ゴードン・マレーの最新スーパーカー「T.50」は伝説の再来か。自然吸気V12の全容に迫る【後編】

公開日 : 2020/07/25 17:55 最終更新日 : 2020/08/03 08:05

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA)のT.50リヤビュー

Gordon Murray T.50

ゴードン・マレー T.50

 

 

マクラーレンMP4/6のホンダ製V12という着眼点

 

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA)の放つ最新作「T.50」は、稀代の設計者が30年ぶりに作る公道向けスーパーカーだ。その心臓部には、コスワースと共同開発した渾身のV型12気筒自然吸気ユニットが収まることになる。

 

そのV12の開発にあたっては、マレーが過去に携わった車両やレースからの知見を総動員して導入している。1990年代初頭のF1マシン、マクラーレン MP4/6に積まれたホンダ製3.5リッターV12「RA121E」も、T.50のエンジンに多大な影響を与えた。マレーによれば、パフォーマンスとバランスの良さ、そして重量の点で、F1で使われたV12の中で最高峰であったという。

 

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA)とコスワースで共同開発するV12の生産工程イメージ

T.50に搭載するGMA V12は、英国の名門エンジンビルダー「コスワース」と共同開発した。コスワースのブルース・ウッド曰く、「これまで手掛けたどのエンジンよりも厳しい基準」が設けられたという。

 

BMW製 S70/2の美しさを現代に

 

もうひとつ、忘れてはならないのがBMW製「S70/2」の存在だ。マクラーレンF1に搭載した同ユニットを、いまもスーパーカーエンジンの頂点として称える人間は少なくない。

 

「何をおいても、BMW S70/2みたいにクリーンな見た目にしたいと考えました。カーボンや樹脂のカバーなどなく、トランペット(エアファンネル)やカムカバー、エキゾーストやヘッド、ブロックから成り、最小限のベルト駆動類は見えない場所に追い込んだ、あのエンジンのような。カーボンのカバーに覆われた現代スーパーカーのそれに相対する、解毒剤にしたかったんですね」とマレーは語る。

 

1万2100rpmのレブリミット

 

2020年の今日でさえ、マクラーレンF1はお金で買うことのできる最良のクルマの一台として考えられている。しかしマレーに言わせればS70/2には改善の余地があったらしい。レブリミットがいささか低く、サウンドが高まり始める頃にはギアの変速を迫られてしまうため、没頭できる時間がやや少なかったというのである。

 

マレーは次のように述べている。

 

「エンジン設計からキャリアをスタートした私としては、T.50専用の3.9リッターV12について考え、作り上げていく作業は大変な喜びでした。真っ白な用紙を前に、世界で最高の、ずっと高回転まで吹け上がり、素晴らしく美しい設計で、驚くようなサウンドを奏でるエンジンを創造する。これこそ私が長らくやりたいと願い続けていた仕事だったんです!」

 

ゴードン・マレーがライト・カー・カンパニーの「ロケット」で刻んだ1万1500rpmのレッドゾーンを、T.50はさらに塗り替える。GMA V12のレブリミットはじつに1万2100rpm。最高出力の663psを1万1500rpmで発揮する。レスポンスの鋭さも桁外れで、アイドリングからわずか0.3秒で1万2100rpmに達するという。

 

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA)の V12イメージ

レスポンス、サウンド、個性的なフィール、溢れ出すパワー、そしてどこまでも吹け上がる痛快な体験。そのすべてを叶えるには、「V12以外はありえなかった」とマレーは語る。

 

指揮者に従い高らかに歌いあげるV12

 

レッドライン付近で雄叫びをあげるエンジンサウンドは、ドライバーに大きな歓びをもたらす要素だ。その歓びをさらに高めようと、T.50の開発チームが着目したのが「ダイレクト パス インダクション サウンド」。マクラーレンF1のために開発したシステムだが、今回T.50のために改良を加えて搭載した。

 

