アストンマーティン初のSUV「DBX」試乗! プロトタイプとは思えない高い完成度を確認

公開日 : 2020/01/15 09:01 最終更新日 : 2020/01/28 15:46

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アストンマーティンDBXのダート走行シーン

ASTON MARTIN DBX

アストンマーティン DBX プロトタイプ

 

 

初のSUV「DBX」の開発は5年前からスタート

 

こんなチャンスは空前にして絶後かもしれない。

 

「中東オマーンでDBX プロトタイプのごく小規模な試乗会を行なうので是非参加して欲しい」

 

そんなメッセージが旧知のPRスタッフから届いたのは昨秋のことだった。アストンマーティン初のSUVである「DBX」は2019年11月に北京でワールドプレミアを果たしたものの、開発を終えたプロダクトが路上を走り始めるのは2020年春のこと。それより半年近くも早く、しかも開発途上のプロトタイプを操れる機会など滅多にない。私は一も二もなく参加の意向を返信した。

 

試乗当日、オマーンに到着した私が指定されたホテルの朝食会場に向かうと、そこにはチーフエンジニアのマット・ベッカーが待ち受けていた。簡単に挨拶を済ませた後、食事を摂りながら即席のブリーフィングが始まった。

 

「DBXの開発を始めたのは5年ほど前。私たちにはSUVを手がけた経験がなかったので、まずはベンチマークとなり得るモデルの試乗からリサーチを始めました」

 

アストンマーティンDBXのフロントスタイル

開発途中のプロトタイプということもあり、テスト車両は偽装するかのように多くのステッカーが貼られていた。それでもアストンマーティンとひと目でわかる。

 

ベンチマークは、カイエン、X6M、レンジローバーなど

 

そのなかには先代のポルシェ・カイエン・ターボ、BMW X6M、レンジローバー スポーツ SVRなどが含まれていたが、調査を始めてすぐにベッカーらはある発見をしたという。

 

「SUVに求められる性能の幅広さに驚きました。私たちがこれまで開発してきたグランドツアラーやスポーツカーの開発目標が小さな点だとしたら、SUVに求められる性能の幅はそれより何十倍も大きい箱のようなものです。このことに私たちはまず衝撃を受けました」

 

ベンチマークの試乗はニュルブルクリンク近郊で行なわれたというが、これはノルドシュライフェでテストするだけでなく、付近に用意されたオフロードコースや市街地を走行するにも便利だったからだ。ちなみに、彼らはニュルブルクリンクのすぐ脇に開発拠点のファクトリーを所有している。

 

「SUVにはオンロード性能やオフロード性能だけでなく、静粛性、快適性、居住性のほか、トレーラーなどの牽引能力も必要とされます」

 

このときベッカーがことさら強調していたのが静粛性、快適性、居住性だった。

 

「私にも小さな子供がいます。だから、家族みんなで出かけるとき、車内で大きな声を出して話すようなことは避けたい。したがって静粛性はとても大事だと思いました。乗り心地や居住スペースも同様です」

 

アストンマーティンDBXのサイドビュー

全長5039×全幅1998×全高1680mm、ホイールベースは3060mmというディメンションをもつDBX。ベンチマークとなったポルシェ カイエンやBMW X6Mを相手にするとはいえ、車格ははるかに上。アストンマーティンならではのラグジュアリーな世界観で魅了する。

 

専用プラットフォームは必然

 

このような要素をいずれも高い次元で実現しようとしたとき、専用プラットフォームの開発が不可欠に思えたという。実際のところ、基本的なボディ構造にはDB11でデビューしたボンデッド・アルミニウム工法を用いたものの、その設計はDBX専用。そもそも、トランスアクスル方式を採用する他のアストンマーティンと異なり、DBXはエンジンの直後にギアボックスを搭載するコンベンショナルなレイアウトのため、既存プラットフォームの流用は諦めざるを得なかったという事情もある。ベッカーが語る。

 

「トランスアクスル方式で4WDにしようとすると、エンジンからギアボックスまで伸びたプロペラシャフトをもう1度リアで折り返してフロントを駆動することになるため、現実的ではありません。そこで私はコンベンショナルなフロント・エンジンのレイアウトを採用しました」

 

