フェラーリ GTC4ルッソ、4WD・4シーターを採用した異端モデルの実用性とは?【Playback GENROQ 2017】

公開日 : 2020/07/15 17:55 最終更新日 : 2020/07/15 17:55

Ferrari GTC4Lusso

フェラーリ GTC4ルッソ

 

 

6名のジャーナリストがフェラーリの異端モデルを斬る!

 

初の4WD、4人乗りという異端的フェラーリが、GTC4ルッソという名前で装いも新たに日本に上陸した。FRでも2+2でもなく、いっそ実用的とも思えるフェラーリだが、その本質には乗ってみて初めてわかる凄みがあった・・・。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、清水和夫氏のインカ―

イタリアのワインディングロードを走った際に、フェラーリ GTC4ルッソにひとめ惚れしたという清水和夫氏。その印象は国内試乗でも変わらなかった。

 

清水和夫「V8に乗って気がついた──自分が恋しているのはV12なのだ」

 

人間だけでなく、クルマにはひと目惚れがあるもんだ。初めてフェラーリのAWD、FFに乗った時から心ときめいていたが、その後継モデルとなるGTC4ルッソのステアリングを握った時、私の心拍数はマックスに達してしまった。昨年イタリアのワインディングを走ってその魅力に引き込まれていった。その時は「どうせいつものひと目惚れ。自分は惚れやすいからすぐに忘れるさ」と思っていたが、一年経ってもルッソの存在感は高まっていった。

 

この恋はホンモノかもしれない。今年はルッソのV8ターボに乗る機会に恵まれたが、V8ターボはAWDではなくFR。V12のAWDのルッソは紛れもないグランド・ツアラーだが、V8ターボはヤンチャなスポーツカーだった。どうせならリヤシートを取り外したモデルがあっても良いとさえ思った。つまりV12とV8ターボはキャラクターを大きく変えている。同じアーキテクチャーであっても、個性は異なる。

 

V8ターボに乗って初めて、自分が恋々としているのはV12のルッソだと気がついた。今回、草木が芽吹き始めた八ヶ岳までドライブすることになり、東京から2時間ほどで諏訪湖に到着。ルッソの高速ドライブは快適だ。快適と言ってもどう快適なのか。フェラーリオーナーの多くは無駄にギヤをアップ&ダウンさせてエンジンを楽しむが、ルッソの場合そこに本質的な価値はない。V8はシングルプレーンなのでレスポンスが鋭いが、エンジンの振動は背骨まで伝わる。鼓膜はエンジンが作り出す空気の振動と、骨を伝わって鼓膜に届く振動(骨伝導)が組み合わさって音として脳が聴いている。気持ちが良いとはその合成音だ。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、走行シーン

ワインディングロードを走っていても「もはや、私の知るフェラーリではなかった。その洗練された動きはマシンとの一体感を感じる」と語る清水和夫氏。搭載されるV12エンジンに惚れこみながら、その存在を忘れることもあったという。

 

「このルッソはきっと21世紀の自動車史に残る名車になるだろう」

 

だが、完全バランスのV12はエンジン本体から振動が出にくいので、自分の骨から伝わる骨伝導の成分はあまり大きくない。直接、鼓膜を振るわせるのは空気の振動なのだ。骨よりも空気のほうが音のエネルギーを減衰しやすいので、フロントエンジンのV12は他のフェラーリとは違って聞こえるはずだ。たとえば遠くで聞くクラシック音楽に似ている。

 

そこで私はあえてギヤをMモードにして低い回転を使って走った。身体に伝わる振動ではなく、ヘッドフォンで聴く音楽のように、音源が遠くに感じる心地良さを発見したのだ。それまでのV8エンジンや回転を高めて走っている時は、エンジン音以外の音はかき消されていた。だがV12を静かにさせておくと、空気を切り裂く音や、駆動系全体から鳴る低いコントラバス・チューバのような音も聞き逃さない。

 

