新型ベントレー フライグスパー試乗! 渡辺慎太郎が痛感した揺るがぬ美学とは【動画レポート】

ベントレー 新型フライングスパーのフロント走行イメージ

Bentley Frying Spur

ベントレー フライングスパー

 

 

新型フライングスパーが受け継ぐベントレーの情緒

 

数千万円というプライスタグを掲げるようなクルマは、どれもすごく豪華で速くて快適で、ちゃんと走って曲がって止まる。乗り味を文字で簡略表現するとこんなふうにみんな同じになってしまうけれど、実際にはやっぱり明確な違いが存在する。

 

フルモデルチェンジした2667万4000円のベントレー フライングスパーもまた、すごく豪華で速くて快適で、ちゃんと走って曲がって止まるクルマだが、そこにはちゃんとベントレーの風味や情緒が宿っていた。

 

ベントレー 新型フライングスパーのフロントイメージ

3代目となる新型フライングスパーは、完全新設計のアルミ複合材によるシャシーを採用。48Vシステム、後輪操舵、アクティブ4WD、電動アクティブスタビライザーを用いるアンチロールバー、連続ダンピングコントロール(CDC)、トルクベクタリングなどを搭載する。

 

プラットフォームはポルシェ パナメーラと共有

 

従来型と比較すると新型の基本性能は飛躍的なボトムアップが図られている。これは少し大げさにいえば、トランスミッションをDに入れてブレーキをリリースし、クリープでゆっくりと走りながらステアリングを切るくらいのほんのわずかな時間でもわかるほどだ。

 

この劇的な変貌の一翼を担っているのが新しいプラットフォームであることに疑う余地はない。フォルクスワーゲングループ内で“MSB”と呼ばれるプラットフォームはその開発をポルシェが担当したといわれ、エンジンを縦置きにフロントへミッドシップ配置したアーキテクチャーである。現行のポルシェ パナメーラで初採用となり、コンチネンタルGTに次いでフライングスパーが3台目の共有モデルとなる。

 

ベントレー 新型フライングスパーのコクピットイメージ

デジタル化したインストゥルメントパネルや12.3インチのタッチスクリーン、先進の運転支援システムなどを完備しながらも、それらの最新装備が悪目立ちしない格式あるキャビンを作り上げている。

 

ミュルザンヌに通じる伝統的シルエット

 

ベントレーの場合は操縦性や乗り心地のみならず、スタイリング面でもMSBの恩恵にあずかっている。ベントレーは伝統的にフロントショートオーバーハング、リヤロングオーバーハングというシルエットを継承してきた。こうすることで、フロントにはいまにも走り出しそうな躍動感が、リヤにはどっしりとした安定感がそれぞれ表現できるのだけれど実はこれ、ベントレーに限ったことではなく、昔のFRのモデルのエクステリアデザインにおいては常套手段といえるものだった。

 

しかし最近では衝突安全性など、デザインにも多様な機能性が求められるようになり、FRでもフロントのオーバーハングが長いモデルも少なくない。そんな時代の流れの中にあってもベントレーは自社のアイデンティティを守ろうとしているのだろう。すでに生産中止が決まったミュルザンヌも同じようなシルエットであることからもそれは窺える。

 

ベントレー 新型フライングスパーのエンジンコンパートメントイメージ

狭角V6をふたつ組み合わせたW12気筒ユニットにツインターボを組み合わせたパワフルな心臓。1750rpmから4500rpmという広い範囲で900Nmものトルクを生む。

 

50:50に極めて近い前後重量配分

 

ボディサイズは全長5325mm、全幅1990mm、全高1490mm、ホイールベース3195mmで堂々たる存在感を放つ。1490mmという全高の数値は、“低い”セダンが蔓延る昨今においてはかなり“高い”が、むしろ低く見えるのは全長と全幅とのバランスの妙だろう。これくらいのボディサイズだからこそ可能なことでもあるだろうし、前後フェンダー付近の彫りの深さと相まってエレガントとスポーティの両立を見事に成し遂げている。

 

前後重量配分は、車検証に記されている前軸重/後軸重から計算すると53対47。12気筒エンジンを積んでいるにもかかわらずこの重量バランスが達成できたのも、エンジン搭載位置を前軸の真上からやや後方にしたMSBプラットフォームの恩恵と言える。

 

ベントレー 新型フライングスパーのエンブレムイメージ

新型フライングスパーのボンネットには完全新開発の「フライングB」が載る。任意で格納することも可能で、夜間に点灯するオプションも。

 

19年進化し続けてきたW12エンジン

 

今後V8が追加されるのかどうかはわからないけれど、現時点でフライングスパーを動かしているのは12気筒ツインターボエンジンのみである。“V12”ではなく“W12”と呼ぶこのユニットは、遡れば“VR6”の名称で親しまれていたフォルクスワーゲンの狭角(バンク角=15度)V型6気筒エンジンに辿り着く。

