フェラーリ チャレンジ密着取材「勝利への軌跡」勝者 GO MAX 選手を追う【動画レポート】

GO MAX選手のピットからのスタートシーン

Ferrari Challenge ASIA PACIFIC Series

フェラーリ チャレンジ アジア パシフィック シリーズ

 

 

日本人ドライバーとしてトップの成績をもつGO MAX選手

 

フェラーリ チャレンジは、1993年の348チャレンジにはじまり、現在は6代目となる488チャレンジに至るまで、V8ミッドシップシリーズをベースとした専用車両の「チャレンジ」で競われるFIA公認のフェラーリ ワンメイクレースだ。フェラーリのカスタマーレーシング活動を統括する「コルセ クリエンティ」のもと、欧州をはじめ、北米、アジア・パシフィック(APAC)の3地域に加えて、2019年からはUKシリーズもスタートした。

 

今年のAPACシリーズは、開幕戦のメルボルン(オーストラリア)を皮切りに、セパン(マレーシア)、上海(中国)、ツインリンクもてぎ、富士スピードウェイ、シンガポール、そしてファイナルはムジェロ(イタリア)の全7戦で争われている。そして今APACシリーズには5名の日本人ジェントルマンドライバーがフル参戦している。

 

そうした中、現在2019年シーズンランキング2位につけ、日本人ドライバーとしてはトップの成績を誇るGO MAX選手の富士スピードウェイでの戦いに密着してみた。

 

予選直前にマシンに乗り集中するGO MAX選手。その意気込みが伝わってくる。

 

ロータス カップの初戦で、このままじゃダメだと

 

もともと二輪が大好きでヘリコプターの免許も所有するなど、エクストリームな乗り物好きのGO MAX氏が本格的にレース活動を始めたのは、およそ10年前、仕事が落ち着きはじめた30代後半の頃だったという。

「最初はトヨタのヴィッツレースからはじめて、翌年にはロータスのワンメイクにも挑戦しました。その初戦で、周囲のレベルの高さに驚いて、このままじゃダメだなと思ったんです」

 

自己流でのドライビングに限界を感じたGO MAX氏がとった行動は、速いだけでなく、教えるのが上手いプロドライバーを探すこと。そこで知人を介してめぐりあったのが、田中哲也氏だった。

 

「平日は仕事がありますし、練習できるのはせいぜい月に2日か3日。レースを始めたのが遅かったこともありますし、できるだけ短期間で速くなりたいという思いがありました。まず、田中さんに走ってもらって、そのデータロガーを見ながらひとつずつ真似していくと、自分では超えられなかった壁をいつの間にかクリアしているんです」

 

ジェントルマンレースとはいえ、モータースポーツにも他のスポーツ同様にコーチが必要だと語る田中哲也氏。

 

スポーツにコーチが必要なのは当たり前

 

田中氏はコーチの重要性についてこのように話す。

 

「野球でもテニスでもゴルフでもコーチが不要なスポーツなんて存在しません。モータースポーツでももちろん同じことが言えます。多忙なジェントルマンドライバーが短期間で速くなるには、ストレートな表現をすれば、“時間をお金で買う”というやり方がもっとも効率的です。そのためにはプロのコーチングが不可欠だと思います」

 

GO MAX選手は、その後ポルシェ カレラ カップへ数年間参戦した後、フェラーリ チャレンジ APACへフル参戦して4年目を迎える。

 

フェラーリ チャレンジのホスピタリティルーム。家族や友人を連れてきても十分に満足する環境が整っている。

 

フェラーリ チャレンジは華やか。身ひとつで参戦も可能

 

「フェラーリ チャレンジのほうが華やかだし、性に合っているなと感じたんです。カレラ カップはまめに練習する必要がありますし、レースに対してストイックな雰囲気が強い。一方でフェラーリのほうはアジア パシフィック選手権なので、レースが終わればすぐにコンテナにマシンを積んで次の国へと運ばれていく。参加者みんなが練習できないという意味でイコールコンディションなんです。仕事の関係上、それほど練習に時間をさけないので、それくらいがちょうどいいんです」