こうしてエンジンのピストンスピードを低くして走っていると、エンジンの存在感を忘れさせてくれるというのは事実だ。もはや、私の知るフェラーリではなかった。ワインディングを走っても、その洗練された動きはマシンとの一体感を感じる。エンジンもサスペンションの存在も忘れる。身体とマシンが完全に同化した。この瞬間に心理的オーガズムに達してしまった。もしからすると、1950年代のフェラーリもそうだったのかもしれない。このルッソはきっと21世紀の自動車史に残る名車になるだろう。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、田中哲也氏のインカ―

田中哲也氏は「タイヤのグリップ感が素直に伝わってきてリアリティの高さから得られる安心感が常に伴う」と、GTC4ルッソが示したスタビリティの高さを語る。

 

田中哲也「広いパワーバンドと優れたレスポンス! さらに官能的なV12サウンドを味わう」

 

実は以前、別の仕事でフェラーリ FFを箱根や雪道、そしてジムカーナコースで数多くテストした経験がある。その時、革新的なメカニズムを駆使して完成した4WDシステムの安定性には感心させられたから、今回のGTC4ルッソのテストドライブを楽しみにしていた。

 

それにデザインも魅力的になったと思う。特にリヤスタイルは、スポーティさが増して実に好ましい。シートに身を沈めてみても開放感があってリラックスできるし、シートとステアリングのポジションも自然だから乗った瞬間からドライビングに集中できると確信した。

 

スタートも極めてスムーズだ。DCTの完成度は確実に向上している。例え上り坂で止まっても再びスムーズな発進ができて扱いやすい。

 

そしてワインディングを攻めてみれば、タイヤのグリップ感が素直に伝わってきてリアリティの高さから得られる安心感が常に伴う。ステアリング操作に対してもクイックかつレスポンスが早いから好印象だ(逆に良すぎると感じるオーナーもいるかもしれないが)。

 

注目すべきは、4WSの効果だろう。様々なコーナーをクリアするとはっきりと体感することができる。4WDであるのにリヤが操舵することで非常に曲がりやすいセッティングになっているのは明らかだ。アンダーステアを極力減らして軽快にコーナリングをクリアさせる、という意図がしっかりと伝わってくる。限界領域での挙動はワインディングでは判断できないが、今回の試乗の範囲ではリヤが不安定になるということは一度もなかった。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、走行シーン

田中哲也氏は試乗を終え「低回転での扱いやすさは天下一品ながら、高回転の伸びも文句なし」と、自然給気6.3リッターV型12気筒エンジンを絶賛する。

 

「さらなる理想を求めて開発するという、一貫した理念を感じる」

 

ブレーキに関しては、ソフトなタッチでストロークもあり、初期の制動は扱いやすい印象だ。特にこうした傾向だと一般道での運転は快適だ。その一方、高い速度域において強いブレーキングをした時では少し曖昧なところがあるのも確かだ。しかしサーキット走行するようなコンセプトではないことを思えば、この点はさほど評価に影響しないだろう。

 

そして一番気になるのはフロントに積まれたV12自然吸気エンジンだが、言うまでもなく“好印象”である。低回転での扱いやすさは天下一品! 渋滞路を走っていても扱いやすいだけでなく、全開領域もフェラーリならでは。乾いた甲高い12気筒サウンドそのもので、素晴らしく官能的である。もちろんパワーも正直、速すぎるくらいだ。パワーバンドが広く、どこから踏んでも優れたレスポンスを味わえる。しかも懐が深い。なおかつ高回転での伸びも文句なし。7000rpmから上の伸びなどは快感そのもので、その速さには私自身、緊張感を伴ったくらいだ。フェラーリの12気筒は相変わらず素晴らしい。今さら語る必要もないが、新しくなるたびに感動は増していくばかり。今回の12気筒も扱いやすさと強烈なパワーを究極的なレベルで完成させていている。

 

相変わらずさらなる理想を求めて開発するという、一貫した理念を感じることができるのがフェラーリ。ルッソはそんな理念のもとに妥協なく造られたGTカーだと実感した。極めて完成度が高く、そしてチャレンジしている結果だと私は感じた。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、大谷達也氏のインカ―

