アンディ・ウォレス、ル・マン24時間ウィナーからブガッティのテストドライバーへと華麗なる転身

ブガッティのテストドライバー、アンディ・ウォレス1

シロンで世界速度記録達成ドライバーとなったウォレス

 

トレードマークはミラーサングラスと笑顔。アンディ・ウォレスは、たとえ早朝の仕事でもいつだって笑顔を絶やさないドライバーだ。

 

2011年以来、ウォレスはブガッティのテスト&デモンストレーションドライバーとして、市販モデルだけでなく開発中のプロトタイプのステアリングも握っている。英国出身のウォレスは最近、世界最高速度記録を達成したシロンのドライバーを務め、市販モデルで300mphを超えた初の人類となった。

 

市販車では初めての300mph超、490.484km/hという速度記録を樹立したシロン スーパースポーツ300+。最高出力1600hpを発揮するW型16気筒クアッドターボを搭載する

 

Bugatti Chiron Super Sport 300+

ブガッティ シロン スーパースポーツ 300+

 

ブガッティのあらゆるスーパー&ハイパースポーツをテスト

 

シロンに乗り込むと、ウォレスはまずシートとステアリングホイールを調整し、次にスタートボタンを押す。シロンを始動させるには約5分の暖気が必要だ。タイヤは摂氏25度に達すると最適なトラクションを発揮してくれる。

 

「それが路面にすべてのグリップを伝え、1600Nmものトルクを路面に伝える唯一の方法です」と、ウォレスは笑顔を見せる。

 

2011年にブガッティのテストドライバーに就任したウォレスは、ヴェイロンやシロン、ディーヴォを含む30もの異なる仕様のスーパー&ハイパースポーツで10万km以上を走破してきた。彼はモルスハイム製ハイパースポーツの性能、ドライブ方法、そしてニュアンスすべてを理解している。

 

「シェイクダウンではクルマが絶対に安全であることを確認し、そしてカスタマーが最初のドライブから快適に感じるように調整するのです」

 

1988年のル・マン時間レースを制したアンディ・ウォレス。デイトナ24時間レースでは3回、セブリング12時間レースでも2回の優勝を飾っている

 

ル・マンやデイトナなど耐久レースで数多くの勝利を記録

 

58歳のウォレスは、徹頭徹尾プロフェッショナルなドライバーだ。

 

彼はレーシングドライバーとして30年のキャリアを持ち、ル・マン24時間とデイトナ24時間にはそれぞれ21回も出場。ル・マンで1回、デイトナでは3回の勝利を手にしている。また、セブリング12時間には19回参戦し2回の優勝を記録した。耐久レースで抜群の強さを発揮したウォレスは、2006年からレーシングドライバーの育成も行っている。

 

ル・マンではジャガーやトムスのワークスドライバーとして活躍し、アメリカン・ル・マン・シリーズではアウディのワークスカーもドライブ。そして、キャリアにピリオドを打とうとしていた2011年に、公式テストドライバーを探していたブガッティがウォレスに接触する。

 

「私自身のレースのキャリアにピリオドを打った時、パワフルなクルマをドライブするのはこれが最後だと思っていました。すると、ブガッティから『ノー』とは言えないオファーが届いたのです」

 

2006年のル・マン24時間レースではMG-ローラでLMP2クラスに参戦してクラス優勝を果たし、総合でも8位という好成績を挙げている

 

ドライブの喜びに囲まれたモルスハイムでの日々

 

クルマの運転が天職と考えているウォレスにとって、定期的にブガッティをテストドライブすることは、彼に与えられた特権だと感じている。

 

「私は5歳の頃からクルマに夢中になりました。8歳の時に初めてレースを見て、すぐにレーシングドライバーになろうと決めたのです。レースには33年間、参戦してきました。そして今は素晴らしいハイパースポーツをドライブするチャンスを与えられています。レーシングドライバーですからスピードと横Gは大好物です。ブガッティ製ハイパースポーツには、そのふたつが完璧な状態で組み込まれています」

