ポルシェ917KHと919ハイブリッド、新旧ル・マン24時間ウイナーが奇跡の共演

公開日 : 2020/09/17 14:55 最終更新日 : 2020/09/17 14:55


ハンス・ヘルマンとティモ・ベルンハルト

Porsche 917 KH / 919 Hybrid

ポルシェ917KH/919ハイブリッド

 

 

ふたりのル・マン勝者、ヘルマンとベルンハルト

 

 

1970年のル・マン 24時間レースで、ポルシェが初勝利を収めてから今年で50年を迎えた。この勝利はポルシェのモータースポーツ活動において、もっとも重要な記録となっている。

 

そして、50周年を記念して、ル・マンで勝利を刻んだ新旧ポルシェの邂逅が実現。917KHとハンス・ヘルマン、そして2017年のウイナーである919ハイブリッドとティモ・ベルンハルトが一堂に集ったのである。

 

今回フォトセッションが行われたのは、シュトゥットガルト近郊のフリオルツハイムにあるフォトスタジオ。1970年のル・マン24時間勝者であるハンス・ヘルマンが、当時のヘルメットを持ってオリジナルコンディションの917KHの前に立った。ティモ・ベルンハルトもヘルメットを伴って、2017年型919ハイブリッドへと向かう。ふたりの共通点は優勝したレースで、スタートドライバーを担当したことである。

 

彼らが持ってきたヘルメットを手に取るだけでも、モータースポーツの進歩を実感することができるだろう。ヘルマンが70年代に使用していたヘルメットは、グレーのハーフシェル型。押せば簡単に凹んでしまうようにも見える。一方、ベルンハルトの最新型ヘルメットは鮮やかなカラーリングが施され、人間工学に基づいた完璧な形状と安全性が確保されている。

 

ポルシェ917 KH

ヘルマンが戦っていた50年前のル・マン24時間レースは、2名で24時間を戦い、常に死の恐怖と隣り合わせだった。

 

恐怖が付きまとっていた50年前のル・マン

 

レース界のレジェンドが出会えば、最初に話題に上がるのはたいていが安全性の進化である。今年92歳になったヘルマンは、「私たちの頃は、24時間レースでもまだふたりでドライブしていましたよ。それに比べれば、今の若い人たちは怠け者に見えますね(笑)」と、ウインクしながら話してくれた。

 

現代のル・マン24時間レースでは、多くの場合1チーム3名のドライバーで戦っている。ヘルマンは当時のル・マンのことを懐かしそうに振り返った。

 

「あの時代でさえも各クラスの速度差はすでに危険なレベルでした。最も遅いクラスの最高速度は約200km/h、我々の917KHは384km/hで彼らを追い越しましたから」

 

このヘルマンの意見にベルンハルトは「今も昔も、モータースポーツは間違いなく危険なスポーツです」と付け加えた。

 

「でも、昔は今と比較にならないほど命の危機にさらされていました。50年前のレースでは恐怖が常につきまとっていました。当時、スーパーで歯磨き粉のチューブを買いながら『最後まで走りきれるといいなぁ・・・』って思っていましたからね」とヘルマン。

 

ポルシェ917 KH

現代の基準から見ると非常に狭い917のコクピット。当時の規定に沿った安全装備が備えられているが、死と隣り合わせのドライブを余儀なくされていた時代だった。

 

非常にタイトで危険な917のコクピット

 

1970年のル・マン、スターティングナンバー「23」の917KHは、ポルシェ・ザルツブルクからエントリー。車重は800kgにも満たず、最高出力580psを発揮する4.5リッター水平対抗12気筒エンジンをミッドに搭載し後輪を駆動していた。

 

このフラット12エンジンは、レース出走前に10分ほど暖機する必要があったという。樹脂製ボディカウルの厚さはわずか1.2mm。コクピット内部はドライバーのヘルメットがルーフに触れるほどのタイトさだった。パイプフレームは衝撃からドライバーを守ってくれるが、エンジンからの熱はダイレクトに伝わってくる。

 

ハンス・ヘルマンとティモ・ベルンハルト

919に搭載されていたハイブリッドパワートレインは、ル・マン24時間の過酷な環境を走り切ることで、その後の市販モデルに活用される貴重なフィードバックをポルシェにもたらすことになった。

 

走る実験室として機能していた919ハイブリッド

 

対する919ハイブリッドは、917KHよりもはるかに大きく見える。この最新ハイブリッドプロトタイプレーシングカーは、2名のスペシャリストと1名のレースエンジニアがサーキットに入る前に2時間に及ぶ入念な走行準備をしなければならない。そしてル・マンでの勝利により、その後の生産モデルへの貴重なフィードバックをもたらした。走る実験室ともいえる存在なのである。

 

後輪を駆動する368kW(約500ps)の2.0リッターV型4気筒ターボガソリンエンジンに、前輪を駆動する294kW(約400ps)の電気モーターを組み合わせて4輪を駆動する。電気モーターにはリチウムイオンバッテリーから電力が供給され、ブレーキングによるエネルギー回生と排気熱からのエネルギー回生によって電力がバッテリーに蓄電される。

 

ポルシェ 919 ハイブリッド

919ハイブリッドには、2017年のル・マン24時間レースで負った傷などが、そのままの状態で保存されている。

 

過酷なル・マンでのダメージが残されたボディ

 

917KHほどではないものの、919ハイブリッドのコクピットも非常にコンパクトだ。しかし安全性に関しては、50年前とは比較にならないほどに進化した。このスターティングナンバー「2」の919ハイブリッドは、2017年のル・マン 24時間で刻まれたダメージをそのままクリアコートで保護している。

 

「917は当時最新のハイテクマシンでした。ポルシェは当時の規定に沿って最高のプロトタイプを開発しています。それは919ハイブリッドでも同様です。そして、ポルシェはその後の市販モデルに投入予定のテクノロジーを、このプロトタイプレーシングカーで開発・テストしました」と、ベルンハルト。

 

ポルシェ917 KH

イベントなどで917のドライブ経験を持つベルンハルトだが、ヘルマンのようにこのクルマでレースを戦うことはできないと明かしている。そして、ル・マンだけには、今も冒険が残っていると指摘した。

 

50年前から少しも変わらないレースへの情熱

 

最新レーシングカーのパイロットを務めるベルンハルトだが、実は917をドライブした経験があるという。

 

「2度ほどドライブしましたが、もちろん限界レベルまでは踏み込んではいません。それでも当時のレースの雰囲気をつかむには十分でした。あらためてこの時代のドライバーを尊敬するようになりました。このクルマでレースを戦うなんて、今の私たちには考えられません(笑)」

 

50年前からテクノロジーは大きく進化したが「ポルシェのレースへと賭ける情熱は少しも変わっていない」とベルンハルトは指摘する。

 

「ル・マンは50年前と同じように、現在でも重要な意味を持っています。ある意味、今では最後のモータースポーツに残された“冒険”といえるかもしれません。ル・マンの舞台となるサルテ・サーキットは、レーストラックと公道が組み合わされています。これこそが他に例を見ない、ル・マンの特殊性なのです」

 

ヘルマンはレーシングドライバーとしてのキャリアを終えた後も、レースファンであり続けている。

 

「1969年のル・マンで2位に終わった後、1970年シーズンを最後に引退することを決めていました。当時は誰も知らなかったことですが、妻にも引退を伝えていたのです。ル・マンでの優勝という、ポルシェにとって最も重要な成功とともにキャリアを終えたという事実は、私にとっても結果的に素晴らしいフィナーレになりました」