池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第20回:ほんのりと香る“ダーティ”さがパンテーラの魅力!?」

池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側、デ・トマソ・パンテーラと池沢先生1

イタリアとアメリカの血をもつ異端のパンテーラ

 

1970年代後半から日本を席巻したスーパーカーブーム。その火付け役となった名作『サーキットの狼』は、世界各国の名車たちが描かれ熾烈な戦いを繰り広げる物語。その面白さは自動車ファンだけでなく老若男女を魅了し、今もなお高い人気を博し続けている。ここでは作者であり日本屈指のエンスージアストとしても知られる池沢早人師先生と共に、作中に登場した「デ・トマソ・パンテーラ」を振り返ってみたい。

 

ミッドシップされた5.8リッターV型8気筒OHVエンジンは可能な限り車体中央に搭載され、スポーツカーにとって理想的なレイアウトを実現している

 

乗り味はクセが強くて面白いんだけど・・・

 

1975年から週刊少年ジャンプで掲載が始まった『サーキットの狼』には、主人公である“風吹裕矢”が駆るロータス・ヨーロッパ・スペシャルを中心に数々のスーパーカーが登場する。

 

当時の時流としてフェラーリやランボルギーを中心としたイタリアンスーパーカーと、質実剛健な西ドイツのポルシェやBMWが凌ぎを削ることになるんだけど、そこにアメリカ車はほとんど登場しない。

 

その理由は作者であるボクが欧州のクルマが好きだったことが大きいんだけど、当時のアメリカ車はスーパーカーの香りを感じなかったのかもしれないね。今思えばACコブラやシボレー コルベットなども存在していたんだけど、ボクの琴線を刺激しなかった。

 

ウェッジシェイプしたボディデザインは現代の目で見てもスポーティでアグレッシブ。シャシーはスチールモノコックで外板はグラスファイバーを用いている

 

そんな中で、唯一アメリカの匂いがするクルマが、デ・トマソ・パンテーラ。イタリア製のボディにアメリカンV8を組み合わせてはいるものの正式にはイタリア車。でも、そのハイブリッド感がどうしても素直に受け止められなかったのも事実。

 

今でこそ、アウディのエンジンを載せたランボルギーニやトヨタ・スープラの兄弟車になるBMW Z4も生まれているんだけど、当時は少しだけ色眼鏡で見てしまっていた気もする。当時の価格としてもフェラーリやランボルギーニの半額程度で買えたのだから、今から思えばお買い得なクルマだったのかもしれないね。

 

個人的にはパンテーラのスタイルは悪くないと思う。トム・チャーダがデザインしたボディはワイド感があってカッコイイ。シリーズのなかでもよりワイドになったGT4やGT5は迫力があって魅力的だよね。

 

トランスミッションは5速MT。センターコンソールには燃料計や水温計が縦に4個並ぶ特徴的なレイアウトを採用。北米市場を意識してエアコンは標準装備

 

全体的な印象としてフォード製のV8エンジンをミッドシップしている所も悪くはなく、実際に乗るとパワーがあって「暴力的」なフィーリング。だけど排気音が完全にアメリカンそのもので、同じV8でもフェラーリの308や328とは絶対的な違いがある。スーパーカーとしては好き嫌いがはっきりと別れるタイプだと思う。乗り味はクセが強くて面白いんだけどね。

 

作中ではV8エンジンの暴力的な印象もあって、栃木の農家の息子“ぼっちゃん”や崖から岩を落とす“四国の獅子”のような悪役のクルマとして登場させている。パンテーラのファンには申し訳ないけど決して“悪意”はないからね。

 

デュアルタイプを左右に備える4本出しマフラーを採用。エキゾーストノートはV8OHVらしい低音が効いたもので、高回転型で高音を発する当時のスーパーカー達とは一線を画していた

 

でも、不思議なことにデ・トマソ・パンテーラはフジミ模型から“四国の獅子”として商品化されていたし、某コーヒーの“池沢さとしセレクション”としても製品化されて人気のあるキャラクターに育ってくれた。

 

実は“ハマの黒ヒョウ”の横浜に対抗して“北海の龍”や“四国の獅子”という、ご当地キャラとして登場させただけなんだ。でも、いまだにファンが多いのは、やっぱりデ・トマソ・パンテーラというクルマ自体に魅力があるんだと思う。

 

余談だけどボクが今まで乗ったことのあるパンテーラはすべてカスタムされた個体ばかり。パンテーラはモディファイするという楽しみ方もあるんだと思う。

 

ボディサイズは全長4270×全幅1900×全高1100mm、ホイールベース2770mm。オレンジとブラックのツートーンカラーが印象的なエクステリアを演出している

 

