ラリー仕様の空冷ポルシェ 911、渋滞頻発・劣悪路面のロサンゼルス市街地を走る

サファリ911の走行シーン

Porsche 911 3.2. Carrera “Safari”

ポルシェ 911 3.2 カレラ “サファリ”

 

 

理想的なシティカーを求めたモータージャーナリスト

 

「すべてのシティカーが、同じような使用環境にあるわけではないのです」

 

モータージャーナリストであり、人気ユーチューバーとして活躍するマット・ファラーはそう指摘する。ニューヨークからアメリカの西海岸に拠点を移してすぐ、ファラーはロサンゼルス(LA)では公共交通インフラが崩壊しつつあることに気がついたという。

 

従来考えられていた都市における通勤風景というよりも、日々のドライブが山岳部のトレイルランのようになっていたのだ。巨大な州間高速道路405号線からベニスビーチのダウンタウンにあるひび割れた道まで、あらゆる路面をスムーズに走れたのはバハ仕様に改造されたピックアップトラックだけだった。

 

「ここには、地球上で最もスポーツカーのドライブに適したエンジェルス国立森林公園やマリブ・キャニオンのワインディングロードがありますが、都市圏の移動はまさに悪夢です」と、ファラーは苦笑いする。

 

「交通インフラは完全に崩壊しています。道路補修はめったに行われていませんし、高速道路のジョイントはスポーツカーオーナーとっては考えたくもない悪夢です。そして、LAのように拡大を続けている都市は、いつだって渋滞が起こっています。車高の低い現代のスポーツカーにとって非常に厳しい環境です」

 

サファリ911の雪道での走行シーン

多くのアメリカ人が好むピックアップトラック。しかし、入り組んだ狭い道も多いロサンゼルスの市街地には大きすぎるという難点があった。そこで、登場したのがラリー仕様の911だった。

 

理想的なシティカーは車高の高いピックアップトラック?

 

そんな劣悪な交通環境において、オフロードサスペンションを備え、巨大なサイドウォールを採用しながらも都会的なエクステリアを持つピックアップスポーツ「フォード ラプター」は、まさに“ゲームチェンジャー”と言える存在となった。しかし、クルマでの移動がしやすいLAでさえ、タイトな市街地での走行にはその巨大なボディを持て余すことになる。そこでファラーはあるアイディアを思いついた。

 

「ラプターのようなクルマが欲しかったのですが、ボディは小さくあってほしい。その答えは車高を上げたラリーカーでした。レー・キーンが手がけた『サファリ911』をドライブした瞬間、稲妻が響いたのです。『探していたのは、コレだ!』と」

 

グランダム・ロレックスGT選手権を2度制し、熱狂的なポルシェ・ファンでもあるレー・キーンは、どこにでも移動できるクルマを望む人に向けて「サファリ911」を開発した。彼はかつてサファリ・ラリーやダカール・ラリーで活躍したラリー仕様の911を現代に蘇らせようとしたのだ。

 

ファラーはキーンと友人関係にあり、サファリ911の1号車をドライブする機会を得た。そして、この不思議なアピアランスを持つ911をドライブした瞬間にオーダーを決めたという。「多くの人が911に望むスタイルとは明らかに違っていました。でも、すぐにレーに小切手を送りました」とファラーは笑う。

 

サファリ911とオーナーのマット・ファラー

アトランタを拠点とするレーシングドライバーのレー・キーンは、Gシリーズをベースに車高を上げた“サファリ”仕様を開発。開発1号車をドライブした写真のマット・ファラーは、その場で購入を決めた。

 

911 Gシリーズをベースにラリー仕様へとコンバート

 

キーンが手がける「キーン・プロジェクト(The Keen Project)」は、ベースモデルとして1979年から1989年に生産された911 Gシリーズを必要とする。キーンがベース車両を用意することもできるが、カスタマーが自分で持ち込むことも可能だ。ファラーはカラーや年式、インテリアを自分で選びたかったので後者をチョイスした。

 

ダイレクトなシフトフィールがある「G50ギヤボックス」が重要だったことから、ファラーはカシスレッドのボディカラーを持つ1987年式「911 3.2 カレラ」をベース車両に選んだ。あえて経年劣化を感じさせる“クスミ”を残しているが、これはサファリ911のカスタマーの多くが選ぶ仕様だという。

 

サファリ911の走行シーン

当初お気に入りのボディカラーである「ダルメシアンブルー」にリペイントしようと考えていたファラーだったが、実車をひと目見て「このままのボディカラーを活かそう」と思ったという。

 

くすんだカシスレッドが活かされたファラーの911

 

しかし、ファラー自身はこのボディカラーでよいのか少し悩んだという。

 

「ボディカラーに関しては少し悩みました。 もともと私が好きなダルメシアンブルーにリペイントするつもりで、G50ギヤボックスを搭載したコンディションのよいクーペを探していたのです。私が見つけた911の元のオーナーはアニー・リーボヴィッツのような芸術家ではなく、正午にクルマを撮影していたのでカシスレッドが凄まじい色に見えましたよ。まるでシンディ・ローパーのリップグロスのようでしたから(笑)」とファラーは肩をすくめた。

 

「インスタグラムにアップされていた写真ですから、実際の色味とは少し違うことは分かっていました。でも、ペイントし直すし問題ないと考えたのです。しかも価格も安く、ドライブトレインにも問題がない。その後購入して実車を目の当たりにすると、信じられないほど素晴らしい色合いだったんです。すぐにリペイントするのをやめました」

 

サファリ911のフロントエクステリア

一見、オフロード走行を行っていそうなファラーの911だが、現在は通勤や買い物に活躍しているという。それは、アメリカにおいて都市部でピックアップを使用する多くのユーザーと同じ状況と言えるかもしれない。

 

純粋な都市内での移動に活躍するサファリ911

 

ベース車両は購入後、様々な改造を施すためにアトランタにあるキーンのファクトリーに直送された。パーツリストはタミヤ模型のパンフレットのように表示されている。

 

シートやステアリングなどの様々なインテリア装備、アニマルガード、スキッドプレート、ラリー・ライトポッド、シェード付きサイドドアミラー、大型バンパー、特製モータースポーツ・ホイール、エレファント・レーシング製サファリ・サスペンション、専用LSD、BFグッドリッチ製K02タイヤといった具合だ。このKO2は、彼のピックアップと同じタイヤである。

 

エンジンのリビルドを実施したあと、ついにファラーのラリーカーが完成した。カシスレッドのサファリ911を見た人は、これが“シティカー”だとは思わないかもしれない。だが、これこそがファラーが望んでいた1台だった。

 

「このクルマは、文字通り毎日の通勤用シティカーです。最近、リヤシートにファイヤーウッド製のバスケットを取り付けました。私はこれでワインディングロードやサーキットに行くつもりはありません。お店やオフィスの往復、買い物やちょっとしたお出かけに使うためのクルマですからね」

 

LAという”サファリ”にぴったりなシティカー、あなたも1台いかがだろうか?