ベントレーがEXP 100 GTで提示する「未来のラグジュアリーに本当に必要なもの」とは

ベントレーEXP 100 GTのサイドビュー

Bentley EXP 100 GT

ベントレー EXP 100 GT

 

 

「アジリティ」や「パワー」よりも

 

創業100周年を迎えた2019年、ベントレーはコンセプトカー「EXP 100 GT」を発表した。コンセプトカーは未来技術のショーケースであり、デザインの方向性を見せるフューチャーカーであり、そのメーカーがいま何を見据えているかを指し示す羅針盤でもある。EXP 100 GTの報道向け資料で最も頻出する単語は、agilityでもpowerfulでもなく、「SUSTAINABLE(持続可能な)」だ。

 

ベントレーEXP 100 GTのフロントイメージ

「2035年のグランドツアラー」としてベントレーが提案するコンセプトカー、EXP 100 GT。航続距離700kmのEVで、完全自動運転を想定している

 

EXP 100 GTは「2035年のグランドツアラー」として誕生。純粋に電気のみで走るEVであり、完全自動運転を目したコンセプトカーである。乗員に新時代のグランドツーリング体験をもたらすクルマとして、感情を検知するAIを搭載したり、0-100km/h加速2.5秒という脅威的なフォーマンスを標榜している。

 

一方でサステナビリティを高めるべく、世界中のエキスパートと手を組んだ。イギリス東部に位置する海沿いの平地フェンランドで5000年前から深い泥炭の中で眠っていた古代のオークの供給を専門家から受けたり、ワインの製造過程から生まれる100%オーガニックのレザー調テキスタイル、イギリスの牧場から生まれるウール製カーペットの採用など、リサイクルや“ロカボア”による輸送に関わる排出ガス削減などを徹底して追求。「コンパス」と呼ぶ外板色の塗料でさえ、もみ殻をリサイクルした原料を使用している。

 

ベントレーEXP 100 GTの俯瞰目イメージ

サステナブルな素材使いを重視する一方で、もちろんパフォーマンスにもこだわるのがベントレー流。4基のモーターを搭載し、最大トルクは1500Nm、0-100km/h加速は2.5秒以下を標榜する

 

その道のエキスパートを厳選してコラボレーション

 

しかし、これまで自動車に用いたことのない再生材を利用したとしても、ベントレーの誇るクラフトマンシップや品質基準に合致していなければならない。そのため、ベントレーはコラボレートするパートナー選びに細心の注意を払い、厳選した。伝統を守りながら、かつ革新的なサステナビリティの最前線を目指すために。

 

タッグを組んだ企業のなかでも、ゲインズバラはとくにユニークだろう。内装向け生地を1903年から生産してきた世界有数の企業であり、丹念かつ一切の妥協なくデザインし、染上げ、織り上げた生地を身上としている。19世紀より絹織物を産業としてきたサフォーク州サドベリーに拠点を置く同社は、エリザベス2世陛下御用達“ロイヤル ワラント”の栄誉に授かっている。

 

ゲインズバラの作るダマスク織地はサステナブルかつ再生可能で、生分解性(物質が微生物によって分解される性質)に優れる。ベントレーと共同で作り上げた美しいダマスク織は、染色過程でも化学物質を使わないように努めたという。

 

ベントレーEXP 100 GTの内装イメージ。バックレストとプレート

Vegea(ヴェジア)社はワインの製造過程で大量に生じるブドウの残り滓を再活用し、上質な人工レザーを作り出すことに成功した。ファッション界も注目している

 

ブドウの残り滓から生まれる合皮

 

また、ロンドンの刺繍の老舗メゾン、ハンド&ロックともコラボレーションしている。250年以上の歴史と経験を誇る名門で、英王室をはじめヨーロッパ屈指の服飾ブランド、イギリス軍、サヴィル・ロウのテーラーなどに作品を提供してきた。同社は自身のもつ刺繍のノウハウを機密にすることなく、次世代の同業者にその技を伝えようとしている。

 

ヴェジアは未来の“ラグジュアリーなエコ素材”で注目される気鋭のイタリアメーカー。ワイン製造時に生じるブドウの皮や種、茎といった絞りかすを用いた完全植物由来の原料を用いて人工皮革を作りだす。

 

伝統的なウィルトン織で仕立てる贅沢なフロアマットは、グローヴナー・ウィルトンが手がける。イングランド最古のカーペットメーカーのひとつで、バーミンガム近郊のキダーミンスターで1790年に創業した。EXP 100 GTに使用される糸はすべて英国製のウールであり、英国内で紡がれ、ヨークシャーで染色され、ウースターシャーで編み上げられている。

 

ベントレーEXP 100 GTの内装イメージ。ガラスルーフとシート

「コンパス」と呼ぶ秋を思わせるすっきりとしたボディカラーの顔料にはもみ殻の灰を再利用。大量に生じる上に土壌で分解しづらいもみ殻の活用法として提案された

 

もみ殻の廃棄問題にひとつの解決策

 

カンブリア・クリスタルは、成形からカットに至るまでを手作業で行い最上級のガラス製品を生み出す最後のメーカーのひとつと言われる。伝統的な手法のみを用い、たった22名の熟練職人がローマ時代からほとんど変わらずに継承されてきた技術で作り上げる。環境保護と倫理に最大限の配慮を払いながら、必要部材や資材などは英国および欧州のパートナーとだけ取引を行うという。英国大使館や英王室ファミリーに選ばれてきたのはもちろん、その繊細なガラス作品はEXP 100 GTの中にも息づいている。

 

外板色にはなんと穀物産業からの副産物を活用。コールドストリームで生まれる顔料にはもみ殻を使用している。脱稃工程で出来る大量のもみ殻は土壌で分解しづらい性質をもつため、その残渣を有効活用することは環境問題の一助となる。

 

ベントレーEXP 100 GTの内装イメージ。クリスタルパーツ

熟練職人の手によるガラスや刺繍などの伝統技術を後世へ継承することも、自動車産業が未来への架け橋としてできる役割のひとつ。EXP 100 GTの車内には英国のクラフトマンシップが生き生きと存在感を主張している

 

5000年眠っていたオークの木が目を覚ます

 

いまからおよそ5000年前、イギリス東部、イースト・アングリア地方フェンランドと呼ばれる平地には古代の森が存在したという。悠久の時を経て海抜が徐々に上昇し、森に生えていたオークの木々は泥炭の中に埋もれて保護されるように眠り続けてきた。

 

2012年まで誰の目にも触れないままだったこの“黒い宝”は、13メートルもの巨大な幹を発見した専門家により見出された。切り出され、乾燥されたウッドは独特の肌あいや節、表情をもち、ラグジュアリーなグランドツアラーに相応しい品格をもたらしている。日本の伝統技術である金継ぎに着想を得て、オークと再利用した銅素材を溶け込ませることで、これまでは欠点ゆえに廃棄されてきた素材を、見事に高級車の一部分として蘇らせることに成功している。

 

ラグジュアリーは変わろうとしている。バーバリーは在庫の廃棄処分を取りやめ、ショパールはジュエリーや時計に使うゴールドをすべてトレーサブルなエシカルゴールドに限定し、LVMHは各ブランドの環境パフォーマンスの改善のためにサステナビリティ戦略「LIFE2020」を策定した。ベントレーは、自動車業界のラグジュアリーブランドが出来るひとつの実例を、EXP 100 GTで提示してみせたのだ。