生産を終えるベントレー ミュルザンヌ、フラッグシップとして君臨した10年間を振り返る

公開日 : 2020/04/20 11:55 最終更新日 : 2020/04/20 11:55


10年におよぶ歴史に幕を降ろすベントレー ミュルザンヌ

Bentley Mulsanne

ベントレー ミュルザンヌ

 

 

10年に及ぶフラッグシップの歴史にピリオド

 

ベントレー ミュルザンヌは4月下旬に生産を終了し、ベントレーのフラッグシップとしての地位を新型フライングスパーに引き継ぐことになる。これにより、世界最高峰のラグジュアリーセダンとしての10年間に終止符が打たれる。

 

ミュルザンヌの開発は2005年にスタート、ベントレーデザインのスタジオにおいて最初のデザインコンセプトが書き起こされた。

 

ホイール、エクステリアデザイン、新開発6.75リッターV型8気筒ツインターボエンジン、完全に刷新された電装系、新開発のシャシーなど、内外装とも過去の偉大なベントレーに敬意を払いながら、最新のデザインを採り入れたまったく新しい車種として開発された。

 

10年におよぶ歴史に幕を降ろすベントレー ミュルザンヌ

ミュルザンヌの開発は2005年からスタートし、2009年のペブルビーチ・コンクールデレガンスで待望のデビューを果たす。

 

2009年のペブルビーチ・コンクールデレガンスでデビュー

 

「グランド ベントレー」というそのコンセプトが公開され、社内では「プロジェクト キンバリー」と呼ばれたミュルザンヌは2009年のデビューが決まる。そして、ミュルザンヌのワールドプレミアは2009年のペブルビーチ・コンクールデレガンスで行われた。

 

スチール製モノコック、アルミニウム製ドア・フェンダー・ボンネットで構成。曲線的で逞しい
デザインが施されたエレガントなフォルムは、スーパーフォーミングと呼ばれる高度な工法を使用して製作される。このプロセスではアルミ製パネルを摂氏500度に加熱し、空気圧をかけて成形する。

 

最高出力512ps、最大トルク1020Nmを発生する排気量6.75リッターV8ツインターボエンジンは、0-60mph加速を5.1秒(0-100km/h加速は5.3秒)で駆け抜け、最高速度は184mph(296km/h)を実現した。このエンジンは、ベントレーで初めて可変バルブタイミングシステムや気筒休止システムを採用し、アイドリング回転数をわずかに上回る1750rpmのエンジン回転数で最大トルクに達するトルク特性を実現した。

 

また、軽量化と強化の目的で鍛造クランクシャフトからピストン、コネクティングロッドに至るすべての主要コンポーネントを再設計して内部負荷及び摩擦を低減し、エンジンの応答性を向上させている。

 

10年におよぶ歴史に幕を降ろすミュルザンヌの製造工程

ベントレーのフラッグシップにふさわしく、それまでの自動車業界ではあり得なかったレベルの膨大なエクステリアカラーを設定し、自由に選択できたミュルザンヌ。そのボディはベテラン職人の手で1台1台が手作りされる。

 

エクステリアカラーは100色以上、全く新しい選択肢を用意

 

ミュルザンヌは100色以上のエクステリアカラー、24色のハイドカラー、9種類のベニヤを用意。それまでの自動車業界で類例がないほど多くのバリエーションをカスタマーに提供した。

 

ミュルザンヌは、英国クルーの本社ファクトリーにおいて最初から最後まで手作業で作られている。その生産には400時間を要し、ホワイトボディの製造工程からスタート。ここでは熟練した金属加工担当者が自らの手と目を使って5800ヵ所の溶接部を丁寧に仕上げている。

 

ルーフからDピラーを通ってリヤハンチに流れ込む部分では、専任のチームが接合部に手作業でろう付けを施す。この部分を仕上げるには人間の手による感触が重要であり、塗装してしまえば
接合部は完全にわからなくなる。その見た目も感触も、まるで金属の塊から削り出されたようにさえ
思えるほどの仕上がりとなる。

 

ミュルザンヌのボディを塗装する際は、その彫刻的な姿が均一に見えるように異なる厚みを持たせる必要があり、そのために1台1台手作業で塗料を吹き付けている。

 

仕上げ塗装後、各車両は12時間かけてきめ細かい研磨剤で研磨。その後、子羊の毛で磨きをかけ「ベントレーミラーフィニッシュ」と呼ばれる鏡のような外観を実現する。これを自動車業界で唯一手作業で完璧に磨いて仕上げられたソリッドステンレススチール製ブライトウェアが補完する。