「そのエキゾーストサウンドは美しいロングトーンを奏でる弦楽器のように聞こえる」と、GTC4ルッソの官能的なエキゾーストサウンドを評した大谷達也氏。

 

大谷達也「重要なのは製品の卓越性を通じて、ラグジュアリーな世界をどう表現するか」

 

フェラーリ GTC4ルッソをドライブしていると“洗練”という言葉が自然と心に浮かんでくる。排気量6.3リッターのV12エンジンはFFと呼ばれていた当時よりも、さらに滑らかに回り、そのエキゾーストサウンドは美しいロングトーンを奏でる弦楽器のように聞こえる。とりわけ回転数が6000rpmに近づくとファーンという濁りのない調べを響かせ始めるのだが、その音色は12本のシリンダーから生み出されていることがにわかには信じられないほど深く調和がとれたものだ。

 

魅力的なのはサウンドだけではない。スロットルペダルを踏み込んだ時の反応は、極めて軽いムービングパーツがバランスよく回転していることを想像させる。その軽快なフィーリングは、これが690psを生み出す大排気量エンジンであることさえ忘れさせてくれるだろう。

 

ただし、印象があまりに滑らかなため、エンジンがパワフルでないかのような錯覚を生み出すこともあるが、ワインディングロードで右足に強く力を込めれば、4WDであるにも関わらずコーナリング中にESCの警告灯がチカチカと点滅し始める。もっとも、ESCの動作はフェラーリの例に漏れず圧倒的にスムーズだから、メーターパネルに視線をやらなければその事実には気づかないはずだが、それにしても圧倒的なパワーである。やはりフェラーリは傑出して優れたエンジン・メーカーなのだ。

 

GTC4ルッソの洗練度はシャシーにも反映されている。剛性が高いボディに組み付けられたサスペンションは、うねった路面をどこまでも捉え続け、ボディの姿勢を限りなくフラットに保つ。工業製品として優れていることは明らかだが、それだけに留まらず、完成度の高さで人に感動を呼び起こす芸術性まで手に入れている事実に深い感銘を覚えた。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、リヤスタイル

「タイヤの限界を引き出す作業には深い喜びが伴い、その意味においてGTC4ルッソをスポーツカーと呼んでも間違いではない」としながら、やはりGTC4ルッソのベクトルはラグジュアリーに向かっていると大谷達也氏は指摘する。

 

「額に汗しながら操るスポーツドライビングはGTC4ルッソの本懐ではない」

 

最新フェラーリの傾向でハンドリングは操舵初期のゲインが高く、切り始めはボディが横っ飛びしていくような反応を示すが、この領域を除けばステアリングのリニアリティは高く、フィードバックも比較的豊富。このためタイヤの限界を引き出す作業には深い喜びが伴う。その意味においてGTC4ルッソをスポーツカーと呼んでも間違いではなかろう。

 

しかし、フェラーリがこのモデルで表したかったのは、額に汗しながら操るスポーツドライビングの世界ではなかったはず。抜群の運動性能も正確極まりないハンドリングも、彼らにとってはラグジュアリーカーが余裕として備える過剰な性能の一部に過ぎない。フェラーリが本当に作り出そうとした世界観、それはライバルでさえうらやむほどの高性能をひとつの演出として用いることで実現できる、圧倒的なラグジュアリー性だったのではないのか? インテリアに極めてクオリティの高いレザーやスイッチ類を用いているのも同じ理由からと考えれば納得がいく。

 

誤解を恐れずにいうと、フェラーリにとってもはや性能が卓越していること自体に大きな意味はなくなってきている気がする。彼らにとってより重要なこと、それは製品の卓越性を通じてどれだけ個性的でラグジュアリーな世界を表現できるかにあるように思えてならない。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、島下泰久氏

