ジェームズ・ボンドが愛したアストンマーティン DB5に試乗!【ボンドカー特集】
公開日 : 2020/02/20 09:01 最終更新日 : 2020/02/20 09:01
ASTON MARTIN DB5
アストンマーティン DB5
ある朝、謎のテープレコーダーの入った小包が届いた
「おはようボンド君。今回の任務は、シルバーストーンでボンドカーのテストをしてもらうことだ。他言は無用。例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで。なお、このテープは自動的に消滅する。成功を祈る」
シュボーンッ!!!
やれやれ、いつもながらの手荒いモーニングコールだ。しかしながら、なんとも豪勢で魅力的な任務じゃないか。スペクターの罠ってわけじゃあるまいな。
さて、シルバーストーンに着いたはいいが、果たしてこんなコンパクトなサーキットだっただろうか。何? これはインフィールドにあるストゥ・サーキットというショートコースなのか。普段はアストンマーティンが借りて占有のテストコースにしてるって? あ、偽装したDBXがゴロゴロあるのはそのためなのか。こんな素晴らしい研究施設があるのなら向こう100年はMI6も安泰だな。
今日、私がステアリングを握るのは、すべて4月10日から日本でも公開される007シリーズの最新作『ノー・タイム・トゥー・ダイ』で使用された劇中車ばかりだ。
ゴールドフィンガーで活躍したDB5と対峙
まずは1964年公開の『ゴールドフィンガー』で使って以来、私の代名詞にもなっているアストンマーティン DB5から乗ってみよう。
DB5は1958年にデビューしたDB4の正常進化系というべきモデルで、シャシーは強固なスチール製のプラットフォーム。そこに細いスチールフレームにアルミとマグネシウムの軽合金パネルを組み合わせたイタリア・トゥーリングが特許をもつスーパーレッジェーラ・ボディを架装している。サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リヤはリジッドで、ステアリング形式はラック・アンド・ピニオン式。エンジンはダデック・マレックの手による軽合金製ブロック&ヘッドをもつ4リッター直列6気筒DOHCで、3基のSUツインにより最高出力280bhpを発生する・・・。これがそのざっとした概要だ。
調子のいいストレート6は吹け上がりも滑らかで、パワーもトルクも素晴らしいのだが、ノンアシストのステアリングは重く、アンダーステアが酷くて曲がらないというのが、これまでの私の印象。『ゴールドフィンガー』の中で敵のアジトでのカーチェイスシーンが少し早送りになっているのは、そういうことだ。
あれ? マシンガンも防弾板もない
このクルマには残念ながら内蔵のマシンガンもオイル散布も防弾板もイジェクトシートも付いていない。ラジオがベッカー製のクラシック風に変わっている以外、オリジナルのままだ。というか一度しっかりレストアされているようで、ボディラインの仕上がりは貴女のように美しい。
一方で、私の熱烈なファンの中には「これは本当のボンドカーじゃない」という者もいるだろう。確かにそのとおり。実は『ゴールドフィンガー』で特殊装備をつけ“エフェクトカー”と呼ばれていたのは、DP/216/1というシャシーナンバーをつけたDB5のプロトタイプであった。さらにもう1台、走行シーン用の“ロードカー”も用意されていたが、こちらはシャシーナンバーDB/1486/RのDB5だ。
ちなみにエフェクトカーは1997年にコレクターの元から盗難に遭い、姿を消してしまった。きっとスペクターの仕業に違いないと私は今でも思っている・・・。そういえば昨年のオークションで、6億8000万円でDB5のボンドカーが落札され話題になったが、あれは『サンダーボール』の公開にあわせて造られた2台のPRカーのうちの1台だ。
実はスカイフォールに登場したDB5
おっと話が逸れてしまった。時を戻そう。
今回のDB5は、制作会社のイオン・プロダクションの所有で『スカイフォール』にも出演したもの。基本的にスタンダードで、ギヤボックスはアストンマーティン製の4速ではなくZF製の5速MTが付くタイプとなる。
半世紀以上前の旧いクルマだからといって特に気負うことはない。インパネ中央のキーを捻れば一発でエンジンが目覚める。しかし回転を上げてクラッチを繋ぐのはいただけない。アイドリングでそっと繋いであげるのが流儀だ。そのくらい下からトルクはあるし、ミートポイントもわかりやすい。
テールが暴れだす! 活き活きとした走りに感激
いつ乗ってもこのストレート6は本当に素晴らしい! 個人的にジャガーEタイプのXKユニットも捨てがたいが、湧き出るようなパワー感はこちらの方が上。3基のツインチョークSUキャブの調律もいいようでエキゾーストノートも粒の揃った良い音を奏でている。ただ、ZFの5速は華奢だから常に一拍あけるジェントルな操作が必要だ。
しかしながら、ステアリングは驚くほど重い。現代の感覚で切り込むと曲がりきれないし、不用意にスロットルを開けると、いとも簡単にテールが暴れ出す。現代の電子デバイスてんこ盛りのクルマに乗っている諸兄が乗ったら、面喰らうかもしれない。でもお尻でリヤタイヤの動きを感じながら、じわじわっとスロットルを開け、ステアリングで補正しつつテールを滑らせてあげると、活き活きとDB5は走りだす。また、DB4から採用されているサーボ付きの全輪ダンロップ・ディスクブレーキも、タッチ、制動力ともに十分。60年代のGTとしてはトップレベルのポテンシャルをもっている。
あと驚いたのは、散々サーキットで走っても水温、油温、油圧が一定で、ピットレーンにオイル染みひとつなかったことだ。さすがMI6、いやアストンマーティンがしっかりとメンテナンスを施しているだけはある。
いやぁ、まったく最高な体験だった。思わず2回も試乗してしまった! おい、そこの君、ウォッカ・マティーニを。ステアではなくシェイクで。え? まだまだ試乗の続きがあるって? 失礼。ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。(続く)