小さな本格派「スズキ ジムニー シエラ」を試す【ラダーフレーム特集(動画レポート)】
公開日 : 2019/11/01 17:55 最終更新日 : 2019/11/08 18:19
SUZUKI JIMNY SIERRA
スズキ ジムニー シエラ
小が大を兼ねる?
大は小を兼ねるというコトワザがあるが、クルマの世界ではそうともいえないだろう。大型車にも小型車にも、それぞれできることとできないことがあるものだ。特に一芸に秀でたモデルの場合、豪華さや価格、ブランドステータスといったありきたりなヒエラルキーに縛られることもない。
例えばスズキ ジムニーに乗っていて、メルセデス・ベンツGクラスと出くわしても、多くのジムニーオーナーにとっては「So What?」みたいなものだろう。ジムニーはタフな道具であり、相対的なものではなく絶対的で、泥で汚れていてもへっちゃら、コンディションが厳しくなるほど光を放つ。つまりカシオGショックのようなそれは、GENROQ WebよりGO OUT WEBの方がふさわしいシロモノなのである。その他多くの時計にできることはGショックにもできてしまうから、ことジムニーに至っては小は大を兼ねるわけだ。
今回実際にメルセデスGクラス、ジープ・ラングラー・アンリミテッドという、いずれ劣らぬラダーフレーム有り本格オフローダー3台が揃った中で、個人的に最も乗ってみたい1台がジムニーだった。正確に言うならばスズキ ジムニー シエラ。軽自動車規格のジムニーをベースとして、太いタイヤを履かせ、660ccターボの3気筒エンジンを1.5リッター直4自然吸気に載せ替え、さらにはボディ全周に渡って大型バンパーやらオーバーフェンダーで武装した普通車規格のジムニーである。
カタチは確信犯か
ジムニーの世界に限った話ではないが、この手の小型車の世界では軽自動車と普通車の車両価格にそれほどの違いはない。違うのはもっぱら維持費の方なのである。ジムニーとジムニー シエラの場合も、グレードによっては価格がかぶることがあり、そして何より最も高いグレードであるジムニーシエラJCのATモデルでも205万7000円(消費税10%込み)という“お手頃”価格がいい。
一緒に撮影した3台の中で、もしオフロードコースでスッテンコロリンしてしまっても「ごめんなさい、僕これ買います(月賦で)」といってちゃんと責任を取れるのはジムニー シエラだけ、という精神的な部分においても親近感が湧く。
その昔、東ドイツの看板車だったトラバントのボディは紙でできていたというが、ジムニー シエラのボディも似たようなもの。と言い切る度胸はないけれど、まあGクラスに比べればそのようなものかもしれない。Gから降りて、ジムニー シエラのドアを開けた時の心許ない“板感”にはちょっとしたカルチャーショックすら受ける。バーベキュー用の鉄板のように分厚くて硬いGに対し、国産のそれは組み立て式物置小屋の壁の如し。
そういえばまっ平ら基調のスタイリングもGクラスにずいぶんと似ている。これはスズキのユーモアだろうか? それともF1に代表されるレーシングカーがそうであるように、機能性を追求していくと似てしまうものなのだろうか。
巷ではこれを逆手に新型ジムニーを洋モノに似せるための様々なモディファイがプロ・アマを問わず横行しているらしい。そりゃ誰だって思いつくし、手先が器用ならやりたくなってしまうだろう。これはおそらく、確信犯なのではないだろうか?
