ポルシェ911のデザインDNAを、チーフデザイナーのミヒャエル・マウアーが語る

2019/11/04 11:55

911シリーズ8世代に受け継がれるDNA、911の集合写真

独自の“履歴書”を8世代にわたり引き継いできた911

 

8世代、56年にわたって脈々と続いてきたポルシェ911シリーズ。1963年にデビューした初代911と最新の911は別物と言えるほど違う。

 

しかし、形は違えどすべての911が同じDNAを共有している。DNAを受け継ぎながら、時代に合わせて変化・発展してきた911。異なるジェネレーションの911を比較することで、過去60年間で自動車がどのように変化したか、様々な時代背景をも見ることができる。

 

911はそれぞれのタイミングにおいて、わずかなニュアンスの違いや革命的とも言える変化を遂げてきた。今回スタイル・ポルシェのチーフデザイナーを務めるミヒャエル・マウアーが、その専門知識で各世代を分析。彼は1962年、911誕生の1年前に生まれている。

 

「8世代にわたる911すべてが一堂に会するのは壮観ですね。これまで経験したことのない高揚感を得ました。これは私がいつも言っていることですが、911は受け継がれてきた『履歴書』を持つ、おそらく唯一の自動車です。面白い歴史を持った車種を私も2〜3は知っています。でも、これほど完璧な歴史を持つ存在はないでしょう」

 

スタイル・ポルシェのチーフデザイナーを務めるミヒャエル・マウアー。8世代のポルシェ911を前に、そのデザインDNAを語る

 

911が911であることを約束するリヤ搭載のボクサー

 

911の歴史は、1963年のフランクフルト・モーターショー(IAA)でポルシェが公開したリヤエンジンリヤドライブのスポーツカーに始まる。当初、ポルシェは356の後継車種を「901」として発表。1964年に市場へと投入された段階でもまだ901を名乗っていた。しかし、プジョーが「901」という名称を商標登録していたことから「911」に変更されることになった。

 

重要なことは初代911(厳密に言えば356でも)の段階で、シリーズの形状を決定づける技術的なレイアウトである「リヤに搭載されたボクサーエンジン」を持っていたことだろう。

 

「水平対向エンジンをリヤに搭載するというレイアウトはかなり特徴的です。911の形状はこのレイアウトに密接に関連しています。それこそ根本的に、このレイアウトを変更することになるとすれば、それはもう911ではないのです」と、マウアー。

 

だからこそ、リヤに搭載されたボクサーエンジンは911のDNAで最も大切な要素となる。最初の世代である1970年製Cシリーズ「911 S タルガ」に搭載された2.2リッター水平対向6気筒エンジンの最高出力はわずか180ps。それが2019年にデビューしたタイプ992の「911 カレラ4S」に搭載されている3.0リッター水平対向ボクサーターボでは、450psと2倍以上の出力を誇っているのだ。

 

ポルシェ911のDNAは56年前にリリースされた初代911「901」に遡る。その最大の特徴はリヤエンジン・リヤ駆動のレイアウトにあるという

 

Porsche 911 C Series

ポルシェ 911 C シリーズ

 

初代モデルの段階で決定づけられた911のデザイン

 

911の現在まで続くそのフォルムを決定づけたのは、やはり初代911だ。マウアーは前後フェンダーの形状が911の個性を表していると説明する。

 

「911のデザインの特徴は、機能から導き出された形状にあります。それはフロントフェンダーよりも低く構えたボンネットからも分かるでしょう。今回、持ち込まれたCシリーズが“タルガ”ということを無視すれば、初代とGシリーズとの類似点はサイドセクションとリヤセクション。特にサイドから見ると独自の傾斜したルーフと、その結果によって決まったサイドウインドウの形状です」

 

「リヤセクションにも“フライライン”と呼ばれるリヤに流れる独特のルーフ形状を備えています。クルマをリヤから見ると、キャビンがいかにカリスマ的に絞り込まれているか、そしてリヤフェンダーがワイドに広がっているか、気づくはずです。これらのフォルムは世代を超えて幾度となく変化していますが、基本的な特徴はすべてのモデルに見られます」

 

993はポルシェ最後の空冷ボクサー搭載モデルとしての側面が強いが、911シリーズ以外のポルシェモデルとデザインの統一性を果たしたという面でも評価される

 

