メルセデス・ベンツGクラスと最新ディーゼルは最高の相性。渡辺慎太郎が大絶賛した“旨み”とは
公開日 : 2019/12/20 11:55 最終更新日 : 2019/12/20 11:55
Mercedes-Benz G 350 d
メルセデス・ベンツ G 350 d
Gクラス史上初めてのフルモデルチェンジと言っていい
以前、「メルセデスはコードネームで呼んだほうが話が早い」みたいなことを書いたけれど、Gクラスに限っては“Gクラス”のままでもほとんどの場面で通用する。
1979年にデビューした初代Gクラスのコードネームは“W460”。1989年にフルモデルチェンジ(という名のビッグマイナーチェンジ)を受けて“W463”になったものの、2018年誕生の現行モデルはそのコードネームを引き継いだ。Gクラスのコードネームはふたつしかなく、年次改良が繰り返されてどんどん刷新していったとはいえ、基本構造や格好に劇的変化のないままに今年で生誕40周年を迎えたのである。
現行モデルのチーフエンジニアによると、従来型から流用した部品はヘッドライトウォッシャー/ドアハンドル(とラッチとロック)/スペアタイヤカバー/サンバイザーの計4点しかなく、「実質上、Gクラス史上初めてのフルモデルチェンジ」とのこと。
それならいっそコードネームも例えば“W464”にしてもよかったのではないかと思ったけれど、「最初はそのつもりだったんです。でも、開発の初期段階では基本的に今回も従来型を踏襲する方針だったので、同じコードネームを引き継いだほうが色々便利だと考えたんです、社内的に。ところが開発を進めていくうちにあれもこれも新しくできることが分かり、結局かえってややこしくなってしまいました」とチーフエンジニアは苦笑いした。
音だけでもGクラスと分かる
正真正銘の“フルモデルチェンジ”とはいえ、これまでのGクラスのイメージを踏襲するべく、執拗なまでのこだわりが随所に散見される。
フロントの左右先端にこんもりとそびえたつターンシグナル。一見すると流用部品のようだが、歩行者保護の観点から従来のままだと“突起物”としてNGのため、衝撃が加わるとツメが折れて下に落ちるようにした。
キャビンをぐるりと取り囲むウィンドウはすべて板ガラス(世界のどこでも調達と交換がしやすい)というのもGクラスの特徴のひとつ。これもまた一見すると変更がなさそうだけれど、板ガラスになっているのはリヤのみ。サイドとフロントはガラスの中心部分を約4mm盛り上げてゆるく曲面ガラスにしている。
「風切り音や空力のことを考えると、さすがに板ガラスはキツイので(笑)。でもGクラスのイメージを壊さないよう、これがギリギリの妥協点でした」という。この他にもドアの閉じ音やオートロックがかかる時の音はわざわざチューニングを施して、音だけでもGクラスと判るようにしている。
Gクラスがフルモデルチェンジしなかった理由
Gクラスのフルモデルチェンジがなかなか出来なかったのはNATO(北大西洋条約機構)との契約があったからなど、いくつかの理由が囁かれているが、ともかくあの格好や性能や音や雰囲気が世界中に広く深く浸透してしまい、ドラスティックな変化を望む声がほとんどなかったそうだ。
それでも安全性や快適性や環境性能など、いまの時代に生きるためにクリアしなければならないハードルはいくつもあって、それらをひとつひとつ丁寧に攻略して完成したのが現行のGクラスなのである。
ボディが巨大でも運転がしやすいワケ
見た目には、誰がどこから見ても覗いてもGクラス以外の何物でもないのだけれど、ボディサイズは全長で53mm、全幅で64mm、全高で15mm、ホイールベースで40mm、それぞれ大きくなっている。全幅は1900mmを超えているので取り回し性が悪くなっているのではないかと心配したがさにあらず。運転席からはボンネット先の両脇にそびえるターンシグナルの“山”がちゃんと見えるし、視界は全方位に良好なので、ボディが大きくなったとはまったくと言っていいほど感じない。
Aピラーを立たせて前席をなるべく前方へ置くパッケージが、Gクラスのスタイリングだと成立することも要因のひとつ。最近のSUVはスタイリングを優先してAピラーが寝かされているから、ダッシュボードの奥行きが長く前席が後方へ追いやられ、ボンネット先端まで視認できないモデルが多い。たとえボディが大きくても、正しい視認性が確保されていればちゃんと運転できるのである。
オンロードでの操縦安定性“も”重視
シャシーには従来同様、ラダーフレームが採用されている。リヤサスペンションはリジッドのままだがフロントはダブルウィッシュボーンとなった。車両重量は170kgも軽くなり、でもねじり剛性は55%も向上。フロントデフは40mm、リヤデフは6mm、それぞれの位置を従来よりも上げて最低地上高は241mm(+6mm)、水深渡河性能は700mm(+100mm)とし、オフロード性能もレベルアップを果たしている。
フロント/センター/リヤのデフロックはこれまで通り、センターコンソールの3つのスイッチで切り替える。4マティックの4輪駆動システムは、前後のトルク配分が50:50から40:60へ変更された。これは、オンロードでの操縦安定性を改善するためだったという。
ちなみに、メルセデスで“4マティック”を名乗るモデルがいくつかあるが、構造や制御にはいくつかの種類が存在する。基本的にはエンジン横置きのプラットフォームは前後トルク配分が100:0から50:50の可変、エンジン縦置きのプラットフォームは31:69の固定、AMGで“4マティック プラス”と呼んでいるのは50:50から0:100の可変。
だが、Sクラス/C 200/E 450(左ハンドル)/CLS 450(左ハンドル)は45:55の固定、GLE 400 d/GLE 450、およびEVのEQCは0:100から100:0の可変というように、仕様によって微妙に異なるセッティングを行っている。
飛躍的に向上した乗り心地
Gクラスはそもそも基本設計が古いので、現代のクルマと比較すると性能面で劣る部分があったのは事実。しかしGクラス自身がもはや立派なブランドになっているので、欠点も魅力のひとつみたいな寛容な空気に包まれていた。
