メルセデス・ベンツ GLSを国内試乗。いまこの時に渡辺慎太郎が実感した大型SUVの魅力

公開日 : 2020/06/23 17:55 最終更新日 : 2020/07/02 13:42

Mercedes-Benz GLS 400 d 4MATIC

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティック

 

 

コロナ禍で改めて自覚する「空間」と「距離」

 

「緊急事態」というなんとも物騒な宣言が発出されてから約2ヵ月、私たちは初めて経験する“非日常”の日々を過ごした。多くの方が自宅に巣籠もる一方で、いつもよりずっと忙しくなってしまったソーシャルワーカーの方など、人によって非日常の内容はさまざまだったようだけれど、そもそも月の半分は〆切という時限爆弾を解除するべく巣籠もり生活をしていた自分でさえもいわゆる取材がほとんどなくなって、巣籠もりから冬眠みたいな暮らしを余儀なくされてしまった。

 

誰とも会わず電話もなく、気が付けば「そういえば今日はひと言も発していなかったな」なんて日が何日もあって、久しぶりに人と話したらろれつがうまく回らずに焦ったなんてこともあった。味や手際はともかく台所に立つ機会は増え、クルマに乗る機会はめっきり減った。いろんな不都合があったもののどうにか生きていくことはできたし、これからはこういう空気を吸って吐く生活に少しずつ馴染んでいくのだろうと思った。

 

時間があったのでいろんなことを考えたのだけれど、個人的にこれまで以上に考察するようになったのは“空間(スペース)”や“距離(ディスタンス)”についてである。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのサイドビュー

メルセデス・ベンツ日本が2020年3月23日に国内販売をスタートした新型GLS。直列6気筒ディーゼルの「GLS 400 d 4マティック」とV8+ISGの「GLS 580 4マティック スポーツ」をラインナップする。

 

狭い日本で刷り込まれた“密”の感覚

 

今年の流行語大賞の最有力と思われる「三密」を避けるため、いつもごった返している近所の人気スーパーマーケットは入場制限を採った。タマゴと牛乳を買うためだけに外で待たされるのはちょっとどうかと思ったけれど、店内に入ったら当然のことながらお客はまばらで、すこぶる快適に買い物ができて気が付けば余計なものまでカゴに入れていた。

 

緊急事態宣言が解除され、数ヵ月ぶりにした外食では、行きつけの焼肉屋のテーブルが間引かれており、ふたりでも4人掛けの席に通されて、いつもならどこかせわしなく肉を焼いていたのに、高級焼肉店のようにゆったりと食事を楽しむことができた。スーパーや飲食店の皆さんには大変申し訳ないけれど、個人的には「ずっとこのままでもいいのでは?」と思ってしまった。

 

国土が狭い日本では限られた土地や空間を最大限に活用することが常識となっていて、日常生活の“狭い”とか“近い”とか“混雑”はそういうものだと擦り込まれてきた。それでもスーツケースも開けられないビジネスホテルの部屋をはじめ、スペース内にきちっと止めてドアがちょっとしか開かず、中国雑技団並みの姿勢でクルマから降りなくてはならない駐車場、てっきり一方通行だと思っていたら対向車が来て唖然とする路地など、「狭いにもほどがある!」みたいな場面がこの国には数多く存在する。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックの乗り込みイメージ

全長5.2m、全幅2mにせまる(AMGパッケージを備えれば2030mm)堂々たる恰幅の新型GLS。より豪奢な内装を与えたマイバッハ版も存在する。

 

スマート2台分の全長にヴォクシー並の全高

 

だからメルセデス・ベンツ GLSのように全長は5m、全幅は2mをそれぞれ超えるようなクルマは見ただけでもう運転する気力が失せていたのだけれど、今回はこれまでほどの抵抗感が生まれず、最初から最後まで心穏やかに運転できた。

 

もちろん、物理的に大きいものが小さくなるわけもなく、スマート2台分の全長、ミニバンのトヨタ ヴォクシーと同じ全高、話題のソーシャルディスタンスとほぼ同等の全幅など、GLSは堂々とした大きさである。その出で立ちからも分かるように、GLSはメルセデスのSUVのトップレンジであり、これに手を加えたマイバッハ版も存在する。ロールス・ロイスやベントレーといった、それまでSUVとは無縁だったハイエンドメーカーが続々とこのマーケットへの参入を果たし、ダイムラーとしてはメルセデスとマイバッハでこれに対抗する構えである。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのキャビンイメージ

