横浜ゴムの雪上試乗で見えた、スタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤの最新事情
公開日 : 2020/04/13 17:55 最終更新日 : 2020/04/13 17:55
冬タイヤの選び方を試乗を通じて検証する
4月のこの時期にスタッドレスタイヤの話をすることを不思議に思う読者諸兄も多いことだろう。しかし今の時期だからこそできる面白い話もある。
現在世界は新型コロナウィルスが猛威を振るう状況となっているが、それと同時に今シーズンは暖冬だった。いや、今シーズン“も”暖冬だったという表現の方が正しいだろうか。そんな中にあって毎年思うのは、「今年もスタッドレスタイヤに履き替える必要があるのだろうか?」という疑問。
特に非降雪地域にあっては年に一度、しかも降り積もらない雪に対して冬支度をすることへの労力を重く感じるユーザーも多いと思う。GENROQ Web読者におかれては大径タイヤ装着率も高いはずであり、これをいちいち履き替える労力や出費は馬鹿にならず、保管場所の確保にも辟易しているはずだからである。
そしてこうした疑問や冬支度へのヒントが得られる試乗会を、今年も横浜ゴムが開催してくれた。場所は2月の北海道・旭川。TTCH(Tire Test Center of Hokkaido=北海道タイヤテストセンター)での冬期試乗会からその内容をピックアップしてみよう。
経年劣化での性能変化を氷盤路で試す
まず最初に紹介したい内容は、「スタッドレスタイヤにおけるコンパウンドの経年劣化」についてだ。
みなさんは、スタッドレスタイヤの寿命はどのくらいだとお思いだろうか? タイヤの寿命はまずその減り具合が最大の目安。国産メーカーは多くが溝の間に「プラットフォーム」と呼ばれる目印を配置し、これが現れたら交換時期としている。
ちなみにこのプラットフォームは残り溝50%の状況で現れる。「残り溝が半分もあるのにタイヤを交換しなくてはならないのか!?」ともったいなく思う方も多いと思うが、満足にウインター性能を発揮するためにはそれだけ溝体積やサイプ長が必要、という解釈だ。
もうひとつは、ゴムの経年劣化である。そしてこの経年劣化に対し、今回横浜ゴムは面白い実験をしてくれた。具体的には「4年経過相当のスタッドレスと、新品スタッドレスで氷上性能を比べる」というテストを氷盤路で行ったのである。
擬似的に経年劣化させたタイヤと新品を比較
用意されたのは、同社のスタッドレスタイヤ「アイスガード6 iG60」を履いた2台のトヨタ カローラ・スポーツ。1台には特殊なオーブンで新品タイヤを擬似的に経年劣化させたタイヤを履かせ、これを真の新品タイヤを履いた個体と走り比べたのだ。
テストは屋内氷盤路を20km/hで走り、そこからフルブレーキングした制動距離を比べるというもの。そして結論から言うと、3回ずつ行われたその制動距離において両者の差は“ほぼない”と言う結果が得られた。
この結果が意味するものは何か? それは―「iG60」に限定した事実となるが―経年劣化したゴムでも残り溝さえあれば、新品と同等の氷上制動力を発揮するということ。言い換えれば約4年間経った状況でもiG60のゴムは、その氷上性能を保ったということになる。
保管状況次第で経年劣化を感じさせない
注意したいのはこの場合、擬似的に経年劣化させたタイヤの残り溝は新品状態だったこと。よってこれは、摩耗も加味して「4年間使い込んだタイヤ」の結果ではない。ではなぜ横浜ゴムがこのように手の込んだ仕掛けを行ったのかと言えば、それは昨今の消費者動向に応えるためだったようだ。
というのもここ数年の間に、インターネット情報の拡散によって消費者はタイヤの表側にあるシリアルナンバーからタイヤの製造年月日がわかることを知った。同じ買うのであれば、より新しいタイヤを求めるのが人情。しかし一年程度であれば十分以上に、タイヤはその性能を発揮できる。このユーザーと作り手の認知差をメーカーは知って欲しかったのだと思われる。
もちろんそこには「タイヤの保管状況」が大切になってくる。室温変化が少なく、直射日光の当たらない場所。すなわち管理がきちんとなされた専門店でタイヤを買うことが重要だと筆者は考える。