 

10年におよぶ歴史に幕を降ろすミュルザンヌの製造工程

上質な左右対称の模様を描くウッドパーツやレザーインテリアの装飾も、すべてベントレーを作り続けてきた職人たちが丹精を込めて製作している。

 

ハンドメイドだからこそ実現した上質なインテリア

 

ミュルザンヌのドアを開けると、ウォールナット、チェリー、またはオークの無垢材によるドアウエストレールや、さらに選び抜かれた各種のベニヤが追い打ちをかけるように素性の良さを伝えてくる。

 

素材の選択プロセスはクルーで行われ、ここで最終的に職人が命を吹き込むベニヤを選んで完成させる。装飾はミラーマッチ(左右対称に配置)され、無垢材の下地として採用される前に極めて
美しい「模様のある」部位(自然にできた装飾的紋様を持つ部分)のみが選びだされる。

 

ミュルザンヌの製造に必要な400時間のうち、追加のオプションを検討する前の約150時間は手作業
での縫製、成形、仕上げによる豪華なレザーインテリアのためだけに費やされる。コントラストステッチを仕上げるだけでも実に37時間も要するという。

 

ミュルザンヌマリナー ドライビング スペシフィケーション

発売から2年を経て、初のアップグレードモデルとなる「マリナー ドライビング スペシフィケーション」を投入。専用デザインの21インチアロイホイールなど、スポーティな装備が多数採用されている。

 

Bentley Mulsanne Mulliner Driving Specification

ベントレー ミュルザンヌ マリナー ドライビング スペシフィケーション

 

2012年に登場した“マリナー”によるスポーツ仕様

 

スコットランドでのメディア公開後、2年間の好調なセールスを経てから2012年に最初のアップグレードモデルが発売された。この年、ベントレーはジュネーブ・ショーにおいて極めて独特かつスポーティな解釈を加えた「ミュルザンヌ マリナー ドライビング スペシフィケーション」を発表する。

 

専用21インチアロイホイール、フライングBウイングベント、さらにダイヤモンド
キルティングレザートリムを誂えたキャビンなど、一連の印象的なデザイン装備品を採用。新たに追加された「スポーツチューンドサスペンション」もオプションでチョイスすることができた。

 

同時に、ベントレーはミュルザンヌに大きな開口部を持つチルトオープン式ティンテッドガラスサンルーフ、手吹きガラス製でハンドカットされたクリスタルシャンパンフルート付き電気式ボトルクーラーというふたつの新しいオプションの導入も発表した。

 

ベントレー ミュルザンヌ グランド コンバーチブル コンセプト

2014年のロサンゼルス・モータショーで発表されたミュルザンヌ・ベースのコンセプトカー「グランド コンバーチブル コンセプト」。2ドアクーペ化されたオープントップのエクステリアは生産車レベルの完成度を誇っていたが、市販化は実現しなかった。

 

Bentley Mulsanne Grand Convertible Concept

ベントレー ミュルザンヌ グランド コンバーチブル コンセプト

 

世界で最もエレガントなコンバーチブル

 

ベントレーがこれまで生み出してきた車両の中で最も洗練されたオープントップ コンセプトである「ベントレー グランド コンバーチブル」は、英国製自動車における究極のラグジュアリーを表現する車両として2014年のロサンゼルス・モータショーで発表された。

 

アイコニック(象徴的)でありながら控えめなスタイルを持ち、極めて上質なマテリアルを用いてすべてを手作業で仕立てられたこの比類ないラグジュアリーフラッグシップコンバーチブルは、究極の力強さと官能的なオープントップモータリングを表現した。

 

完璧なブックマッチ加工(はぎ合わせ)と鏡面仕上げが施され、ダークステイン処理されたバーウォールナット製トノーは、ベントレーがこれまで使用してきたウッドベニヤの中で最も大きい部材を使用。このグランド コンバーチブルはコンセプトモデルとして発表されたが、この車両を作る上で学んだノウハウはミュルザンヌ・ファミリーの発展に大きな影響を与えたという。

 

ミュルザンヌ スピード

ミュルザンヌ スピードに搭載された6.75リッターV型8気筒ツインターボは、最高出力537ps・最大トルク1100Nmにまでチューンアップされた結果、最高速度はスーパースポーツにも互する305km/hを実現した。

 