V8 4.0リッターのツインターボエンジン、9速のオートマチックトランスミッション、電子制御式トルク配分装置、前後アクスルなどの主要コンポーネントはいずれもメルセデス AMG製もしくはメルセデス・ベンツ製だが、プラットフォームを専用設計にすることでエンジンをキャビン寄りの低い位置に搭載することが可能となった。これが良好な運動性能を実現すると同時に、エンジンやギアボックスが地面に近い低い位置に移動したことでキャビン・スペースも拡大。まさにベッカーらが望んだとおりのパッケージングを実現できたという。

 

ちなみに、今回の試乗会には2m近い長身のメディア関係者も参加したそうだが、その彼が運転席でドライビングポジションをとった状態で後席に座っても、ニースペースとヘッドルームが確保されていたという。これに驚いた男性は「これまでSUVでこんなことは一度もなかった」と口にしたそうだ。

 

アストンマーティンDBXの並走シーン

今回テストしたのは、あくまでもプロトタイプ。この試乗イベントの最中でも、得られたデータを元に常にアップデートを行っていた。

 

開発が進むプロトタイプに試乗

 

そんな話をあれこれ聞いているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、いよいよ試乗のときがやってきた。ホテルのエントランスに向かうと、試乗車がすでに止まっていた。ただし、それは私たちが普段、国際試乗会で目にするピカピカの新車ではなく、砂ぼこりや泥跳ねがこびりついた状態のもの。しかも車体のあちこちに「プロトタイプ車両」「ウェールズへの投資(アストンマーティンはDBXの生産工場をイギリス・ウェールズ地方に新設したため)」などのステッカーが貼られている。

 

「全部で30名ほどが参加するこの試乗会のために、すでに2週間ほどオマーンに滞在していますが、その間に得られたフィードバックをもとにエアサスペンションのソフトウェアなどを更新しています。おかげで乗り心地はずいぶんよくなりました」

 

ベッカーのそんな言葉からも、DBXの開発がいま現在進行形で行なわれていることを実感する。

 

「ただし、パワーステアリングやスロットル制御のソフトウェアはまだ最新仕様に更新されていないので、今回は正しい評価ができません」

 

これもプロトタイプの試乗会ならではのことだろう。

 

アストンマーティンDBXの走行シーン

スポーツSUVらしくソリッドな印象ながらも快適性は極めて高い。DBの名を冠するだけあり、アストンマーティンの流儀を引き継いでいる証しだろう。

 

ソリッドでありながらも高い快適性

 

ベッカーのドライブで試乗コースのスタート地点に向かう。走行したのは表面が比較的滑らかな舗装路だったが、自分でステアリングを握っていなくても、DBXの足まわりがしっかりとした仕立てであることがよくわかった。まず、路面からのショックの吸収が巧みなため乗り心地が滑らか。このとき装着されていたのはピレリ・スコーピオン・ゼロというオールシーズンタイヤだったが、それでもキャビンに侵入するパターンノイズやロードノイズは決して大きくない。

 

それ以上に感銘を受けたのが、足まわりの動きがソリッドであいまいさを感じなかったことにある。通常、快適性や静粛性を追求すればサスペンション・ブッシュの硬度を落とし、ここでショックやノイズを吸収するのが一般的だが、こうするとコンプライアンスといってタイヤの位置決めが不正確になり、ハンドリングなどのソリッド感が失われる恐れがある。けれども、DBXは走りがシャキッとしているのに快適性や静粛性も優れている。その点をベッカーに指摘すると、こんな回答が返ってきた。

 

「レンジローバー スポーツ SVRの足まわりを解析した結果、サスペンション取り付け部の局所剛性とサスペンション・ブッシュの硬度を一定の関係にすると、ロードノイズとコンプライアンスを高い次元で両立できることを突き止めました」

 

アストンマーティンDBXのダート走行シーン

ダート路面でも高いボディ剛性を感じられるDBX。特にフロント周りの剛性は相当レベルが高い。しかもこうしたシーンでも静粛性に優れていることがわかるから、ラグジュアリーカーとしての条件を満たしていると言える。

 

ボディ剛性は極めて高い

 