ちなみに走行終了後にタイヤを触り比べると新品のiG60はゴムがとても柔らかかった。対して4年経過相当のiG60は、確かに劣化で硬さを帯びているのだが、筆者の予想を上回る柔軟性を備えていた。これこそがiG60におけるポリマーのしなやかさであり、その柔らかいゴムに連結強度を持たせるシリカの恩恵だ。さらに氷上で水膜を吸収する「エボ吸水ホワイトゲル」がしなやかさにも貢献し、オレンジSオイルが総括的にゴムを保湿するのである。
iG60の低扁平サイズをポルシェ 718ケイマンで確認
また今回は、アイスガード6 iG60における低扁平サイズの性能確認として、ポルシェ 718ケイマンを雪上試乗することができた。その印象は「ものすごくナチュラルなハンドリング」というもの。スタッドレスタイヤの低扁平化で心配されるのは高いサイド剛性に対するトレッド面の“よれ”。これがもたらす挙動の難しさだが、iG60は見事にバランスされていたのである。
操舵初期からもっちりと路面をつかむ感触はまさにiG60のテイスト。そしてパワーをかけるとミッドシップならではのトラクション性能が発揮され、ここにスタビリティコントロールがきめ細やかに追従する。
トラコンを解除し300psのターボパワーを解き放っても動きが読みやすいのは、これこそが低扁平タイヤの横剛性によるものだ。ドライ路面でもこんな風にケイマンを操れたら最高! と思わせるコントロール性の高さがそこにはある。もちろんミッドシップならではのシャープな挙動は健在だが、iG60の穏やかな限界特性によってケイマンの素性の良さを改めて確認することができた。
オールシーズンタイヤ「ブルーアース4S」という選択肢
冬タイヤの選択肢としてにわかに注目を浴びている「オールシーズンタイヤ」。これに対して横浜ゴムは、実は長らく慎重な構えを見せてきた。同社もニーズが高い北米においてはオールシーズンタイヤを発売していたものの、日本の雪上路面に対してはスタッドレスタイヤでの安全性確保が第一だと考えていたのだろう。
しかし暖冬が続く日本でも遂にそのニーズは高まり、満を持して「BlueEarthー4S AW21」を発売するに至ったのである。ちなみにブルーアースは同社のグローバルブランドであり、4Sは「フォーシーズンズ」の意味。AW21は同社におけるパターンナンバーを表している。
オールシーズンタイヤとスタッドレスタイヤを比較
そして今回はこのブルーアース4S AW21をアイスガード6 iG60と比較した。試乗車はトヨタ カローラ・スポーツ、もちろん両車ともタイヤサイズは同じである。
この比較が筆者には、横浜ゴムの良心だと思えた。なぜならスノー/アイス性能で単純比較すれば、スタッドレスタイヤが高い性能を発揮するのは必至だからだ。つまり同社が訴求したかったのは、オールシーズンタイヤの特性。スタッドレスタイヤとの違いだったのである。
最初に比べた氷盤路では、その制動距離に約5mの差が出た。当然短く止まれるのはiG60だ。また発進においてもブルーアース4SはiG60に比べトラクションロスが大きく、短い距離で定められた20km/hに到達させ、これを安定させるのが難しかった。
かたや圧雪スラロームでは、思った以上にブルーアース4Sのトラクションが良く、操舵初期におけるグリップ感、雪を噛む手応えの良さが確認できた。ここで生きてくるのがトレッドパターンとコンパウンド性能のバランスだ。
V字シェイプパターンが雪面で効力を発揮
ブルーアース4Sのトレッドを見るとまず流行りの“Vシェイプ”パターンが確認できる。ただしその模様は中央に配置したストレートグルーブを境に、イン/アウト側の排水溝が交差するように組み合わさっている。かつ溝幅はアウトサイドにいくほど広くなり、ラウンドしている。
このV字ダイバージェントグルーブは、ストレートグルーブに比べて溝体積を多く取れるのがまずその特徴。これで低温時を見越したソフトなゴムでも、高い排水性を確保することが可能となる。ここがスタッドレスタイヤに対する、オールシーズンタイヤのアドバンテージだ。