Bentley Mulsanne Speed

ベントレー ミュルザンヌ スピード

 

世界最速のフラッグシップサルーンを実現

 

2015年、ベントレーは世界最速の超高級車によるドライビングエクスペリエンスを提供する「ミュルザンヌ スピード」を発売。このモデルに搭載される改良型エンジンは、最高出力537ps、最大トルク1100Nmを発生し、ドライバー重視のセレクタブルスポーツサスペンションとステアリングが与えられている。

 

パワートレインは引き続きベントレー製のパワフルな6.75リッターV型8気筒ツインターボエンジンを搭載。0-60mph加速性能は4.8秒(0-100km/hは4.9秒)、最高速度は190mph(305km/h)を達成している。効率も大幅に改善され、航続距離が13%(距離にして80km)増加して368マイル(593km)となった。

 

ラジエーターグリル、ロワバンパーグリル、ウイングベントといったエクステリアのステンレス製マトリックスグリルには、自動車産業では稀な工法であるダークティント仕上げが施され、ダークティント仕様のヘッドライトとテールライトにマッチする美しい仕上がりとなった。

 

ミュルザンヌ スピードには、ベントレーで初めてボディの右側用と左側用でデザインが異なる「ディレクショナルスタイルホイール(回転方向指定ホイール)」も採用。この21インチホイールは、手作業での仕上げ前に鍛造ソリッドブランクからひとつひとつマシニング加工され、オプションで
ペイント仕上げやポリッシュ仕上げの他、アクセントの仕様に合わせたダークティント仕上げも可能となっている。

 

ミュルザンヌ グランド リムジン by Mulliner

2016年にプライベートカスタマーに向けて1台だけマリナーによって製造された「ミュルザンヌ グランド リムジン バイ マリナー」。ホイールベースとボディが1000mmストレッチされ、後部座席には2名用シートが向かい合う形で2組設置されている。

 

Bentley Mulsanne Grand Limousine by Mulliner

ベントレー ミュルザンヌ グランド リムジン バイ マリナー

 

1台だけ製造されたエレガントなストレッチリムジン

 

プライベートカスタマー向けにデザインされ、2016年に手作業で1台のみ製造された「ミュルザンヌ グランド リムジン バイ マリナー」は、現代のコーチビルドカーにおける稀有な一例と言えるだろう。

 

このモデルは、ミュルザンヌのホイールベースとボディを1000mm伸ばし、後席のヘッドルームを79mm拡大することによって他では得ることのできない乗車体験を提供した。古典的な「ストレッチされた」リムジンとは異なり、追加された部分はミュルザンヌの巧みなラインと審美的な純度を維持するため念入りにデザイン。その結果、世界で最も長いメーカー製リムジンが誕生し、その形状はホイールベースの長さに美しく適合していた。

 

ミュルザンヌ グランド リムジンは、4つのシートすべてが同等の快適さを備えるという目的で設計。室内の配置は豪華なプライベートジェット機に触発されたもので、リヤキャビンには2名用シートが向かい合う形で2組備えられ、乗員が対面して話すこともできた。

 

特別仕様のヒーター・ベンチレーション・エアコンディショニング(HVAC)システムは、ベントレーのマリナー部門がミュルザンヌ グランド リムジンのために特別に設計・製造。ふたつのゾーンを別々に設定できるため、後部座席の乗員が自分の好みに合わせて調節できた。

 

さらに、アップル製iPadを充電するためのハンドメイドのドッキングステーションやドライバーと通話するためのインターコムシステムなど、数多くの特注デジタル装備品を用意。フロントシートとリヤシート間の仕切りには、ベントレーで初めて実装されたエレクトロクロミック式スマートガラスが装備された。これはボタンに触れるだけでパネル全体を透明から不透明に切り替えることが可能で、完全なプライバシーを確保することができる。

 

ミュルザンヌ エクステンデッド ホイールベース

250mmホイールベースを拡大した「エクステンデッド ホイールベース」の登場に合わせて、エクステリアも変更。フロントセクションは完全に再設計されている。

 

Bentley Mulsanne Extended Wheelbase

ベントレー ミュルザンヌ エクステンデッド ホイールベース

 

待望のロングホイールベース版がデビュー

 

2016年、ジュネーブ・モーターショーにおいて新しいファミリーとなる「ミュルザンヌ エクステンデッド ホイールベース」がデビューを果たした。

 

