テスラよ、汝はディスラプション(破壊者)か?【清水和夫の新・お喋り工房 第2回】

公開日 : 2020/08/15 17:55 最終更新日 : 2020/08/17 14:33

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テスラのモデルファミリーイメージ

シリコンバレーからの使者を解剖する

 

月刊自動車雑誌『GENROQ』の人気連載「お喋り工房」が、GENROQ Webで「新・お喋り工房」となって帰ってきた。グローバルで活躍する自動車ジャーナリスト・清水和夫が“ゲンロク太郎”に事寄せて語るクルマの千夜一夜物語。今回のお題はシリコンバレーからの使者、テスラである。

 

テスラ セミの発表イベントのイーロン・マスクCEOイメージ

イーロン・マスク率いるテスラが、時価総額で「あのトヨタを抜いた」。2020年7月、衝撃のニュースが世界中を駆け巡った。

 

巨人・トヨタを抜いたテスラの時価総額

 

株の時価総額がトヨタを抜いたというニュースが世界中を駆け巡り、投資家はTesla(テスラ)に熱い眼差しを向けている。最新の「モデル3」も販売好調であり、中国ではEVの販売台数でぶっちぎりのトップを独走中。テスラをなんとか引きずり下ろしたいライバルメーカーも、どこまで彼らと対抗できるか未知数なのだ。

 

私が主宰しているDST(ダイナミック・セイフティ・テスト※関連リンク参照)でテスラ モデル3をテストしたところ、驚くべきパフォーマンスだった。ポルシェが作ったのか、と思ってしまったほどである。

 

モデル3以前のテスラ車は、運転支援(自動運転を目指す技術)面に未完成な部分も少なくなかった。しかし最新のモデル3はEVとしての完成度だけではなく、自動運転技術の領域でも(現状はレベル2であるが)、着実に進化している。そのスピードは世界の強豪を凌ぐ勢いだ。

 

テスラ モデル3のサイドビュー

モデル3の走行性能をテストした清水和夫氏は、そのパフォーマンスに驚愕。「ポルシェが作ったのか」とさえ思ったという。

 

既存の産業を根底から覆す

 

私は今までテスラをユニークな自動車メーカーだと認識していたが、技術とスピードという点では世界のトップランナーではないだろうか。その秘密は、テスラこそが自動車業界のデジタル・ディスラプションだからである(デジタル・ディスラプションとはデジタル・テクノロジーによる破壊的イノベーションのことを指し、すでにある産業を根底から揺るがし、崩壊させてしまう革新的なイノベーターのこと)。

 

彼らの技術の優位性については本連載コラムの3回目にお喋りするが、今回はテスラ黎明期のエピソードを紹介しよう。

 

テスラのギガファクトリーイメージ

テスラは大規模工場「ギガファクトリー」を中国・上海やドイツ・ベルリン(建設中)へ拡大している。米国内でも次のギガファクトリー拠点が選定済みという。

 

一過性の人気に甘んじなかったテスラ

 

同社を率いるイーロン・マスク氏は、ときにビッグマウスだし、私は個人的に人として好きになれないという感覚をもっていた。もともと私はEV嫌い(というよりもエンジンが好き)なので、テスラ人気は一過性だと思っていた。

 

しかも、私は自他共に認める水素燃料電池派なので、イーロン・マスク氏の「水素は馬鹿(フューエルセルをフールセルと洒落たわけだが)」という発言には頭にきていた。しかし、それは個人的な感情なので、心の底にしまっておこう。ここではテスラ成功の要因は何か、という点に的を絞って分析を続ける。

 

テスラの製造ラインイメージ

テスラのカリフォルニア州フリーモント工場ではモデルS、モデルX、モデル3、モデルYを生産している。

 

イーロン・マスクは戦略家か、天才か

 

まるで宇宙人のような常識破りの天才に嫉妬しているわけではないが、彼らはバッテリーEVを武器に、100年も続いているエンジン車を作る巨大な自動車産業に挑戦状を叩きつけた。「ポルシェターボと同じ速さを半分の価格で提供する」と、あえてエンジンを敵視することで存在感を示してきたのである。

 

