「ブラバムBT62」初試乗! 伝説の名をもつ新進気鋭のスーパーマシンに挑む

2019/06/26 17:55

BRABHAM BT62

ブラバム BT 62

 

 

開発用のプロトタイプに試乗!

 

よく晴れたその日、私はシルバーストーンのピットレーンに立っている。傍らにはデイヴィッド・ブラバム。そう、あのジャック・ブラバムの子息だ。そして目の前には、これから私が試乗するブラバムBT62が停まっている。

 

低いサイドシル、取り外し可能なステアリング、前後にスライドするペダルボックス(シートは固定)のおかげで、BT62の乗降は楽だ。キャビンは非常に快適で、安心感さえ覚える。その理由は、まずまず良好な視界と、必要な情報を色分けして表示する高精細シングルスクリーンにある。私の体格はデイヴィッドよりだいぶ大きいのだが、このコクピットはまるでテーラーメードのようにしっくり来る。

 

 

デイヴィッドがかがみ込んで、私に話しかける。

 

「走ればわかりますが、非常にスピードが出ます」

 

これは彼一流のごく控えめな表現だ。

 

「ひとつだけアドバイスしましょう。本コースに出たら、直線上でまず一度ブレーキを踏んでください。それでフィールが掴めます」

 

彼は、値段のつけようのない1台のみの開発用プロトタイプを無傷で戻してくれなどと、余計なことは一切言わない。今のところ、この1台のほかにショー展示用が1台と、納車先が決まっているカスタマーカーが1台あるそうだ。

 

 

胸のすくような快音を発するV8自然吸気エンジン

 

マスタースイッチをオンにして、点火系をオン。そうしてスターターボタンを押す。その瞬間、V8は爆発的に始動し、ピットロードに反響する雷鳴のような音が周囲の大気を震わせた。私も最近のターボは小径化されて、過給が効くまでのタイムラグがほとんどないことは知っている。しかし、これだけは自然吸気エンジンに叶わない。ハイチューンド自然吸気エンジンのサウンド! BT62の胸のすくような快音は、モダンなGT3カーよりフォードGT40に近い。

 

しばらくアイドリングすると冷却水が適温になった。私は1速を選び、素晴らしくスムーズなクラッチを繋いでピットレーンをあとにした。

 

 

乗りやすさの先に用意されるのはレッスン

 

GT3マシンとはまるで別もの。これは走り始めてすぐに気づくBT62の特徴であり、スピードを高めながらクルマとの会話が進むにつれて、その印象はますます強くなる。スリックを履いて、ウイングをそびえ立たせているせいで、タイヤに熱が入らず、ウイング効果が出ない低速域で走るうちは、ドライバーの失敗を許さない、難しいクルマだと予想していた。ところが実際はそれとはまったく逆だったのだ。

 

BT62はゆっくり走らせてもなんの問題もない。これは重要だ。デイヴィッドは自分の顧客のだれもがGT3レーシングドライバー並みのスキルと経験の持ち主ではないことを知っている。そこで彼は、きわめて多彩なドライビングレッスンの準備を進めており、オーナーは様々なレベルのロードカーとレーシングカーを操縦する機会を与えられる。

 

「オーナーには次なるレベルに到達して欲しいと強く願っています。そうすればBT62を心からエンジョイできます。操縦技術だけでなく、この種のクルマにどうアプローチするのか、メンタルな部分も学べる場にします。人によって早い遅いはあるにしても、いずれオーナーはBT62本来の領域へと踏み込んでいきます。そのとき、レッスンでステップアップした体験は必ず強みになります」

 

しかし今日の私にレッスンを受ける贅沢はない。ブラバムはこれからも広範囲なテストプログラムを控えており、私に許された周回数には限りがある。スロットルを深く踏み込むしかない。

 

 

4500rpmから先は別世界!