SUVのSクラスを目指したGLSのキャビンは、快適で静かで開放的。独立2座の3列目シートも身長194cmの乗員まで対応する設計としている。

 

X7とGLSが目指した土俵は違う

 

巷ではGLSの仮想敵はBMWのX7と言われているようだけれど、個人的にそれはちょっと違うような気がする。X7は大型のSUVであってもBMWらしいスポーティな乗り味を重視した作りになっていて、確かにSUVらしからぬ俊敏な操縦性を備えている。

 

一方のGLSは、おそらく目指したのは“SUVのSクラス”であり、圧倒的な加速性能やスポーティなハンドリングよりも乗り心地や静粛性の優先順位のほうが高いように見える。大型SUV/サイズ/価格の観点なら両者はライバルかもしれないが、同じ土俵に上がって戦う競合とは思えないわけである。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのコクピットイメージ

コクピットの景色は最新メルセデスの基準にならったもの。「ちょっと暑い」と言えばエアコン設定温度を下げ、「家に帰りたい」と言えば登録した自宅を目的地に設定するなど、遠回しな表現であってもオーダーを認識する自然対話式音声認識機能も搭載する。

 

心地よいカップルディスタンス

 

自分自身の変わり身には我ながらちょっと呆れるけれど、こういう時期にこういう大きなクルマに乗ると、それまでは「広っ」としか感じなかった室内が、助手席との距離などはむしろ適度に離れていて心地良いと思ってしまった。隣の乗員との距離を「カップルディスタンス」と呼ぶけれど、「ソーシャルディスタンス」よりは温もりが感じられる表現であり、これくらいの距離感のほうがいまはなんとなく安心する。

 

室内に広がる風景は最近のメルセデスのそれに準じたもので、同時にセンターコンソールのアシストグリップやエアコン吹き出し口のレイアウトなどはGLEに酷似している。よってGLS専用の特別な儀式は必要なく、現行のメルセデスを運転した経験があれば躊躇なくすぐにスタートできる。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのサイドビュー

街中から高速道路まで、あらゆるシチュエーションでゆったりとした乗り味を乗員へもたらす新型GLS。東京から京都、大阪程度の長距離ドライブでもGLSなら少しも苦にならない。

 

穏やかな海をいくヨットのような乗り味

 

走り出してすぐに気が付くのは乗り心地のよさだ。約2.6トンの車両重量と標準装備のエアサスペンションの恩恵によるもので、路面からの入力をうまく吸収して乗員にまで余分な振動を極力届けない。ステアリングを切るとばね上が左右方向に少し動いてしまうのは、この全高と重心の高さを考慮すれば仕方なく、むしろよくここまで抑え込んだとも言えるレベルである。

 

GLSの乗り心地は、いわゆるマジックカーペットのようなフラットライドではない。例えば高速巡航中、ばね上(=ボディ)はほぼいつも動いている。ところが上下動の速度がゆったりしているので、穏やかな海の上を進むヨットのようでもある。電子制御式ダンパーの減衰力と空気ばねのばねレートのセッティングの妙により形成された乗り心地は、速度や路面の依存度が低く、タウンスピードから高速巡航に至るまで、変化の少ない快適な乗り心地を提供し続ける。

 

今回はディーゼルを搭載したGLS 400 dに試乗したが、日本で販売されているもうひとつのGLS 580は“Eアクティブボディコントロール”と呼ばれるアクティブサスペンションのような機構を備えており、こちらだとフラットライドに近い乗り心地が味わえるはずである。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのキャビンイメージ

現在メルセデスがラインナップする内燃機関の中でも特に印象的なのがOM656型直6ディーゼルターボ。6気筒らしい伸びやかさとディーゼルらしい頼もしさ、そして経済性も併せ持つ。9Gトロニックとの相性も申し分がない。

 

伸びやかで気持ちいい傑作直6ディーゼル

 

