ロールス・ロイスのクリーンルームという聖域。100年先の品質を見据えた孤高の生産環境を見る

公開日 : 2020/06/21 11:55 最終更新日 : 2020/06/21 11:55

ロールス・ロイスのクリーンルームイメージ

一片の埃、一本の髪の毛も許されない

 

ロールス・ロイスが生まれる場所、グッドウッドのファクトリーには医療現場並の清浄度を確保したクリーンルームがある。一片の埃や一本の髪の毛、雑菌の侵入さえ許されない聖域では、ため息の出るほど精巧なロールス・ロイスのパーツが日々生産されている。

 

このクリーンルームで主に取り扱っているのは、顧客の注文を受けて特別に製作されるビスポークアイテム。たとえばロールス・ロイスのフラッグシップモデル、ファントムのダッシュボードにある“ギャラリー”を飾る加飾パネルもここで作られる。

 

ロールス・ロイス ファントムのギャラリーイメージ

ロールス・ロイスが“ギャラリー”と呼ぶダッシュボードの加飾部分には、ビスポークのオーダーに応じて多種多様なデザインが提案される。乗員が常に目にする場所でもあり、まさに芸術品を展示するギャラリーだ。

 

ファントムの部品に課せられた重責

 

同社が“ギャラリー”と呼ぶファントムのダッシュボードには、透明なガラスの向こう側にありとあらゆる素材を用いた芸術を嵌め込むことができる。急激に変化する気温や湿度など厳しい環境下にさらされ続ける自動車の部材としてゴールドや陶磁といった様々な素材を用いるためには、徹底した品質管理が必要となる。

 

ロールス・ロイスは寿命がとても長いクルマだ。116年の歴史の中で作られたすべてのロールス・ロイスのうち、3分の2以上が走行可能なコンディションをいまも保ち続けているという。今日作られているファントムも100年後に変わらぬ状態を保てるよう、可能な限りの高品質を追求している。クリーンルームはそれを象徴するひとつといえる。

 

ロールス・ロイス ファントムの加飾パネルイメージ

“ギャラリー”には、金や陶磁など様々な素材が使われる。温度や湿度など厳しい環境下にさらされる自動車という性質上、その品質をキープするためにパーツのひとつひとつは徹底管理された作業場で組み付けられる。

 

天井をウッドパネルで加飾するロールス・ロイス的美学

 

医療現場並みの無菌室を作り上げるために、ロールス・ロイスの専門家は製薬会社やマイクロプロセッサー製造会社を訪問。塵埃の侵入を防ぐべく室内を陽圧に保ち、微粒子数を常時計測するセンサーを備えたクリーンルームを設計した。何らかのコンタミが検知された際には、いつどこに発生したかが分かるようになっている。

 

天井部分には複雑な濾過システムを設置。高性能フィルターで空気中に浮遊する粒子状物質を取り除く機構だが、ここにウッドパネルを加飾しているあたり、さすがはロールス・ロイスのファクトリーらしい心遣いといえる。

 

ロールス・ロイスのクリーンルームイメージ

スタッフはサージカルウェア、ヘアネット、マスク、オーバーシューズ、専用開発されたラテックスグローブで完全防備。化粧や香水の類も許されない。

 

クリーンルームへ一度に入れるのは2名のみ

 

このクリーンルームで作業できるスタッフは5名だけで、一度に入室できるのは2名までに制限されている。クリーンルーム内は4部屋に区切られており、最初のエリアでは全身についた埃や髪の毛などを徹底的に取り除く。

 

入室時には、リントフリー(糸くずのでない)医療向けのサージカルウェアやヘアネット、マスク、オーバーシューズを着用。化粧やヘアケア、デオドラント用品の使用は一切許されない。パウダーフリーのラテックスグローブはロールス・ロイス専用に開発されたものを使用している。

 

ロールス・ロイスのクリーンルームイメージ

医療現場並みの清浄度を実現するグッドウッド工場内のクリーンルーム。作業エリアに一度に入れるのは1名のスタッフとひとつのパーツだけだ。

 

二重のコンテナで搬入されるパーツ

 

クリーンルーム横には搬入経路を設け、保護フィルムで完璧に包んだうえ、二重壁の密閉コンテナに格納したパーツが運ばれていく。クリーンルーム手前でコンテナ外皮は取り払われ、残った内壁はスタッフ同様、さらなる汚れや埃のチェックが行われる。

 

クリーンルームの入り口にはエアロックを設置したうえ、各エリアの室間差圧を徹底して制御。梱包を剥がされたパーツは、紫外線ライトや高倍率の拡大鏡などを用いて一片の異物も持ち込まないよう念入りにチェックされる。

 

毎週8時間かけて清掃する作業エリア

 

作業エリアに入れるのはスタッフ1名と、ひとつのパーツのみ。この空間は完璧な清浄度を保つよう毎週最大8時間かけてクリーニングを実施している。金属部品はどんなに小さくとも、摂氏70度の超音波クリーナーで52分間かけて洗浄。最終的なアッセンブリーの前に、パーツはいま一度の紫外線検査を行なったうえで、ようやくファントムの“ギャラリー”へと組み付けられる。

 

気の遠くなるような組み立て工程をへて、ようやく完成するファントムのダッシュボード。顧客がその姿を目にするまで、まだまだこの先にも幾十にもわたる検査が待ち受けているのは言うまでもない。