 

フェラーリ チャレンジは、その気になればライセンスとヘルメットを携え、身ひとつでサーキットに行けば参戦が可能だ。レーシングスーツやシューズなどは指定のものが用意されている。マシンのロジスティックにかかる費用をはじめ、フェラーリから全戦メカニックやエンジニアが帯同。選手専用のロッカールームやVIPラウンジが用意されている。レース終了後には、そのロッカールームにあるクリーニングサービスにスーツを放り込んでおけば、次の開催地に届けられるというわけだ。

 

インタビューに答えるGO MAX選手(右)と田中哲也コーチ(左)。ロータス カップ参戦時から信頼関係は続く。

 

さらにフェラーリ チャレンジならではの魅力は、F1の前座レースを務められるということ。APACではメルボルン、そしてシンガポールがそれに当たる。特に市街地でナイトレースが行われるシンガポールの華やかさはひときわで、F1と同じコースでレースができることは参加者たちにとって大きなモチベーションになっている。

GO MAX氏も「シンガポールの夜の市街地コースを走るのはとても気持ちがいい。F1ドライバーとも会えるし、あらゆる環境が格別です。海外を転戦したり、いろんな国籍の人たちと知り合いにもなる。それもこのレースの魅力のひとつかもしれません」と話す。

 

クルマもコースも1日として同じコンディションということはない

 

次戦にシンガポールを控えた8月31日(土)と9月1日(日)、富士スピードウェイで第5戦が行われた。土日それぞれで予選と決勝を行う2レース制。国内開催だけにスポット参戦する日本人ドライバーも多く、いつもよりライバルは多い。シリーズチャンピオンを狙うGO MAX氏にとっても重要な意味をもつレースだ。

 

予選直前、マシンに乗り込むGO MAX選手。

 

フェラーリ チャレンジでは、レースウィークの木曜と金曜にオープンプラクティスという練習走行枠で、コーチングスタッフが試走することが許されている。セッティングを確認し、基準タイムを出す。場合によっては同乗走行も、また助手席からアドバイスを受けることもできる。個別にコーチングスタッフを雇っていない参加者は、フェラーリの専属ドライバーにその役割を依頼することも可能だという。実際には参加者のほとんどがプロドライバーにコーチングを依頼している。

 

もちろん、田中氏はその走行枠を利用して基準タイムを出す。

 

「クルマもコースも1日として同じコンディションということはありません。昨日は42秒が出たのに、今日は出ない。その原因がセットなのか、なんなのか。そんなときにボクが乗って基準をみせる。昔は運転技術を教えることも行っていましたが、現在のGO MAX選手には、もうそれは必要ありません。いまは基準を作るということが大きな役割のひとつといえるかもしれません」

 

予選に向けてピットからスタートするGO MAX選手。

 

そしてGO MAX選手の速さに太鼓判を押す。

 

「GO MAX選手は、昨年もたくさんのポールポジションを取りましたし、先日のもてぎでもポールをとりました。一発の速さという意味ではもはやトップクラスです。あえて注意すべき点をあげるならば、器用すぎるがゆえに慎重さに欠けること。我慢が必要な場面でアクセルを踏みすぎて滑らせてしまうこともあります。そんな時でもマシンのコントロールが上手いので立て直しますが、それでコンマ数秒を失ってしまう。今年はマシントラブルなど不運なこともあり2位に甘んじていますが、流れがくればもっと勝てるはずです」

 

予選中のGO MAX選手。その速さは田中哲也コーチのお墨付きだ。

 

3週目でコースレコードを叩き出すも、予選は2位という結果に

 

土曜日の朝、10時25分、天候は曇り、路面はドライ。レース1の予選が始まった。GO MAX氏はライバルに先んじてコースインする。フェラーリ チャレンジでは、予選と決勝で同じタイヤを使用するルールが課せられている。したがって、予選でいかにタイヤを消耗させないかが、決勝レースでの鍵を握る。アウトラップを経て、次の周回からアタックに入った。そして3周目にはコースレコードとなる1分42秒797を叩き出しすぐにピットへと戻ってきた。

