ブガッティのデザイン責任者に訊く「チェントディエチ」とEB110の関連性

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Frank Heyl

Master of Arts

Head of Exterior Design

BUGATTI ENGINEERING GMBH

 

フランク・ヘイル

エクステリア デザイン 責任者

ブガッティ エンジニアリング

 

 

今のブガッティにとってEB110とは如何なる存在なのか?

 

今年、ブランド110周年を迎えたブガッティは年初から精力的に限定モデルを発表して、その特別な年に華を添えようとしている。8月のクエイル モータースポーツ ギャザリングでお披露目されたのは、同ブランドのコーチビルドプログラムにて生み出される世界限定10台の「チェントディエチ」。現地で、その外装デザインを担当した同社のフランク・ヘイル氏に話を聞いた。まずうかがったのは、こうしたモデルが生み出された背景である。

 

「ブガッティ創立110周年を祝って、今年はまず3月にたった1台の限定車となるラ・ヴォワチュール・ノワールを発表しました。これは1930年代を振り返ったもので、タイプ57SCクーペ・アトランティークをモチーフとした車名の通りのブラックのクルマです。そして今回は1990年代に目を向けました。イタリアの時代ですね。ロマーノ・アルティオーリは工場をイタリアのカンポガリアーノに移して、ここでEB110を生産しました。このクルマは当時のもっとも際立ったクルマとして知られています」

 

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1987年にロマーノ・アルティオーリがブガッティの商標を手に入れ、イタリア モデナにブガッティ アウトモビリを設立して生み出したスーパースポーツカーがEB110である。1991年に発表されるが、同社は1995年に倒産。その後、1998年にフォルクスワーゲンが商標を買い取り、ブガッティ オトモビルを設立して今に至る。つまり厳密には違う会社のモデルであるEB110は、今のブガッティにとって、どういう存在なのか。

 

「EB110は、クアッド ターボチャージャーとAWDを採用した初めてのクルマでした。現在のブガッティに通じるテクノロジーは、ここで生まれたのです。当時、EB110は非常に先進的なクルマだったと言えると思います。ランボルギーニ クンタッチ(カウンタック)やディアブロはNA(自然吸気)エンジンを積んでいましたし、フェラーリF40はまったく違ったかたちのモンスターでしたから」

 

チェントディエチはあくまでも今のブガッティ

 

もっともデザインは必ずしもEB110に忠実というわけではない。モチーフを採り入れてはいるが、あくまで今のブガッティの系譜にある。

 

「ブガッティはコレクターズカーです。レトロカーは受け入れられません。未来的、モダンでなければなりません。それが、まず背景にありました。10台のクルマを購入される方は、おそらく旧いクルマも新しいクルマも何台も所有されていて、最初のコーチビルドカーであるディーヴォもお持ちのコレクターでしょう。あるいは何人かは、EB110も手元にあるかもしれません。ですからEB110へのオマージュではあるけれど、あくまで未来的な、新しいルックスにする。モチーフは引用するけれど、レトロではなく今のクルマにするというのが絶対条件でした」

 

もちろん、そこにはそれでもクルマをブガッティに見せるのは、ひとつにはホースシュー形グリルや、サイドのブガッティラインと呼ばれる円弧を描くようなラインなどのDNAエレメントのおかげだ。では一方で、チェントディエチ特有の部分というのは、どこになるのか?

 

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「EB110の特徴は幾何学的なデザインです。非常にウェッジが効いたシェイプで、他のブガッティ車とは一線を画するものと言えます。ブガッティは基本、リアはドロップしていくフォルムですから。でも90年代のスーパーカーは、どれもこういうフォルムですよね。ですから、チェントディエチをデザインする上ではプロポーションはとても重要でした。ホースシュー形のエアインテークも小さく、それに合わせてフロントノーズはかなり低くなっています。このグリルのおかげで、とてもワイドに見えますよね」

 

グリルが小さくなったこともあり、ブガッティのバッジはグリルの外側に付けられている。これも、EB110以来に通じる要素である。

 

「この低く抑えられたフロント形状は大きなダウンフォースを生み出していて、おかげで(バランスを取るために)リアに大きなウイングが必要になりました。このウイングは固定式です。油圧可変式は重量が嵩みますから。エンジンは見えますがリアはクローズドとして、空気をきれいにリアウイングへと導いています。スリット状のテールランプはわかりますよね? EB110の左右テールランプ間に開けられていたスリットがモチーフです。また、Aピラーをブラックアウトしたのも特徴的な部分です。これによってフロントスクリーンがサイドスクリーンまで一体化され、連続しているように見えます。ブガッティライン、いわゆるCラインはシロンではラウンドしていますが、このクルマではオリジナルのEB110のように角張った輪郭としています」

 

 

デザインは、すべてデジタル

 

こうしたデザインはそれ自体も注目すべきものだが、実はその工程もまた興味深いものだったようだ。実はチェントディエチ、デザインはすべてデジタルで行なわれているのである。

 

「スケッチを描いてデザインを決め、それをカタチにする作業はすべてコンピューターで行ないました。かかったのはわずか6ヵ月。もちろん、私達にとっては記録的な速さです。開発サイクルはどんどん短くなってきていますね。すべてデジタルで作業したのは、プルーブアウトモデルはたった1台を作成しただけに過ぎません。そこで少しアジャストしただけで、出来上がったんです。もちろんコンピュータを導入したのはこのクルマが最初ではありませんが、どんどんその領域が増えてきているのは間違いありません。シロンの時には、まだクレイモデルを作っていました。このクルマでは、その工程も無くなりました」

 

ところでこのチェントディエチ、ボディカラーはホワイトである。EB110のイメージカラーはブルーで、ホワイトはあまり記憶にない。なぜ、この色での訴求となったのだろうか?

 

 

「実はホワイトは、(ステファン・)ヴィンケルマンCEOのチョイスなんです。オリジナルはブルーでしたから、私たちもブルーを提案しました。当時の色を見つけてきてね。でも彼が「ホワイトはどう?」と。そして実際、プルーブアウトモデルをホワイトにしたら、これはいい。イエスと言うしかないなと(笑)」

 

もちろん、そこはブガッティ。ボディカラー等々はすべてビスポーク可能である。発売は2022年の予定だ。

 

「エクステリアデザインは、すでに決定していますが、インテリアについては、実はまだ進行中です。エクステリアと同じように、EB110のモチーフを入れていくつもりですよ」

 

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)