新型ベントレー フライングスパーに見る、スキューモーフィックなメーター インターフェース

公開日 : 2020/05/08 17:55 最終更新日 : 2020/05/08 17:55


ベントレー フライグスパーのインテリア

Bentley Flying Spur

ベントレー フライングスパー

 

 

コクピットのメーターに隠された最先端の技術力

 

ベントレー コンチネンタルGTやフライングスパーのドライバーズシートに座ったとき、視界に映るメーター類に個性的なデザインが表現されていることに気づくだろう。計器内側に施された3Dナーリングやエレガントな指針の下の微妙な陰影は、すべてアクティブ・マトリクス薄膜トランジスタ上でデジタル処理されたもの。その厚みはミリ単位で計測されている。

 

ドライバーの前方に表示されている様々な情報は、ベントレーのインフォテインメント・システム担当スペシャリスト、グレイム・スミス率いる、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)チームが手がけたものだ。

 

Rタイプ・コンチネンタルのインスツルメントパネル

ベントレーのインテリアは、戦前の名車から現代のラインナップに至るまで、クラフトマンシップと英国デザインの美学を示す存在となっている。こちらはRタイプ・コンチネンタルのインストゥルメントパネル。

 

クラフトマンシップと英国デザインの美学

 

過去のベントレーを思い浮かべてみると、ティム・バーキンがドライブした1929年製「4 1/2リッター・スーパーチャージャー付きブロワー」には、真鍮製ラップ・カウンター(ビリヤード台のスコア・カウンターを参考にしたもの)があった。他にも、簡素なウォールナット製ダッシュボードにアナログ式メーターを深く埋め込んだ1952年製「Rタイプ・コンチネンタル」のシンプルさなど、インテリアのディテールには確かな個性があった。

 

ベントレーのインテリアはクラフトマンシップと英国デザインの美学を物語るものであり、それがベントレーの魅力の強力な一部となっている。しかし、現代のベントレーのインテリアにはデジタル技術が必要不可欠だ。スマートフォンとの接続、デジタルマップの3Dビュー、同乗者のための音楽や映画の再生、キャビンの雰囲気を指先ひとつで制御する機能などは、配線や歯車を使わず、すべてピクセルやマイクロプロセッサーから生み出される。

 

平面的で透明なスクリーンに、それを取り囲む手作りのウッドや輝くナーリング加工が施された金属と同じデザイン様式を与えようとするのは、ある意味で大きな挑戦だ。ベントレーのHMI担当デザイナー達はこれに取り組み、大きな成功を収めてきた。

 

インフォテイメント・システム担当スペシャリストのグレイム・スミス

何世代にもわたって使われることになるベントレーは「たとえデジタルデバイスを使用する場合でも時代を超えて使用に耐えうる“スキューモーフィック”なデザインを用いる」と説明するグレイム・スミス。

 

クルマとともに歳を重ねていくグラフィック

 

グラフィックデザイナーのグレイム・スミスと彼のチームは、英国・クルー本社のスタイリングチームと協力して、新型モデルで使用する予定のアイコン、色、イメージのムードボードを作成した。その目的は、グラフィックを“スキューモーフィック”(実際の物体を模して立体的に表現すること)にするか、平面的なデジタル・デザインにするかを決めるためだった。

 

ベントレーのアプローチについて、スミスは次のように説明した。

 

「ベントレーはスマートフォンではありません。何世代にもわたり使用され、大切にされるものです。そのため私たちは、クルマと一緒に歳を重ねることができるような、スキューモーフィックなアプローチを選びました。10年前の最新デジタル計器類のグラフィックを見ればお判りでしょうが、それらの中には車両本体よりも早く古臭く感じてしまうものもあります」

 

デザイン・ディレクターのステファン・シーラフも、スミスの意見に賛同した。

 

「一般的には、明快で平面的なグラフィックによる情報伝達が好まれており、実物のスキューモーフィズムは徐々に淘汰されつつあります。しかし、私たちはブランドにとってもクルマにとっても相応しいとは思えないため、このような超近代的なデジタルグラフィックという方向性は採らないことを明確にしていました。私たちはこの種の情報を伝統的な方法で伝えるために、現在でもスキューモーフィズムな計器類、指針を使っています」

 

ベントレー フライグスパーの「ディム・スクリーン・モード」

特に夜間ドライブなど、道路から注意を逸らさないようにするために新たに採用した「ディム・スクリーン・モード」。過剰な情報を排し、最低限の情報のみが表示される。

 

