ブガッティが生まれるモルスハイムの「アトリエ」、“究極の完璧”を目指す生産現場とは

ロボットやベルトコンベアの存在しない自動車工場

 

フランス・アルザス、モルスハイムのブガッティ本社ファクトリー=アトリエでは、現在3台のシロンを製作中だ。その空間は軽快でピュア。自動車製造工場というより、むしろ清潔な病院のようにも見える。 そこにはオイルや燃料の匂いも、騒音を響かせるロボットも、賑やかなベルトコンベアもない。かすかに聞こえるのは、バックグラウンドミュージックのみである。

 

現在、アトリエではブガティ社創立110周年を記念し、20台限定生産される「シロン スポーツ “110 ans Bugatti”」最初の1台を製作している。その作業は急かされることなく、何週間も手作業で行われる。1台ずつ、ブガッティのブランド価値や芸術性のほか、最新技術が注ぎ込まれ、ユニークな傑作が完成していく。

 

 

2018年は76台を製造し、今年は80台を超える

 

「品質と職人技は、ブガッティを構成するふたつのDNAです。110年前と同じように、私たちは素材の選択と品質に細心の注意を払っています。創設者のエットーレ・ブガッティは『工業製品は審美的な観点から見ても完全な場合にのみ、パーフェクトと言える』と語っています。これは職人の技量も含まれます」と語るのは、ブガッティ・オートモビルズS.A.S.のステファン・ヴィンケルマン社長だ。

 

2018年に76台のシロンを製造、今年は「ブガッティ ディーボ」の初号車を含め80台を超える製造数を予定している。ブガッティは今後も継続的な投資を続け、生産部門と物流部門に20名の新入社員を雇用する予定だ。

 

 

3週間を費やす丁寧な塗装工程

 

1台塗装するにも3週間を要するというブガッティ。カーボンファイバーの場合は6層、トップコートの場合は最大8層のレイヤーを重ねるという。すべての工程は正確に管理されており、どの層も手作業でペイントして研磨し、さらに徹底的に磨かれる。エクステリアパーツはファクトリー敷地内にあるテクニカルセンターで先に組み立てられ、品質管理のチェックを受ける。

 

アトリエは、2001年に修復作業が完了したモルスハイムのシャトーの隣にある。上空から見ると、その形状はブガッティのエンブレム(ブガッティ・マカロン)を模した楕円形となっている。1000平方メートルを超えるアトリエの床は反射するホワイトで塗られている。

 

このフロアは絶縁処理されており、静電気を除去するエポキシ材を使用。取材に訪れたこの日も、訓練を受けた従業員がすべての部品を厳格にチェックしていた。

 

 

1台に最大6ヵ月を要する手作業での生産

 

厳しい品質チェックに合格した場合にのみ、ハイパースポーツカーのパーツとして使用されるのは言うまでもない。前述のように、アトリエ内には自動車工場でお馴染みのベルトコンベアやロボットも存在しない。

 

従業員が手作業で、8時間のダイナモテストを終えたエンジンを含めたパワートレインのアセンブリを準備。この後、アセンブリされたパワートレインは、ボディのリヤセクションに組み込まれシャシーと結合。この組み付け工程には14本のチタンボルトが使用され、恒久的な接続が保証されている。

 

1台のブガッティ製ハイパースポーツカーが製作されるのに、約20名の従業員が最大6ヵ月の作業を行う。選び抜かれた最高品質の素材は、無限とも言えるほどのカラーバリエーションが用意されており、その結果、完成した1台1台が識別できるほどの個性を持っている。「ブガッティは、自動車製造におけるソリティアみたいなものです」と、ヴィンケルマン社長は笑った。

 

 

“オートクチュール・ドゥ・オートモービル”

 

2013年以来、ブガッティにおいて生産とロジスティクスの責任者を務めてきたのが、クリストフ・ピオションだ。2002年にブガッティに入社した42歳のピオションは、モルスハイムに転がっている石まで熟知している。そして、ヴェイロンやシロンの生産に深く携わってきた。彼の1日はアトリエに落ちている糸くずを拾い、ゴミ箱に捨てることから始まる。

 

「ブガッティのハイパースポーツは、パワー、スピード、素材、そして品質の点で、他のどの自動車とも比べられません。素材を厳選し、このアトリエで1台ずつ組み立てられるのです。この特別な雰囲気の中で手作業による製品を造り出すことこそがブガッティをユニークな存在にしてくれる理由です。ある意味、“オートクチュール・ドゥ・オートモービル”と言えるでしょうね」

 

 

4名のスペシャリストによって取り除かれる異音

 

シャシーにパワートレインが組み込まれると、まずシャシーダイナモに載せられ、1500psを発揮するW型16気筒エンジンの状態を確認すべく、最大200km/hで2時間の連続テストが行われる。

 

このテストをパスすると、ようやく4日間をかけて丁寧に外装パーツを装着。ボディ換装後、散水テストの前にはインテリアも整えられる。そして、すべてが完成すると外装には金属製保護ホイルが貼られる。これはテストにおいて跳ね石からボディをガードするためのものだ。

 

完成車がカスタマーへとデリバリーされる前に、テストドライバーによってテストコースや高速道路での試験走行が行われる。最低でも350km、約8時間ほどテストされ、すべての機能をチェックする。

 

「品質はあらゆる箇所に影響を及ぼします。カーボンのフィット感やボディのチリなどの見た目だけでなく、音もチェックされます。ブガッティに不要なノイズがあってはならないのです。“音”をチェックするためには、特別な聴力をもつ4名の熟練したテストドライバーが何時間もかけて高速道路を走行します。彼らは直ちに不協和音を認識し、その原因をつきとめて排除します」と、ピオション。

 

 

デリバリー前の1時間は自然光の下で最終確認

 

最終工程はボディコーティング。厳選されたコーティングアーティストによって、丁寧に最終作業が行われる。彼らは保護ホイルを取り除き、ボディ表面に汚れや傷がないか注意深くチェックする。コーティングは4名の従業員が6時間以上かけて行い、上質のコットン手袋で表面を検査していく。最終チェックを担当するのが前述のピオション。自然光の下で、彼が約1時間かけてくまなく確認する。

 

最後にヴィンケルマンは、ブガッティが何故これほどまでに品質にこだわるのか説明してくれた。

 

「確かにこれはたいへんな努力です。でも、私たちはお客様から責任を負っています。アトリエを出られるのは完璧なクルマだけなのです。私たちの願いは、可能な限り“究極の完璧”に近づくことです」