幻のロータリースポーツ「メルセデス・ベンツ C 111-II」、ミュージアムでの公開と決定版書籍を刊行【動画】

公開日 : 2020/04/03 17:55 最終更新日 : 2020/04/07 11:55


メルセデス・ベンツ C 111-IIのフロントエクステリア

Mercedes-Benz C 111-II

メルセデス・ベンツ C 111-II

 

 

デビュー50周年を記念し、メルセデス・ベンツ・ミュージアムで展示

 

ヴァンケル式ロータリーエンジンの開発・研究のテスト車両として登場し、最後は伝説的なレコードブレーカーとなった「メルセデス・ベンツ C 111」。その数奇な歴史を通して“コンセプトカー”を超えた様々な逸話を持っている1台だ。

 

今回紹介する「C 111-II」は、最高出力257kW350hp)を発揮する「M 950 F」ロータリーエンジンを搭載。1969年のフランクフルト・モーターショーでデビューしたC 111に続き、1970312日から22日に開催されたジュネーブ・モーターショーでワールドプレミアされた。

 

エキゾチックなガルウイングドアを採用し、最高速度はスーパースポーツの名に恥じない300km/h。鋼板製アンダーボディフレームに、全高1120mm・ホイールベース2620mmというコンパクトなサイズのガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製ボディが組み合わせられている。

 

2020年3月にデビューから50年を迎えたC 111-IIは、メルセデス・ベンツ・ミュージアムにおける展示が決まっている。

 

メルセデス・ベンツ C 111のテストシーン

ロータリーエンジンをミッドに搭載したメルセデス製スーパースポーツとして、1969年のフランクフルト・モーターショーでデビューしたC 111は大きな話題を呼び、世界各地のショーで展示されることになった。

 

Mercedes-Benz C 111

メルセデス・ベンツ C 111

 

フランクフルトでセンセーションを巻き起こしたC 111

 

メルセデス・ベンツの経営陣は、“市販モデル”のような完成度を持つロータリースポーツを、1969年9月11日~21日に開催されるフランクフルト・モーターショーで初公開することを決定。C 111は登場時から大きなセンセーションを巻き起こした。

 

その衝撃的なデビューに続き、C 111は他の数多くのモーターショーや展示イベントに持ち込まれた。フランクフルトに続き、1969年10月開催のパリ・モーターショーとロンドン・モーターショー、同年10~11月のトリノ・モーターショー、さらにウィーン(1969年11月)、エッセン (1969年12月)、ブリュッセル(1970年1月)、シカゴ(1970年2月)と、各地で多くの自動車ファンから注目を集めた。

 

そして、進化版のC 111-IIが1970年3月にジュネーブで初公開されることになった。

 

メルセデス・ベンツ C 111-IIのラゲッジに収められる3個のスーツケース

1970年のジュネーブでデビューした進化版のC 111-IIは、4ローターエンジンを搭載し、最高速度300km/hを実現。さらにリヤには専用スーツケースを収められるラゲッジスペースも設けられていた。

 

バターも溶けない、ラゲッジスペースを確保

 

前述のように、C 111-IIは1969年秋に発表されたC 111をベースに開発された。技術的なトピックとしては、やはり当時最先端の4ローター・ヴァンケル式ロータリーエンジンが挙げられるだろう。それ以上に人気を集めたのが、当時のメルセデスのイメージからはかけ離れたモダンなエクステリアだった。

 

ブルーノ・サッコとヨーゼフ・ガリッツェンドルファーが率いるメルセデスのデザイン部門は、1969年の夏にC 111-IIのデザインをスタート。前モデルであるC 111と比較すると、マッドガード、ルーフ、トランクリッドのデザインを変更。この結果、ドライバーの視界が大幅に改善されている。また、前面投影面積が減ったことで空力レベルも向上。風洞実験によると、C 111と比較して約8%もドラッグが減少していたという。

 

