アンディ・パーマーCEOに訊く「アストンマーティンを守る」ためにすべきこと【インタビュー】

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Dr.Andy Palmer CEO

Aston Martin Lagonda Limited

 

 

攻めの姿勢で風を呼び込む

 

アストンマーティン(正式な会社名はAston Martin Lagonda Limited)の最高経営責任者であるアンディ・パーマーCEOは大変な親日家としても知られている。1991年に日産自動車の欧州法人に入社して以来、2011年に本社副社長に就任するまで同社で辣腕を振るってきた人物だからというのもあるけれど、実は奥様は日本人で、2014年に英国に戻ってアストンマーティンのCEOに就任した後も、プライベートでたびたび日本を訪れている。今回もお盆で帰省中(?)のところを、メディアのグループインタビューに応じてくださった。

 

アストンマーティンは現在、変革の時期を迎えている。パーマー氏がCEOに就任した時、アストンマーティンは会社の業績もプロダクトも決して良好と言える状況ではなかった。それを根本から立て直し、新しいプラットフォームの開発やSUV市場への参入とそれに伴う新工場の設立、ニューモデルの継続的な発表など、攻めの姿勢を崩さず果敢に挑んできた彼の功績により、アストンマーティンは見事に蘇った。

 

そして2018年10月3日にはロンドン証券取引所に株式を上場する。一時期は不安定に推移する株価に対して投資家から懸念の声があったのも事実だが、株価とブレグジット(英国のEU離脱)に関しては比較的楽観視しているようにも窺えた。

 

「実は、実売数で見ると対前年比で26%も増えています。成長率が26%の自動車メーカーなんて他にあまりないのではないでしょうか。加えてアメリカ市場はほぼ倍、日本では約40%の伸び率をそれぞれ記録しました。こうした事実をきちんとお伝え出来ていなかったことで、投資家の皆さんが不安に感じたのかもしれません」

 

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2020年はいよいよSUVとHVを投入

 

「上場2年目にあたる2019年は、たまたまニューモデルが少なかったというタイミングもあるでしょう。しかし2020年にはアストンマーティン史上初となるSUVのDBXと、ハイパースポーツのヴァルキリー(F1のレッドブルレーシングとの技術協力によるミッドシップの2シーター。新開発の6.5リッターV12自然吸気エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドユニットを搭載し、1000psを超える最高出力を有する。150台の限定モデルで価格は3億円以上とも言われている)を発表します。つまり、2019年はちょうど過渡期にあるわけです。英国や欧州では期待していた成長率に達していませんが。今後7年の間に7車種を発表する商品企画にも変更はありません」

 

アメリカ市場での成長率だけが特出している理由については、ファイナンスの影響が大きいという。

 

「アメリカ市場の好調にはいくつかの理由があると思います。ヴァンテージはスロースタートだったのですが、街で見かける機会が増えるに従って売り上げも伸び始めました。また、アメリカでリース販売を始めたことも影響しているでしょう。同様のリースプランを日本でも立ち上げました。頭金はポルシェより若干高めですが、毎月の支払額は約半額です」

 

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年産1万4000台を目指す

 

パーマーCEOはインタビューの中で「Growth(成長)」という言葉を何度も使った。アストンマーティンは決して何かに躊躇したり迷ったりしておらず、計画性をもって成長し続けている事実を特にアピールしておきたいようだ。

 

「成長といっても、瞬間的ではなく継続性を保つことが重要です。その鍵を握るのがDBXということになります」

 

スポーツカーメーカーや高級車メーカーが相次いでSUVを投入している。ある程度の販売台数が確実に見込めるSUVでしっかりと収益を上げ、それを定番商品の開発費や先行投資に充てるやり方である。

 

「アストンマーティンのブランドにSUVが相応しいかどうかの議論に終わりはなく、おそらくたったひとつの正解もないでしょう。いっぽうで、ランボルギーニもベントレーもロールス・ロイスもSUVを作り、フェラーリでさえもその市場に参入すると言われているのも事実です」

 

だからといって、ただSUVを作ればいいというものではなく、どんなSUVを作り、どう売っていくかが重要とも語る。

 

「現在、アストンマーティンは年間約6500台を生産しています。ここにDBXの4000台が加わる予定です。DBXを作る新しい工場の生産能力は最大で約5000台ですが、私たちの会社の規模とプロダクトの希少性とブランドを守るために、年間の総生産台数の上限は1万4000台くらいが妥当と考えています」

 

この「1万4000台」という数値はベントレーなどとほぼ同数である。そしてこの中には今後「7年で7モデルを投入する」と言われる新型車も含まれている。

 

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明日を作るのはプロダクトか、株価か

 

「2022年か2023年にはラゴンダを発表する予定です。これはDBXのプラットフォームを使ったBEVで、内燃機を積む予定はいまのところありません。BEVだけでなくハイブリッドも導入していきます。その頭出しがヴァルキリーというわけです。ヴァルキリーは、ハイブリッドが経済性のみならずパフォーマンスの向上にも有用であることを証明するモデルです。

そして、これから登場するニューモデルには基本的にハイブリッドを用意します。PHEVはいまのところ考えていません。個人的には、ハイブリッドのほうがPHEVよりも可能性があると思います。PHEVは重いバッテリーを積む必要があり、重いエンジンと両方を抱えないといけない。重いクルマはアストンマーティンに相応しくありませんから」

 

自動車を取り巻く社会や環境の変化を踏まえると、小さいメーカーでもラインナップの拡充はやむを得ないだろう。ところが、闇雲にラインナップを増やしてしまうと、ブランドイメージを傷つける、あるいはこれまでとは違った方向へ導く恐れがある。パーマーCEOの言う「ブランドを守る」のフレーズの裏にはそんな危機感があるのだろうか。そしてアストン・マーティンにとっての「ブランドを守る」とは具体的にどういうことなのか。

 

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「それが幸運によるものだったのか、あるいは意図したものなのかはともかく、アストンマーティンはいつの時代においてもその美しいデザインが高く評価されてきました。美しさはアストンマーティンに絶対欠かせない要素のひとつです。

 

もうひとつはカッティング・エッジ(最先端)です。ご存じのように、私たちはアストンマーティン社とラゴンダ社がひとつになって生まれた会社ですが、アストンマーティンもラゴンダも、当時はそれぞれ先進技術を積極的に導入する自動車メーカーでした。クラシックのアストンマーティンがいまでも皆様に愛されているのは大変光栄ですが、だからといって懐古趣味的なモデルを出すのは好ましくありません。

 

ヴァンテージは、私がいま申し上げた要素がすべて揃った象徴的モデルです。ボディとシャシーはほとんどがアルミ製で、構造接着剤を使用して組み上げ、大胆な軽量化に成功しましたし、空力的にもとても優れています。ちなみに軽量化と空力はBEVにとっても重要な技術であり、だからラゴンダの開発は我々の得意とするところでもあります。

 

人々を魅了する美しいデザインと最先端の技術。このふたつをきちんと備えるプロダクトを投入することが、ブランドを守ることに繋がるのです」

 

株価だけで企業価値を判断する投資家と、プライドと自信を持ってアストンマーティンのブランドに恥じないプロダクトを提供し成長し続けると語るパーマーCEO。どちらが正しいのか。その答えは近いうちに判明するだろう。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)