ピレリ カレンダー 2020年版のテーマは「ロミオとジュリエット」。その世界観に迫る

ピレリ・カレンダー2020発表会

PIRELLI CALENDAR 2020

ピレリ カレンダー 2020

 

 

ヌードからアートへと方向転換

 

イタリアのピレリといえば、読者の方にはなんの説明もいらないだろう。ただしミシュランがギド ミシュラン(ミシュランガイド)を出しているように、実は素晴らしい”副業”を持っている。それがピレリ カレンダーだ。

 

しばしばアートブックに例えられるピレリ カレンダーの特徴は、毎年、世界的に著名なファッション フォトグラファーを起用し、かなり自由に仕事をさせるところ。

 

2019年12月にベローナで発表会が行われ、私も参加した。そこで公開された2020年版には、「Vogue」や「Elle」の仕事をしているベテラン、パオロ・ロベルシ氏が起用された。

 

テーマもユニークだ。1964年にスタートした当時は、サービス工場の壁に飾ってもらうことを目的に、美しいヌード写真が中心だった。それが2000年代をすぎると、時代の流れもあり、ヌードからアートへと方向性を変えていった。

 

ピレリ・カレンダー2020発表会での模様

発表会での壇上。左からウーピー・ゴールドバーグ、ピレリ社のマルコ・トロンケッティ・プロベラCEO、ベローナ市のフェデリコ・スボアリナ市長、パオロ・ロベルシ氏。

 

2020年のテーマは「ロミオとジュリエット」

 

といっても、ロベルシ氏が選んだ「Looking For Juliet(ジュリエットを探して)」なる主題もまた、男にとって永遠のテーマといえるかもしれない。題材はご察しのとおり、シェイクスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」だ。

 

「私にカレンダー撮影の依頼がきたとき、まず考えたのは、美と愛をテーマにしたいということでした。それこそ本質的なものですから。ピレリはイタリアなのに、なんと私は初のイタリア人写真家なのです。そこで舞台もイタリアに、とイタリアづくしでやるのはいいだろうと考えました。そこで思いついたのが、私が子どものときから大好きだったロミオとジュリエットの物語です」

 

シェイクスピアがまとめた戯曲「ロミオとジュリエット」の舞台となったベローナでの記者会見会場で、ロベルシ氏はそう述べた。

 

エマ・ワトソン(英)、クレア・フォイ(英)、クリス・リー(中国)

左から、エマ・ワトソン(英)/クレア・フォイ(英)/クリス・リー(中国)

 

ロミオとジュリエットは、おそらく世界中のひとが知っているはず。キャピュレット家とモンタギュー家というベローナで対立する二つの家出身の男女が恋に落ち、結ばれないと悟ったあげく、自殺をしてしまう悲恋物語だ。

 

ジュリエットが今も愛されているのは・・・とロベルシ氏は分析する。「ふたつの相反する要素を内包した女性だからでしょう」と話した。

 

「自分にとって理想の女性がジュリエット。はかなくて弱そうなのに、恋をしたとたん、どんな障害も乗り超えようとする強い女性に変身する。そして毒を飲んで仮死状態になるのも厭わないし、最期、自分が死んだと思って自害したロミオを見て、ためらわず自分の胸にナイフを突き立てるんですから」

 

ヤラ・シャヒディ(米)、ロザリア(スペイン)

左から、ヤラ・シャヒディ(米)/ロザリア(スペイン)

 

カレンダーの常識を覆す132頁に、9人がジュリエットを演じる

 

なんと132ページに及ぶ今回のカレンダー(カレンダーという枠をはるかに突き抜けている)には、9人がジュリエットを演じている。名前をあげると、下記のようだ。

 

女優では、エマ・ワトソン(英)、クレア・フォイ(英)、ミア・ゴス(英)、インドゥヤ・ムーア(米)、ヤラ・シャヒディ(米)、クリステン・スチュワート(米)。シンガーは、クリス・リー(中国)、ロザリア(スペイン)。アーティストはステラ・ロベルシ(イタリア系フランス人)。

 

カレンダーのなかでは、9人がロミオとの出合い、結婚、死というジュリエットの生涯を演じている。写真はロベルシ氏だけあって、色をなるべく抑えた美しい色調で、幻想的だ。ただしロミオは登場しない。「いるのは大前提ですから」とロベルシ氏は語っていた。

 

「ピレリは現代アートに対しても、高い理解を示してきたつもりです。カレンダーでは、写真家に出来るだけ多くの自由を与えて、納得いくものを作ってもらえるのが、最大の喜びだと思っています」

 

インドゥヤ・ムーア(米)、ミア・ゴス(英)、クリステン・スチュワート(米)

左から、インドゥヤ・ムーア(米)/ミア・ゴス(英)/クリステン・スチュワート(米)

 

ピレリのマルコ・トロンケッティ・プロベラCEOも会場でインタビューに応じて、そう語ってくれた。

 

最近の写真家のなかには、裸のジョン・レノンが妻にキスをしている「ローリングストーン」誌の表紙を撮影するなどしたアニー・リーボビッツ、2019年の「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」の目玉となったアルバート・ワトスン、2019年9月に惜しくも物故したピーター・リンドバーグ、「Tim Walker: Wonderful Things」展がVictoria and Albert Museum(ロンドン)で開催中のティム・ウォーカーが含まれる。

 

いままで一番好きだったカレンダーはいつのものですか?と、中国から来た若いリポーターに訊かれたときは、にやにや笑いながら「うーん、あるけれど、それを言ったら大問題になりますから」とかわすトロンケッティ・プロベラCEOであった。

 

ピレリカレンダーに問題がひとつあるとしたら・・・。それは一般の書店に出回らないこと。それが残念だ。

 

 

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)