少し眠いが、断然オトナ
軽いドアに代表されるように、ジムニー シエラは目に触れるところ全てがシンプル、質素、簡潔といえる。室内寸法は軽規格のジムニーと一緒なので、左腕を真横に延ばせば助手席側のサイドウインドウまで手が届いてしまう。スイッチ類は最小限で、ほぼセンターコンソール付近にまとめられており、シフトレバーの後ろには本格オフローダーの証である副変速機のレバーがある。
副変速機は奥から、2H、4H、PRESS、4Lとある。ハイギヤード(標準ギヤ)の2駆と4駆、そしてレバーを上から押し込んで4駆の低速モードが選べる。今回ジムニーシエラは初試乗だったので、標準ギヤでオンロード、4Lでオフロードを堪能することにした。
トレッドの狭い軽規格のジムニー(前1265/後1275mm)と比べたわけではないので断定はできないが、オンロードにおけるジムニー シエラはどっしりと座りがよく、頼もしい走りを披露してくれた。ラダーフレーム+前後リジッドのオフローダーは、フロアや足まわりの剛性こそ高いが筋肉付き過ぎ男のダンスのようにギクシャクしてしまうことが多いものだが、ジムニー シエラのそれは、いい意味で常識的、乗用車的な走りができる。
アイポイントは当然高いし、ロールもするのだけれど、挙動は安心感たっぷり。いわゆるシャシーファスターなのだが、そのおかげでエンジンにちょっとだけパンチが欲しいとも思ってしまう。シエラの1.5リッターは102ps、軽ジムニーは62psで、最高出力の発生回転数はともに6000rpmなのだが、オートマのDモードで操る限り6000rpmなんて簡単に届くはずもなく、普通に走らせたときのシエラはちょっと眠いヤツと言わざるを得ない。
先代の軽ジムニーの感触と比べても、実際にもっさりしている。コレを週末のオモチャとして考えるのであれば、見た目と走りをモディファイしたり、ターボをいじって容易にパワーアップできる(であろう)軽の方がお薦めだ。だが毎日のアシとして片道30km、通勤のアシにしますというなら、シエラの方が断然オトナな選択肢と言えるだろう。
王様の前にひれ伏す
オフロードコースに向かう下り坂を降りはじめると、“ジワッ”とエンジンブレーキがかかり、ステアリングホイール越しに踏んだ小石の大きさが感じられるようになり、世界観がガラリと変わる。こちらもついつい楽しくなってしまい、オフロードコースのタスクをホイホイとこなしてしまったのだが、しばらくして副変速機の操作を忘れていたことに気づいた。「この程度のコースじゃ、4Lギヤなんて使わなくても大丈夫っすよ」とジムニー シエラに笑われた気がした。
大きな石と泥が混在した斜面では、先の大物2台の時には走行ラインを間違えると軽く横滑りしてしまうようなこともあり、一旦下がってデフを締結させてから上り直したりしたのだが、ジムニーはそこを4Hのままズシズシと上がりきってしまった。今回が勝負だとしたら「ジムニー シエラ、あんたの勝ち」である。
そしてこういう時にエンジンパワーがジワジワと定常的に上がっていく自然吸気がモノを言うこともよく分かった。そして、もっと険しいコース走りたい! と本気で思ってしまった。オフロードマニアはこうやって泥沼の奥深くにはまっていくのだろうか。これはもう、オフロード王の前にひれ伏すしかないのだと悟らされた。
スズキのウェブサイトによると、新型ジムニーのラダーフレームは中央にX字のメンバー、前後にクロスメンバーが追加されたことで、捩じり剛性が1.5倍もアップしたらしい。それが何にどう効いているのか、今回の生ぬるい試乗では正直わからなかった。けれどジムニー シエラの完成降度が高いことは嫌というほど思い知らされたし、いざ機能的な部分をいじりたい! となった場合、度を越したパーツでもなんでも受け入れてくれる強固なラダーフレームがないと何もはじまらないということはよくわかった。
AMGのGクラスに乗っているような人が「それって消費税ですか?」みたいな車両価格に惹かれ、ジムニーに遊び半分にちょっかい出したりすると、本妻たるAMGと離婚するはめになるかも。ジムニー、ハンパない。なめたらホント、火傷する。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
※動画撮影時は増税前のため、消費税8%の計算で車両価格について話しています
【SPECIFICATIONS】
スズキ ジムニー シエラ
ボディサイズ:全長3550 全幅1645 全高1730mm
ホイールベース:2250mm
トレッド:前1395 後1405mm
最低地上高:210mm
車両重量:1090kg
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量:1460cc
ボア×ストローク:74.0×84.9mm
最高出力:75kW(102ps)/6000rpm
最大トルク:130Nm/4000rpm
トランスミッション:4速AT
駆動方式:4WD
ステアリング形式:ボール・ナット式
サスペンション形式:前後3リンクリジッドアクスル式コイルスプリング
ブレーキ:前ディスク 後リーディング・トレーリング
タイヤサイズ:前後195/80R15
車両本体価格:205万7000円(税込)
【問い合わせ】
スズキお客様相談室
TEL 0120-402-253
【関連リンク】
・スズキ公式サイト
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