池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第14回:メルセデス・ベンツ SL55 AMG】

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGの走行シーン

華やかなスーパーカー人生の裏方として活躍

 

1975年、週刊少年ジャンプで連載が開始された『サーキットの狼』。作中に登場するスーパーカーは大きな注目を集め「スーパーカーブーム」と言う社会現象を巻き起こした。その後、週刊プレイボーイで『サーキットの狼II モデナの剣』を連載し、バブル経済の真っ只中に巻き起こった輸入車ブームを牽引した。

 

時代の節目に起こる“輸入車ブーム”に大きな影響を与えた池沢早人師先生。漫画家でありながらも自動車業界にも精通し、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなど名だたる名車を愛車として現在までに70台を超える自動車遍歴を持っている。今回は歴代の愛車の中から、池沢先生のパブリックイメージとは遠い存在と思われる「メルセデス・ベンツ SL55 AMG」にスポットを当て、その魅力を語って頂く。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGと池沢先生のツーショット

日常の足としてSL55 AMGを愛用していた池沢先生。5年間の長きに渡って所有していたが、あまりに身近な存在すぎて写真はほとんど撮らなかったとか。これは唯一残された貴重なツーショット写真。

 

ボクの私生活を支えてくれた質実剛健なAMG

 

ボクの漫画家人生はスーパーカーと共に歩んできたことは間違いない。フェアレディZに乗りたいがために免許をとったのが始まりだった。その後はロータス ヨーロッパやトヨタ 2000GT、フェラーリ 512BB、ランボルギーニ カウンタックなど憧れのクルマを乗り継ぎ、スーパーカーと呼ばれるクルマはボクの人生を豊かにしてくれた。

 

でもね、ボクも普通に足として使う便利なセカンドカーを必ず所有していた。今思えば苦笑するんだけど初めてのゴルフ場にはカウンタックで行ったんだ。すると玄関先でお迎えしてくれたゴルフ場の人が思いっきり引いていた(笑)。こんな時にはフェラーリやランボルギーニは決して実用向きではないから、日常生活を支えてくれるセカンドカーは欠かせない存在になっているんだ。

 

基本的にボクの生活は複数台のクルマを使用することが根底にあって、華やかなスーパーカーのサポート役として実用的なクルマが活躍してくれている。でも、セカンドカーだからといって燃費重視のハイブリッドカーや居住性を求めたミニバンなんて“池沢流”じゃないよね。セカンドカーではあるものの「走りの良さ」や「操る楽しさ」は決して妥協したくない。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGの走行シーン

500psを発生する5.5リッターV8スーパーチャージャーに、日常の使い勝手をサポートする電動格納式メタルトップ「バリオルーフ」を採用。当時の自動車雑誌もこぞって取り上げた。写真はデビュー直後に『GENROQ』に掲載された一コマ。

 

実はフェラーリやポルシェに劣らずAMGの大ファン

 

そんなボクがセカンドカーとして愛していたのが「AMG」。大昔には「アーマーゲー」って呼ばれていたけど、今ではメーカーが推奨する「エーエムジー」という呼び名が馴染んできたね。でも辛口で言えば、昨今はAMGバージョンとかで安売り感があるような・・・まあ商売上なんだろうけどね。

 

「池沢早人師=フェラーリやポルシェ」と言うのが一般的みたいだけど、実はAMGの大ファンなんだよね(笑)。AMGフリークと言うことはあまり知られていないかもしれないけど、1970年代に活躍した「300SEL 6.8」は憧れの存在で、高級セダンをベースにしながらも迫力のあるレーシングスタイルはボクの心を魅了した。

 

その後にはドイツのDTMでも最強の存在として活躍し、現在はモータースポーツシーンには欠かせない存在。AMGはブラバスやロリンザーのようにメルセデス・ベンツのチューニングメーカーとしてスタートしたのが始まり。その後、活躍が認められて1999年にはメルセデス・ベンツのスポーツモデル部門に迎えられたエリートでもある。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGのシート

2シーターのスポーツモデルでありながら、ゴルフバッグを2個積んでゴルフ場まで快適に移動できたのもSL55 AMGを池沢先生が愛用した理由のひとつ。

 

ゴルフエクスプレスとしても活躍

 

ボクが最初に手に入れたAMGは、W126型メルセデス・ベンツSクラスをベースにしたAMG 500SEL。1980年代の前半だったと思うんだけど、オートロマンっていうショップで購入したんだ。堂々としたSクラスのボディなのにアクセルを踏むとグイグイと加速し、高速道路の移動では最強だったね。その後、AMG E50に乗り継ぎ、今回紹介するSL55 AMGへと辿り着く。メルセデス・ベンツ SL500をベースにしていることもあり、走りと華やかさが同居するスタイルはお気に入りだった。

 

