42年間タイヤ倉庫に放置されたポルシェ 356 C、2年間のレストア作業が完了

公開日 : 2020/05/28 17:55 最終更新日 : 2020/05/28 17:55

2年間のレストアを終えたポルシェ 356 C

Porsche 356 C

ポルシェ 356 C

 

 

ドイツ・エッセンの倉庫で発見された”宝物”

 

42年間、このポルシェ 356 Cはタイヤの山に隠され、目立たない倉庫に眠っていた。それを発見し、2年という歳月をかけて元の姿を取り戻すまでのストーリーを紹介しよう。

 

自動車のコレクターであれば、誰もが夢見ることではないだろうか? 伝説のバイヨン・コレクションは2014年にフランス西部の小さな村で発見された約60台もの貴重なヒストリックカーであり、ドイツのアルゴイ地方の納屋では干し草に埋もれたプレッツェル・ビートル(最初期型ビートル)が見つかっている。

 

今回のケースは、ドイツ・エッセンの倉庫が舞台。それほどのセンセーションは引き起こさなかったものの、2017年夏にトレジャーハンターたちが数メートル積まれたタイヤの奥から発見したのは、42年近く忘れ去られていたポルシェ 356 Cだった。

 

1964年製356 Cは、なぜ倉庫で眠り続けていたのだろう? クラウス・マイリッヒはその歴史を調べ上げた。彼はこのクルマを2万ユーロで購入し、356のスペシャリストやポルシェ・マニアの友人たちと協力し、2年の歳月をかけてかつての栄光を取り戻した人物である。

 

「前のオーナーだったエッセンのタイヤディーラーの主人はアルコール依存症だったんです。彼の運転免許は失効してしまいます。1974年に購入したばかりの356 Cは、1975年のクリスマスには走行距離7万9000kmの状態で登録解除する必要に迫られました。そしてガレージの奥に入れて、そのまま忘れられてしまったのです」

 

ポルシェ 356 Cのレストアを行なったクラウス・マイリッヒ

古い911を所有していたクラウス・マイリッヒは、40年以上も倉庫の奥で眠っていた356 Cを購入。オリジナルコンディションにレストアすることを決める。

 

ヒストリック・ポルシェ愛好家の元へ

 

今年で67歳のマイリッヒは、「ルール地方の空冷ボーイ」を自称する。機械工の資格を持つ彼は、ドイツのセカンドキャリア教育制度を利用して大学でエンジニアリングを学び、ドイツの機械工学会社「MTE」に入社した。2年前に退職した彼は保有していたMTEの株式を売却し、以来ヒストリックカーへの情熱を解き放つことを決めた。彼曰く、30年前からずっとポルシェ・ウイルスに感染したままだという。

 

「これまで私は素晴らしいコンディションの古い911を2台所有してきました。そして今度は自動車の歴史をつくってきた1台へ新たな命を吹き込むというアイデアに熱狂してしまったのです」

 

この356 Cは、ボディがエナメルブルー、インテリアがレッドという珍しい色の組み合わせで、1964年6月11日にミュンヘンのカーディーラー「MAHAG」によって登録された。最初のオーナーは8年間で6万7000km走行し、1972年にクレーフェルトの保険ブローカーに売却。その2年後に、件のエッセンのタイヤディーラーが買い取っている。

 

現在74歳のこのオーナーはある日、倉庫に放置していたこのクルマのことを思い出し、ポルシェ911クラブのメンバーにその貴重な情報を伝えた。そして販売情報を知ってすぐに購入を決めたのがマイリッヒだったと言うわけである。

 

レストア作業前のポルシェ 356 C

長年の放置にも関わらずエンジンやトランスミッションなどの重要パーツは揃っていた356 C。しかし塩害によるアンダーボディの錆は見逃せないダメージだった。

 

パーツ類は揃っていたものの塩害による損傷は甚大

 

最初のチェック後、良いニュースと悪いニュースがマイリッヒに伝えられた。

 

