マセラティ最新スーパースポーツ「MC20」の意外性とは。渡辺慎太郎が徹底解説!:前編
公開日 : 2020/09/15 17:55 最終更新日 : 2020/09/15 17:55
Maserati MC20
マセラティ MC20
マセラティは2020年9月9日に、最新作の新型車「MC20」を世界に向けて初公開した。なぜ彼らはいま、ゼロからスーパースポーツカーを作ったのか。MC20の全貌とともに、その背景を自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がリポートする。(前編/後編)
計画されていた“ポスト・グラントゥーリズモ”
蓋を開けてみれば、マセラティのニューモデルはミッドシップのスーパースポーツカーだったのだけれど、彼らのプロダクト・ポートフォリオはここ数年で二転三転していた。
いまから5年ほどの前の時点では、グラントゥーリズモの後継車となる2ドアスポーツクーペの“アルフィエーリ”が開発の最終段階を迎えていた。たまたま、ある取材でアメリカ・西海岸の某所を訪れていたときのこと。そこは自動車メーカーには有名なワインディングロードで、擬装した開発中のモデルに遭遇することも珍しくない。当時もさまざまなテスト車が走っていたのだけれど、中でもひと際快音を響かせながらテストを繰り返す車両があった。それがアルフィエーリだった。
「もうここまで出来ているなら、そう遠くないうちにお披露目だなあ」と楽しみにしていたにもかかわらず、その後いつまでたっても沙汰がない。関係者に聞けば、アルフィエーリのプロジェクトは土壇場で中止になったという。理由までは詳しく教えてもらえなかったが、どうやら故マルキオンネが突如打ち出した「マセラティ電動化計画」の影響があったらしい。
まったく新しいSUVと次期グラントゥーリズモも予告
そして昨年、グラントゥーリズモの生産終了が発表され、本社工場は刷新されると伝えられたが、そこで新たに作られるのがまさかこんなスーパースポーツカーだったとは予想外だった。ちなみにマセラティはこのMC20の発表とともに、2021年にはまったく新しいSUVとグラントゥーリズモの後継モデルをお披露目をするとアナウンスした。描き直したプロダクト・ポートフォリオに則って、マセラティは着々と歩みを進めているようである。
“MC20”とは“マセラティ・コルセ2020”の略称で、シャシーからエンジンまでのすべてが新設計新開発となる。エンジンも車体もすべてモデナで生産される100%メイド・イン・イタリアである。欧州向け仕様車の生産開始は今年末が予定されている。
ダラーラが開発に携わったエアロダイナミクス
スタイリングはどちらかと言えばオーソドックスだが、黒くなった下の部分は機能性を重視、そこから上の部分は機能性とデザインを両立させているという。ボンネットに設けられたエンジン吸気とインタークーラー用のインテークやリヤフェンダー上部にあるエアダクトは、角度によってほとんど見えなくなる絶妙な位置と形状となっている。
フロア下はアンダーパネルでほぼ全体が覆われておりリヤにディフューザーも配置されている。マセラティMC12の雰囲気をわずかに残しながらも、冷却と空力を考慮したエクステリアデザインである。
なお、エアロダイナミクスに関してはダラーラの開発協力をあおいでおり、ダラーラの風洞実験室で2000時間以上に及ぶ作業と、流体力学を用いた1000回以上ものシミュレーションを行ってきたそうだ。マセラティ史上初めての採用となるバタフライドアが、MC20のエクステリアのもっともエモーショナルな部分かもしれない。
約100kgのカーボン製バスタブを採用
ボディサイズは全長4669mm、全幅1965mm、全高1221mm、ホイールベース2700mmで、全体的な大きさはグラントゥーリズモとほぼ同寸におさまっている。タイヤサイズはフロントが245/35ZR20、リヤは305/30ZR20で、これもいたずらに大径サイズを選んでいないところに好感が持てる。タイヤはブリヂストンとの共同開発による専用スペックになる模様である。
ブレーキはブレンボ製で、フロントが6ピストン、リヤが4ピストンのベンチレーテッド・ディスク。サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン、リヤには機械式LSDが標準装備され、オプションで電子制御式LSDも用意されている。キャビン部分はいわゆるバスタブタイプのカーボンモノコックで、その重量は約100kgという。
デジタル化を一気に推進したキャビン
室内にはメーターとセンターディスプレイにふたつの液晶パネルを採用。センターディスプレイはタッチパネル式なので、ほとんどの装備や機能はこのセンターディスプレイを使ってコントロールするため、室内に置かれた機械式スイッチの数は極端に少ない。
リヤビューミラーもデジタル化され、後方の映像が映し出されるようになっている。センターコンソールに設けられたロータリー式のドライブモードセレクターは、機械式時計の質感を再現したという。MC20の室内にはマセラティではお馴染みのアナログ時計が見当たらない。その代わりに存在を放つのがドライブモードセレクターなのである。
きめ細やかに塩梅を調整できるモード切替
ドライブモードは計4種類。WET、GT、SPORT、CORSAで、GTがデフォルトとなる。モードごとに変更されるパラメーターは過給/ペダル感度/エキゾースト・バイパスバルブ/ギヤシフト・プログラム/サスペンション(電制ダンパー)/トラクションコントロールの6項目。
過給はノーマルとリミテッド(WET)と最大(CORSA)、ペダル感度はノーマルと高感度(SPORT)と超高感度(CORSA)、エキゾースト・バイパスバルブはGTやWETでは5000rpmで開くがSPORTでは3500rpm、CORSAでは常時開き、ギヤシフトはスロー&スムーズとクイック&ダイレクト(SPORT)とレーシング(CORSA)、サスペンションはソフトとハード(SPORT)とレーシング(CORSA)、そしてトラクションコントロールはオールアクティブとスポーツ(SPORT)とレーシング(CORSA)にそれぞれ切り替えられる。
サベルト製バケットシートを全車に装備
ステアリングにエンジンスタートボタンとローンチコントロールボタンが備わり、ローンチコントロールはCORSAモードの時のみ使用可能となる。なお、サスペンションの設定だけはドライブモードセレクターの中央のボタンを操作することで任意に変更できる。
シートはカーボンファイバー製のフレームを使ったバケットタイプで、生産はSabeltが担当。トランクは前後にふたつ用意され、フロントは47リットル、リヤは101リットルの容量が確保されている。また、この手のスポーツカーの悩みの種となる車高の低さを解消するため、オプションで油圧式のサスペンションリフターが選択可能。最大50mmまで路面とのクリアランスが上昇し、40km/hを超えると自動的に標準位置へ復帰する。
(後編へ続く)
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
マセラティ MC20
ボディサイズ:全長4669 全幅1965 全高1221mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:前1681mm 後1649mm
車両重量:1500kg
エンジン:V型6気筒DOHCターボ
総排気量:3000cc
ボア×ストローク:88.0×82.0mm
圧縮比:11:1
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:730Nm/3000-5500rpm
トランスミッション:8速DCT
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
駆動方式:RWD
ブレーキ:前ベンチレーテッド(6ピストン) 後ベンチレーテッド(4ピストン)
タイヤ:前245/35ZR20 後305/30ZR20
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