ゴルフに行く時にもルーフを開けなければ2つのキャリーバッグを余裕で積めたのは便利だったね。もちろん、運動性能も文句なし。スーパーチャージャーを備えたパワフルなV8エンジンはAMGならではの精密さと信頼性があり、足まわりの剛性感やブレーキの制動力もドイツ流の質実剛健さが味わえた。2シーターオープンには軟派なイメージがあるけど、このSL55 AMGのソリッド感はドイツのGT(グランドツアラー)そのもの。

 

高速域の直進安定性は200㎞/h以上でその当時のフェラーリやポルシェより優れていたのには驚いたよ。サーキットでは電子制御をオフにして走っても、コーナーを攻めていると最終的には介入してくるところが、ドライバーを信じていないメルセデスらしいところ。実用域でのパフォーマンスは素晴らしいのひと言。フロントエンジンのモデルでこれだけの運動性能を実現できるのはレースの世界で鍛え上げたAMGならではの「匠」なんだろうね。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGのエンジン

エレガントなアピアランスと電動メタルトップを採用し、いかにもデートカー然としながらリミッターを解除すれば最高速度300km/hのポテンシャルを秘めていた。まさに「羊の皮を被った狼」の言葉が相応しい。

 

海外の自動車雑誌を見てひと目惚れしたSL55 AMG

 

このSL55 AMGを選んだ理由は、以前に乗っていたAMG E50の良さが記憶に焼き付いていたことが大きい。Eクラス(W124)ベースのAMGの4ドアセダンは「箱でスポーツカーに勝る走りをするのは、まさに羊の革を被った狼で嫌いじゃない」と考えていたんだ。そんな時、バカンスに出かけたタイのプールで海外の自動車雑誌を見ていたら、300km/hオーバー車をテストした特集記事があった。その中で何と、SL55 AMGのコストパフォーマンスが一番優れているのを知った。スタイリングもさることながら一瞬で好きになった。

 

この雑誌の記事のインパクトは大きかった。帰国直後にオーダーを入れ、真っ赤な内装のSL55 AMGを手に入れたのが2003年。一台のクルマに長く乗らないボクが5年間という長期間手放さずに乗り続け、走行距離も5万km以上を刻むほど日常の足として大活躍してくれた。もちろんデートカーとしてもネ。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGの走行シーン

日常の使い勝手や500psを発生する5.5リッターV8スーパーチャージャーが魅せるパフォーマンスはもちろん、ヘッドライトの造形は自らが描くキャラクターの目に通ずる部分があり、スタイリングと共に気に入っていたとか。

 

実用性と走りを両立した歴史に残る名車

 

実はボクにとって初の500psオーバーの愛車がSL55 AMG。走りの良さを最大限に引き出すために、このクルマを手に入れてから「左足ブレーキ」を使うようになったんだよね。ロングノーズショートデッキのスタイルもボク好みだったけど、最も気に入っていたのはヘッドライト。

 

瓢箪型の異形レンズは漫画のキャラクターのようで、ボクが描く漫画と共通するイメージが重なったことも大きい。ボクが描く漫画ではキャラクターの瞳の中にふたつの星(光)を入れているんだけど、SL55 AMGはレンズを通して透けて見えるリフレクターが星に見える。漫画もクルマも目(ヘッドライト)がポイントってことだね。

 

ボクにとってスーパーカーという主役を支えるため、バイプレーヤーとして実生活を支えてくれたのがSL55 AMGだった。ときにはスーパーカーを喰ってしまうようなオールマイティさは、自分が駆る機会が多かったことでも証明できる。ドイツ流の実々剛健さと走る楽しさを両立した素晴らしき存在。今でも実用性と走りを両立するクルマとしてAMGを超える存在は無いと思う。その証拠にボクの私生活を支える相棒として後にC63 AMGを手に入れることになるんだけど、その話はまた別の機会に。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGのフロントスタイル

ボディディメンションは全長4535×全幅1815×全高1295mm、ホイールベースは2560mm。250km/hでリミッターが作動するものの、300km/hに届くポテンシャルを秘めていた。

 

Mercedes-Benz SL55 AMG

メルセデス・ベンツ SL55 AMG

 

GENROQ Web解説:潜在力は300km/hに迫るSL55 AMG

 

ドイツのチューナーとして1967年に設立されたAMG。創立者であるハンス・ヴェルナー・アウフレヒト、エンジニアのエアハルト・メルヒャー、アウフレヒトの生まれ故郷であるグロース・アスバッハの頭文字を取ってAMGと命名された。

 

同社はメルセデス・ベンツのチューナーとして活躍すると共に1971年にはフランスのスパ・フランコルシャン24時間レースに参戦。レーシングモデルとして手を加えた300SEL 6.8がクラス優勝を果たしたことでその名を世界へと轟かせた。その後、1986年からはDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)に参戦し数多くのタイトルを獲得。また、2012年にはモータースポーツの最高峰であるF1GPにも参戦し、コンストラクターとして大きな成功を果たす。

 

また、AMGはチューニングブランドとしてアフターマーケットパーツ販売でも大きな成功を収め、世界中のメルセデスオーナーたちから高い支持を得る。同時に豊富なチューニングメニューを施したオリジナルモデルをリリースし、パワフルかつエキセントリックなモデルたちは高性能を武器に世界中へとデリバリーされた。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGのインテリア

1954年にデビューした300SLに端を発し、徐々にGTとしての性格を強めていったSLシリーズ。SL55 AMGはシリーズとしては5世代目にあたるR230型SLをベースとしてリリース。電動格納式のメタルトップ「バリオルーフ」により、クローズド時の居住性は普通のクーペに遜色なかった。

 

ドイツの自動車哲学を凝縮した精緻なチューニングは高い信頼性を兼ね備え、その技術力に着目したメルセデス・ベンツとの提携により1980年の中盤からは公式部品として供給が開始された。1993年には初の共同開発車としてC63をリリース。1999年に当時のダイムラー・クライスラー社に吸収され、2014年からは正規ブランド「メルセデスAMG」としてラインナップに加えられることとなる。

 

AMGのチューニングモデルはメルセデス・ベンツの新車開発と共に始まり、開発初期の段階から情報が伝えられるという。そのため、新車発表と同時にAMGが手掛けたモデルはカタログにも掲載され、ラインナップのひとつとして展開されている。また、オプションパーツとしてAMGのアルミホイールやエアロパーツも設定され、AMGパッケージはメルセデス・ベンツのバリエーションとして高い人気を誇っている。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGのエンジン

搭載エンジンは5.5リッターV型8気筒SOHC+スーパーチャージャー。最高出力500ps/6100rpm、最大トルク700Nm/2650〜4500rpmのスペックを計上し、トランスミッションは5速ATを採用する。1955kgの車重ながら0-100km/h加速は4.7秒を記録した。

 

独立系チューナーとしてスタートしたAMG。モータースポーツの世界での成功をきっかけにその存在を世界へと知らしめ、数多くのロードゴーイングカーを送り続けてきた。その中で、今回ピックアップしたSL55 AMGは2001年に5世代目へとフルモデルチェンジが施されたメルセデス・ベンツR230型SL500をベースに開発されたモデル。

 

電動格納式のルーフ「バリオルーフ」を持つ2シータースタイルのロードスターは、ブレーキバイワイヤーである「センソトロニックブレーキコントロール(SBC)」や電子制御サスペンション「アクティブボディコントロール(ABC)」などの最新テクノロジーが満載された。

 

パワーユニットはAMGがチューニングを施した5.5リッターのV型8気筒SOHCとなり、スーパーチャージャーで武装することで500ps/6100rpmの最高出力と700Nm/2650~4500rpmの最大トルクを発揮。標準型の500SLと比較して194psものパワーアップが図られている。組み合わせるトランスミッションは標準型と同じ電子制御式の5速ATを採用。従来のティップシフトに加え、ステアリングコラム左右に設えたセレクタースイッチで変速できる「AMGステアリングシフト」を装備。

 

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後、SL55 AMGの走行シーン

AMGデザインのフロントスポイラー、サイド&リヤスカート、専用ホイールなど見た目にも通常ラインナップのSLとは一線を画したSL55 AMG。2002年から2008年まで生産された。

 

また、ブレーキの容量アップやリヤアクスルの強化、電子制御サスペンションのチューニングなどが施され、500psというハイパフォーマンスを遺憾なく発揮できるように設計されているのもAMGならではの哲学だ。

 

エクステリアではオリジナルデザインのフロントスポイラー、サイド&リヤスカートが装備されると共に美しいマルチスポークホイールが奢られ流麗なスタイルを身に纏う。室内は上質なレザーを使用した専用のステアリングホイール、スポーツシート、センターコンソール、ドアトリムで飾られ、スポーティさとエレガントさを演出している。

 

 

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

 

 

【関連リンク】

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第2回 特別対談:清水草一(後編)】

https://genroq.jp/2019/11/51799/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第3回:フェラーリ348】

https://genroq.jp/2019/11/52939/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第4回:狼の愛車、NSX】

https://genroq.jp/2019/12/55335/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第5回:7年越しで手に入れたF40】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第6回:手放して後悔している993 GT2】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第7回:2人でゴルフにも行けたテスタロッサ】

https://genroq.jp/2019/12/58398/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第8回:“スノーフェアリー”と呼ばれたRUF CTRII】

https://genroq.jp/2020/01/59091/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第9回:ひと目惚れしたディアブロSV】

https://genroq.jp/2020/01/60339/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第10回:R32 GT-Rに教わったもの】

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・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第11回:フェラーリ F355】

https://genroq.jp/2020/01/25/62311/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第12回:ポルシェ 911 カレラ RS】

https://genroq.jp/2020/02/01/63064/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第13回:フェラーリ 360シリーズ】

https://genroq.jp/2020/02/15/64764/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編:サーキットの狼ミーティング】

https://genroq.jp/2020/02/22/65872/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編2:サーキットの狼ミーティング】

https://genroq.jp/2020/02/29/67018/

 

・池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編3:サーキットの狼ミーティング】

https://genroq.jp/2020/03/07/69022/