エンジンとトランスミッションは欠品しておらず、他のほとんどの主要パーツもガラクタの山の中に含まれていた。フロアカーペットやシートはネズミに食い荒らされていたが、インテリアは完璧。だが、ボディの至る場所が錆に侵食されていたのである。マイリッヒはこのブルーの356 Cをなるべくオリジナル仕様に近づけたいと考えた。

 

最終的なレストアコストは12万5000ユーロにも及んだ。主な修理費用はボディとエンジンに掛かっている。特にボディの修復と塗装作業のためだけに1年という月日を要した。ミュンヘンの冬の風物詩、塩害によりアンダーボディ全体が錆びており、無傷だったのはセンタートンネルのみだったのだ。

 

長い期間、エンジンを動かしていなかったため、最高出力75psを誇る1.6リッター水平対向4気筒ユニットはオーバーホール以外の選択肢がなかった。かつて映画館だった作業ホールで、356 Cはボルト1本レベルにまでバラバラにされ、2017年夏から期限を設けずにレストア作業がスタートした。マスターメカニックであり、ポルシェのスペシャリストでもあるインゴ・メンネが作業を主導したが、彼は完成した姿を見ることなく2019年4月に亡くなってしまった。

 

2年間のレストアを終えたポルシェ 356 C

ボディのリペイントに関しては、現代の技術による最新のクリアコート仕上げを選ばず、当時に近いシングルコート塗装が選択された。

 

1960年代の趣を再現したシングルコート塗装

 

塗装は、ポルシェ・クラシックの作業手順に従いながらアーレンのボディ&ペイントショップ「ピュール(Pür)」によって行われた。オリジナルの雰囲気を出すために、あえてクリアコート仕上げをせずにシングルコート塗装を選択している。

 

マイリッヒは金属加工パーツが非常に高価だったと振り返る。フロントエンド、バッテリーボックス、ドアエントリー、ドアシル、アンダーボディ、インナーウイングパネル、ダイアゴナルメンバー、アクスルマウント、アウタードアパネルなどが一新された。継ぎ接ぎの溶接は一切行われていない。

 

2018年12月、ミッケ・エンジン・センター(Micke engine centre)でボクサー4のオーバーホールが完了、トランスミッション、駆動系、ブレーキ、インテリアと共にすべての作業が終了した。赤いブロケード(絹などを使用した紋織物)製のシートセンターが取り付けられた。ボディが塗装工場から帰ってきたあと、2019年1月3日にアセンブリ作業を開始。5月4日にはシャシーにエンジンが搭載されている。

 

今回のレストアでは可能な限り古いストックパーツが使用された。これはポルシェのスペアパーツの流通が手厚く行なわれている証左でもある。「356に関しては発注から2日以内に必要なものがほとんどそろいますからね」と、マイリッヒは説明する。

 

2年間のレストアを終えたポルシェ 356 Cのインテリア

マイリッヒは現代の目から見たカッコ良さよりも、あくまでもオリジナルコンディションに拘ってレストアを行なっている。

 

強く拘った“オリジナル”コンディション

 

24ヵ月、のべ2000時間という作業工程を経て美しいブルーのスポーツカーは完璧に修復された。希少なボディカラーとインテリアを持つ356 Cは、すべての書類とポルシェによるオリジナルの納車証明書を完備している。

 

ポルシェは1963年半ばから1965年4月にかけて、356 Cと356 SCを生産。このモデルは初めて全輪ディスクブレーキを採用し、ポルシェ・エンブレムのないフラットなホイールキャップが特徴となる。この年代の356は、8万ユーロ(修復が必要な状態)から15万ユーロ(美麗なコンディション)で取引されている。

 

マイリッヒは、最高のコンディションに蘇った356 Cで日々のドライブを堪能しているという。

 

「120km/hで巡航してもすこぶる快調です。回転数は4500rpmくらいでしょうか。ハイオクタン価のガソリンを使用して燃費は10km/L。3回給油するたびに500ccのオイルを追加しています」

 

彼の356 Cを見ていると、ホイールアーチとタイヤの間に隙間があることが少し気になった。しかしマイリッヒは肩をすくめて、こう言った。

 

「ポルシェの純正パーツでトレッドを拡大できるんですが、私はやっぱりオリジナルコンディションにこだわりたいんですよ」