ブガッティ流の「在宅勤務」とは。ロックダウン中も前進を続けるハイパースポーツ開発

公開日 : 2020/04/19 06:30 最終更新日 : 2020/04/19 06:30

テレワーク中も開発の手は止めない

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、ブガッティは現在モルスハイムでのシロンやディーヴォの生産を中止している。しかし、エンジニアやスタッフは専門家や政府の定める対策に従いながら自宅でそれぞれの仕事を続けている。

 

シャシーテスト部門を率いるラース・フィッシャー、そしてシャシーのセットアップを受け持つエンジニア、スヴェン・ボーンホルストはハイパースポーツ開発の手を休めることはない。

 

シロン ピュール スポールとボーンホルスト、フィッシャーイメージ

シロン ピュール スポールのダンパーとステアリングのデータを分析するスヴェン・ボーンホルスト(左)とラース・フィッシャー。

 

毎朝欠かさないミーティング

 

2011年からブガッティで働く48歳のフィッシャーは、現在テスト部門の責任者である。

 

「いまはオフィスで仕事をすることが叶わないけれど、車両の開発は常に進めています。テストコースや公道で何百、何千kmという走行を重ねながら」

 

通常のルーティンとは異なる点はもちろんある。

 

「いつもは前もって一週間分のタスクを段取りしているのですが、現在は毎朝2日間分のテスト内容を擦り合わせています。刻々と変わる状況に対応できるようにね」

 

スカイプやシミュレーションを駆使

 

フィッシャーは続ける。

 

「他のスタッフがどのような仕事をしているのか常に確認しなければなりません。もちろん常に政府による措置の推移をチェックしています」

 

テスト走行ができない場合には、エンジニアは計算ソフトやシミュレーション機器を使って自宅で作業する。スカイプなどによるコミュニケーションツールも活用し、開発業務は滞りなく進んでいるという。

 

ブガッティのテスト走行イメージ

次のテストに向けてパラメータを再設定する。2名乗車ができないため、通常より時間がかかる。

 

2名乗車から1名乗車へ

 

スヴェン・ボーンホルストは2014年からステアリングとダンパーのキャリブレーションを担当している31歳のスペシャリストだ。シロン スーパースポーツ 300+の開発にも携わった。彼は言う。

 

「普段テストドライブを行う際は、シロンやディーヴォの車内に2名のスタッフが乗車します。そしてチェックリストに添いながら走行し、かつデータをリアルタイムでコンピューターへ入力していくのです。現在は同僚とも推奨される距離を常に取るように心がけているので、1名乗車でテストを行っています」

 

試験を常に最適なパラメータで行なうため、ドライバーは車両をその都度停止してコンピューターを使用している。その結果、キャリブレーションにかかる時間は通常より最高30%ほど長くなるという。

 

「その代わり、得られるデータは今まで同様に正確です」とボーンホルストは断言する。

 

テストデータをチェックするラース・フィッシャーイメージ

テスト部門を率いるラース・フィッシャー。いつもは最終段階のテスト走行では助手席に座るフィッシャーだが、いまは一人でコクピットに収まっている。

 

1500psのハイパーカーを作る喜び

 

エンジニアは現在交代制で勤務しており、3台の車両に入れ替わり立ち替わり、最長7時間乗り込んでテストを行っている。

 

ボーンホルストは「1500psを発揮するシロンのようなハイパースポーツカーを扱うという仕事は、大変素晴らしいものです。1日1日が楽しく、誇らしい気持ちで働いています」と語った。

 

もちろん、他の専門スタッフとの密なコミュニケーションが取れないもの悲しさは否めまい。

 

「ハンドリングについて議論を交わし、チームとして最善の解決策を探し見つけ出していくのがいつものやり方です。いまは概要をまとめた書面をベースに進めなくてはなりません」とボーンホルストは説明する。

 

スヴェン・ボーンホルストと愛車の1989年製ポルシェ 911 カレラ 3.2が置かれた工房イメージ

自身の工房で愛車の1989年製911 カレラ 3.2をいじるボーンホルスト。ここは「自分のバッテリーを充電する隠れ家」だと語る。

 

宿泊を伴うテストは禁止

 

ラース・フィッシャーも常日頃は個人的な対話や視覚的な接点を大切にする仕事人である。

 

「もちろん電話会議でも多くのことは説明できますが、やはりクルマの中で顔と顔をつきあわせながらのほうが、複雑な内容を共有しやすいんですね」

 

チームメンバーが言わんとすることを理解するために、最終的なテスト走行時には助手席に乗り込むのがフィッシャーのやり方だ。しかし、いまは一人でステアリングを握る日々を送る。

 

エーラ・レッシェンや公道でのテスト走行は現在も実施している。ニュルブルクリンクやビルスターベルクは日帰りであれば可能だが、宿泊を伴うテストは安全上行うことができない。それはブガッティのホームであるフランスや南イタリアでも同様だ。

 

「我々にとってテスト走行は非常に大切です。この事態が収束し、南ヨーロッパを駆け回る日が早く戻ってきてくれることを願っています」とボーンホルストは語った。

 

スヴェン・ボーンホルストと愛車の1989年製ポルシェ 911 カレラ 3.2イメージ

愛車の911に笑顔で収まるボーンホルスト。しかし、いま何より望んでいるのはチーム全員でクルマづくりができるいつもの日々だ。

 

チーム一丸でクルマづくりができるその日まで

 

ところで、長期の出張がさしあたり無くなったボーンホルストは愛車いじりに精を出しているそうだ。1989年製のポルシェ 911カレラ 3.2が置かれた小さな工房を「自分自身のバッテリーを充電できる隠れ家」と表現する。

 

しかしボーンホルストがいま一番楽しみにしているのは、チーム全員で一緒にクルマを開発できる日々が戻ってくること。最高の答えを導き出すために皆で車内で侃々諤々、議論を重ねテストを繰り返す日常である。

 

その日を無事迎えるべく、ボーンホルストは夜になれば同僚とオンラインで会話を交わし、レーシングシミュレーターゲームを一緒に楽しんでいる。彼はどのマシンを選ぶのだろうか。

 

「当然ブガッティだよ。他に何があるって言うんだい?」