GLS 400 dが搭載するパワートレインは3.0リッターの直列6気筒ディーゼルターボエンジン+9Gトロニック。以前、Gクラスの原稿にも書いたように、このOM656型ユニットは現行のメルセデスのラインナップの中でも珠玉の出来だと考えている。溢れんばかりの、というほど猛烈なパワーではないけれどトルクは潤沢であり、回転数を問わずどこからでも直ちに反応して伸びやかに加速していく様は6気筒ならではのもの。ターボの存在はほとんど感じられず、とにかく終始すこぶる気持ちがいいのである。

 

9Gトロニックとの相性も抜群で、エンジンのおいしいところを9Gトロニックの各ギヤが掴んで離さない。ちなみにGクラスとまったく同じエンジンだが、GクラスはG“350 d”、GLSはGLS“400 d”と呼ぶように、GLSのほうが+44ps/100Nm上乗せされている。330ps/700Nmあれば、G350dより90kgも重くても難なく運べるというわけである。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのシートアレンジイメージ

新型GLSはホイールベースを先代比で60mm延長した。2列目シートは電動スライド機能を備え、最大でニールームを87mm拡大することが可能。荷室容量は通常時で470リットル、2、3列目シートを倒せば最大2400リットルに拡大する。

 

GLSの真のライバルは

 

前述のように、GLSはスポーティな味付けになっていないので、ワインディングロードで旋回スピードが速いまま次から次へとコーナーをクリアしていく類のハンドリングではない。しかし、全長もホイールベースも長いのに、操舵応答遅れはまったく見られず、ステアリングを素早く切っても車体はちゃんとついてくる。ゆっくり切っても顕著なアンダーステアに見舞われることもない。

 

ドライバーの入力に忠実に応えてくれる操縦性を有しているから、山道でのドライブも決して退屈にはならないはずである。GLSに似たような操縦性や乗り心地を最近体験したなと思い返してみたら、キャデラックのXT6だった。本当のライバルはX7ではなく、XT6だと個人的には思う。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのフロントグリルイメージ

手の平を目一杯広げても、それより大きなサイズのスリーポインテッドスター。ここにADAS(先進運転支援機能)用の高精度センサーを内蔵している。

 

新しい日常で膨らむかもしれないクルマの楽しさ

 

さすがに「背の高いSクラス」とまでは言えないけれど、GLSには上質な快適性が備わっていた。そして何より、このサイズのSUVが好まれる理由がちょっと分かったような気がした。

 

コロナ禍の影響で、私たちは空間や距離の見直しを迫られてしまった。経済のことなどを考慮すればこの先もずっとこのままというわけにはいかないだろうけれど、中には現状を継続したほうがいいものもあるし、改善を検討すべきものもあるはずだ。

 

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティックのリヤビュー

直列6気筒ディーゼルの「GLS 400 d 4マティック」は2020年3月23日より、V8+ISGの「GLS 580 4マティック スポーツ」は2020年6月より日本国内での納車をスタートしている。

 

クルマ目線で見れば、これだけクルマが大きくなった現代では、道幅やパーキングスペースは拡大するべきだと思う。これが新しい日常になれば無用な気遣いは激減して、大きなクルマでももっと楽しめるようになるだろう。

 

せっかくGLSくらいのサイズのSUVを買ったなら、駐車場にドーンとクルマをとめて、ドアをバーンを開けて降りてみたいではないか。きっとこの上なく気持ちがいいに違いない。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

 

 

【SPECIFICATIONS】

メルセデス・ベンツ GLS 400 d 4マティック

ボディサイズ:全長5207 全幅1956 全高1823mm

ホイールベース:3135mm

車両重量:未発表

エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ

総排気量:2925cc

ボア×ストローク:82.0×92.3mm

最高出力:243kW(330ps)/3600-4200rpm

最大トルク:700Nm/1200-3200rpm

トランスミッション:9速AT

サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク

駆動方式:AWD

タイヤサイズ:前後275/50R20

車両価格(税込):1263万円 ※テスト車:1335万7000円 AMGライン、オフロードエンジニアリング パッケージ装着

 

 

【問い合わせ先】

メルセデス・コール

TEL 0120-190-610

 

 

【関連リンク】

・メルセデス・ベンツ公式サイト

https://www.mercedes-benz.co.jp/