 

ハイパースポーツのドライブだけではない。モルスハイムの美しいファクトリーと最高のチームとともに働く現場もある。ブガッティでの日々は彼にとって最高の喜びなのだ。そして仲間とともに達成した世界記録チャレンジは驚きの連続だったという。

 

「シロンの加速は他のクルマとは段違いです。0-100km/h加速は2.4秒、200km/hには6.1秒、300km/hにはわずか13.1秒で達します。記録更新の時も途中でパワーが不足することは一切ありませんでした。正直、これには驚きましたよ」

 

490.484km/hの速度記録を達成したのは2019年8月2日。ドイツ北部にあるフォルクスワーゲンのテストコース“エーラ・レッシェン”の8.8kmに及ぶストレートで記録した

 

アルザスやポール・リカールをブガッティでテストドライブ

 

ウォレスはカスタマーのためにテストドライブをアレンジし、デモンストレーションランを行っている。通常、彼はアルザスを通る美しいルートを案内。最高速度400km/hを超えるパフォーマンスを実証する必要がある場合は、フランスのポール・リカールなどのレーストラックを貸し切るという。サーキットであれば、カスタマーは実際に400km/h近いスピードを自らのドライブで体験できるのだ。

 

「最近、私たちは490.484km/hという速度記録を樹立し、300mphを超えた初の自動車メーカーになりました。でも、ブガッティの魅力は最高速のみではありません。シロンはスピードだけのクルマではなく、快適で豪華なハイパースポーツカーなのです」

 

ブガッティのカスタマーの多くは他のブランドのスーパースポーツカーも所有している。だからこそ、ブガッティがスピードやパワーだけではないことに気づくのだという。

 

「乗りこむとすぐに、カスタマーの多くはブガッティが完璧な高級車を作り出していることを理解してくれます。そして実際にドライブするとこのハイパースポーツが乗りやすく快適であるという事実に驚くのです」

 

「初めてブガッティを目の当たりにすると、最初に気付くのはそのデザインと品質です。そして乗り続けることで、それぞれのパーツのクオリティ、パワートレイン、エンジンとトランスミッションが素晴らしい調和を見せていることを理解するのです。ブガッティにはドライバーの注意をそらす不要なスイッチやディスプレイはありません。でも重要な情報はすべて正確に伝達されます。これこそが純粋な贅沢と言えるのではないでしょうか」

 

シロン スーパースポーツ 300+が実現した前人未到の速度記録。それはレースでの輝かしい実績と莫大なブガッティ車のテストドライブ経験をもつアンディ・ウォレスの手腕、そして彼を支えたスタッフの尽力によって結実したものだ

 

ブガッティのテストドライバーほど素晴らしい仕事があるだろうか

 

2011年からテストドライバーを務めるウォレス以上に、ヴェイロンとシロンの比較に適した人物はいないだろう。ヴェイロンに代わって2016年から生産されているシロンは、走行性能の向上だけでなく様々な電子デバイスを採用して、驚くほどドライブしやすいハイパースポーツだとウォレスは指摘する。

 

「ヴェイロンは独自のクラスを作り上げた1台で、今でも本当に素晴らしいハイパースポーツと言えるでしょう。そしてシロンは、すべてのパッケージが改善されています」

 

「シロンはエアロダイナミクスの進化によってダウンフォースが大幅に増加しました。進化したシャシーは路面の段差を滑らかに乗り越え、不必要なロールはほとんどありません。また、特筆すべきは強力なブレーキです。シロンをドライブすることは簡単です。予想外の挙動でドライバーを驚かせることもほとんどありません」

 

ウォレスはこの天職に就けたことに日々感謝しているという。

 

「ブガッティのドアを閉めるたびに、私は自問自答しています。『今、私は世界最高のクルマのシートに座っている! これ以上に素晴らしい仕事はあるだろうか?』とね(笑)」