島下泰久氏は「ドライバーを急かしてこないフェラーリなんて、過去にあっただろうか?」と語り、静粛性の高いコクピットの仕上がりにも驚きを隠さない。

 

島下泰久「このV12の咆哮を天候を問わず、グランドツアラーとして堪能できる喜び」

 

実際にはすべてが新しいと言っても、フォルムはFFを踏襲しているだけに外観にはさほど興味はないが、インテリアにはさすがに驚いた。大型モニターを中央に戴き、助手席側にまで小さなモニターをビルトインしたインストゥルメントパネルは、昔のフェラーリのイメージでは考えられない仕立てだ。

 

充実したインフォテインメントシステム、こだわりのオーディオなどを前にすると「フェラーリに乗って、運転以外を楽しめと?」と妙な気分になるが、それはおそらくドライバーだけの話。パッセンジャーからしてみれば反対する理由などないだろう。もちろん、使いこなせばドライバーにとってもメリットは小さくないのだし。

 

走り出しても、驚きがさらに持続することとなった。室内が、とても静かなのだ。闇雲に遮音されているというよりは、ボディの密閉感が高まったような雰囲気。それでも、6.3リッターV型12気筒の自然吸気エンジンは、ちゃんと心地良いハミングを聞かせてくれるから、ゆっくり流していても心地良い。ドライバーを急かしてこないフェラーリなんて、過去にあっただろうか?

 

とは言え、然るべき場所で思い切り鞭を入れれば、やはりそこはフェラーリのV12。むせび泣くような快音を高らかに響かせながら、一気に高回転域を目指していく。この突き抜けるような、シビレるような快感は、自然吸気ならでは。今やフェラーリの中ですら希少になっているだけに貪るように味わってしまった。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、エンジン

フロントフード内に搭載される6.3リッターV12エンジンは、最高出力690ps/最大トルク697Nmを発生。最高速度335km/h、0-100km/h加速は3.4秒のパフォーマンスをスペックシートに掲げる。

 

「後輪操舵システムは日本のワインディングには合わないように感じる」

 

ライドコンフォートにも磨きがかかっている。低速域からしなやかに動くサスペンションの優しいタッチが、先述の静粛性の高さと相まってクルージングを格段にリラックスしたものにしているのである。

 

しかもGTC4ルッソは4WD。天候を問わずにこのV12の咆哮を、このグランドツアラーとしての資質を堪能できるのが、また嬉しい。

 

ただし、新たに搭載された後輪操舵システムには馴染めなかった。同じような機構は他にもあるから、操舵すること自体がイヤなわけではない。ずっと背骨が動いてしまっているような、ヨーの中心が安定しないクネクネとした身のこなしに違和感を覚えるのだ。良く曲がるのは確かだし、速度が高まるにつれて気にならなくなるのだが、日本のワインディングロードには、ちょっと合わないように感じる。

 

まあしかし、そういうことに目くじら立てずに、フェラーリを日常的に使う人生を楽しんで、というのがきっとこのクルマの発するメッセージなのだろう。GTC4ルッソは、ひとつの踏み絵のようなクルマと言うべきかもしれない。フェラーリに対しての、あるいは真に豊かさを知っているのか否かという意味でも。

 

ともあれ、ひとつの濃密な世界を築いているクルマである。豊かな、本当に豊かなライフスタイルを想起させる存在だけに、涼しい顔をして乗っていたら相当カッコ良いのは間違いない。個人的には、いっそトレーラーヒッチを背負い、MTBでも積んでリゾートへという絵が浮かんだ。もちろん、そんなフェラーリは初めてである。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、佐藤久実氏のインカ―

最初は後輪操舵システムに違和感を感じつつも「かつて、これほどまでにリラックスしてドライブしたフェラーリはなかったかもしれない」と、GTC4ルッソのフレンドリーな乗り味を評価する佐藤久実氏。

 

佐藤久実「ゆったり走れるGT性能とスポーツカー的性能の両立が見事」

 

フェラーリ・ラインナップの中でやや異端とも思える“シューティングブレーク・クーペ”スタイルはFFで見慣れた感がある。

 