Porsche 911(993)

ポルシェ 911(993)

 

ファミリーとしてのデザイン共通性を持たせた993

 

空冷ボクサーを搭載する最後の911となったタイプ993は、デザイナーのハーム・ラガーイによってより現代性を持たされることになった。彼に与えられたミッションは、928や968の“ファミリー”だと周知させるようなフォルムに911を変更させることだった。

 

「確かにタイプ964とタイプ993には、共通のボディパーツはほとんどありません。実際、この2台はかなり異なって見えるでしょう。当時、我々デザイナーはすべてのモデルに共通のデザインアイデンティティを与えることに注力していました」とラガーイは振り返っている。

 

より洗練された水冷エンジンを搭載する新世代のタイプ996へと引き継ぐために、タイプ993は非常に重要なモデルと言えるだろう。ドアを除いてほとんどの外装パーツが新設計されただけでなく、多くのコンポーネントがタイプ964から大きな進化を遂げていたのである。

 

ラガーイからチーフデザイナーの座を引き継いだマウアーは、911のデザインを手がけることがいかに難しいか説明してくれた。

 

「新しい911をデザインすることはいつだって特別な挑戦です。我々デザイナーに与えられるミッションは、911のデザインをさらに発展させながら911であることを常に明確に可視化しなければならないのですから」

 

911シリーズの不文律と思われていた空冷ユニットを水冷へとスイッチし、911シリーズ最大の変革を行ったタイプ996。今後、ヒストリックカーファンからの注目が高まるとマウアーは予測する

 

Porsche 911(996)

ポルシェ 911(996)

 

ポルシェにとってエポックな分岐点となったタイプ996

 

水冷ボクサーへの変更というドラスティックな変貌を遂げたタイプ996は1997年にデビューした。この時期、ポルシェは自動車メーカーとしても大きな変化を経験している。小規模スポーツカーメーカーから、収益性の高い高級ブランドへと生まれ変わったのである。

 

空冷と水冷のどちらが優れているか、その比較はあまり意味がない。ひとつ明らかなのは、現代ポルシェのスタート地点はタイプ996にあったということである。マウアーもタイプ996がポルシェにとって、いかにエポックなモデルだったかを強調した。

 

「タイプ996は様々な点においてポルシェにとって非常に重要なモデルです。そして911の歴史においても空冷から水冷エンジンへの変更は、ひとつの大きな区切りとなりました。私はこの先、タイプ996は多くのヒストリックカーファンを引きつける存在になると思っています。実際、もうすでに多くのタイプ996マニアがいますよね」

 

現行モデルとなるタイプ992は2019年にデビュー。ミヒャエル・マウアーは新型911のデザインについて「911だと分かりながら新しくする」という困難さを語る

 

Porsche 911(992)

ポルシェ 911(992)

 

930のデザインスピリットを受け継いだタイプ992

 

タイプ996の涙滴型ヘッドライトをクラシカルな丸型ヘッドライトへと変更したタイプ997は、2004年に登場。2011年にはマウアーが初めて手がけた911となる、タイプ991がデビューした。

 

「誰もが一目で911だと理解しながら、同時に“新しい911”であることも分からせなければならなかったのです」と、911をデザインすることの難しさをマウアーは改めて語る。

 

歴代911が持つ継続性によって、ニューモデル登場後も旧型がすぐには陳腐化しないという特徴を持っている。そして、それは2019年にデビューしたタイプ992でも変わらない。過去の歴代モデルを連想させるフォルムを持ちながら、確かな現代性も持ち合わせている。

 

後方から眺めたときに、キャビンが絞り込まれリヤフェンダーが大きく張り出す形状を歴代の911に見て取れる。この部分も受け継がれてきた911のフィロソフィだ

 

「タイプ992では、クルマをさらにコンパクトに見せたいという意図があります。どの世代の911が最も効果的なデザインを持っていたのか、我々は歴史を紐解きました。それこそが初のターボモデル『930』だったのです」

 

930のデザイン精神が、タイプ992に注ぎ込まれているとマウアーが明かしたことから分かるように、彼はすべての世代の911に芸術品のようなリスペクトを持って接している。その理由は言うまでもない。ここに並べられた911が、すべて同じDNAを受け継いできたからである。