 

これを縦ではなく横にふたつ、60度の角度で組み合わせたことから“V”がふたつで“W”となった・・・なんてことは皆さんならよくご存じだろうが、「なんでWなんですか?」ととある若者に聞かれたので念のため記してみた。でもよく考えてみればW12がデビューしたのは2001年の東京モーターショーで、いまから19年も前なのだから知らない世代がいてもおかしくない。それくらい寿命の長いエンジンである。

 

ベントレー 新型フライングスパーのステアリングホイールステッチイメージ

フライングスパー1台に使用する糸の長さは3kmに及ぶ。最も精巧な手縫い技術を必要とするステアリングホイールは職人が3時間半かけて5mの糸でステッチを施す。

 

900Nmの大トルクが生む猛烈な加速

 

途中ちょっと古臭く感じる時代はあったものの、改良の手が止まることなくいまに引き継がれ、以前のような古臭さは今ではまったくない。ロングストローク型でも最高出力の発生回転数である6000rpmまでよどみなくきれいに吹け上がるし、900Nmもの極太なトルクは1350rpmから4500rpmという幅広い回転領域で4輪に強力なトラクションを与え続ける。

 

メーカー公表値の最高速度333km/hは若干怪しいけれど、0-100km/h加速=3.8秒は「もう少し速いんじゃない?」とこちらのデータも疑いたくなるほどの猛烈な加速感が味わえる。あえて“猛烈”と書いたが、それは勢いよくスロットルペダルを踏みつけた時だけ。通常の運転で荒々しさを見せる場面はまず訪れず、あくまでも紳士的に力強い。

 

ベントレー 新型フライングスパーのリヤ走行イメージ

従来は前後駆動力配分が40:60固定のフルタイム4WDだったが、新型ではアクティブ型に変更。モードや状況に応じて前輪へ最大480Nmのトルクを伝達する。

 

どこまでも続く「静けさ」

 

人間というのは、車速の上昇に比例してノイズや振動が次第に増えていくものだと経験的に身体が覚えている。ところがフライングスパーはグングンと速度が上がっていっても室内の静粛性は保たれたままだし乗り心地にも大きな変化が見られないからやっかいだ。良くも悪くも“速度感”が希薄なため、気が付くとスピードメーターがとんでもない数値を示していて「やばいやばい」と慌ててスロットルペダルを戻す状況に何度も見舞われる。ここまで粛々とめっぽう速いセダンはめったにお目にかかれない。

 

路面やパワートレインからの入力は人が不快に感じる類がほとんどなので、それを遮音や吸音やそもそも振動自体を発生させないよう、高級車メーカーはあの手この手を駆使して快適なキャビン空間をしつらえている。

 

フライングスパーはミュルザンヌの後継車的位置付けでもあるので、ショーファードリブンカーとしての性能や機能も求められる。それでも運転席に座っている限り、路面状況を知るためのステアリングフィールであるとか8速DCTの“適度な”変速ショックとか、ドライバーがクルマと繋がっていると実感するために必要な情報はきちんと残されていた。トルクコンバーター付きのATではなくクラッチ付きのDCTを選んだのも、そういう理由があるのではないかと(勝手に)察している。

 

ベントレー 新型フライングスパーのリヤシートイメージ

ショーファードリブンカーとしての役割も担うであろう新型フライングスパー。車速を問わずキャビンはひたすらに静かで、常に快適さをキープする。

 

「FR的」にも走れるアクティブ4WDを採用

 

従来型の前後トルク配分固定式(60:40)に代わり、新型は可変式4WDシステムを搭載する。後輪駆動がデフォルトで、状況に応じて前輪にもトルクを配分するというロジックである。また、この加減はドライブモードによっても異なり、“コンフォート”と“ベントレー(=オート)”では前輪に最大480Nm、“スポーツ”では最大280Nmが配分されるようそれぞれ設定されているそうだ。

 

コンフォートやベントレーなど、日常での使用が想定されるモードでは安定性を重視、スポーツではコーナーでの再加速時など必要な時のみ前輪を駆動させ、基本的にはFRのようなハンドリングを楽しんでもらおうという配慮だと思われる。

 

ベントレー 新型フライングスパーのフロント走行イメージ

後輪操舵はもとより、トルクベクタリングやアクティブアンチロールバーなどを総動員し、長大なボディを感じさせないほどあくまで自然で優雅にノーズの向きを変えていく。

 

ベントレー初の後輪操舵を導入

 