コクピットに収まって操作系を確認すると、ステアリングに装備されるウインカーの操作性の良さやインフォテインメントなど、一見して従来より機能、装備が充実したことがうかがえる。スタートボタンを押すと、ウォン!と乾いた短い咆哮。これぞフェラーリ、これぞ12気筒と気分も高まる。まずはデフォルトの「コンフォート」モードでゆっくりと走り出す。

 

走り始めはけっして好印象とは言い難かった。ステアリングを切るとやたらとシャープなのに、ボディの動きと今ひとつシンクロしない。何でだろう? しばし疑問を抱きつつ走行する。だが、しばらくドライブすると、やがてモヤモヤの霧は晴れた。タイトベンドのない普通の道はコンフォートモードでドンピシャなのだが、ワインディングはドライブモードをスポーツにするとちょうど良い。妙に舵の効きが良く思ったのは4輪操舵のせいだった。そして、その入力に対してボディがスッキリした動きで追従するのがスポーツモードだ。

 

クルマをサイドから見ればかなりのロングホイールベースであることは一目瞭然だが、タイトなコーナーが続くシーンでも、クルマの大きさを持て余すことなく、優雅ながらも俊敏な身のこなしを見せる。それでいて、乗り心地はまったく犠牲にならない。

 

アクセルレスポンスの良さは通常域から感じるが、有り余るパワーを無駄にひけらかすこともない。トランスミッションのオートモードを選ぶと、60km/hで7速1000rpmというエコモード。アクセルを踏み込めば適度なサウンドで応えるが、巡航中はエンジンサウンドがほぼ聞こえない。かつて、これほどまでにリラックスしてドライブしたフェラーリはなかったかもしれない。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、インテリア

GTC4ルッソがドライバーのためだけのモデルではないことを端的に示す「パッセンジャー・ディスプレイ」。同乗者が快適にドライブを楽しめるよう配慮されている。

 

「パッセンジャーの快適性と理解を得られるグランドツーリングカー」

 

とはいえスポーツ走行性能も十分だ。2速で刹那的加速を試みたところ、レブリミット到達前、瞬時に100km/hに達してしまった。その強大なトルク感たるや、凄まじい。もちろん、ブレーキの効きもすこぶる良い。フェラーリらしからぬゆったり走れるGT性能とスポーツカー的性能の両立が見事だ。

 

しかし、従来のフェラーリともっとも違うのは助手席だ。助手席の正面に搭載される「パッセンジャー・ディスプレイ」。オプション装備だが、音楽を選んで再生したり、レストランを検索してナビに送信する機能なども備えている。

 

リヤシートは広いとは言い難いが、包み込まれるようなシート形状によって快適性が確保される。今までフェラーリは究極のドライバーズカーだったが、これほどまでにパッセンジャーに配慮を感じるフェラーリが誕生したことが驚きだ。

 

GTC4ルッソはスポーツカー好きのドライバーのみならず、パッセンジャーの快適性と理解を得られるグランドツーリングカー的要素が色濃い。それでいて、個性やパフォーマンスはまったくスポイルされていないところが、やっぱり「フェラーリの凄さ」なのだろう。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、高平高輝氏のインカ―

「軽やかだが華奢ではなく、分厚く強靭なシルクのような手触りはあのエンジンと同じだ」と、かつてサーキットで試乗したV12エンジン搭載のF1マシン、412T2を思い返した高平高輝氏。

 

高平高輝「猛然と荒々しく回るのではなく、アリアの如く晴れやかに歌い上げる──」

 

トップエンドに至っても声を張り上げ、力をふり絞っている様子がまったく感じられない。鎧袖一触というのだろうか、けた外れのパワーを持つ格闘家がやすやすと相手を投げ飛ばすかのように、むしろ愉し気でさえある。6.3リッターV12が8000rpm以上ストレスなく吹け上がるというだけで、最近では真に有り難い貴重品なのに、そのうえ回転の上昇に漲るパワーが伴っているのだ。しかも猛然と荒々しく回るのではなく、澄み切って洗練されている。大らかに晴れやかに歌い上げるアリアを聞いているかのようだ。