 

このレベルのパフォーマンスの持ち主で、私がここまで盤石の信頼を置けるクルマは滅多にない。BT62は走り出した瞬間に乗り手を安心させるクルマ、だからこれを高速で走らせるのは極めて自然だ。

 

エンジンは秀逸の一語に尽きる。最近のGT3マシンの大半に見られるターボエンジンとはまったくの別ものだ。私の考えでは、GT3マシンでもっとも失望させられるのがストレートでのパフォーマンスなのだが、その点、BT62は直線の始まりから終わりまでのスピードの乗り方がこれとは一線を画す。スロットル開度に即応する瞬発力。その大きな理由がパワーの湧出をターボに依存しないエンジンにある。

 

むやみにフラットなトルクカーブを狙っていないところも気に入った。回転の上昇に合わせてトルクがビルドアップされていくが、本性は見せない。本当のパンチを炸裂させるのは4500rpmを過ぎてから。以降、レッドラインが引かれた7500rpmまで途切れなく加速が続く。

 

 

6速のレシオも互いに接近しているので、常に「カムに乗った」レブレンジをキープする。今は使われなくなった表現を、このエンジンに使えるのは気分がいい。

 

一方、シフトフィールには、あともう一歩メリハリがあってもいいと思った。ギヤボックス自体は瞬間的な変速が可能なので、手応えに欠けるのは惜しい。ただし、このプロトタイプはこれまで酷使に晒されてきたことと、今年の終わりに始まる市販型の販売までには、一層開発が進む余地があることは勘案されるべきで、それまでにシフトフィールは問題ないレベルまで改善されるはずだ。

 

これほど出来の良いエンジンのサポート役を担うパワートレインを開発するには、膨大な作業が必要だろう。一方、シャシーはすでに完成の域に達しているようで、特にしなやかに動くサスペンションが印象的だ。

 

BT62のブレーキは、強力なサーボアシストに慣れきった私たちのマインドセットを大きく変える必要のある部分である。途方もない制動力を発揮するのはもちろんだが、ペダルが滅法重いのだ。

 

 

ABSも備わっており、走り出す前にどのセッティングにすべきかデイヴィッドに尋ねたところ「気にしなくていい。ABSの介入は感じないでしょう」という返事が返ってきた。彼がブレーキ性能に100%の自信を持っているからなのか、それとも私の軟弱な腿の筋力を見抜いてそう言ったのか・・・。ジェントルマンであるデイヴィッドからは、どちらだったのか、私は今でも判断がつかないでいる。

 

純レーシングカーと同等の正確なライントレース性

 

この日の経験から言うなら、BT62ではコーナー進入時に身体が自然に感じるブレーキポイントで制動をかけたのでは早過ぎる。通常のブレーキングゾーンの終わりを過ぎてもまだ手前過ぎる。もうこれ以上遅らせたらクラッシュだというポイントまで遅らせてちょうどいい。そうすればきれいなラインを描きつつ、導かれるようにエイペックスに向かっていく。

 

強烈なダウンフォースが効くBT62のようなマシンでは、コーナーで大幅にスピードダウンすることなくサーキットを周回できる。旋回スピードが高いコーナーほどウイングの効果を感じる。しかしシルバーストーン名物の超高速コーナー、コプスではエイペックスでの高い通過速度もさることながら、私のハートを打ったのは正確なライントレース性だった。

 

ターンイン時の姿勢は模範的。エイペックスを過ぎてからコーナーを脱出するまでの、オーバーステアに転ずる限界域の挙動は乗る者を熱狂させる。

 

 

もちろん実効のあるダウンフォースを発揮するレーシングカーなら、BT62と同じことができる。反対に、相当開発を煮詰めたはずの市販スーパーカーでも、純粋なレーシングカーと比べると旋回時に浮き足立つ感じが伴い、進路があいまいになる場合がある。BT62は純レーシングカーに相応しいライントレース性を遺憾なく見せた。

 

路面の突起やランブルストリップ(走路逸脱を予防するため、道路の中央や路肩に意図的に設けられた波状面)を乗り越える能力にも注目だ。シルバーストーンにはウェリントン・ストレート手前にかなりの不整路面がある。ここを抜ける際、BT62はそれなりのショックを伝えて来るが、足まわりが巧く働いて、途切れることなくパワーを路面に伝える。

 

私は自分に割り当てられた周回数を終え、BT62のノーズをピットに向けた。そしてデイヴィッドが待つパドックに戻った。

 

 

BT62を購入するということは“栄光”を共有すること

 