フライングスパーにはベントレー初となる機構が装備されている。“エレクトロニックオールホイールステアリング”と呼ばれるそれはいわゆる後輪操舵で、3mを超えるホイールベースによる曲がりにくさを軽減する。

 

実際にはこれとブレーキを使ったトルクベクタリング、反応速度の向上を狙って48V(12Vを昇圧)を使ったアクティブアンチロールバー、空気ばねと電子制御式可変ダンパーを組み合わせたエアサスペンションなどの相乗効果により、ホイールベースの長さを意識させない優れた回頭性を示す。ステアリングをゆっくり回せば従順に、速く回しても決して遅れることなく、ドライバーの意志通りに右へ左へと動いてくれる。ピッチとロール方向の動きは極めてスムーズかつ滑らかだ。

 

ベントレー 新型フライングスパーの3次元ダイヤモンド・キルティング・レザー・ドアインサートイメージ

新型フライングスパーのキャビンにはダイヤモンドパターンを随所に使う。通常より薄くなめしたレザーを3次元加工したドアインサートは自動車業界初採用。

 

自らの「一番の旨味」を熟知するエンジニア

 

それでいて反応遅れがまったくないから、ステアリング操作が自然と丁寧にできてクルマの挙動が優雅になる。でも旋回速度自体は直進時と同じように、びっくりするほど速い。一方で旋回中の姿勢は終始盤石でばね上が完全に止まっているかのようでもある。“静”と“動”は本来対極にあるもののはずなのに、フライングスパーのみならず最近のベントレーはこのふたつが同時多発する。そんな乗り味が特徴的だ。

 

フライングスパーの空気ばねは3つのチャンバー(空気室)を備え、状況に応じて素早くばね定数を変化させる。基本構造はパナメーラと同じだと思われるが、セッティングはベントレー独自のもので、ばね上の動きを強制的に抑え込むのではなく、わずかながらもそれなりに動かして、ゆったりとした乗り心地をほぼすべての速度域で提供する。

 

おそらくエンジニアは、ベントレーの乗り心地とはどうあるべきかというかなり具体的なイメージを持っていて、それが実現できるようばね定数とダンピングレートをはじき出しているのだろう。ロールス・ロイスほど重厚ではなくポルシェほどスポーティではない、その中間辺りに位置する独自の乗り心地のスイートスポットを確立している。

 

ベントレー 新型フライングスパーのリヤフェンダーイメージ

新型フライングスパーのエッジの効いた彫刻的なプレスラインは、スーパーフォーミングと呼ぶ最新のアルミ成形技術が生み出している。

 

ベントレーの明日を照らすサルーン

 

フライングスパーの室内は絢爛豪華である。上質な本革やウッドパネルは素材の持ち味をさらに引き立てるような仕立てが施され、贅沢な空間を演出する。奇をてらわず、伝統や格式を重んじた機能美がそこにある。高価な素材を多用すれば自動的に豪華な雰囲気になると勘違いしている某自動車メーカーなどは、ベントレーの様式美をもっと学んだ方がいいと思う。

 

ミュルザンヌの生産中止は、個人的にちょっと残念だったけれど、現行のベントレーのラインナップの輪の中に入れないような疎外感があったのも事実である。おそらく古き良きベントレーを知る人にとってはミュルザンヌのほうがしっくりくるだろう。しかし、コンチネンタルGT、ベンテイガ、そしてフライングスパーのトリオは、これからのベントレーの進むべき道を鮮明に照らしているように思う。

 

ベントレー 新型フライングスパーのフロントイメージ

2019年に100周年を迎えたベントレーの「次の100年」を牽引する新型フライングスパー。伝統と格式、先進と革新を独自の美学に落とし込み、彼らのこれからの進むべき方向を示した1台だ。

 

4ドアセダンのフライングスパーに乗っても痛感したのは、ベントレーはやっぱり“ドライバーファースト”なクルマだということ。アウディではなくポルシェのプラットフォームを選んだことからもそれは察しがつく。ポルシェこそ自他共に認めるドライバーファーストのクルマなのだから。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO & MOVIE/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

 

 

 

 

【SPECIFICATIONS】

ベントレー フライングスパー

ボディサイズ:全長5325 全幅1990 全高1490mm

ホイールベース:3195mm

車両重量:2540kg

エンジン:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5950cc

ボア×ストローク:84×89.5mm

最高出力:467kW(635ps)/5000rpm

最大トルク:900Nm/1750-4500rpm

トランスミッション:8速DCT

駆動方式:AWD

サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク

ブレーキシステム:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22

最高速度:333km/h

0-100km/h加速:3.8秒

車両本体価格(税込):2667万4000円

 

 

【問い合わせ先】

・ベントレーコール

TEL 0120-97-7797

 

 

【関連リンク】

・ベントレー公式サイト

https://www.bentleymotors.jp