エクステンデッド ホイールベースは、後部座席の乗員を念頭に置いて開発。延長された250mmの後席レッグルーム、旅客機のような引き延ばしが可能なレッグレスト、リヤコンパートメントサンルーフなどを組み合わせ、世界で最もリラックスできる車内環境を作り出した。

 

この新型ミュルザンヌは上品さを増すべくスタイリングが見直され、Aピラーより前のフロントセクションは完全に再設計された。フェンダー、ボンネット、ラジエーターシェル、グリル、ライトの他、前後のバンパーがすべて変更され、よりモダンで統一感のある外観を実現している。

 

1930年代の8リットルモデル、エンビリコスやRタイプ コンチネンタルなど、過去の偉大なモデルへのオマージュとして初期モデルよりも80mm幅が広く大きくなったステンレス製バーチカルベーングリルを採用。この垂直方向に配されたベーンを通して、ベントレーマトリックスグリルを見ることができる。また、ヘッドランプは走行条件に応じて4つのモードで投光パターンを自動的に調整可能となっている。

 

インテリアには再設計されたシート、新しいドアトリムとアームレスト、そしてユニークなガラス製
スイッチ類も装備。さらにクラス最高のナビゲーションテクノロジーを誇るまったく新しいインフォテインメントシステムも搭載。走行中のオーディオ及びビジュアルエンターテインメントの水準を引き上げる車載インフォテインメントシステムが数々用意されている。

 

ミュルザンヌ W.O. エディション by Mulliner

2019年に創業100周年を迎えたベントレーは、フラッグシップのミュルザンヌに「W.O.ベントレー」の名前を冠した限定モデルを製作。100台限定で販売され、瞬く間にソールドアウトしている。

 

Bentley Mulsanne W.O. Edition by Mulliner

ベントレー ミュルザンヌ W.O. エディション バイ マリナー

 

創業100周年記念にW.O.ベントレーをオマージュ

 

2019年に登場した「ミュルザンヌ W.O.エディション バイ マリナー」は、ベントレーの創業者であるW.O.ベントレーに敬意を表し、すべての個体にベントレーの歴史の一部を成した実物が添えられていた。

 

100台限定のこのミュルザンヌのインテリアには、数十年前にW.O.ベントレー本人が所有していた8リットルモデル(1930年に彼がベントレー・モーターズで最後にデザインしたモデル)に搭載されていたオリジナルのクランクシャフトから切り出した薄片が飾られた。

 

また、ミュルザンヌ W.O.エディションは、顧客の好みに応じてミュルザンヌの3つのモデルバリエーションのいずれかを指定することができた。

 

主な装備として、ヴィンテージカーの風格を反映したヘリテージハイドのカラースプリットインテリア、エレガントなベルーガブラックのホイール、そしてアームレストに組み込まれたW.O.自身の所有した8リットルモデルのクランクシャフトから切り出した薄片が飾られ、素晴らしいカクテルキャビネットかボトルクーラーなどが用意されている。

 

ミュルザンヌ 6.75 エディション by Mulliner

ミュルザンヌの最後を飾る限定仕様として登場したのが「6.75 エディション バイ マリナー」。登場から60年を迎えた6.75リッターV型8気筒エンジンをフィーチャーし、30台限定で販売されている。

 

Bentley Mulsanne 6.75 Edition by Mulliner

ベントレー ミュルザンヌ 6.75 エディション バイ マリナー

 

ベントレーを象徴するV8エンジンをフィーチャーした限定モデル

 

マリナーが製造した「ミュルザンヌ6.75エディション バイ マリナー」は、わずか30台のみを限定生産。この車両に搭載されているエンジンは量産開始から今年で60年目を迎える、伝説的な6.75リッターV型8気筒。車名はこのエンジンに敬意を払って名付けられたものだ。

 

エンジンオイルキャップを模したノブが付いた「オルガンストップ」ベンチレーションコントロールなど、至る所にアイコニックなV8エンジンに対するモチーフを採用。シートには特製の6.75エディションをモチーフにした刺繍が施され、エクステリアやエンジンルームのクロームバッジにも同様のエンブレムが装着された。

 

また、LEDウェルカムランプも同じロゴを投影。時計やマイナーゲージのダイヤル表面には、エンジン断面のイラストが描かれている。

 

 

【関連記事】

ついに生産を終える名作「ベントレー ミュルザンヌ」への想いを、清水和夫と渡辺敏史が語る【動画レポート】

伝統の最終章「ベントレー ミュルザンヌ」を渡辺慎太郎が味わう