しばらく走ったところで、いよいよ私がステアリングを握る番がやってきた。走り始めてすぐに感じたのが、ステアリングを通じて感じられる接地感の確かさ。適度な重さのステアリングはしっかりした手応えで、助手席に座っているときに予想したとおり、あいまいなところが一切ない。ステアリングを切り増していくときと戻すときなど状況に応じて操舵力が微妙に変化するのは、ベッカーがあらかじめ断ったとおり、ソフトウェアが開発途上のものだからだろう。もっとも、それ自体はほとんど気にならなかった。

 

ボディの剛性感も極めて高いと感じた。特にフロント周りの一体感が飛び抜けて高い。あとでボンネットを開けてみたところ、ストラットタワーバーが二重に張り巡らされていることが判明したが、そうした補強が利いているのだろう。

 

ロードノイズやエキゾーストノイズも他のアストンマーティンに比べれば格段に低く、助手席に腰掛けたベッカーと言葉を交わすのは容易。しかも、静粛性の高さはオンロードだけでなくオフロード上でもしっかりと確保されていた。今回、走行したオフロードは硬く引き締まったジャリ道がほとんどだったが、直径2〜3cmの砂利が敷き詰められたかのような路面でも無粋な振動はほとんど伝わらず、ボディはフラットに保たれて快適だった。

 

アストンマーティンDBXのダート走行シーン

たとえ乱暴にステアリングを操作してもリヤのグリップ力に信頼がおけるのは見事というほかない。トラクション性能も高く、コントロール性に優れているのは、マット・ベッカーだからこそ成せる業だ。

 

生産型にも期待できるプロトタイプの完成度

 

また、滑りやすいオフロードでもリヤのグリップ感は高く、ブレーキングで前荷重を作ってから少し乱暴にステアリングを操作してもリヤが滑り出すようなことは皆無。スタビリティコントロールが作動していたかどうかは、残念ながらメーターパネルの警告灯がほとんど作動していなかったので不明ながら、仮に作動していたとしたらその介入の仕方は極めてスムーズと判断できるし、作動していなかったとしたらリヤのグリップ・レベルは極めて高いと評価できる。

 

さらにいえば、舗装された高速道路でも優れた静粛性と快適な乗り心地を実現していたほか、直進性も良好だった。

 

今回は、ぬかるんだ滑りやすい急坂やフカフカの柔らかい砂道などを走る機会がなかったほか、本格的なワインディングロードも走行できなかったので明確な判断は下せないものの、少なくとも舗装路の一般道と高速道路、そして硬く引き締まったダート路での乗り心地、静粛性、操縦性などに関していえば文句のつけどころがなかった。それどころか、これだけ足まわりにあいまいさがなく、ハンドリングも正確なのに、ハーシュネスの遮断が際立って良好なラグジュアリーSUVはこれまで経験したことがない。それだけに、開発が終わったDBXを1日も早く様々な路面でテストしたいという思いが募る試乗会だったといえるだろう。

 

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)

 

 

 

 

アストンマーティンDBXのリヤスタイル

ステッカーなどで半偽装されているものの、DBXのスタイルは実にアストンマーティンらしい仕上がりだ。市販されれば、新たなるラグジュアリースポーツSUVとして人気を博すと予想できる。

 

 

【SPECIFICATIONS】

アストンマーティン DBX

ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm

ホイールベース:3060mm

車両重量:2245kg

前後重量配分:54/46

地上高:190 – 235mm

 

エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ

総排気量:3982cc

ボア×ストローク:83×92mm

圧縮比:8.6

最高出力:405kW(550ps)/6500rpm

最大トルク:700Nm/2200 – 5000rpm

トランスミッション:9速AT

駆動方式:AWD

 

ステアリング:電動パワーステアリング

サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

キャリパー:前6 後シングル ピストン

ディスク径:前410 後390mm

タイヤサイズ(リム幅):前 285/40YR22(10J)  後325/35YR22(11.5J)

 

最高速度:291km/h

0 – 100km/h加速:4.5秒

CO2排出量(NEDC):269g/km

燃料消費量(WLTP):14.32L/100km

 

車両本体価格:2299万5000円(税込)

 

 

【問い合わせ】

アストンマーティン ジャパン

TEL  03-5797-7281

 

【関連リンク】

・アストンマーティン 公式サイト

https://www.astonmartin.com/ja