池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

ちょっぴりナンパなモダン・フェラーリ

 

名作『サーキットの狼』の第二章として1989年から週刊プレイボーイで連載が始まった『サーキットの狼II モデナの剣』は、主人公である“剣・フェラーリ”が愛車のフェラーリ 348と共に時代を駆け抜ける物語。両作ともに自動車漫画のパイオニアであり、現在もカーマニアのバイブルとして愛され続けているのは周知の事実だ。

 

今回も『サーキットの狼』『サーキットの狼II モデナの剣』の生みの親であり、スーパーカーの“カリスマ”として名を馳せる池沢早人師先生をお迎えし、愛車として活躍した「フェラーリ 360シリーズ」について語って頂く。ディーノ 246に始まり、356BB、512BB、512BBi、308、348、テスタロッサ、F40、F355など、多くのフェラーリを乗り継いできた池沢先生にとって、360シリーズとはどんなクルマだったのだろうか・・・。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

それまではドライビングパフォーマンスの高さ故にフェラーリを選んでいたが、360スパイダーは初めてパフォーマンスを度外視して選んだという。

 

フェラーリ遍歴の中で「小休止」として入手

 

フェラーリは「速いクルマ」としてとても魅力的な存在だった。初めて手に入れたディーノ 246GTから始まり、BBシリーズや308QV、348、F355、テスタロッサ、F40など、何よりも走りを楽しむために手に入れてサーキットに持ち込むことも多かった。そんな「走り第一」な考えを一度捨てて、ちょっぴり“ナンパ”な気持ちで手に入れたのが「フェラーリ 360スパイダー」だ。

 

一度、360のクーペモデルである知り合いのモデナをツインリンクもてぎのサーキットで試乗したことがあったけど、アンダーもオーバーも微妙な感じで出る、ちょっぴり“あの348”を思い出すようなクセのあるものだった・・・。なのでボクが360スパイダーを選んだのは、そこまで攻めて乗る気分も出ないスパイダーってのを一回乗ってみようというのがきっかけだね。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

購入時の意図通り、デートカーの資質を存分に発揮した360スパイダー。当時のガールフレンドたちからも評判は良く、わかりやすいスーパーカーオーラで一般受けも良かった。

 

デートカーとして活躍したスパイダー

 

ボクが53歳の頃だから2003年になるのかな? 鮮やかなイエローのボディが目を惹く360スパイダーはデートカーとして大活躍してくれた。ガールフレンドを誘って神宮外苑の銀杏並木で個人的に撮影会をしたり、気の利いたレストランへ誘ったりと、360スパイダーは最高の相棒になった。フェラーリというだけでも注目を集めるのに、フルオープンモデルはインパクトが凄かったと思う。ガソリンスタンドで出逢った青年が目を丸くして話しかけてきたことを今でもよく覚えている。

 

ボクのフェラーリ遍歴の中でもフルオープンモデルは初めてだった。走りを考えた時にどうしてもボディ剛性を優先してしまい、「快適性」とか「遊び心」を持つことができなかったんだよね。でも、初めてのフルオープンフェラーリは楽しかった。走りに対して寛容になれたし、気持ちに余裕を持ってドライブを楽しむことができた。ボディ剛性や足まわりのセッティングに目くじらを立てることなく、広い空とデートを満喫するなんて初めての経験。デートの約束を取り付け、約束の場所に360スパイダーで登場した瞬間、女性の表情が「驚き」と「笑顔」に変わる。もう、それが楽しくてねぇ。

 

360モデナはF355の後継モデルになるんだけど、フルモデルチェンジによってそれまでのV8フェラーリの系譜とは異なる新たな時代のクルマへと進化を遂げていた。ピニンファリーナによるボディデザインは緩やかな曲線を纏い、F355のシャープなスタイルから一変してエレガントなスタイルへとイメージチェンジされ、リトラクタブル式のヘッドライトは異形の埋め込み式に変更された。

 

BBやカウンタックで築き上げられた「スーパーカー=リトラクタブル」のイメージを覆したV8フェラーリのファーストモデルだってことだね。リトラクタブルヘッドライトの場合、ヘッドライトという重要なポイントが隠されていることでどうしてもフロントの表情が似てしまう。埋め込み式にすることでデザインの幅が広がりスタイルにも独自性が生まれるから個人的にはヘッドライト方式の変更は大歓迎だった。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

長い車歴の中でフルオープンモデルを所有するのはこのフェラーリ 360スパイダーが初だったという池沢先生。爽快な乗り味が何よりも魅力で、ボディ剛性も普段使いなら問題無いレベル。

 

