MINIは将来どこへ向かうのか。デザインとサウンドの開発責任者が語る小型車のアイコンのこれから

公開日 : 2020/05/27 11:55 最終更新日 : 2020/05/27 11:55


MINI クーパー SEとオリバー・ヘイルマー、レンツォ・ヴィターレイメージ

小型大衆車のアイコンがついにEV化

 

MINI(ミニ)のEV、「MINI クーパー SE」はすでに欧州で販売をスタートしており、街中を走り始めている。MINIという大衆車のアイコンが“電気の心臓”を積むということは、EVの大衆化を一歩前進させることに繋がる。

 

変えるべきは変え、守るべきは守り続け、60年以上愛され続けてきたきたMINIという小さなビッグネーム。EVとなることで何が変わり、何を守ったのか。これからMINIはどこへ向かうのか。MINIのデザイン部門を率いるオリバー・ヘイルマーとBMWグループのサウンドデザイナー、レンツォ・ヴィターレが語る。

 

ミニ クーパー SEとオリバー・ヘイルマー、レンツォ・ヴィターレイメージ

MINI初のフルEV、「MINI クーパー SE」とデザイン部門トップのオリバー・ヘイルマー(右)、BMWグループのサウンドデザイナー、レンツォ・ヴィターレ氏(左)。

 

MINIを電気自動車にするという挑戦

 

──初代“ミニ”は瞬く間にアイコンとなり広く親しまれてきました。そのお馴染みのデザインをどのように進化させようと考えたのでしょうか。

 

オリバー・ヘイルマー(以下、OH):象徴的なデザインをアップデートするというのは簡単なことではありません。“ミニ”には長き伝統がありますから、より強いアイコンを作りだすにあたっては、革新性だけでなく連続性も重要になります。MINI クーパー SEをミニらしくデザインし、かつEVとして描き出すことは、古きものと新しきものを融け合わせる作業でした。

 

──大きな変更は必要とされなかったということですか。

 

OH:たとえばMINIの3ドアのように、都会のためのモビリティを作り上げるのはさほど大変な作業には見えないかもしれません。しかし、実際はとても複雑です。ゼロから新しいクルマをデザインするより力量が問われる。そういう場合も少なくありません。コンベンショナルな内燃機関を搭載したこれまでのMINIと、電気で走るMINI クーパー SEとの明確な違いを打ち出すために、まずMINIを構成しているそれぞれのデザイン要素がもつ役割を理解することから始めました。

 

ミニ クーパー SEの正面イメージ

EVのフロントグリルには大開口部が必要ないため、細いスリットだけが設けられている。

 

クルマの電動化がデザインにもたらす影響

 

──どのような部分が電気自動車専用のデザインになっているのでしょう。

 

OH:ひとつの例が、完全に口のふさがったフロントグリルです。ご存じのとおり、電気自動車と内燃機関では空冷方法が異なります。MINI クーパー SEのフロントマスクには細く水平にスリットが空いているだけ。それ以外はモダンなグレーのパネルに覆われています。デジタル化されたインストゥルメントクラスターも、電気自動車ならではのものです。エネルギーに関する情報はすべてここに投影されます。

 

新たな方向性を指し示す要素として、左右非対称の静的なデザインのホイールも採用しています。クラシカルなホイールとはあえて一線を画す意匠を作り上げました。また、エナジェティック イエローと呼ぶ鮮やかな黄色のアクセントも特徴です。ミラーキャップや随所に配した“E”のロゴにこの黄色を使っています。

 

MINI クーパー SEのセンターパネルイメージ

MINI クーパー SEはイエローのアクセントを随所に配置。スタート&ストップボタンも黄色に。デジタルインストゥルメントパネルにはバッテリーの状態など、必要情報が見やすく表示される。

 

──クルマの電動化はデザインに新しいアプローチをもたらしますか?

