新型車ラッシュのSUVは一過性のブームで終わるのか【渡辺慎太郎の独り言】

渡辺慎太郎の独り言。メインイメージ

やんごとなきSUV、レンジローバー

 

以前ここで公開したロールス・ロイス ドーン ブラック・バッジの取材と撮影をしたのは、2019年8月末の熱帯夜の金曜日の東京・銀座界隈だった。その時はたまたまレンジローバースポーツ SVRを借りていたので、それに乗って現場へ向かったのだけれど、2台並べて駐車していたら、なんだかそこだけが異彩を放つ異様な空間になった。道行く人はちょっと怪訝そうな表情を浮かべているし、インバウンドと思われるツーリストはスマートフォンを向け、明らかに“インスタ映え”を狙っていた。

 

そんな光景を少し遠目から眺めていたら、こういうクルマを所有しているのはきっと、上はパーカーでフードを頭にすっぽりと被り、下はスウェット、シューズはスニーカーでいずれも高級ブランドのロゴが燦然と輝き、光り物のアクセサリーを首回りや手首などに巻いた、20代後半から30代前半くらいの職業不詳の若者というかなり鮮明で具体的なオーナー像が浮かんできた。でもそんな人を実際に間近で見かけたことなんかないし、現実に彼らのような人間がこの世に存在しているのかすら分からないのだけれど、おそらく映画やTVからの擦り込みが、そんな妄想をかき立てたのだろう。

 

我に返って冷静かつ客観的に考えてみると、1台は高級車のピラミッドの頂点にいまでも君臨する天下のロールス・ロイスであり、もう1台は(カリナンの登場でいまはもうそう言えなくなってしまったが)“ヨンクのロールス・ロイス”と呼ばれていたレンジローバーである。本来ならば王室や皇族や貴族といった世界中の“やんごとなき方々”が好んで所有されるクルマであったこの類いが、いまでは身分や地位や階級や役職などに関係なく(経済的余裕さえあれば)広く行き渡るようになった。

 

渡辺慎太郎の独り言。ロールス・ロイス・カリナンイメージ

カリナンはロールス・ロイス初のSUVとして2018年に誕生。フラッグシップ「ファントム」とベースを共有する。

 

フェラーリだって、ランボルギーニだって

 

スピリット・オブ・エクスタシーとホイールが黒くて、勇ましいエキゾーストノートを響かせるロールス・ロイスとか、これまた黒いホイールを履き大胆なエンジン音を奏で575ps&700Nmというスポーツカー並みのスペックを持つレンジローバーなんて、ひと昔前なら想像も出来ないどころか、世が世ならむしろ御法度の領域ですらあったように思う。

 

このような自動車業界における過去の慣例や通例や前例や常識が通用しなくなった事例はいくつかあって、“SUV”もそのひとつだと考えている。SUVの名の下に、なんでもござれの多様化が鋭意進行中なのはみなさんもご存じの通り。これまではSUVとはまったく無縁だったロールス・ロイスやベントレーやランボルギーニやマセラティやアルファロメオやアストンマーティンなどが続々と参入し、フェラーリまでもが虎視眈々とその機会をうかがっている。一方で、SUVを名乗りながらもその中身は「?」のモデルも少なくない。

 

渡辺慎太郎の独り言。アストンマーティンDBXイメージ

アストンマーティンが2019年11月20日に満を持して発表した「DBX」。SUV専用の新しいプラットフォームを使用している。

 

「最低地上高」は重要か否か

 

福島県に住む知人があるSUVに興味を持ち、ディーラーに出向いたという。試乗した印象は悪くなく、早めに納車可能な在庫車を調べてもらっている間、ちょうど目の前にはひょっとするとこれから契約書にハンコを押すかもしれないモデルが飾られていた。出されたコーヒーを呑みながらぼんやり眺めていると、リヤのサスアームの取り付け位置が目に入り、慌ててカタログを見直したら、そのSUVの最低地上高は普通のクルマのそれとほとんど変わらなかった。彼はすぐにセールスマンを呼び、商談の打ち切りを申し出た。

 

「全高がかなり高いし、最低地上高だって普通のクルマよりもずっと高いに決まっていると思い込んでいたんです。この辺りは豪雪地帯で、除雪はしっかりやってくださるんですけど、轍とかで腹を擦ることが多いし、場所によっては雪がなくても震災の影響で路面がまだ大きくうねっているところもあるんで、最低地上高がある程度ないとまともに運転できないんです」

 

乗用車とプラットフォームを共有するSUVではよくある事象である。大きなタイヤを履いた分だけ最低地上高は上がるもののそれは微々たるもので、サスペンションなどは乗用車のままだから、見た目ほど悪路の走破性は向上していない。乗用車ベースのSUVは総じてそうなっている場合が多い。つまりSUVとはいっても悪路走行は苦手なのである。

 

渡辺慎太郎の独り言。マセラティ・レヴァンテイメージ

走りを楽しめるSUVとして独自の足場を築くマセラティ・レヴァンテは2016年にデビュー。ポルシェ・カイエンからの乗り換えが多いという。

 

4WDよりも2WDの人気が高い理由

 

