションはトルクコンバータ付きの8速ATのみだが、ギヤ比がワイドレンジ化された他、制御システムの最適化が図られている。

 

 

このパワートレイン、とにかくレスポンスとパワーデリバリーのよさが光る。といっても、扱いがナーバスになるほど瞬時に大パワーを発生するという意味ではない。スロットルペダルの動きやドライブモードや速度域などにより、その局面で最適な反応を示すのである。COMFORTモードを選んでタウンスピードで走行したり、高速巡航をしている時には、スロットルペダルの踏み込み量に対して極めて従順に、必要にして十分なパワーとトルクを発生してほどよい加速をもたらす。右足の操作に対してドライバーはそれほど気を遣わなくてもいいから、リラックスしたドライブが楽しめる。

 

 

6000rpmまで清々しく回るスポーツモード!

 

これをSPORTやSPORT PLUSにすると、今度は右足のわずかな動きも逃さず、瞬時にフィードバックが帰ってくるようになる。極端に言えば、右足の指の動きや足の裏がわずかに押されるくらいの微細な入力にも応えてくれるような感じである。そしてさらにスロットルペダルを踏み込めば、6000rpmのレブリミットまでまったくストレスなく、清々しいくらい気持ち良く回転計の針が上昇し、そっちに気を取られていると速度計の針が予想以上の数値を示していることに気が付かず、慌てて右足の力を抜くなんてことが何度もあった。このときの加速感は実際に猛烈な加速Gとして体感できるが、同時にスポーティなエキゾーストノートの旋律がキャビンにも届いて耳でも実感できる。

 

 

COMFORTやECO PROでは、どちらかといえばエンジンやそのサウンドは存在を控え目にして脇役に徹していたが、SPORTやSPORT PLUSを選ぶと今度はスッとセンターステージの中央に立ち、主役として臨場感溢れる振る舞いでドライバーを3Dで刺激してくるのである。

 

 

電子制御による前後左右の緻密なトルク配分

 

M850i xDrive クーペの操縦性を司るのは、まず電子制御による前後左右の緻密なトルク配分である。xDriveは規定の前後トルク配分というものがなく、状況に応じて随時その配分を変化させる。前後が0:100でFRの時もあれば、50:50で前後均等に駆動力を振り分ける時もある。左右のトルク配分は、リアに設けられたいわゆるEデフが、主にコーナリング時にその威力を発揮する。旋回中には後輪アウト側によりトラクションがかかるよう湿式多板クラッチを押しつけて、イン側との回転差をあえて生じさせることにより、速度を大きく落とすことなくスムーズに車体の向きが変えられるよう制御する。

 

 

最近ではブレーキを使ったトルクベクタリングが多く普及しているが、これだとせっかくの駆動力をブレーキで殺してしまうことになる。Eデフの最大の特徴は、ブレーキ式トルクベクタリングと同じ効果を、エンジンパワーのロスを最低限に抑えながらできるところにあるのだ。そしてM850i xDrive クーペのシステムの何より優れている点は、こうしたトルク配分がドライバーにはほとんど伝わってこないこと。連続的に細かく可変するから、唐突感や制御されている感じが極めて薄いのである。

 

 

後輪操舵の効果絶大! 想像以上に曲がる

 

もうひとつ、クルマを曲げるために絶大なるサポートをしているのが“インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング”、つまり後輪操舵の機構であるM850i xDrive クーペはステアリングのギア比も可変式なので、後輪の舵角は前輪の舵角と協調制御されており、旋回中の挙動が可能な限りニュートラルステアを維持できるようなプログラムが仕込まれている。実際、ステアリンの操舵角がわずかでも、想像以上にフロントがイン側へ回り込むようにして入っていく。また、低速域で逆位相となるので、切り返しなどではホイールベースが短くなったかのようによく切れて使い勝手が良い。ただし、後輪操舵のサポートは前述のトルク制御に比べると明らかにわかりやすく、自分で曲げているというよりもクルマのほうが進んで曲げに行っていると感じる人もいるかもしれない。

 

 

それでもラグジュアリークーペに徹する

 

動力性能や操縦性は、スポーツカーに迫る性能でありながら、あえてちょっとだけつつましくして、あくまでもラグジュアリークーペの範疇からは脱していない。このセッティングは巧妙で好感が持てる。そしてM850i xDrive クーペをドライブしていてこのクルマがスポーツカーではなく、紛れもないラグジュアリークーペであると実感するのは心地よい乗り心地を意識した時だ。サスペンションは電子制御式ダンパーと金属ばねの組み合わせなのだけれど、乗り味はまるでエアサスのごとくマイルドで優しい。20インチのタイヤとホイールで受けた路面からの入力は、その大半をサスペンションが見事に処理して、身体まで伝わってくる振動はほんのわずかに過ぎない。パワートレインが揺すられる様子もなく、ボディやシャシーが無用な振動を拾っている気配もほとんど感じられない。グランドツアラーとして求められる素質をきちんと備えていることが分かった。

 

 

正直なところ、売価が1500万円を超えるクルマで、操縦性や動力性能や快適性に大きな不満があることは稀で、むしろそれだけの金額を出したのに大きな不満があるほうが問題である。2ドアのラグジュアリークーペの場合、詰まるところその魅力の大半を支配するのはスタイリングや高級感だろう。低く幅広いスタンスで構えたM850i xDrive クーペのスタイリングは隅々まで伸びやかで、我慢や都合の産物が見られない。流麗と躍動感、エレガントとスポーティの両方が上手に融合している。ボディサイズは小さいに越したことはないのだけれど、この類のデザインを破綻なく成立させるためには、ある程度の大きさが必要だということをあらためて認識させられた。

 

 

インテリアは基本的に新型3シリーズやZ4に見られるBMWの新しい流儀に則ったものである。でも、シフトレバーのトップにクリスタルをあしらったり、トリムに使われる本革のしつらえ方などはラクシュリークーペというキャラクターを意識したものになっているから、見た目は「3」や「Z4」に似ていても、室内には「8シリーズ」でし味わえない上質感に満ちた雰囲気になっている。

 

M850i xDrive クーペの乗り味とデザインならきっと、目の肥えた人でも満足するに違いない。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO & MOVIE/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

 

 

 

【SPECIFICATIONS】

BMW M850i xDrive クーペ

ボディサイズ:全長4855× 全幅1900 × 全高1345mm

ホイールベース:2820mm

車両重量:1890kg

エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ

総排気量:4394cc

最高出力:390kW(530ps)/5500rpm

最大トルク:750Nm/1800 – 4600rpm

トランスミッション:8速AT

駆動方式:AWD

ハンドル位置:右/左

ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン(電動式)

サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後5リンク

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ(リム幅):前245/35R20(8J) 後275/30R20(9J)

最高速度:250km/h(自主規制)

0-100km/h加速:3.7秒

燃料消費量(JC08):9.9km/L

車両本体価格(税込):1714万円

 

 

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