 

OH:間違いありません。電動化により、出発点そのものからして考え方は変わってきます。美的感覚だけの話に留まりません。構造がシンプルになることで、我々は新しい世界を探検することができます。今後はスタイリングだけでなく、サウンドやクルマのもつ香りといった人間が知覚できる様々な要素を統合していきたいと考えています。

 

MINI クーパー SEはいくつかの点ですでに新しいアプローチを体現しています。我々が未来のMINIで目指しているのは、それぞれの要素を体系化しひとつの交響曲になるようなデザインを作り上げること。たとえばエクステリアとインテリアにそれぞれ調和する素材や色遣いを採用するなど、様々な部分に関わってきます。

 

もちろん、サウンドも重要な役割を果たします。駐車時のワーニング音ひとつデザインするにしても、電気自動車にとってはエモーショナルな仕事になるでしょう。たとえばMINI クーパー SEのサウンドを手掛けたレンツォ・ヴィターレは、まるで我々がクルマのデザインについて語るときのように、その音について表現するんです。

 

MINI クーパー SEのホイールイメージ

左右非対称のユニークなデザインを採用したホイールも“EV MINI”の特徴。クラシックなミニとの違いをあえて分かりやすく表現した。

 

電気自動車の「音」の作り方

 

──レンツォ・ヴィターレさん、貴方はミュージシャン、コンポーザー、そして電気技師と様々な肩書きを持っていますね。MINI クーパー SEのサウンド開発にあたっては、どのようなことに挑戦しましたか。

 

レンツォ・ヴィターレ(以下、RV):大前提として、クルマのサウンドというのは感情を呼び起こすトリガーであり、かつ情報を的確に伝達するものでなければなりません。多くの人々は、内燃機関が生み出すサウンドに強く感情が揺さぶられます。しかし、内燃機関の声音を模倣することには意味が無いという我々の考えは最初からはっきりしていました。

 

私がサウンドを開発するとき、インスピレーションの大元になるのはデザインです。MINI クーパー SEの場合、とくにホイールと黄色のアクセントカラーから受けた視覚上の印象をサウンドへと落とし込みました。

 

ミニ クーパー SEとレンツォ・ヴィターレイメージ

MINI クーパー SEのサウンドをデザインしたレンツォ・ヴィターレ。ミュージシャン、コンポーザーなど様々なスキルをもつ音のプロフェッショナル。

 

──電気自動車のサウンドというのは具体的にどうやって作り上げるのでしょうか。

 

RV:まずはクルマ全体を見ることから始めます。楽器として見るわけですね。ミュージシャンは感覚を表現する際に楽器を使います。同様に、電気自動車もドライバーや道路上を行く人々の感覚に訴えかける音を持たなければなりません。エモーション(感情)とインフォメーション(情報)、その両方を表さなければならないのです。

 

MINI クーパー SEはフレンドリーで親近感があり煌びやかなクルマ。発進するときにはスピード感と疾走感のあるダイナミックなサウンドを発するなど、それぞれの状態をくっきりと描き出すような音が望まれます。しかもそれらは、ブランドのもつ世界観を反映するものでなくてはいけません。MINI クーパー SEのサウンドはそういうものに仕上がっていると確信しています。

 

──MINIのサウンドというのはどういうものですか?

 

RV:個人的には、MINIのサウンドは3つの要素に分けられると考えています。情熱的でエネルギッシュ、そしてインスピレーションをもたらす。それがMINIのサウンドの特徴です。サウンドはクルマを表現する手段のひとつです。私はMINI クーパー SEのサウンドを組み立てるにあたり、ずいぶんと長い時間をかけてクルマと対峙しました。そうしてようやくそのキャラクターをつかみ取ることができた。MINIの声は朗らかです。まるで「君のすぐそばに友だちがいるよ」って言っているみたいに。

 

MINI クーパー SEのリヤビュー

デザインやサウンドを通して、より人間とクルマが直感的に繋がりあえるようになる。ヘイルマーとヴィターレの2人はクルマの未来をそう予想している。愛らしいMINIは親友のような存在になるかもしれない。

 

クルマと人の関係性がもっと“密”になる未来

 

──MINIのデザインはどこへ向かっていますか。スマートフォンのようになっていくのでしょうか。

 

OH:クルマというのはどんな携帯電話にも比較することができないほど複雑なプロダクトです。将来的に、MINIは「親しい仲間」のような存在になるのではないかと思っています。よりシンプルで直感的に人と繋がることのできるクルマに、多くのオーナーは愛称さえつけて呼ぶようになるかもしれません。複雑なテクノロジー云々というよりも、人々を笑顔にするような存在になるべきだと考えます。

 

RV:たとえば、MINIは将来的にドライバーの雰囲気を感じ取り、サウンドで反応を返すようになるでしょう。ときにサウンドスケープとして、ときに信号として、ときに音楽のフレーズとして、クルマの方が乗員へ気持ちを表現し、一人ではないのだという安心感を与えてくれるようになるのです。