究極の自動車趣味、ヒストリックレーシングの世界【鈴鹿サウンド・オブ・エンジン 2019 Part.4】
公開日 : 2019/12/01 11:55 最終更新日 : 2019/12/01 11:55
ヒストリックレーシングのススメ
個人的なことで恐縮だが、筆者は今回のSSOEで「’60s Racing Cars」と「HFR」の2カテゴリーにドライバーとして参加することができた。
名車が勢揃いした「’60s Racing Cars」
このうち’60s Racing Carsでドライブしたのは、1967年に童夢の創始者である林みのる氏が、ホンダS600/800のシャシーに独自のFRPボディを被せて製作したレーシングマシン、マクランサ。童夢40周年に合わせて、現存する本物を3Dスキャンしたデータを元に林みのる本人が手直しを加えて製作した、いわば童夢ワークスというべき1台である。
同レースに参加するのは、ポルシェ910、ロータス19、ロータス23B、ブラバムBT8、ローラT70MkIII といったプロトタイプ・スポーツから、ジャガーEタイプ、ポルシェ911S/T、ロータス・エリートなどのGTスポーツまで合計25台。そのうちマクランサは3台、同じくS800をベースとしたコニリオが1台、さらにS800レーシングが1台出場していた。
マクランサでコースイン! 初ドライブした筆者の印象
実は数年前、このマクランサの製作工程を童夢の工場で取材した経験があるのだが、実際にドライブするのはこれが初めて。600ccのエンジンがオーバーホール直後ということで、ナラシを兼ねてコースインする。一切の無駄を省いたマシンの中はステアリングが太腿に当たってしまうほどタイト。指示通り5000rpmキープでは非力な上、直進安定性もイマイチ定まらない。しかも後方から他車に次々とパスされるので、気が休まる暇がない。
「これは大変なクルマを任されてしまった・・・」と正直後悔したのだが、次の走行時に9000rpmまで回してみて驚いた。それまで不安定だったマシン全体がグッと沈み込み、直線でもコーナーでも安定してコントローラブルに変化したのだ。
非力なエンジンもパワーバンドを外さずに心掛け、失速しないようにステアリングの舵角を慎重に当てながら走ると、これが驚くほど速い。東コースのみの走行ではあったのだが、マージンを残しての走行でも800ccのコニリオに迫る1分18秒台を出すことができた。
今回の試乗の凄いところは、そうしたフィーリングをピットで観戦していた林氏本人に伝えられたことだ。
「乗ったことがないのでわからないけど、マクランサにリップやリヤウイングもどきの物が付いていたように、ちょうどあれを作っていた頃はダウンフォースのような概念が芽生えつつある頃だったね。ただしリップは後流を断ち切って空気抵抗を下げるコーダトロンカ的イメージで、ロッドベンダースのリヤウィングあたりからやっとダウンフォースを意識しはじめたけれど、翼断面がいまいち理解できていなかった時代やね」
「ウイングはなるべく後ろに付けた方が後輪へのダウンフォースが強くなると言われつつも、それでは後輪を支点に前が浮くとか、レース界そのものがワケの解っていない時代だった」と、当時を振り返りながら林氏は言う。これまで色々と取材させていただいてきたが、実際に自分でドライブした上で聞く話は格別。そういう意味でも得難い経験ができた。
1960年代のフォミュラーカーで競う「HFR」
もうひとつのHFRは、いわゆる“葉巻型”と呼ばれる1960年代のF2以下のフォーミュラカーを対象とした有志によるレーシング・クラブのデモレースで、今回は28台がエントリーした。
フォーミュラカーによるレースと聞くと、そのフィーリングは激しく敷居の高いものと想像するところだが、HFRは今や希少なヒストリック・フォーミュラをオリジナルのまま維持し、それに相応しい環境で思い切り走らせるのが目的で、順位を競うコンペティションとは一線を画している。また参加する面々も様々なヒストリックカーレースなどを経験した手練ばかりだ。
実は今、ヒストリック・フォーミュラは世界的に流行しているカテゴリーなのだが、その最大の魅力はスポーツカーや市販車ベースのレーシングカーでは味わえない、純レーシングカーならではのスピードとダイレクトなハンドリングにある。個人的にも1971年型のロータス69と共に4シーズンほど参戦しているのだが、乗るたびに奥が深く、飽きることがない。
見るだけでなく参加すればさらに楽しいヒストリックの世界
昨今では人気ゆえにマシンの入手も難しく、誰でも参加できるというものではなくなっているが、自分のスキルや環境に合わせて本物のレーシングカーを楽しめるという意味でも究極の自動車趣味(実際、そう捉えているオーナーは多い)と言える。
こうしたヒストリックカーレースは、イベントとして観戦するだけでももちろん十分楽しめるものだが、「自分で出たらどうだろう?」という視点で見てみると、また新たな興味が湧いてくるかもしれない。
REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/モビリティランド/淺井浩次(Koji ASAI)/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
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