ブガッティのデザインディレクター、アキム・アンシャイトのロックダウン下におけるテレワーク術
公開日 : 2020/05/04 06:30 最終更新日 : 2020/05/04 06:30
ロックダウン下でデザイナーができること
世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受けて、ロックダウンが続くヨーロッパ。ブガッティはフランス・モールスハイムにおけるシロンやディーボの製造を停止している。また、多くの従業員は自宅で勤務を行なっており、2004年からデザインディレクターを務めるアキム・アンシャイトもそのひとりだ。
57歳のアンシャイトは家族とともにドイツのベルリンに住んでいる。通常はモールスハイムとフォルクスワーゲン・グループの本社があるニーダーザクセン州ヴォルフスブルクへと高速列車ICEで通っていた。
「もちろん、現在の状況でオフィスへと通勤するのは不可能です。なので、自分やデザイン・チームの仕事をできるかぎり自宅で行えるように調整しました」と、アンシャイトは説明する。現在、多くの企業と同じようにブガッティでもテレビ電話を使ったミーティングが頻繁に行われているという。
自宅の屋根裏部屋に作った専用のスタジオ
ロックダウン後、アンシャイトはクリエイティブな仕事が続けられるよう、ベルリンの古い自宅の屋根裏に小さなスタジオスペースを作った。
「ここは私にとって、ちょっとした避難所であり、インスピレーションが湧き上がる場所です。これまでにないラインを引いてみたり、新しいデザインテーマについて考えたり、新鮮なアイデアを練ることができます」
「この屋根裏部屋スタジオは暖かく、光があふれています。本当に居心地がいいですし、ソーシャルディスタンスも取れています。そして、スカイプ(テレビ電話などを行える通話アプリ)があれば、多くの問題も解決することができるのです」
同僚とアイデアを戦わせられないジレンマ
ベルリンには、彼にインスピレーションを与えてくれる多くの知人も住んでいる。SNSでクリエイティブな作品を発表するアーティストやミュージシャン、様々なフリーランサー等など。そして、彼らの中には自分の仕立てたスタジオを使ってフェイスマスクを作っている服飾デザイナーもいるという。誰もがこの状況下で、自分にできることを続けているのだ。
「このパンデミックによって大いなる犠牲が伴うことを誰もが理解しています。私たちが今必要としているのはお互いのために、実際に出会うことなしに、社会的な距離をもって存在することです。そして、人類の連帯を繋げていかなければならないと考えています」
デザインの制作過程は非常に人間的なものだ。多くの場合、同僚との会話や議論、積極的なコミュニケーションによって前へと進む。それこそが“トライ&エラー”であり、たとえ間違うリスクがあったとしてもアイデアを発することが重要になる。
「デザイン過程では、エクセルで作った計画表どおりに進むことはありません。時に計画から大きく外れることが吉となる場合もあります。この屋根裏では私ひとりきりですし、仲間たちと侃侃諤諤(かんかんがくがく)と議論を戦わせられないのは、時にもどかしくなります。スカイプでのミーティングはお互いにより多くの努力を要求されるのです」

ロックダウン下ではドライブを楽しむこともままならない。また、最新デザインツールは、ブガッティのデザインスタジオにあり、現在使うことができない。多くの制限があるなかで、いかにクリエイティブな作業を進めていくべきか、アンシェイトは考えている。
最新設備を使えない中でのデザイン作業
美しいボディラインやプロポーションを備えたクレイモデルやVRスタディモデルを作るためには、デザイナー同士の議論だけでなく、多くのテクノロジーも使わざるを得ない。そして、複雑なメカニズムをもつ「3D可視化システム」は、彼らが現在立ち入ることのできないデザインスタジオに残されている。
「今、現行モデルや将来のモデルのデザインに必死で取り組んでいますが、自宅では高性能VRゴーグルを使うことはできません。VRスタディモデルの評価に関しては、この点が一番の課題になっています。それでも厳しい状況下で、私たちがいかに能動的に働くことができるのか、毎日考えています」
友人のために放置自転車の修理に取り組む
彼はまた熱狂的なポルシェ・ファンとしても知られている。美しくレストアされた911ナローを所有しているが、残念ながらドライブする機会はほとんどないそうだ。そして、歴史的な1920年代に製造されたブガッティ・タイプ35は、必要なパーツがすべて揃っていないため、地下室でレストアされるのを静かに待っている。
その代わり、アンシャイトは空いた時間を使って、フリーマーケットで購入した放置自転車の修理を進めているという。彼の小さなワークショップで丁寧に美しく修理された自転車を、友人たちにプレゼントしているのだ。
「ベルリンの中心部で外出するならば、もう少し自転車を使うべきだと思っています」と、アンシャイトは笑いながら片目をつぶった。
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