ドライバーの頭上、ルーフに装備したカーボンファイバー製のラムエアインテークは、キャビンに響くエンジンサウンドを増幅させるスピーカーとしても作用する。システムは回転数ではなくスロットル開度に連動するため、パーシャルの場合は控えめな音をキープするが、ドライバーがひとたびスロットルを半分以上踏み込めば大きな声で歌いあげる、という仕組みになっている。

 

「ターボエンジンに、真に印象的なサウンドは望めません。T.50の音はきっと貴方を驚かせることでしょう。スロットル開度に合わせてドライバーを酔わせるようなうなり声があがり、空気を取り込むたびにサウンドが膨らみ、レブリミット目指してペダルを蹴り上げるほど、V12は高らかに歌いあげる。他のどんなロードカーにも似ていない声でね」。そうマレーは説明する。

 

T.50のドライバーは、さながらV12のオーケストラを自在に操る指揮者といえる。

 

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA) T.50のエアロダイナミクス技術イメージ

ゴードン・マレー オートモーティブ(GMA)の最新スーパーカー「T.50」には先進のエアロダイナミクス技術も盛り込んでいる。空力面で協力したのは、F1の第一線で戦う「レーシングポイント・フォーミュラ1チーム」。

 

エンジン単体重量は178kg

 

マレーのクルマづくりの教義に添うべく、GMA V12は軽量でなければならなかった。ブロックはアルミニウム製で、コンロッドとバルブ、そしてクラッチハウジングはチタン製、スチール製のクランクシャフト重量は13kgに抑えている。結果、エンジン単体重量は178kg。ロードカー向けのV12ということを考えれば、200kgを切るだけでも十分に驚異である。

 

マレー曰く「優れた設計はエンジンを軽くする。もちろんパフォーマンスや品質、パッケージング、レイアウトのすべてにおいて妥協は許されません」

 

V12エンジンの「むき出しの美しさ」

 

重量と同様に、サイズと搭載位置も車両の重心高を低めるために重要な要件となる。とくにコンパクトな設計は必須であった。マクラーレンF1では125mmだったクランク高を、今回はエンジン最下端から85mmに収めている。オイル供給方式はもちろんドライサンプだ。

 

現代スーパーカーのそれとは違い、T.50のエンジンコンパートメントは“ブラックボックス”化されていない。車両の中央部から回転するように開くガルウイングタイプのリッドを開けると、むき出しのV12がその美しい姿をさらしている。

 

レースカーエンジンのようにギヤ駆動方式を採用しており、補機類はなるべく視界に入らない位置に搭載。エキゾーストマニフォールドやトランペットが、スポットライトを浴びるようにセンターを飾っている。

 

ゴードン・マレーのイメージ

全世界へ衝撃を与えたマクラーレンF1からおよそ30年。ゴードン・マレーが2020年のいま作るとしたら、どんなスーパーカーが生まれるのか。その全貌は間もなく2020年8月4日に明らかになる。

 

エンジニアが作り出した現代の芸術

 

マレーは語る。

 

「このクルマを構成するすべての要素は、エンジニアリング的にいう芸術品なのです。私が作りたかったのは、1960年代のV12を現代的に解釈したもの。T.50から降ろしたとしても、このエンジンは魅力的な彫刻のように、モダンアートの一作となるでしょう」

 

 

【エンジン諸元】

GMA T.50

型式:コスワース GMA

種類:V型12気筒自然吸気

Vアングル:65度

排気量:3994cc

ボア×ストローク:81.5mm×63.8mm

圧縮比:14:1

最高出力:663ps/1万1500rpm

最大トルク:467Nm/9000rpm

レブリミット:1万2100rpm

エキゾーストシステム:インコネル及びチタン

オイル供給方式:ドライサンプ

冷却システム:水冷/ツインアルミニウムラジエーター(フロント)

オイル冷却システム:シングルアルミニウムラジエーター(リヤ)

スターター/オルタネーター:48V インテグレーテッドスターター/ジェネレーター(ギヤ駆動)

エンジンブロック:アルミニウム

シリンダーヘッド:アルミニウム

コンロッド:チタン

バルブ:チタン

エンジン単体重量:178kg

 

 

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