 

もう20年も経ってしまったが、最後のV12グランプリエンジンとなった412T2に、サーキットでほんの少し乗ったことがある。慎重にピットアウトして、さあ行くぞと踏んだらまったく加速せず、瞬間混乱した。恥ずかしながら実はすでにリミッターに当たっていることが分からなかったのである(その日は1万5000rpmがリミットだった)。

 

それほど軽々と、かつリミッターが作動していても苦し気なバイブレーションなどが一切なかった。ああ、いけない、と右のパドルを触ってシフトアップしてからの空に昇るような加速感は今も鮮烈に覚えている。軽やかだが華奢ではなく、分厚く強靭なシルクのような手触りはあのエンジンと同じだ。ちなみに当時のユニットの公称最高出力は600psだったから、690psの現在のGTC4 ルッソはグランプリエンジンを軽く凌いでいることになる。かつてフェラーリに乗る時は、どうか無事に何事もなく帰って来れますように、手を合わせてから乗り込むような覚悟が必要だったように思う。ところが今やオートモードに入れておけば、滑らかに静かに走り出してくれるし、街中でも気難しさは一切ない。これが進歩というものだろうか。

 

フェラーリ GTC4ルッソ、サイドビュー

GTC4ルッソのコーナリング性能を「車重2トン、ホイールベース約3mの巨体であることを忘れそうなぐらい」よく曲がると評価。そのイージーさに、切れ味鋭く曲がるだけがフェラーリではないと語る。

 

「“目的のためなら手段を選ばず”的な大胆さがイタリア的である」

 

GTC4ルッソは、後輪と前輪を別々のギヤボックスを介して駆動する奇想天外な4WDシステムを先代モデルたる「FF」から引き継いでいる。V12をフロントミッドシップに搭載するために、折り返しのドライブシャフトでフロントアクスルに駆動力を伝達する機構のためのスペースが見つからなかったのだろうが“目的のためなら手段を選ばず”的な大胆さがイタリア的である。

 

新たに備わった4輪操舵ばかりではなく、Eデフや4WDシステムによるベクタリングの効果だろうが、まあびっくりするほど良く曲がる。このフェラーリが車重2トン、ホイールベース約3mの巨体であることを忘れそうなぐらいだ。突如グリップを失う瞬間に常にピリピリと身構えていた、かつての若造の私に教えてやりたいほどイージーだ。

 

奇抜な手法で巨大なV12と4WDを両立させ、実用性を確保したとフェラーリが口にするなんて、と思う人もいるだろうが、フェラーリはミッドシップモデルが主流となった70年代以降も、ほぼ切れ目なく2+2のラグジュアリーなモデルもラインナップしてきたことを忘れてはいけない。切れ味鋭く曲がるだけがフェラーリではない。オペラのクライマックスのように、高らかに朗々と、そして堂々と地の果てを目指すのがフェラーリのグラントゥーリズモなのである。

 

 

PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI) Ferrari S.p.A.

 

 

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ GTC4ルッソ

ボディサイズ:全長4922 全幅1980 全高1383mm
ホイールベース:2990mm
車両重量:1920kg
前後重量配分:47:53
エンジン:V型12気筒DOHC48バルブ
圧縮比:13.5
ボア×ストローク:94×75.2mm
総排気量:6262cc
最高出力:507kW(690ps)/8000rpm
最大トルク:697Nm(71.0kgm)/5750rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD(4速迄)
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前398×38 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8.5J) 後295/35ZR20(10.5J)
最高速度:335km/h
0-100km/h加速:3.4秒
CO2排出量:350g/km
燃料消費率:15.3リッター/100km
車両本体価格:3470万円

 

 

※GENROQ 2017年 7月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

GENROQ  2017年 7月号 電子版

※雑誌版は販売終了