日本にもそのような政治家がいる。小池百合子東京都知事がそうだし、小泉純一郎元総理大臣もそうだった。業界の常識を忖度するのではなく、あえて真逆の戦略を打ち出し、ライバルを敵とすることで、孤高な存在を演じていた。もし、その手法が計画的なものならマスク氏は紛れもなく戦略家であるが、自然にその役を演じていたなら、天然記念物的なるユニークな人材であろう。

 

いずれにしてもマスク氏が才能と発想と思考力に長けた天才であることは間違いない。ポルシェを創業したフェルディナント・ポルシェ博士も我がままで変人と言われているので、マスク氏はポルシェ博士の生まれかわりかもしれない。

 

イーロン・マスクCEOイメージ

そのビッグマウスでときに賛否両論を呼ぶイーロン・マスク。写真は2019年1月、テスラが上海市に新設する「ギガファクトリー」の着工式に出席したマスクCEOの様子。同工場ではすでにモデル3を生産しており、現在はモデルY向けのラインを製造中だ。

 

電光石火の戦略推進力

 

テスラの商売は“超”わかりやすい。モデルSを「ポルシェ ターボよりも安くて速い」というキャッチフレースで触れ込み、富裕層の気持ちを鷲掴みにした。しかも、まだ運転支援(レベル2)の機能にも関わらず、自動運転ができるような印象をユーザーに与えた。実際に起きた事故でも、マスク流の言い訳で危機を乗り切っている。

 

テスラは、電動化と自動運転では世界のトップレベルのシステムを持っているとユーザーは信じている。しかも誰より早くにOTA(オーバー・ザ・エア=通信で繋がることでシステムをアップデートする)で走る機能をアップデートした。世界の自動車メーカーがハッキングを恐れて行政と相談しながら慎重に対応していた矢先に、である。業界団体という発想がないスタンドアローンのテスラは、できることはすぐに実行するメーカーなのだ。このイーロン・マスクの技術戦略のスピードはまさに電光石火。クルマが速いだけではなく、意思決定も速いのである。

 

テスラ モデル3の俯瞰目イメージ

OTA(Over The Air)により「走る機能」そのものをアップデートするという方法をいち早く導入したテスラ。物凄いテンポで戦略を推し進めていく。

 

モデルSで見たレーシングカーの白昼夢

 

EV嫌いの私でも、テスラ モデルSの加速を体験すると脳天に刺激が走り非日常の世界に引き込まれる。まさにポルシェ ターボの世界と似ているではないか。フル加速したときのシートに背中を押し付けられる加速感は、レーシングカーの世界だ。

 

モデルSはトルクが大きすぎるので、前後のモーターで駆動する四輪駆動。さらに自動運転に近い技術としては、ACCとLKAS(レーンキープ)も備わり、iPadのお化けのようなカーナビ用モニターもクールである。既存の自動車メーカーの常識にとらわれないところがテスラの魅力なのだ。

 

モデル3のコクピットイメージ

テスラのコクピット風景は既存の自動車の概念を覆す。センターに据えられた巨大タッチディスプレイはいわゆるクルマの司令塔。タッチパネルを介してあらゆる操作を行なうのがテスラ流だ。

 

兼備する高級車のムードとスポーツカーの官能性

 

テスラはEVだから成功したというよりも、セクシーでファンキーだから成功した。別の言い方をすれば、先進技術がまっさきに体験できる近未来カーなのである。

 

テスラ モデルSの俯瞰目フロント走行イメージ

レーシングカーのような加速感をもたらすモデルS。テスラは単なるEVというだけでなく、高級車の世界とスポーツカーの世界を兼備した新しいクルマを作り出したのかもしれない。

 

巨大なバッテリーとモーターを搭載するテスラは、従来型自動車メーカーの発想で開発されるEVとは異なり、未来への夢を持ちながらも、ユーザーのマインドを変える魅力を持っている。テスラはメルセデスのような高級車でもあり、ポルシェのような官能的なスポーツカーでもある。次回はその技術の秘密に迫ろうと思う。

 

 

TEXT/清水和夫(Kazuo SHIMIZU)

 

 

【関連リンク】

・StartYourEnginesサイト(ダイナミック・セイフティ・テスト公式配信元)

http://www.startyourengines.net/

 

 

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