彼がスペックだけを頼りにBT62を造ったのではなく、今日見るような姿に開発したことを喜ばしいと思う。ラジカルならサーキットをほぼ同等のスピードで走れるし、20万ポンドほどで手に入るという意見もあるだろう。その2つが最重要項目であれば、ラジカルは当を得た買い物だ。

 

しかし私には、BT62にはもっと別の意義があるように思える。BT62を購入するとは、すなわちブラバムの栄光を共有することである。3度ワールドチャンピオンに輝いたジャック・ブラバムの、そして元F1ドライバーでルマンに総合優勝を果たしたデイヴィッド・ブラバムの栄光だ。

 

F1の歴史を通じてもっとも美しく革新的で、成功を収めたマシンの栄光を共有することでもある。もうひとつ付け加えるなら、私がこれまで操縦した現代のレーシングマシンのなかで、もっとも痛快だった1台を手に入れることでもある。

 

 

では、具体的になにがブラバムの栄光を形作っているのだろう。ここで彼らの足跡を辿るとともに、近い将来を見通すことにしよう。

 

「ブラバム」という名前を聞いて思い浮かぶイメージは世代ごとに様々のようだ。私の父親世代にとってのブラバムとは、レーシングカーコンストラクターになるずっと以前の、ひとりのレーシングドライバー、ジャック・ブラバムその人だ。

 

南半球出身のジャックは、サーキットの中でも外でもタフな人物で、実利的な効率を最優先するエンジニアだった。そして、ここ英国にやってきて、私たちに2年続けてワールドタイトルを獲得して見せたのだった。

 

一方、私にとってのブラバムとは、1970年代後半から80年代初期にかけてのスタイリッシュで革新的な一連のF1マシン。そこには才気溢れるゴードン・マレーの知恵が随所に活きていた。

 

例えば1978年に実戦投入されたBT46では、モノコック側面に薄型の熱交換器を並べ、ボディ表面を流れる気流でクーラントとオイルを冷却した。

 

BT46の後期型、BT46Bではマシンのテールに取り付けた送風機がシャシー底面から空気を吸い出し、路面との間を負圧にすることでダウンフォースを生んだ。「ファン・カー」の異名をとり、今も多くの愛好家の記憶に残る1台だ。さらに1981年のBT49Cではハイドロニューマチック・サスペンションを採用している。

 

それら新機軸が実戦で戦闘力を発揮したかどうかはさておき、私はマレーが設計したブラバムF1の創意に富んだ成り立ちに魅せられたし、若かった私の目にはとてもクールに映った。

 

 

価格は約1億6000万円! 70台の限定生産

 

では、現代の若者にとってブラバムとはどんな意味があるのだろう。デイヴィッドにとって、答えは明白だった。

 

ブラバムは、1992年にF1フィールドから撤退するが、その後、ブラバムの商標使用権を巡る法廷闘争と資金調達に何年も費やしたすえ、久々にニューモデルを携えて復活した。それが本稿の主人公、ブラバムBT62である。

 

価格120万ポンド(約1億6000万円)のBT62はわずか70台の限定生産だが、レッド・ツェッペリンによる一夜限りの再結成ライブとは意味が違う。デイヴィッドいわく、すでに次のモデルの構想があり、それはBT62のデザインエレメントを一部採り入れたロードカーだという。しかもGTEカテゴリーのホモロゲーションを受けて、早ければ2021年のルマンに出走する計画まで立っている。

 

つまりBT62は将来に向けた足がかりなのだ。パワフルにして、素晴らしくグッドルッキングな足がかりだ。

 

 

「ブラバムをハイパフォーマンス・ロードカーのメーカーにしたいのです」デイヴィッドはそう明かす。

 

「とはいえ、ロードカーを製造する資金を得るには、まずビジネスを成長させることが前提です。レースがその糧(かて)になるでしょう」

 

そんなわけで、BT62は2021年のル・マン以外にGT3のレースにも出るだろうが、レギュレーションに合致しないため、GT3のホモロゲーションは受けられない。従って、招待カテゴリーから出走することになりそうだ。

 

「ブラバム・ファミリーはレースの血統を受け継いでいます」とデイヴィッドは言う。

 