そうはいっても、特に快適性ではさすがにちょっとどうなんだろうという意見がメルセデス社内にもあったそうで、今回のフルモデルチェンジでは(オフロード性能を削ることなく)快適性をジャンプアップさせることが目標として掲げられていた。ここで言う快適性とは主にオンロードでの乗り心地と操縦性である。
ようやく手に入れた快適性
まず、乗り心地は飛躍的に改善された。フロントサスペンションを刷新した影響もあるだろうし、ボディ剛性の向上や電子制御式ダンパーのセッティングの妙やホイールベースの延長も功を奏しているかもしれない。以前のような身体が上下に揺すられるバウンシングが大きく軽減され、ロングドライブもまったく苦にならなくなっている。
直進安定性もよくなって、高速巡航での修正舵は激減した。風切り音も日本の法定速度内であればもう気にならないだろう。そして室内へ侵入してくるノイズや振動も低減されて静かになった。つまり運転をしているドライバーにとっても同乗者にとっても、オンロードにおけるGクラスは見違えるほど快適になったのである。
ハンドリングが洗練された点も現行Gクラスの特徴のひとつとして挙げられる。ステアリングフィールの改善、操舵応答遅れの解消、微少舵角での正確な反応など、最近のSUVなら当然のレベルについにGクラスも追い付いた。重心位置は従来型とほぼ同じだが、エンジン搭載位置はわずかに後方へ動いたという。
左右に切り返しても、重心の高さや前後重量配分(54:46)が気になることはなく、タイヤの接地面変化も減少していた。現行型から電動式のラック&ピニオンになったおかげで、ドライブモードによって操舵力にもより繊細な変化がつけられるようになっている。
G 350 dこそ現行Gクラスのベストモデル
Gクラスは現在、3.0リッターの直列6気筒ディーゼルターボを積むG 350d、4.0リッターのV8ツインターボを積むG 550とAMG G 63の3タイプが日本で展開されている。2019年に追加導入されたG 350 dに初めて試乗したのだけれど、これがGクラスのベストモデルではないかと個人的には思っている。
“0M656型”のディーゼルユニットはS 400 dなどにも搭載されているクリーンディーゼルで、基本設計はガソリンの直列6気筒である“M256型”と共有している。ターボは2ステージ+可変ジオメトリーを採用することで低回転域から高回転域までフラットで力強いトルクを発生する(600Nm/1200〜3200rpm)。マルチウェイEGR(排出ガス再循環)を採用し、アドブルーやsDPF(選択触媒還元法コーティング付き粒子状物質除去フィルター)などの後処理の前にNOxを低減し、排出ガスの徹底浄化を行っている。
味とコクと旨みを楽しむためにペダルを踏む
というような制御や技術や仕組みなんか知らなくても、このエンジンはとにかく気持ちがいい。正確には、“味わい深い”“コクがある”“旨みがある”と言ったほうがいいかもしれない。加速するためにアクセルペダルを踏むという単なる作業が、G 350 dではエンジンの回転フィールやパワーデリバリーを楽しむ操作になる。
そもそも直6は二次振動がほぼゼロに近い「完全バランス」が特徴なので、それだけでもスムーズに回転する条件が揃っているのに、可変エンジンマウントがさらに余分な振動を排除する。アクセルペダルをジワジワ踏んでみると、まるでドミノがパタパタと綺麗に倒れていくみたいに、カムシャフトやバルブやピストンやクランクシャフトが次々に自分の仕事をこなしていく様が手に取るようにわかるのである。
ペダルの踏み込み量を正確に読み取って、それに呼応した出力とトルクを正確に紡ぎ出すし、早く踏んだりゆっくり踏んだりしてもそれに従順に反応する。出力/トルクともに発生の仕方は線形で雑味やばらつきはまったくない。前進するためというよりも、こうしたエンジンの旨味を味わうためにペダルを踏みたくなる。
車両重量は2.5トンもある重量級にも関わらず、286ps/600Nmで物足りなく感じるシーンは皆無であり、9速ATとの相性も抜群によく、状況に応じてこのエンジンのおいしいところを絶妙に引き出してくれた。
ほとんどケチの付けようがないOM656型は、S 400 dに試乗した時にも同じ印象を受けて、果たしてこれがGクラスに積まれるとどうなるのかが気になってしょうがなかったのだけれど、むしろSクラスよりもいいんじゃないだろうかと思ってしまった。
422ps/610NmのG 550や585ps/850NmのG 63でグイグイ走るのも悪くないだろうけれど、自分なら迷うことなくG 350 dを選ぶ。エンジンは時にクルマの雰囲気や印象を大きく変えることがあって、OM656型は骨太で男性的なイメージのGクラスに“上質さ”を付与していた。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ G 350 d
ボディサイズ:全長4660 全幅1985 全高1975mm
ホイールベース:2890mm
車両重量:2500kg
エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2924cc
ボア×ストローク:82.0×92.3mm
最高出力:210kW(286ps)/3400-4600rpm
最大トルク:600Nm/1200-3200rpm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後リジッドアクスル
駆動方式:AWD
タイヤサイズ:前後 275/50R20
車両本体価格(税込):1192万円(テスト車:1276万6000円)
※テスト車はAMGライン、アダプティブダンピングシステム、ラグジュアリーパッケージをオプション装着
【問い合わせ先】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ公式サイト
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