メカニズムで読み解くスーパースポーツ「F1も羨むポルシェとマクラーレンのハイパースポーツ」【コラム】

公開日 : 2020/04/09 17:55 最終更新日 : 2020/04/09 17:55

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、ポルシェ 919ハイブリッド・エボの走行シーン

Porsche 919 Hybrid Evo / McLaren Sena

ポルシェ 919 ハイブリッド・エボ/マクラーレン セナ

 

 

レギュレーションに縛られるモータースポーツ

 

F1は技術の粋で成り立っているイメージがあるが、実際のところ、コスト抑制とスピード抑制の観点からハイテク技術は禁止されているため、ローテクな技術が残っている。アウディやポルシェが撤退して2018年以降はトヨタが孤軍奮闘しているが、WECの最上位カテゴリー、LMP1も同様だ。

 

例えばエンジン。可変バルブタイミングはいまや軽自動車にとってさえ標準的な技術だが、F1やLMP1をはじめ、多くのレースカテゴリーで禁止されている。F1はターボチャージャーが義務付け、LMP1では選択が可能だが、制御性の高い可変容量ターボは認められていない。LMP1では複数のインジェクターを採用することが可能だが、F1では気筒あたり1本と定められている。

 

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、フェラーリF1のピットシーン

モータースポーツの最高峰であるF1は、コストと速度を抑制するためハイテク技術が禁止されている。ABSやトラクションコントロールすら搭載できない。

 

ハイテク装備を搭載できないF1とLMP1

 

F1はABSもトラクションコントロールも禁止だ。ましてや、トルクベクタリングやヨーコントロールなど、もってのほかである。サスペンションの電子制御化や前後の連携は禁止。ステアリングのパワーアシストは油圧式に限定されている(つまり、電動パワーステアリングは禁止)。

 

空力も基本的には固定だ。可変制御が可能なのは、リヤウイングに標準装備されるDRS(ドラッグ削減システム)だけだ。2枚構成になったリヤウイングの後ろ側のフラップを稼動させてスロットギャップを広げ、ウイングの機能を失わせてドラッグ(空気抵抗)を削減するシステムである。これを定められた区間で作動させると、最高速が伸び、追い抜きのチャンスが増える。F1ではエンターテインメント性を高めるために2011年から使用しているが、LMP1では禁止だ。

 

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、ポルシェ 919ハイブリッド・エボの走行シーン

WEC(世界耐久選手権)のLMP1クラスで無双を誇ったポルシェ 919ハイブリッド。レースを撤退した後、規制から解き放たれた“エボ”を開発した。

 

規制の枷を外したポルシェ 919ハイブリッド・エボ

 

量産車では採用例があったり、一般的な技術であったりしても、F1やLMP1では禁止されている。いかに規則で縛られているかを示すのが、ポルシェが2018年に製作した919ハイブリッド・エボだ。ポルシェは2017年シーズン限りでLMP1から撤退したが、その翌年、レギュレーションの枠から飛び出し、919ハイブリッドのポテンシャルを解き放ったのである。

 

LMP1のレギュレーションはエンジンの最大燃料流量を規定しているが、「エボ」はその規定を無視して(もちろん、誰にもとがめられない)流量を増大させることで、2.0リッターV4直噴ターボのエンジンは引き継ぎながら、220ps増となる720psの最高出力を引き出した。

 

空力も同様だ。ディフューザーのボリュームを大幅に増やして威力を高め、リヤウイングは大型化。フロア下の空気の流れをシールすべく、サイドスカートを追加した。また、F1と同様に油圧アクチュエーターで作動するDRSを取り付け、フロントにもフラップの可変機構を追加した。これらの変更により、エボはベース仕様に対し53%高いダウンフォースを発生するようになった。

 

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、ポルシェ 919ハイブリッド・エボのスパ・フランコルシャン記録達成シーン

ポルシェ 919ハイブリッド・エボはスパ・フランコルシャンでルイス・ハミルトンがF1で記録した最速ラップを更新。続いてニュルブルクリンクでも最速記録を達成している。

 

サーキットでF1を凌駕するタイムを次々に記録

 

バケモノと化したポルシェ919ハイブリッド・エボはまず、スパ・フランコルシャンでタイムアタックを行って1分41秒770を記録し、前年にルイス・ハミルトンがメルセデスAMG F1 W08 EQ Power+で記録したラップタイムを0.783秒短縮してみせた。レギュレーションの足枷を外してポテンシャルを引き出せば、F1より速いゾ、というわけだ。

 

ポルシェは次にエボをニュルブルクリンク北コースに持ち込んだ。このコースの最速記録は1983年にステファン・ベロフのポルシェ956が記録した6分11秒13である。その記録を更新しようというわけで、なんと、5分19秒55の驚速タイムを叩き出して新記録を樹立した。同年にポルシェ911 GT2 RSが記録した量産車最速タイムが6分40秒33だと記せば、驚速ぶりに想像がつくだろうか。あのニュルで、平均車速は233.8km/hである。

 

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、マクラーレン セナの走行シーン

ロードゴーイングカーでありながらWECのLMP1を凌ぐパフォーマンスを持ったハイパースポーツ、マクラーレン セナ。1198kgの超軽量ボディに最高出力800psの4.0リッターV8ツインターボを搭載。

 

無制限にハイテクを詰め込んだマクラーレン セナ

 

ハイテク技術てんこ盛りなのは、F1やLMP1などの世界のトップカテゴリーで走るマシンよりもむしろ、ハイパーカーだ。ロードゴーイングカーである限り各国の法規制に対応する必要はあるが、モータースポーツでのように、コスト抑制やスピード抑制の観点で「ダメ」と言われることはない。

 

例えばマクラーレン セナ。カーボンモノコックの背後に搭載する4.0リッターV8ターボエンジンは800psの最高出力と、800Nmの最大トルクを発生する。F1やLMP1のように最大燃料流量が規制されているわけではないから、出したいだけパワーを出せばいい。最高出力の数値だけならF1級で、LMP1を大きく上回る。

 

メカニズムで読み解くスーパースポーツ、マクラーレン セナのフロントスタイル

前後可変のディフューザーとサスペンションを備え、空力とトラクションを思いのままに制御可能とするセナ。モータースポーツ界も羨むハイパースポーツモデルだ。

 

モータースポーツの本職が羨むハイパースポーツ

 

ディフューザーの容積が規定されているわけではない。セナはいかにも大きなダウンフォースを発生しそうな、大ボリュームの2段ディフューザーを備える。しかも、前後可変だ。ブレーキング時はウイングを立ててスタビリティを確保し、ストレート走行時は寝かせて空気抵抗を減らす。モータースポーツの世界ではやりたくてもできない芸当だ。

 

サスペンションも可変だ。走行姿勢やダウンフォース発生量に応じて、最適な姿勢を保つよう自動制御される。空力とサスペンションの可変制御は、モータースポーツのエンジニアが喉から手が出るほど欲しい(というか、やりたい)技術の二大要素だ。筆者は実際、あるレーシングカーエンジニアから、「セナはすごい。やりたいことが全部入っている」という言葉を聞いた。

 

モータースポーツの本職が羨む究極のロードゴーイングカーが、マクラーレン セナに代表される昨今のハイパーカーなのである。

 

 

TEXT/世良耕太( Kota SERA)