オープン時のスタイルはベルリネッタよりスポーティ

 

360モデナの場合、ヘッドライトからフロントフェンダーにかけての曲線が美しく、サイドの切れ上がったキャラクターラインとのコンビネーションも絶妙だ。前後のバンパーに開けられた大きなダクトも個性的で、このスタイルが後のスーパースポーツのトレンドになった。サードパーティのエアロパーツの多くは360モデナのデザインがベースになったと言っても間違いではないと思う。

 

それにスパイダーの場合、屋根を開けた時にルーフパネルがない分だけボディの高さが薄くなるからスポーティさがアップするんだ。フロントからリヤにかけてのラインがシャープに見えて、カリフォルニアの風景が目に浮かぶようなセレブ感を楽しむことができる。ちょっと“やり過ぎ感”はあるけれど、ナンパなクルマとしては百点満点。“IT社長が買う始めてのフェラーリ”ってイメージだけどね(笑)。

 

実際の乗り心地は快適そのもの。サーキットに持ち込むことや峠を攻めることもなかったから、日常的なドライブではボディ剛性に不満を感じることもなくブレーキも十分なパフォーマンスを発揮してくれたと思う。特にオープン状態で走った時の爽快感は絶品。これはタルガトップのGTSでは味わえないフルオープンモデルならではの解放感だね。それに周りから注目を浴びる“主役感”は他のオープンカーで味わえない、まさに360スパイダーならではの醍醐味だ。

 

360スパイダーはデートカーとしては究極のクルマだったけど、唯一の弱点はマフラーの音が雑なこと。348やF355でマフラーを交換する楽しさを覚えてしまったボクはスパイダーでもマフラー交換を試みた。でも、どうしても好みのサウンドを出すことができず、そのストレスで手放してしまうことに・・・。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

レース車両で自宅からサーキットまで向かうのが理想という池沢先生にとって、フェラーリのワンメイクモデルを公道仕様にしたチャレンジストラダーレは、まさにストライクな1台だ。

 

360シリーズの究極、チャレンジストラダーレ

 

そして・・・「好事魔多し」じゃないけれど、スパイダーを手放した翌年、出逢ってしまったのが「360チャレンジストラダーレ」だ。ナンパなスパイダーとは違って、走りに特化したモデナと聞いたら興味が沸かないはずもなく、ボクは吸い寄せられるように手を出してしまった。

 

当時は「フェラーリをナンパな道具にしちゃダメだ」と反省していたこともあり、やっぱり「フェラーリ=走る楽しさ」という台詞を理由にして手に入れたストラダーレは戦闘的なスタイルが“硬派”だった。スパイダーと両極端というか正反対のモデルだからね。スパイダーの時は「どの娘をデートに誘うか」だったけど、ストラダーレでは「どの峠を攻めようか」に変わっていた。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

360モデナではサーキットで不足を感じたボディ剛性も、元々サーキット専用車をベースにしたチャレンジストラダーレなら全く問題ない。オリジナルのデカールもお気に入りの部分。

 

公道を走行できるレーシングカー

 

エンジンを掛けると乾いたV8サウンドは気持ちが良く、サイドサポートの利いたバケットタイプのドライバーズシートに座った瞬間アドレナリンがドクドクと溢れ出す。標準型の360モデナが持つ400hpから25hpアップされたパワフルさも走りの鋭さに貢献してくれた。ボディ剛性が高くてコーナリングが楽しめ、シャープなハンドリングはレーシングカーそのもの。

 

F355チャレンジからデザインを受け継いだパンチングメッシュのリヤグリル(編注:通称チャレストグリル)もカッコ良かったね。さらに自分らしさを加えるためにオリジナルのボディデカールで装っていたのもお気に入りのポイントになっていた。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

公道仕様のチャレンジストラダーレは、ベースになったチャレンジよりは快適性を重視していたとはいえ、アルカンターラとカーボンを組み合わせてレーシーなインテリアを提供していた。

 

不運に見舞われて・・・ちょっぴり切ない想い出

 

しかし、360チャレンジストラダーレとの蜜月はあっけなく終わってしまう。フェラーリの生誕55周年記念車であるエンツォ・フェラーリを取材するためストラダーレと向かった箱根。取材を終えてチャレンジストラダーレで帰ろうとしたら、突然大スピンを喫してしまった。これには驚いたねぇ・・・。今まで多くのフェラーリに乗ってきたけどスピンをしたのは初めてのこと。いきなりリヤが跳んで(なにっ!?って感じ)縁石にヒットしてしまい、ホイールとカーボンセラミックブレーキを壊してしまった。

 

