新型ゴルフ、選ぶべきはガソリンかディーゼルか? 8代目に清水和夫がポルトガルで試乗!
公開日 : 2019/12/13 11:55 最終更新日 : 2019/12/13 11:55
Volkswagen Golf
フォルクスワーゲンゴルフ
されどゴルフ、やはりゴルフ
予想に反して盛況だった東京モーターショー2019。日本の自動車メーカーは、競い合うようにEVコンセプトカーを発表し、EV戦国時代の到来を予見させるような、各社趣向を凝らしたモデルを披露した。EVはエンジン車をライバルとせず、独自の価値観をつくれるかがポイントになってくるのだろうと、数多くの出展車両を見て思った次第だが、それを具現(=商品化)できれば、EVは第二世代、EV2.0に移行したと考えていいのかもしれない。
対して、よく比較対象として語られるドイツ勢の現状はどうか。メルセデスはEQC、アウディはe-tronをすでに市販化。欧州全体が急激にEVへシフトしているなか、やはり注目はEV戦略を強く推し進めているフォルクスワーゲンだ。ポスト・ゴルフとして位置づけているEVのID.3を、2019年9月に開催されたフランクフルト・ショーで正式発表し、電動化へ積極的に取り組む自動車メーカーであることを世界に向けてアピールした。
そして将来的には、ID.3が採用するプラットフォームのMEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリックス)と、エンジン車のMQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)の二本柱とする戦略を採るのだろう。それでも当面利益を生み出すのはMQBの方であり、さらにその主軸となるのは、やはりゴルフにほかならない。

8代目となる新型ゴルフは、現行モデルで用いているプラットフォーム「MQB アーキテクチャー」の最新バージョンをベースにしている。ボディサイズは全長4284×全幅1789×全高1456mm。現行と比較すると26mm長く、10mm狭く、36mm低くなった
期待のマイルドハイブリッドも登場
未来の展開を想像すると、新型ゴルフ8ヘの期待感は増していくばかりだが、マイルドハイブリッドやディーゼルエンジンを含めて、その走りはどう進化しているのか、フォルクスワーゲンがどのような魅力を付加したのか。
8代目は先代からかなりリファインされたスタイルで、国際試乗会の地、ポルトガルで待ち受けていた。
クルマ全体のパッケージやデザインは、かなりスタイリッシュ度を増した印象だ。全長は+26mmと長くなっているが、全高が36mm低くなっているため、より精悍なフォルムとなった。ホイールベースと全幅は、ほぼ先代と同じであり、どの世代のゴルフよりもスポーティなハッチバックらしいスタイルを得たといえる。ルーフが低いことで後席のヘッドクリアランスに悪影響を与えているかチェックしたが、実際はリヤシートの背もたれの角度を寝かせているので、かえって居住性は良く、乗り心地は快適だった。
デジタル化推進の裏に見える徹底したコスト戦略
コクピットまわりは、オールデジタル化され、まるで未来の宇宙船に乗っているような感覚。さまざまな機能がタッチパネルに集約され、アナログスイッチは姿を消した。新鮮なデザインは歓迎する内容だったが、使い勝手については必ずしも“イエス”とは言えるものではなかった。スイッチを押す際に、どうしても目で追って、目視してしまうからだ。手探りでスイッチを扱えるのがマストであり、それが人間工学的には基本思想なのだが・・・。
しかし、コスト面でデジタル化推進に投資をしたせいか、他の部分のコストダウンが大きいように感じられた。特にスポーツサスのDCC(電子制御可変ダンパー)には、アルミニウム製サブフレームが奢られているのに対し、ノーマルサスはスティール製サブフレームを採用。剛性ではアルミ製に分があり、コストではスティール製ということになるわけだが、サブフレームを使い分けるコスト戦略が徹底されている。