「商標権を取り戻した当初、私はその名前を復活させてレースチームを作ろうと考えました。しかしその後、もっとズシリとした存在感のある、冒険的なプロジェクトにチャンスがあると思いついたのです。幸いにも、オーストラリアのアデレードに本拠を置くフュージョン・キャピタル(ブラバム・オートモティブもその一部)も賛成してくれました」

 

 

デイヴィッドは話を続ける。

 

「それに、私たちならプライベートチームをサポートする体制を取れます。これがあらゆる意味でベストな方法であり、ブラバムの未来を盤石にするでしょう」

 

ただし、デイヴィッドはロードカーの販売台数については明言を避けた。

 

「今は当初期待していた通りの立ち位置に着いており、満足しています。いずれにしても出し抜けに販売を始めるつもりはありません。ターゲットに据える顧客層に私たちの長期プランを理解してもらい、途中で破綻することはないと安心してもらうことが先決ですから」

 

父ジャック・ブラバムが採った方法に近いマシンスペック

 

私はどのような動機づけでBT62のスペックを決めたのか尋ねてみた。返ってきた答えはすがすがしいまでに率直だった。

 

「自分がどんなクルマに乗りたいか、自問した結果です」

 

 

彼が乗りたかったのは、2人乗りスポーツカーでクローズドルーフ。車重は1000kgを切り、1000kg以上のダウンフォースを生み出す。エンジンは自然吸気のV8で700hp。私にはどれもごくまっとうな数字に思える。

 

レースレギュレーションに縛られないので、100%独自のスペックに従ってエンジンを設計した。ただしブロックだけはフォードのV8を基礎にしている。「父が採った方法と似ています」と懐かしそうに語る。

 

当時、タスマンシリーズにレースエンジンを供給していたレプコ社は、ジャック・ブラバムの意向を受けて、オールズモービルの乗用車用エンジンをベースにF1エンジンを仕立たのだった。このエンジンは1966〜67年の2年続けてブラバムにコンストラクターズタイトルをもたらした。

 

BT62ではフォード・マスタングに搭載されている5リッターV8ブロックを使用。これを5.4リッターまでボア・アップしたうえで内部パーツを交換した結果、マスタングの400hp+アルファから700hpにまで高めている。

これと組み合わされるのはホリンガー製のレース用6速シーケンシャルギヤボックス。駆動方式は純粋なRWDで、タイヤは巨大なミシュランのスリック。サスペンションはダブルウィッシュボーンで、プッシュロッドがダンパー/スプリング・ユニットを採用する。ブレーキディスクはCFRP製だ。

 

 

GT3マシンよりも確実に速い!

 

わずか972kgの車重を167mph(約270km/h)走行時に、1200kgものダウンフォースで路面に押しつける。この数字からわかるように、BT62は極めて本格的なサーキットマシンだ。実際、オーストラリアのバサースト・サーキットではGT3のラップ記録を3秒も短縮したという。

 

「さらに2秒くらい縮める余裕がありました」とデイヴィッドが自信のほどを見せる。確かに、現在BT62は開発途上にあり、これが完成したらGT3レースのフロントランナーより5秒、いや6秒速いタイムを出しても不思議ではない。ただし、いざレースでGT3マシンと一緒に走るとなると、オーガナイザーから若干のデチューンを求められるかもしれない。

 

ブラバムは純然たるレーシングカーコンストラクターから、少量生産スーパーカーメーカーに向けて最初の一歩を踏み出そうとしている。

 

BT62の試乗を終えた今、私はデイヴィッド・ブラバムと彼のチームがブラバムにとっての新世界でも過去と同様な栄光を獲得して欲しいと願っている。

 

 

TRANSLATION/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

 

 

【SPECIFICATION】

ブラバム BT62

エンジン:V型8気筒DOHC32バルブ

総排気量:5.4リッター

ボア×ストローク:94×97mm

最高出力:522ps(700bhp)/7400rpm

最大トルク:667Nm/6200rpm

トランスミッション:6速シーケンシャル

ステアリング:電動パワーアシスト

サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン

ブレーキ:ブレンボ製カーボンディスク

キャリパー:前後6ピストン

ローター径:前380 後355mm

ホイール:前11J×18 後13J×18

タイヤ:ミシュラン コンペティション スリック & ウエットタイヤ