 

その後、#2がコースレコードをさらに塗り替え、0.07秒差でトップにたった。GO MAX氏は静観し、そのまま2位で予選を終えることになった。予選終了後、午後に決勝レースに向けて冷静にこう話していた。

 

「タイヤが限られているので、2アタックのみで温存するという作戦です。後半のほうが路面はよくなるので、もう少しタイムはつめられたかもしれませんが、トップとは僅差でしたし、フロントローですから予選としてはいい結果が出せたと思います。スタートは得意なほうなので、1コーナーでタイミングをみて前に出たいですね。最低でもポジションキープで、前の様子を見ながらミスを逃さないように粘り強くいきます」

 

予選終了後、オンボード映像とデータロガーで分析する田中哲也コーチ。

 

データロガーと車内の映像を突き合わせながら田中氏がアドバイスを送る。

 

「予選は最小限のミスでほぼ完璧でした。100Rでもう少し手前をおさえることができれば、さらにタイムが縮まる。富士は最終コーナーの走り方次第でホームストレートの伸びが大きく変わります。そもそもGO MAX選手はセクター3が速いので、そこを慎重にいけば決勝はいけると思います」

 

決勝スタート。GO MAX選手は2番手スタートながらも1コーナーの進入に成功。そのままゴールまで逃げ切った。

 

1コーナーの進入に成功! トップを維持したままゴールへ

 

午後14時45分、参加台数22台、30分間で競われるレース1の決勝が始まった。ローリングスタートから、GO MAX選手が1コーナーの進入で#2のアウト側に並ぶ。そして一気に追い抜いた。まるで教科書に書いてあるかのようなパッシングだった。田中氏のアドバイスどおり、セクター3での速さを維持し、追随を許さない。残り14分でセーフティカーが入る展開となったが、再スタートも危なげなく決めてみせた。見事な勝利だった。

 

いつもは冷静沈着なGO MAX選手も「楽しかった、良かった」と笑顔でマシンから降りてきた。「1コーナーで先に入って逃げ切るだけ。あとはタイヤを使わずにペース配分を考えながら、心を落ち着かせてミスをしないよう走りきりました」

 

見守っていた田中氏も「絵に描いたような勝利でした。スタートの集中力が決め手でしたね。完璧なレースでした」と手放しで喜ぶ。応援に駆けつけていたGO MAX選手が経営を行っている会社のスタッフのみなさんも、とても楽しそうだ。

 

見事、優勝を手にしたGO MAX選手。マシンのフロントノーズには“浪費癖”の文字が。これには深い意味がある。

 

GO MAX選手が描くジェントルマン ドライバーとは

 

実はGO MAX選手のマシンやチームのウェアには、でかでかと“浪費癖”の文字が書いてある。その理由を尋ねるとこう答えた。

 

「自分への戒めですね」

 

自戒の念を込めて、ということのようだが、その奥にはもっと深遠なメッセージが込められている。

 

「クルマ趣味は私自身にとっては浪費ではないけれど、興味がない人にとってはレースなんてまったく無意味じゃないですか。でも浪費がないと趣味や娯楽は生まれないし、経済もまわっていかない。小さな頃から純粋に速いクルマ、カッコいいクルマに、そして浪費できる、周囲をおもしろがらせたり、楽しませることができる大人に憧れてきた。そして自分自身もそういう存在でありたい、そう思っています」

 

まさに“ジェントルマン”ドライバーたるや、なのだ。

 

翌日に行われたレース2では、予選3位、決勝2位でレースを終えた。もしチャンピオンシップを獲得したら、次は何を見せてくれるのだろうか。そのときはこの話の続きを聞きに行きたいと思う。

 

 

REPORT/藤野太一(Taichi FUJINO)