新型ゴルフは「デジタル コクピット」を標準装備する。10.25インチ液晶を用いたインストゥルメントパネル、8.25インチのインフォテインメント用のタッチ式センターディスプレイ、そして多機能スイッチを備えたステアリングホイールを全車へ搭載する
ディーゼルよりもクリーンなマイルドハイブリッド
それでも新開発されたマイルドハイブリッド、eTSIの出来栄えは見事だった。搭載される1.5リッターガソリンエンジンには、48Vで駆動するBSG(ベルト・ドリブン・スターター・ジェネレーター)が装備されており、2リッターディーゼルエンジンのTDIよりもクリーンなユニットになっている。これに7速DSGのギアボックスを組み合わせ、発進時にはBSGが駆動モーターとして機能し、50Nmのトルクがクランクシャフト経由でタイヤに伝達される。
フォルクスワーゲンのエンジニアによると10km/hくらいまでモーターで加速し、そのままエンジンを始動させているそうで、この制御がなかなか絶妙だ。もともとDSGが不得意だった微低速での発進がスムースになり、従来のTSI+DSGから大きなバージョンアップを確認。48VとBSGのメリットは、微低速のドライバビリティの向上に繋がっているようである。
eTSIがもたらす3つのご利益
加えてフォルクスワーゲンは「48VのeTSIは燃料消費で約10%節約できる」と胸を張るが、その理由が分かりにくかったので、突っ込んで聞いてみると、コースティング(走行中にエンジンを停止)が可能となったことが好燃費の要因のひとつだという。
従来は気筒休止し、4→2気筒にすることで、エンジンのポンピングロスを低減した訳だが、48Vは完全にエンジンをシャットダウンできる。スピードが高まるとBSGは回生エネルギーとしても機能するので、“モーター駆動”、“発電機”、“ブレーキ回生”という三つの御利益がある。しかもエンジン本体が、最大250Nmと十分なトルクを絞り出していることも付け加えておこう。
ディーゼルかガソリンか、選ぶべきはどっちだ
ではディーゼルエンジンのTDIはどうか。2015年に起きたディーゼルゲートは、完全に禊を終えたかのように、新しいディーゼルエンジンをラインアップしている。排ガス性能では、尿素SCRをツインインジェクターにすることで、NOxを大幅に除去できるようになったし、TDIのゴルフを走らせると、静粛性と振動はかなり改善している。最大トルクは360Nmと十分なのだが、ゴルフではすこし持て余してしまいそうだ。
eTSIとTDIを交互に乗り比べたが、今回はeTSIに軍配を挙げたい。というのは、ゴルフ8としてはガソリンエンジンの方が魅力を増しているからだ。モーターが発進をアシストするので、すごく自然に走れるし、ハイスピードではスロットルの応答性が素晴らしい。ゴルフのダイナミクスを味わうにはeTSIがベストチョイスだと思った。ちなみに今回試乗したeTSIとTDIは、DCCが装備されたテスト車だったため、快適性とハンドリングは、ゴルフ史上最強のモデルだったことも報告しておこう。

安全装備のひとつとして、最上級グレードにはLEDマトリクスヘッドライト“IQ.ライト”を搭載。ヘッドライトユニットそれぞれに22個のLEDを備え、10通りのパターンで路面を照射。IQ.ライト装着車は、ゴルフとして初めてのシーケンシャルウィンカー仕様となる
ゴルフはまだまだ企業の屋台骨
走り以外でも魅力的な機能が満載されているゴルフ8だが、進化したドライバー・アシストシステムはレベル2の自動化技術を採用し、ACCとLKAS(車線維持支援システム)が使いやすかった。さらにC2X(車車間、路車間通信)の機能も実用化している。通信機能は各国で異なるので、日本の仕様はまだ未定だというが、インフォテインメント系も充実している。
バッテリーEVのID.3をマーケットがどう受け止めるか気になるが、フォルクスワーゲンの収益を支えるのは、まだまだエンジンを搭載するゴルフ8なのである。
REPORT/清水和夫(Kazuo SHIMIZU)
【SPECIFICATIONS】
フォルクスワーゲン ゴルフ 1.5 eTSI
ボディサイズ:全長4284 全幅1789 全高1456mm
ホイールベース:2636mm
エンジン:直列4気筒DOHCターボ+BSG
総排気量:1468cc
最高出力:110kW(150ps)/5000-6000rpm
最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
0-100km/h加速:8.5秒
フォルクスワーゲン ゴルフ 2.0 TDI
ボディサイズ:全長4284 全幅1789 全高1456mm
ホイールベース:2636mm
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1968cc
最高出力:110kW(150ps)/3500-4000rpm
最大トルク:360Nm/1750-3000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
0-100km/h加速:8.8秒
【問い合わせ】
フォルクワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199
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