スピンの原因はオイル。その場でエンジンルームを覗いてわかったんだけど、実はこの時チャレンジストラダーレのオイルフィラーキャップが外れていて、そこから吹き上げたオイルにタイヤが乗ってしまったんだ。多分、メンテナンスをした時にメカニックがフィラーキャップをしっかりと締めていなかったんだろうね。リヤタイヤにオイルが掛かってしまったらコントロールなんて不可能。むしろこの程度のダメージで終わったことが奇跡だったと思う。

 

このアクシデントをきっかけにチャレンジストラダーレへの愛情が薄くなってしまい、数ヵ月程度で手放してしまうことに。360チャレンジのストリート仕様だからかなり期待していたんだけど、縁が無かったのかなぁ・・・。恋愛の途中で破局してしまったような感覚は今でも忘れられない。もし、チャレンジストラダーレとの恋が続いていたらサーキットでも濃密なデートが楽しめていたと思う。今となってはちょっぴり切ない想い出だね。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

ソフトトップを畳むとピラーも残らず完全なオープンスタイルを実現するフェラーリ 360スパイダー。ボディはフェラーリ初のオールアルミ製となって軽量性能もアピールしていた。

 

Ferrari 360 Series

フェラーリ 360 シリーズ

 

GENROQ Web解説:V8フェラーリの新時代を築いた360シリーズ

 

F355の後継モデルとして1999年に登場した360モデナは、その排気量である3600ccの排気量が名前に与えられた。ボディデザインはピニンファリーナ社のダビデ・アルカンジェリが担当し、ディレクターとして日本人カーデザイナーである奥山清行氏がプロジェクトに参画している。

 

F355の特徴であったエッジの効いた直線的なデザインにピリオドを打ち、緩やかな曲線で構成されるエレガントなものへと生まれ変わった360モデナ。エアーダクトやドアアウターハンドルは女性のネイルをイメージしてデザインされ、基本的なスタイルはF355まで継承されたトンネルバックからファストバックへと変更。ガラス製のエンジンフードを採用することでミッドシップされるV型8気筒エンジンを望める視覚的効果も付加されている。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

ボディサイズは全長4477×全幅1922×全高1214mm、ホイールベースは2600mm。3.6リッターV型8気筒DOHC40バルブエンジンは最高出力400hp/8500rpm、最大トルクは38.0kgm/4750rpmを発揮し、トランスミッションは6速MTとF1マチックを用意。

 

ベルリネッタのモデナ、オープンのスパイダー

 

オールアルミニウム製のスペースフレームと共にボディのアウターシェルにもアルミ素材を多用することで軽量かつ高剛性を実現。CD値も大幅に向上され、先代のF355と比較した場合には290km/hの走行時に4倍ものダウンフォースを発生し高速域での優れた走行安定性を披露する。

 

1999年に登場した同モデルには6速MTモデルの「360モデナ」とパドルシフトで変速が行えるセミオートマチック(F1マチック)を搭載した「360モデナF1」をラインナップ。2000年にはソフトトップを備えたフルオープンボディの「360スパイダー/360スパイダーF1」を追加。

 

池沢早人師が愛したクルマたち第34回、フェラーリ 360シリーズ

フェラーリのワンメイクレース用に開発されたサーキット専用のチャレンジ。このスパルタンなモデルを公道仕様に仕立て直したのがチャレンジストラダーレで、内外ともに360モデナとは異なる部分は多く、フェラーリカスタムのお手本としても人気を博した。

 

ワンメイク用ベースの硬派なチャレンジストラダーレ

 

2003年から2005年にはワンメイクレース専用に開発された「360チャレンジ」の一般公道向けモデルとして「チャレンジストラダーレ」を発売。カーボンやアルミ素材を使ったレーシーなインテリアと、最高出力を25hpアップさせて425hpを誇るパワフルなV型8気筒ユニットが与えられている。徹底した軽量化によりその車両重量は1180kgとされ、標準型の360モデナと比べて110kgも軽くなっているのが大きな特徴。ちなみにストラダーレはイタリア語で「道路(公道)」を意味し、車名は「360チャレンジの公道仕様」を示している。

 

V8フェラーリを代表する特徴的な意匠であったリトラクタブル式ヘッドライトを捨て、新たな時代を切り拓いた360モデナ/360スパイダーだが、2005年に排気量を4.3リッターへとアップさせた「F430」へとスイッチしその役割を終えたのである。

 

 

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

 

 

【関連リンク】

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第2回 特別対談:清水草一(後編)】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第3回:フェラーリ348】

https://genroq.jp/2019/11/52939/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第4回:狼の愛車、NSX】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第6回:手放して後悔している993 GT2】

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