C 111-IIのインテリアにはモダニズムの精神が貫かれた。コンセプトカーでありながらも、リヤにはメルセデス・ベンツ特製スーツケースセット(大型スーツケース1個と小型スーツケース2個)を収めることが可能なラゲッジスペースを備えている。さらに、ストラップで固定してスキー板を運ぶこともできた。

 

メルセデス・ベンツの開発責任者を務めていたルドルフ・ウーレンハウトは、C 111-IIの実用性を試すべく「バターテスト」も行なっている。これは高速走行時にエンジンルームから発せられる熱によって、断熱材に囲まれたラゲッジに収められたバターが溶けるかを確認する実験だ。

 

メルセデス・ベンツ C 111-IIのサイドエクステリア

フランクフルトでのデビュー直後から市販化を求める声は大きかったC 111だったが、メルセデスがゴーサインを出すことはなかった。

 

ファンからの熱い要望にも市販化はされず

 

発表当時、多くのリッチなスポーツカーマニアたちは、C 111の購入を真剣に検討していたと言われている。たとえば1969年のロンドンでは、ある資産家が50万ドイツマルクの支払いをメルセデス・ベンツに申し出たという事実もある。発表以来数ヵ月にわたってシュトゥットガルトには空白の小切手が届いたが、メルセデスは「C 111はあくまでも実験車両であり、販売はない」と明らかにした。

 

そもそも開発のスタート段階において、C 111(メルセデス内での初期プロジェクト名は「C 101」)は、高価なスーパースポーツをターゲットにはしていなかった。当初のコンセプトでは1963年にデビューした「W113型 SL」の下に位置し、ロータリーエンジンを搭載する「小型で手頃な価格のスポーツカー」を目指していたのだ。また、ラリーのベース車両としても考えられており、快適装備を省くことで特に若者をターゲットにしていたと言われている。

 

テスト中のメルセデス・ベンツ C 111-II

1960年後半の段階で、初歩的なコンピューターシミュレーション技術を使い開発されたC 111。ヴァンケル式ローターリーエンジン以外にも、走る実験室として様々な試みが行われている。

 

世界で初めてコンピューター演算を使い開発されたC 111

 

現在の目から見ても非常に先進的なコンセプトを持つC 111だが、それはコンピューターを使用して完全に設計された世界初の車両だからかもしれない。 メルセデス・ベンツは、自社内で有限要素法(FEM)を発展させた弾性要素法(ESEM)を導入。この結果、コンピューター上で車両構造の動的負荷計算が可能になった。

 

ESEMの導入により、開発期間は従来と比較して約4ヵ月も短縮された。この新技術の導入過程は、はメルセデス社内で製作されたドキュメンタリーフィルム「Das Auto, das aus dem Computer kam (コンピューターによって生まれたクルマ)」で知ることができる。

 

また、1970年12月にはC 111-IIにロータリーエンジンと比較すべく、メルセデス・ベンツ製M 116型3.5リッターV型8気筒レシプロエンジンが搭載された。

 

2014年、メルセデス・ベンツ・クラシックはC 111をコレクションの状態からドライブ可能なコンディションにレストアする際、貴重な動くヴァンケル式ロータリーエンジンを保存するため、エンジンを3.5リッターV8ガソリンに変更。このエンジンは1970年の段階でC 111に搭載されていたものだ。

 

メルセデス・ベンツ C 111-IIのフロントエクステリア

C 111-IIのデビューから50年を迎える2020年春、メルセデス・ベンツ・ミュージアムでの展示に加えて、メルセデスの全面協力よる書籍の発売も決まっている。

 

展示公開に加えてメルセデス全面協力の書籍も刊行

 

ワイン銘柄からネーミングされた「ヴァイスヘルプスト(Weissherbst)」という鮮やかなオレンジ色のボディを持つC 111-IIは、現在シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムに展示中だ。

 

さらに、C 111の開発・進化・レコードブレーカーへと至るすべての過程を網羅した書籍「Mercedes-Benz C 111」も出版される。ヘルムート・ジュッドとウォルフガング・カルベンによる共著には、ダイムラーAGアーカイブが全面協力し、詳細な資料や未発表の写真が数多く提供された。