De Tomaso Pantera

デ・トマソ・パンテーラ

 

GENROQ Web解説:非凡なコンセプト、凡庸な中身

 

デ・トマソ・パンテーラは1971年から1992年まで生産された息の長いクルマである。イタリア語で豹を意味するパンテーラの生い立ちは1960年代の終わりへと遡る。当時フォードのナンバー2だったイタリア系アメリカ人のリー・アイアコッカがイタリアのデ・トマソを招き入れ、フォードGT40が築いたスポーツカーのイメージを踏襲するためのプロジェクトが開始された。

 

フォードが推し進める計画は、コストダウンを図りながらも高性能なスポーツカーを市販化することで、パンテーラにはフォード製のV型8気筒エンジンを採用。ボディのデザインは当時のデ・トマソ傘下に属するカロッツェリアである「ギア」に在籍していたトム・チャーダが担当し、イタリアンデザインとアメリカンV8が融合することとなった。メインターゲットは欧州ではなく北米に定めたものの、当時のアメリカではデ・トマソの知名度は低く、フォードブランドのチャンネルで販売されたのである。

 

5.8リッターV型8気筒OHVは通称“クリーブランド”と呼ばれ、アメリカンV8を代表する機種。大きく開くエンジンフード内のミッドに搭載される

 

量産を目指したパンテーラは基本骨格にセミモノコックボディを使用するというスーパースポーツとしては稀な存在だ。サスペンションには前後ダブルウィッシュボーンが与えられ、パワーユニットにはフォードのクリーブランド工場で生産された315CDIと呼ばれる5.8リッターV型8気筒OHVエンジンを搭載。その最高出力は300ps/6000rpm、最高速度は260km/hで特に傑出したスペックではなかった。

 

20年以上に渡って生産された長寿モデルだが、初期モデルの1971年から1972年中盤までを「パンテーラ」、それ以降のモデルにはイタリア語で豪華を意味する「Lusso」の頭文字が与えられた「パンテーラL」、1973年にはハイパフォーマンス仕様として「パンテーラGTS」が登場する。印象的なツートーンカラーもGTSの特徴で、撮影車両はそのパンテーラGTS。

 

ちなみに、このGTSには北米仕様と欧州仕様が用意され、欧州仕様はエンジンの圧縮比をアップすることで最高出力は350psへと引き上げている(北米仕様は最高出力330ps )。それに伴い公称最高速度は290km/h(同280km/h)を計上し、ヨーロッパを代表するスーパーカー達と肩を並べることとなった。

 

ブラックで統一された2シーターが備わるインテリアはスポーツカーとしては標準的。ゲートが切られたシフトはフェラーリを意識したものか?

 

また、当時のグループ4レースにエントリーするために必要とされた400台のホモロゲーションをクリアするためのモデルとして「パンテーラGT4」をリリース。レーシングライクなスタイルを持ち、チューニングが施されたV8エンジンは500psを超える最高出力を発揮した。

 

1980年代にはGT4のロードゴーイング仕様として大型のリヤウイングを持つ「パンテーラGT5」が登場。GT5は一般公道での利便性を考慮してエンジンにデチューンが施され、最高出力は330psに抑えられていた。1984年にはGT5のマイナーチェンジモデルとして「パンテーラGT5S」を投入し、トム・チャーダが手掛けたパンテーラの最後を飾った。

 

そして1991年にはフルモデルチェンジを実施。ガンディーニがデザインを手掛けた最終形態となる「パンテーラSI」へと進化を遂げるものの、その翌年1992年にデ・トマソ・パンテーラは長い生涯に幕を下ろした。

 

ホーリーのキャブレターが存在感を放つ。エンジンそのものはスポーツカーとしてはやや搭載位置が高めだが、扱いやすさを重視する北米市場にあわせた結果だ

 

余談になるが、2017年の末、デ・トマソ・パンテーラがランボルギーニ・ウラカンをベースに復活するとの情報が世界を駆け抜けた。同モデルはイタリアのカスタムメーカーである「アレスデザイン」が製作を手掛け、名前を「パンサー」と改めてプロトタイプを公開。21台の生産が予定され、その価格は1億円とも噂されている。

 

そして2019年のグッドウッド・フェスティバル・スピードでは、本家デ・トマソが創業60周年に合わせて新型モデル「P72」を発表している。かように時代を経てもなお、デ・トマソ・パンテーラの人気は引き継がれ、その血脈は現代に蘇っている。

 

 

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

 

 

【関連リンク】

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・サーキットの狼ミュージアム

http://www.ookami-museum.com