英国人ジャーナリストがドライブした夢のレーシングカー「ポルシェ 917/30」

公開日 : 2019/11/25 11:55 最終更新日 : 2019/11/25 11:55


ポルシェ917/30の走行シーン1

Porsche 917/30

ポルシェ 917/30

 

 

アンドリュー・フランケルに与えられた人生最高の10分間

 

2019年4月、英国『AUTOCAR』誌などで活躍するモータージャーナリストのアンドリュー・フランケル(Andrew Frankel)は、伝説的なレーシングカー「ポルシェ917/30」をドライブするという人生最高の10分間を経験。以下は、フランケル自身がその天国のような10分間を振り返ったレポートである。

 

英国人モータージャーナリストのアンドリュー・フランケルは、彼にとって夢のレーシングカー、ポルシェ917/30をドライブするチャンスを得た

 

1969年にサーキットへと送り込まれた917シリーズ

 

このクルマが50年も前のものだと信じられるだろうか? レーシングカーの進化の歩みは遅く、現在の車両が当時から大きく形に変化がなかったとしても、50年以上も前にポルシェ917がレースを戦っていたという事実は驚き以外の何物でもない。ポルシェが初めて917をサーキットに送り出したのは1969年なのである。

 

917はF1マシンと変わらないスピードを発揮し、24時間レース参戦を想定してデザインされた。このレーシングカーをドライブした誰もが崇拝し、恐れを抱いた。そして、ライバルたちはこの先進的なレーシングカーを羨望の眼差しで追いかけ続けたのである。

 

1971年のル・マン24時間レースにおいて、917LHをドライブしたジャッキー・オリバーは平均速度250km/hでラップし、ミュルザンヌの直線では最高速度386km/hを記録。この速度記録は1988年まで破られていない。

 

ポルシェが所蔵するオリジナルの917/30は、1973年にCan-AMで優勝した個体。貴重な個体にも関わらず今回の試乗ではエンジン回転数の制限なども一切なかった

 

1973年のCan-Amで圧倒的な強さを見せた917/30

 

その後、ポルシェはカナディアン-アメリカン・チャレンジカップ(Can-Am)に917を送り込むことを決める。今回の主役である「917/30」は1973年シーズンに投入。最高出力1100hpを発揮するターボチャージャー付きの5.4リッター水平対向12気筒エンジンを搭載する。

 

ポルシェはシーズン序盤2戦は、1972年用のマシンである前身の「917/10」で戦い2連勝。続いて送り込まれた「917/30」も残りの6戦を制している。その結果、あまりの強さにアメリカのレース界はポルシェにレギュレーションの変更を突き付けた。つまり勝ち続ける917をサーキットから排除したのである。

 

1973年に活躍した917/30のコクピット。現代の目から見ればシンプル極まりないが、5.4リッター水平対向12気筒ターボが生み出す1100hpはここで制御された

 

ポルシェが所有する917/30をグッドウッドでテストドライブ

 

Can-Amに投入された917/30は、1973年にマーク・ドナヒューとブライアン・レッドマンがステアリングを握った2台のみ。1台はアメリカの個人コレクターが長年所有しており、もう1台はポルシェが外部に手放すことなく手元に置き続けている。そのポルシェ所有の1台こそ、1973年にCan-Amで初勝利を挙げた917/30だ。

 

この917/30はレース史に燦然と輝く最高のレーシングカー「917」のもっとも強力なバージョンである。

 

未だに信じられないことだが、今年の4月、ポルシェから「承諾」の返事が届いた。グッドウッド・メンバーズ・ミーティング(Goodwood Members Meeting)において、10分間だけドライブが許されたのである。この10分間という夢の時間を叶えるために、私は一生をかけてきたのだと実感した。

 

アンドリュー・フランケルが917/30のステアリングを握る機会を得たのは、2019年4月に開催されたグッドウッド・メンバーズ・ミーティングでのこと。その時間は10分間ではあるものの、夢が叶った瞬間だった

 

禁止事項も回転制限もなく、ただ「楽しむ」こと

 

もっとも驚くべきことは、このテストドライブを実現してくれた人々の存在である。禁止事項も、エンジン回転数制限も一切なかった。ただ「楽しんで」と。そして私の目の前にあるのは、たった800kgの車重に1100hpを発揮するモンスターマシンだ。

 

最初、ドライブは簡単に思えた。クラッチは重いがシャープではなく、4速ギヤボックスはスローだが扱いやすい。ボディは見た目よりも小さく感じられ、ステアリングの入力に対してマシンは完全に忠実に反応してくれる。まるで私を落ち着かせようとしているかのようだった。これならば問題なくドライブできそうだ。

 

だが、走り始めると状況は一変する。スロットルを踏み込むと無限のパワーが背中で湧き上がる。もっともこの莫大なパワーは、決してコントロールが難しいわけではない。このどう猛な怪物をどう制御すべきか。少しずつ私のなかに自信が生まれてきた。装着されているエイボン製レーシングタイヤのグリップも素晴らしく、マシンバランスはニュートラル。すると、もっとパワーが欲しいと思えてくる。そう、もう少し踏むしかない。

 

モンスターマシンと呼ぶに相応しいパフォーマンスを持ちながらもニュートラルなドライブフィールを体感したというフランケル。最後にはスピンを喫してしまったが・・・

 

生涯の夢を軽く超える性能を突きつけてきたモンスター

 

どう猛な怪物が牙を剝く・・・。

 

最初に浮かんだのは、917が持つ規格外でむき出しのパワーに対する恐怖だった。凄まじい轟音を響かせる12気筒エンジンに一瞬気を取られるが、ストレートで増す加速感に圧倒され音など聞こえなくなる。だが、スピードを増せば増すほどこのモンスターは扱いが容易になった。恐怖が取り除かれていくのだ。

 

最終ラップ、ピットストレートにおいて私は3速で160km/hを超えていた。さらにペダルを踏み込んだ瞬間、リヤのエイボン・タイヤが音を上げた。917/30は激しいスピンを喫したが、その状況ですら私の選んだラインから1インチもずれていなかった。

 

これがすべてである。まさに夢が叶った。私は最高に速く、もっとも偉大なレーシングカーを無事にドライブすることができた。そしてポルシェ917/30は私の一生の夢を叶えてくれただけでなく、あらゆる瞬間でその夢を軽く超えてしまったのだ。