なおかつこの太溝がエッジ量を確保することで、雪にタイヤを喰い込ませることが可能になる。さらにトレッド中央のアウト側には3Dサイプ、イン側にはクロスグルーブを配置することで、雪柱せん断性能を補助しながら氷上での排水性を高めている。
高い速度域ではスタッドレスの後塵を拝する
しかし速度が上がり、舵角が大きくなるほどにブルーアース4SとiG60の差は広がっていった。ハンドルを切るほどにグリップを増していくiG60に比較して、ブルーアース4Sは同じ速度で走ると曲がりきれなくなる。ハンドルを切り足してしまうとグリップが失われ、仮にうまくノーズをパイロン側へと向けられたとしても、横滑りが発生してコントロールが難しくなってしまうのだった。その差は主に、両者におけるサイプ量の違いなのだという。
これをまとめると、縦方向から浅めの切れ角であれば、ブルーアース4Sもかなりの雪上性能を発揮する。しかし横方向においてはiG60が圧倒的となる。また雪上路面における手の平から伝わる安心感は、全方位的にスタッドレスタイヤの方が高い。これは雪面に対応するソフト目なゴムを使いながらも、アウト側に夏用の大型ブロックを備えるショルダー剛性の高さも影響しているだろう。だからこそブルーアース4Sは非降雪期にしっかり路面をつかむのである。
卓越した雪上性能の証「スノーフレークマーク」
ブルーアース4Sが北米向けの従来型オールシーズンタイヤに対して進化したポイントは、M+S(マッド+スノー)に加えて「スノーフレークマーク」を表記したこと。これは文字通り、従来型に対して雪上性能を向上させた証だ。
ただ日本においては、アイスバーンがある。オールシーズンタイヤは雪上走行を可能とするが、氷上性能まではカバーしていないことだけは覚えておいて欲しい。そして今回の試乗からもわかる通り、たとえ雪上路面でもより高い安心感を求めたいのであれば、やはりスタッドレスタイヤがお勧めである。
ブルーアース4Sが2018年から欧州で販売されていることからもわかる通り、この性能は欧州の乾いた雪質にマッチしている。日本においては常用タイヤにして、突然の雪にも対応できる(出先から家まで帰る等)ことが最大の魅力となるだろう。そういう意味でも、今後はブルーアース4Sのドライ/ウェット性能を確認してみたい。

アイスガードシリーズにはSUVに特化した「アイスガードSUV G075」がラインナップする。今回の試乗ではアイスガードSUV G075を装着したポルシェ カイエンを、ラリードライバーのドライブで同乗試乗した。
新設コースでアイスガードSUV G075の雪上性能を試す
TTCH(北海道タイヤテストセンター)は今回ハンドリング評価路に「スノー・ハンドリング2」を新設。これを同社のSUV用スタッドレス「アイスガードSUV G075」を履いたトヨタRAV4と、アイスガード6 iG60を履いたトヨタ プリウスで試走した。
コース2は中速域の評価コースで、全長1.1kmのコースに10のコーナーを配置。中速コースといいながらもコーナー出口を広く取れる時計回りでは高速コースレイアウトとなり、欧州向けウインタータイヤの開発が可能にしている。そして今回は、国内スタッドレスタイヤ開発用の反時計回りコースを走った。
高扁平ながら背の高いSUVをしっかり支える
下りながら出口が狭くなる複合コーナーやブラインドコーナー、コーナーの途中にギャップを設けることで接地抜けが起きるコーナーなど、様々な要求を満たしたコースはかなりの手強さ。しかしここでもiG60は高いグリップ性能を発揮し、60km/h平均で安全にこれを走行することができた。
またアイスガードSUV G075は225/65R17サイズの高扁平ながら、背の高いRAV4のボディをきちんと支えた。G075はトレッドパターンが一世代前のタイヤとなるため、雪上路面をつかむバイト感や接地性はiG60に一歩譲る。しかし4輪のグリップバランスは揃っているため、絶対的なグリップ感こそ一歩譲るものの、そのハンドリングは非常にナチュラルであった。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
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