デジタル・デトックスを提供する「ディム・スクリーン・モード」

 

ベントレーの最新のデジタルデザイン・イノベーションのひとつが、ナビゲーションやインフォテインメントが必要ないとき、道路から注意を逸らさないようにするため新たに採用した「ディム・スクリーン・モード」だろう。

 

センターコンソールの回転式ディスプレイのシンプルなベニヤパネルと同様に、このモードはひとときの“デジタル・デトックス”を提供する。このモード時に表示されるのは、燃料残量、エンジン温度、時刻、車速、外気温度などの最低限の情報だけとなる。

 

スピードメーターやレブカウンターの計器さえも漆黒の中にあり、それぞれの指針の周囲に柔らかな光がさすだけ。これは慣れ親しんだ道を夜間ロングドライブするのに最適な表示方法であり、オーナーはウルフ・バーナートが伝説的な夜間走行でフランスを駆け抜けてブルートレインに勝利した際の精神や、ル・マン24時間での数々の勝利に思いを寄せることができるという訳だ。

 

ベントレー フライグスパーのブロンズ・チャプターリング

フライングスパーのメーターは、フォーマルな雰囲気のインテリアを反映して、メーター周りにシックなブロンズカラーのチャプターリングが採用された。

 

フライングスパーのブロンズ・チャプターリング

 

コンチネンタルGTもフライングスパーも運転席周辺の計器類は同じだが、それぞれのデザインには微妙な違いがある。グレイム・スミスのチームは、ベントレーのデザイナーであるブレット・ボイデルやデビッド・リアリーと協力しながら、フライングスパーのスピードメーターとレブカウンターにブロンズのチャプターリングという新たな要素を採り入れた。この事について、ボイデルは次のように説明した。

 

「私たちは、物理的なディテールとデジタルのディテールに一貫性を持たせるため、ブロンズのチャプターリングを導入しました。このデザインは、フライングスパーの上品さや高級感を反映しながらも、同時にこうした高性能車にふさわしい精密な計器でもあるのです」

 

コンチネンタルGTの計器類は、ギヤレバーのデザインを反映してナーリングの背景に立体的な効果を施している。一方、フライングスパーの計器は「機械加工」された文字盤の外側に数字を配置した。どちらのデザインもキャビン内の具体的なデザイン要素を補完しており、コンチネンタルGTのデザインはパフォーマンスを重視しているのに対し、フライングスパーの文字盤はフォーマルな雰囲気を醸し出している。

 

ベントレー フライグスパーのセンターディスプレイ画

約600種類のアイコンと1500以上のメニュー画面、数多くの言語に対応するセンターディスプレイ画面製作作業は、困難を極めることになった。

 

センターディスプレイをデザインするという困難な作業

 

デザインが承認されると、次はそれをすべてのメニュー、操作、画面に落とし込む作業がスタートする。フライングスパーのセンターディスプレイの場合、約600種類のアイコンと1500以上のメニュー画面をデザインしなければならなかった。さらに英語、ロシア語、アラビア語、中国語などで異なるアルファベットやページの向きを組み込み、27の言語から成るテキストを翻訳して画面のレイアウト内に収める必要もあったのだ。

 

米国のシリウス・ラジオやアップル・カープレイのような商標で保護されたシステムに関連するグラフィックやアイコンは企業との契約も必要だった。オーディオシステムでも、ベントレー、バング&オルフセン、ネイムの3種類があり、それぞれが独自のグラフィック・インターフェースを持っている。

 

ベントレーのHMIチームは、グラフィック・デザイナー3名と「ファンクション・オーナー(部門責任者)」の9名で構成されており、それぞれがオーディオから気候まで、特定のインフォテインメント分野を担当。困難な作業を伴ったがすべてを完遂した。

 

デジタルの世界は急速に進化しており、その重要性は今後も増していくことになる。それでもベントレーは常にバランスを保っていくことになるだろう。スミスはフライングスパーのローテーション・ディスプレイを引き合いに出した。

 

「ベントレーに乗って旅をするのは常にかけがいのない体験であり、私たちが生み出したデジタル・グラフィックもその体験の一部になります。しかし、私たちはそれらが車両の一部分であるということを決して見失いません。私はデジタルの世界に真のベントレーらしさを感じさせるための一翼を担えたことを誇りに思っています」