新型ストラトス 誕生物語 Vol.02「ベース車両との葛藤」

公開日 : 2019/03/23 17:55 最終更新日 : 2019/07/20 23:57

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New STRATOS

ニューストラトス

 

 

選ばれたのは「フェラーリ430スクーデリア」

 

ニューストラトスのベース車両に選ばれたのはフェラーリ430スクーデリア。それは2004年にデビューした、フェラーリの8気筒ミッドシップ、360モデナのビッグマイナーチェンジ版、F430をさらに進化させて2004年にセールスを開始したスペシャルモデルだ。デザインは、後にマクラーレンへと移籍するフランク・ステフェンソンが率いるピニンファリーナのチームで行われ、1960年代の156F1などで採用されたシャークノーズを復活させるなど、その仕事にはさまざまな話題性が秘められていた。ミッドに搭載されるエンジンは4308ccのV型8気筒自然吸気で、最高出力は510ps。最も効率的なスタートを実現するローンチコントロールや、電子制御デファレンシャルのE-Diffを採用したのも、430スクーデリアのメカニズムでは大きな特長だった。

 

 

水面下で進められていた、ピニンファリーナとの開発

 

フェノメノンというデザインスタジオが現代にストラトスを復活させようと動いているという話は、すでにこの時点で世界に広く知られていた。なぜならクリスは2005年のジュネーブ・ショーに「ニューストラトス by フェノメノン」というネーミングで自ら製作したフルスケールのモックアップを出品しているからだ。だがこの時に、それが現実のものになることを予想できた者がどれだけいただろうか。

 

さらに3年後の2月、パリで開催されたレトロモービルにもクリスは同モデルを発表するが、ここでもボディカラーが変わったのみで、プロダクション化に向けての動きは見えなかった。しかし、水面下では、イタリアン・カロッツェリアの象徴ともいえるピニンファリーナとの共同開発が今まさに始まろうとしていた時だった。

 

 

ワンオフのスペシャリストを抜擢

 

430スクーデリアの基本構造体となっているのは、アルミニウム製のスペースフレームだ。スペースフレーム構造は、フェラーリ程度の生産台数を想定したモデルに使用するには、最適な構造体ともいえる。ピニンファリーナでこのプロジェクトのチーフ・エンジニアリングに抜擢されたのは、パオロ・ガレッラ氏。パオロはそれまでにもピニンファリーナでさまざまなワンオフモデルの開発に携わってきたし、またピニンファリーナから離れた現在では、ニューヨークのジム・グリッケンハウス氏が製作するレーシングカーを含めた、SCG(スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウス)ブランドのモデルも生み出している。ジムとの最初の仕事は、エンツォ・フェラーリをベースとしたP4/5だった。

 

 

フェラーリ430スクーデリアをベースにニューストラトスを製作する・・・。このプロジェクトはパオロの耳にも心地良く聞こえたに違いない。430スパイダーのホイールベースは2600mm、それをそもそものストラトスの2180mmとするのは不可能だが、2400mmまでならホイールベースの短縮は可能ではないか。

 

 

そしてパオロは、デザインの比較対象ために、ピニンファリーナのデザイン部門にもう1台の現代版ストラトスの製作を指示する。良いアイデアは比較することから生まれる。それは彼が常に心がけていることでもあったからだ。

 

 

本物指向による大胆な決断

 

だが、そもそも2600mmもある430スクーデリアのホイールベースを2400mmに短縮するのは簡単な作業ではなかった。もちろん単純に200mm分をカットし、それを接合するのは不可能な話ではない。だがそれではニューストラトスは操縦安定性の面で、またおそらくはデザインにおいても数多くの問題を抱えるモデルとなってしまうに違いなかった。

 

そう直感したパオロの最終的な決断は、430スクーデリアのアルミニウム製スペースフレームのごく一部のみを使用して、ニューストラトス用のフレームを専用で製作するという、実に大胆なものだった。そして剛性の低下を補うために、FIA公認の2.5mm厚の40mm径アルミニウム製パイプで製作されたロールケージでキャビンを取り囲む。ニューストラトスの姿がようやく遠くに見えた瞬間だった。(続く)

 

 

文/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)