彼が驚いたことはもうひとつあったという。

 

「いまどきのSUVはヨンクじゃないグレードがあるんですね(笑)。セールスマンいわく、ヨンクよりもFF仕様のほうが売れてると。理由はそのほうが値段が安いからだそうです」

 

駆動形式が4WDではなく2WD(主に前輪駆動)のSUVが多いのも事実だし、通常は2WDで走り必要な時だけ4WDになるオンデマンド式もいまや主流となりつつあり、常時4WDのフルタイム式はむしろ減少傾向にある。燃費やCO2排出量の規制が厳しくなる世の中で、4WDよりも駆動輪の少ない2WDのほうが一般的には燃費がいいわけで、そっちが増えるのはやむを得ないというのは理解できる。

 

でも、自分みたいな50過ぎのおっさんからすると、SUVと聞けばいまだに4輪駆動で最低地上高が高くてタフな悪路走破性を有していると同時に、使い勝手のいい装備や機能性に富んだ室内と荷室を備えたクルマ、と自動的に思ってしまう。「腹を擦るかもしれない2WDのSUVなんてSUVじゃないじゃんか」といぶかしい気持ちになるわけである。

 

渡辺慎太郎の独り言。シトロエン C3 エアクロスイメージ

トラクションコントロールなどの電子制御デバイスの活用で「あえて4WDにしない」という選択をしたシトロエン C3 エアクロス。2017年10月のデビュー以来、すでに20万台を販売しておりシトロエン乗用車モデルで2位の販売ボリュームを占めている。

 

かつて僕らにはステーションワゴンがあった

 

セダンからSUVに乗り換えた人の中には、乗降性や居住性のよさを理由として挙げる人も少なくない。天地方向にボディが大きければドアの開口部も大きくなり、確かに乗り降りしやすくなるし、例えばチャイルドシートの脱着などもやりやすく、室内も広く感じる。

 

ただ、室内の広さに関しては、広くなっているのは天地方向だけで、前後左右は同じボディサイスのセダンとたいして変わらない。ゆったりと座れるかどうかは、頭上よりも両手や両足付近のスペース次第である。加えて最近では、Cピラーが大きく寝かされたクーペライクのSUV(後席の乗降性は悪い)や全高が1550mmを切るSUVまでもが出現している。都心では機械式駐車場が使えるメリットはあるものの室内空間の広さは感じにくく、もはやSUVというよりも大きなタイヤを付けたワゴンという様相である。

 

SUVがもてはやされるのは性能や機能よりも“そういう格好をしたクルマ”だからという側面もある。そんな状況に直面すると、思い出されるのは1980年代のワゴンブームだ。あの時も、ワゴンとしての機能性よりも“ワゴンに乗っている”ことに価値があるような風潮があった。しかしいまではどうだろう。トヨタ/ニッサン/ホンダにはワゴンのラインナップがほとんどなく、輸入車でもワゴンはSUVの影にすっぽりと隠れてしまい、かつての人気は微塵もない。

 

それでもSUV人気は衰えを見せず、自動車メーカーも数年先までの商品計画に新たなるSUVを盛り込んだりしている。しかし個人的にはかつてのワゴンブームがそうであったように、SUVブームも近いうちに終焉を迎えるのではないかと思っている。よく考えてみれば、不必要に大きく背が高く(セダンやワゴンに比べれば)燃費が悪く4WDでもなければ悪路も走れないSUVの存在に、疑問を持ち始める人が増えてくるのではないだろうか。そして乗用車ベースの“なんちゃってSUV”は次第に淘汰され、また以前のように走破性や機能性をきちんと備えた“本物”のSUVと、一部富裕層向けSUVに数が絞られていくかもしれない。

 

渡辺慎太郎の独り言。プジョー508SWイメージ

2018年に2代目へフルモデルチェンジしたプジョー 508SW。プジョーはCセグメントの308にもエステートモデルをきちんとラインナップしている。

 

Gクラスかジムニーかランクルかジープか

 

実は個人的に、SUVはどちらかといえば苦手なほうだった。都内を中心に生活する自分のライフスタイルと照らし合わせた時、その有用性をまったく感じないからだ。でも最近、その考えをちょっと見直すようにもなってきた。もしSUVを購入することになったら、迷うことなくその手の老舗であるランドローバーの商品や、性能面で定評があるメルセデス・ベンツのGクラス、ジープのグランドチェロキーやラングラー、トヨタ・ランドクルーザー、スズキ・ジムニーあたりを選択肢にする。

 

渡辺慎太郎の独り言。スズキ・ジムニーイメージ

2018年に4代目に生まれ変わったスズキ・ジムニー。既存オーナーだけでなく新規顧客も大いに呼び込み、納車まで1〜2年待ちという大ヒット作となっている。

 

令和元年に我々が直面した未曾有の災害の数々を思うと、いざというときのためのフルタイム4駆やデフロックや渡河水深限界といった性能が、東京で暮らしていても頻繁に役に立つかもしれないと考えるようになったからだ。備えあれば憂い無しとはよくいったものである。

 

 

文/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

写真/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI/ロールス・ロイス・ドーン&レンジローバーSVR)