BMW 330i M Sport 初試乗! 走りを愛する者の“最後の砦”
公開日 : 2019/03/26 11:55 最終更新日 : 2019/07/21 18:59
BMW 330i M Sport
「駆け抜ける喜び」健在!
BMWが7世代目となる「3シリーズ」を遂に発表した。
同社は7シリーズと5シリーズで新世代セダンの在り方を現代に示した。具体的にはBMWらしい軽快なハンドリングはもちろんのこと、環境性能と運動性能を両立する車体の軽量化を推し進め、快適な乗り心地と先進安全技術の躍進をもってセダンの魅力を今一度世に知らしめた。
それだけに“我々に最も近いBMWセダン”である新生3シリーズには大きな期待が掛かったわけだが、果たしてその出来映えはどうだったのか?
ひとことで言えばそれは、“BMWの魂そのもの”と言えるセダンであった。何を大げさな! しかし私はそう思うのだ。3シリーズといえばBMWの金看板。“BMW=3シリーズ”という時代があった。
しかし、今ミドルレンジのセダンには、世界的に強い逆風が吹き始めている。人々はよりカジュアルで押し出しが強く、室内空間が広くて見晴らしのよいSUVに、新しさと実用性を感じているからだ。またガラパゴス化されたこの日本では、よりルーミーなミニバンというジャンルが相変わらず幅を効かせている。
そんな中にあって3シリーズが訴えかけるものはずばり、動的な質の高さ。BMW流に言えば「駆け抜ける喜び」そのものなのである。
この魂の叫びが人々に通じるかどうか。こうしたクルマの本質的な魅力が人々の心を捕らえるかどうかが、新型3シリーズに課せられた試練だと私は思うのだ。
トロけるように素晴らしいドライブフィール
そんな気持ちを察したかどうか、今回インポーターが用意した試乗したグレードは「330i M Sport」だった。そのエンジンには2リッターの直列4気筒直噴ターボが搭載され、アシ回りにはM社仕立てのサスペンションが組み込まれたスポーティグレードである。
このエンジンとシャシーのコンビネーションは、トロけるように素晴らしかった!
まず感服するのは電動パワステの緻密な制御だ。昨今の電動パワステ(EPS)はアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)時の自然な操舵支援操舵を実現するためにその制御が著しく発達しているが、BMWのEPSは実際の人間が行うステア操作性においても実に高い精度を発揮していた。太めのステアリングをほんの少し切り込んだだけで、僅かにクルマがロールを開始する様子が、それこそ手に取るようにわかる正確性。切り込むほどに深まって行く操作への自信に、私は素直に感服した。
本領発揮は「スポーツモード」から
M Sport仕立てのサスペンションは初期ロールにしなやかさを出しながらも芯の部分でしっかりと手応えを持っているが、本領を発揮するのは「Sport」モードに入れてから。前述した電動パワステはさらに重厚感を増し、高められたダンパー減衰力によって操舵のレスポンスが一段と鮮明になる。
スプリング及びダンパーは適度な硬さを持っているが、これで乗り心地が悪くなったという印象はほとんどない。唯一残念なのはランフラットタイヤが低速域で細かい反発感をもたらすことだが、速度が乗るほどにその乗り心地はフラットになって行く。
このシャシーに対して2リッター直噴ターボが物足りないかというと、決してそうではない。
1630kgという重量に対して258ps/5000rpmのパワーは圧倒的ではない。しかし1550rpmから発揮される400Nmの最大トルクが加速時にどこからでもパンチを効かせてくれるから、コーナリングとパワーマネージメントが渾然一体となった走りを楽しめる。これこそがシャシーファースターのお手本である。
また、この4気筒をフロントミドシップしたイナーシャ(慣性)の少なさも回頭性の良さに一役買っている。
ほんの少しだけ気になる部分も・・・
私は、この330i M Sportを雨の富士スピードウェイで走らせたのだが、そこではドライ路面で感じなかった、アクセルコントロールのシビアさが現れた。端的に言えば軽快に曲がるハンドリングに対して、ヘビーウェット路面ではリアタイヤのグリップのレベルがやや低い。そしてここにターボの過給圧特性が組み合わさったとき、スナップオーバーステアの挙動がやや唐突に感じられたのだ。どうやら2リッターという排気量ながら胸の空く加速を実現するこのターボユニットは、その反面雨ではピーキーな過渡特性となってしまうようだ。
日常性をもった 「ザ・スポーツセダン」
ちなみに新型3シリーズのボディは先代比でホイルベースが40mm拡大されたが、トレッドもフロントで43mm、リアで21mm広くなっている。この体躯にして車重は先代よりも約55kgの軽量化が図られていることから、曲げるまでの運動性能は高い。
リアサスペンションに特別ストロークの不足などは感じないから、もし330iにZ4のような電子制御ディファレンシャルが装着されていれば、穏やかにオーバーステアをコントロールできたのかもしれない。
そういう意味ではこうした限界時の挙動をも考慮するなら、これから登場するであろう6気筒モデルや、M3やM4を待つべきなのかもしれない。
総じて新型3シリーズは、M Sportというグレードではあったが、こちらが脱帽するほどに走りの質感を高めたスポーツセダンへと仕立て上げられていた。それも、日常での快適性を一切損なうことなしに。
コクピット側のメーターはフルデジタルとなり、インパネ中央には12.3インチインチのディスプレイまでが備えられ、インフォテインメントにおいても抜かりなく手を入れてきた。
それでもなお、3シリーズにはSUVという強敵が立ちはだかるだろう。それが自ら初代5シリーズで開拓したジャンルであるというのが何とも皮肉だが、その壁を乗り越えて、3シリーズには売れて欲しいと思う。
DセグメントのFRスポーツセダンは、走りを愛するドライバーにとっての、最後の砦だ。スポーツカーを手に入れられなくとも、家族を大切にしながら熱い気持ちを忘れない人々のために。3シリーズは生き残る必要があるのである。
RERPOT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
BMW 330i M Sport
ボディサイズ:全長4715×全幅1825×全高1430mm
ホイールベース:2850mm
トレッド:前1585 後1570mm
車両重量:1630kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
圧縮比:10.5
最高出力:190kW(258ps)/5000rpm
最大トルク:400Nm/1550-4400rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブル・ジョイント・スプリング・ストラット 後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前225/45R18(7.5J) 後255/40R18(8.5J)
燃料消費率(JC08):15.7km/L
車両本体価格(税込):632万円